―あわわわっ! 何が見えてるの!?なんか歪んでてよく見えない…

「いずれ猫仙人になる子供を産めるなんて… 私は幸せだわ。」

―視界がまともになってきた…  どういうこと!?猫が2匹。黒猫と三毛猫。洞窟の中で話している! それを上から見ている自分…

「あんたは特別なんだぜ。当然だろ?」

―あれは… ニタ!?

「でも… 確かに私は黒猫よ。でも…」

そう言って付け足した。

「あなたほど強い力はないもの。」

―強い力? ニタは相当強いの?

「かまわないさ。でもお前がいないと大いなる猫仙人は生まれもしないぜ。」

―猫仙人の後継者?よく分からんが…

「私は毛皮が黒いだけだけど良かったの?」

「そんなことないさ。あんたも立派な猫股さ。」

―猫股って意外と多い… 良く見ると黒猫はお腹が大きい。子供がいるんだ。

「せいぜい良い子供を産んでくれよ。」

「頑張るわ…」

―ニタの性格って…

そして、再び視界が歪んだのであった。そして同じ洞窟が再び現れた。

―また… これって幻覚? 黒猫のお腹が少し大きくなったかな?

「ところで、子猫たちの名前はどうするの?」

「あまり考えてはいないが、二十四節季の中から与えようと思う。」

―なんじゃそりゃ… そっから取るか!?

「そうね… なにがあるかしら?」

「たとえば「清明」とかか?」

「良い名前ね。」

―セイメイってお花見シーズンとかの時じゃなかったっけ?

「同じ春で、「啓蟄」か?」

―ケイチツ 冬眠していた虫が這い出てくること…  名前には…

「いいわね。」

―いいのかよっ!

「同じ季節は2つくらいで… 夏で「小満」か?」

「各季節から2つずつ… ね。いい考えだわ。」

―ショウマン 植物が茂り始めること…  マンがつくと何だか…

「もう1つは「立夏」だな。」

―リッカ 夏の始まり。 なんだかなぁ…

「いいわね…」


そうして二匹は、春夏秋冬それぞれ2つずつ名前を取った。
残り4つは、白露(ハクロ 露が白いこと) 霜降(ソウコウ 紅葉が始まること) 立冬(リットウ 冬の始まり) 冬至 (トウジ 昼が最も長い日のこと)だった。
ちなみに二十四節季とは、一年を24つに分けて、それぞれに名前をつけたもの。
内容を知ってたのは、本で読んだことがあっただけ。

「子供は多分8匹だろう。」

「私もそう思うわ。」

―分かるもんなんだ…

「もし9匹なら、いい名前がある。」

「それは何?」

「それは、もし9匹目が生まれたら教えよう。」

―ケチな奴…。

「フフッ 楽しみだわ。」

―いい奥さんだこと…

そして、また視界が歪み、同じ洞窟が見えた。今度は、黒猫は苦しそうにしている。

「はぁ… はぁ…  こ… 仔猫を…」

―どうしたんだろ…

「しっかりしろよ! 猫仙人候補が生まれるんだぞ! 見たくないのかよ!」

「はぁ… 何を… 言うのよ… 決まって… いるじゃない…」

「それに…  9匹目の名前も! 」

ニタの声が珍しく震えている。

「…おまえ、まさか…」

ニタがはっとしたように言った。

「この夜は2月21日。お前は猫神の加護を!?」

―2月21日? 猫神?何が何やら…

「あと… あと1時間で… 今日が終わるのよ! こんなの… 無駄にできる?」

「お前の方が大切だ!猫神の加護なんかいらねぇ!」

―えっと、恋愛ドラマ? 猫の?
てか気楽だなぁ 俺…

「でも…」


「いいんだ!かまわねえ!」

「…」

黒猫の方は、返事をしなくなった。

―見守ってやりたい。

僕は一心にそう思った。しかし…

―ここでキスシーンでも入る?

気楽な考えは離れなかった。
そうしてそんな事を思っていると、再び視界が歪んだ。

見えたのは、黒猫の近くに…

―赤ちゃんだ!

お産は無事に済んだようだった。

「あと… い… 一匹…」

―は? まだいるの?

「たったいま… 今日が終