ザリッ!

「うわぁぁっ!!」

ゴンッ!

「うがっ!」

痛い。
…えっと?

何故紙やすりを擦りつけられて、どこかに頭をぶつけたのか?
ぶつけた頭をさすりながら考えた。

理由はすぐに分かった。

「起きたか吉祥。」

「いてて…  なにこれ!?」

ゆっくり体を起こしてみると、頭に金属がぶつかった。

「タ…タライ!?」

そして後ろには、デカイ三毛猫が煙管を吸いながら僕の顔を覗きこんでいた。

「なんの仕打ち? 痛いんだけど…」
「仕打ちじゃねぇよ。仕返しだ。」
ああ、納得。
「紙やすりは?」
「俺が舐めてやっただけだ。」
「うげぇ…」
なんか嫌だった。
「うげぇとは何だ。俺が起こさなきゃずっと夢の世界だぜ。」
「夢…? ああ!」
やばい、ド忘れっていうか飛んでた。
「えっとえっと… 聞きたいことが4・5個くらいあるっぽい。」
「いいぞ。」
「あんた誰よ?」
「…ニタだ。」
偉大なる猫仙人様は呆れて言った。
「じゃあ次、あの夢は?」
「過去を見せた。」
「じゃあその次、最後の猫の毛皮は黒?」
「おっ なかなか敏いな。」
「って事は… 僕!?」
「御名答。」
自分の出生映像だったわけね…
「あの変な名前何?」
「ああ。仮の名だから安心しろ。」
「ならいいや。猫神の加護って? 21日じゃダメなの?」
口から自然に質問が出てくるような感じだった。
「そこは説明がいるな。」
そうしてニタは煙管を吹かした。
「2月22日。俗に人の言う猫の日。これはただの語呂合わせではない。」
プカ〜〜
「この日に生まれた猫は皆、猫神の加護を受ける。」
プカ〜〜〜
「猫神の加護を受けた猫は、猫の力に大きな影響を与える。」
プカ〜〜〜〜
「ねえ… なんか踊ってるんだけど…」
僕の周りを煙の猫が踊っている…  楽しそうだ。
「気にすんな。で、あんたのお袋はお前らに猫神の加護を受けさせてやろうとしたわけだ。」
「それであんなに…  そういや、その…  僕のお袋さんは今は?」
「お前を産んで、すぐに死んださ。」
「えっ…」
そんなことって!
「じゃあ最後のお産ってこと?」
「そう言ってるだろ。」
ニタはまた煙を吹かした。
「あんたは兄弟の中で1匹だけの漆黒の黒い猫。そしてあんただけ猫神の加護を受けている。だから…」
プカ〜〜
「あんたは次期猫仙人だ。」
「猫仙人…  ですか…」
なぜか自分向けにこの言葉を言われたら敬語になってしまった。
「あんたにしかこの席は務まらない。」
「ねえ、俺って別世界の王様なんだけど、兼ねられるの?それ?」
「王様やめろ。」
「コラ…」
ついつい猫にツッコミ…
「じゃあ考えてみろ。おまえの世界は現実にないだろ?その現実にない世界の王様になって何が嬉しいんだ?」
きっぱり言いやがった。
「じゃあこの腕輪は? なんで現実にない世界の物がもって来れるんだよ?」
ニタは煙管を灰皿(的なもの?)に灰を落とした。
トンッ
軽い音がした。
「それはその世界がそういう設定なんだろ。」
「設定!?設定ってことはあの世界が作り物ってこと!?」
「そうだ。」
ニタはまた煙管を吹かした。
「そういう世界は、生き物がなにかの世界を想像することによってこのどこかの空間に想像した世界が作られる。」
「想像で…?」
「ああ。」
プカ〜
「お前の行った世界は多分作ったのは人間だろう。」
プカ〜〜
「けむいよ。」
「気にすんな。 その世界には太陽が昇っていただろ?」
「うん。」
「太陽系に並んでないのに太陽が見えるのはおかしいだろ?」
「ああ!なるほど!」
確かに人間が想像したのなら、太陽は地球と同じように回るはずだ。
「人間であれば、本やテレビとやらの世界を、見た人が想像するからその世界の存在がはっきりして来る。」
「でもその世界は現実でないんでしょう?」
「そうだ。 現実のこの世界とは繋がりを持たない。」
「僕は行けたけど?」
「それも設定だ。だがお前もお前で世界を渡る鍵を持っているんだろう。」
「鍵? 僕は今チャリキーしか持って無いけど?」
「…馬鹿か。そんなん関係ねぇよ。」
プカ〜〜〜
「おまえさんの特性ってことだ。まあ黒の猫股には標準の能力だがな。」
「そうなんだ… じゃニタは?」
「無理だ。 もちろん世界を作ることはできるがな。俺だってお前だってネズ公だってできる。」
プカ〜〜〜〜
「ネ…ネズ公…」
「その世界を作ったところで、その世界へ渡る鍵がないわけだ。だからその世界は作られ自然に衰退していく。忘れられた世界はぽつぽつと消えていく。」
「なんだか悲しいね。」
「さあ。たかが想像だ。」
プカ〜〜〜〜〜
「その作られた世界でも、想像で特定の条件で出入りできるようにしてごらん。出入りができるようになる。」
「へぇ… そんなうまくいくもんなの?」
「1人じゃうまく機能しないかもな。」
「そうなんだ…」
プカ〜〜〜〜〜〜
「ケホッケホッ!」
煙くなってきた。
「悪いね。」
トンッ
ニタはまた灰皿に灰を落とした。
「要するに、あんたが王になった世界は誰かさんの想像力で成り立ってるわけだ。」
「誰の?」
「知るかよ。」
プカ〜
「まだ存在してるってことは、作った本人はまだ生きている。そういう事になる。それで誰かがそれを受け継げばその世界が治められる。」
「だから龍の国に人間の王が必要だったわけ?」
「そうなんじゃないのか?」
投げやり…
「へぇ… 想像の作りだした世界かぁ…」
じゃあ僕が4階から落ちてあの世界へ渡ったのは想像のおかげなのかな?
「ちょっと違うな。」
「あれ?想像の作りだした世界…」
「そこじゃない。4階から落ちたところだ。」
「は?」
念のため言っておくと、4階から落ちた〜  っていうのは心の声であり、決して口に出していない。
「心を読めるってやつ?」
「あたりまえだ。」
あたりまえときましたか…
「お前もできるはずだ。」
《聞こえるだろ?》
「…喋った?」
「いや。」
「じゃあ僕も?」
「どこまで聞けるかはお前次第だ。」
「へぇ… 他になにか力とかあるの?」
「まあな。この力は…」
途中でニタは口を結び、横を見た。
ニタの視線の先には…

「わぁ…」

なんとも美しい日の出だった。
昔見た初日の出より価値のあるものに見えた。

しかし、見えたのは美しい風景だけでなく、せっせと猫仙人が破壊した箇所の修復作業を進行していた。
綺麗な景色が見れたのに、これじゃ台無し…

「猫仙人様〜?」
わざとらしく聞いてみる。 玉吉も作業に参加していた。
「よし、めんどくさいが壊した所を元に戻すか。」
「壊さなければ直さなくていいんですよ〜!」
清白がツッコミ。
「お前も手伝え。」
「僕は壊してないぞ。」
「知るか。手伝え。」
こらこら…
「仕方ないなぁ…」
そう言って、左腕のブレスレットに手を伸ばし…
「ただし魔法は使わないこと。」
「はぁ?」
あれまぁ…
「魔法使わなかったら何もできないよ。僕…」
「つまりお前は魔法に依存してるわけだ。」
「確かに…」
魔法に依存… なんかかっこ悪い。
「依存すると我が身を滅ぼすぜ。」
「やり兼ねない…」
「っつうことで手伝えよな。」
「良い具合に話しを持っていくなよ。」
まったく…

                ※       ※       ※

「よっしゃあ!終わった!」
「お前は何もしてないだろ。」
図星だ。はっきり言って邪魔だっただろう。
「そこは気にせずに…」
先程、ニタは術を使い、木をどんどん元に戻していた。
僕はそれを眺めてただけ。
「よーし、じゃあ次は玉吉の山入り祝いだ〜!」
「「いぇ〜〜い!」」
宴会でも始まるのかい?

予想はものすごく当たった。

僕は、5分もしないうちに床に座らされて、酒や食べ物を進められる始末。
「ささっ、一献。今度のは猫になりませんよっ」
なんて言われてね。
「魚もどうぞ〜!」
とか。
「浮かれてんじゃねぇよ。」
とか…
あれ、これは猫仙人殿だわ。
「浮かれちゃいねぇよ。」
そう言って、渡された飲み物を無意識に口に運んだ。
うん?何の味だろ?
「これはマタタビ酒ですよ…?」
ニタと同じく心を読める猫が答えた。
「マタタビ…  酒!? お酒かよ!!」
そう言ってた頃にはもう遅い…
「?? 吉祥殿? 顔が赤いですぞ…」
「へ…? マジ?… 分んないんだけど… 気分がなんか… どんどんハイになってく…  て言うか…」
バタッ!
「き…吉祥殿!?」
「あ〜あ こいつ酔ってやがるよ。」
ああ… しあわせ…?

 

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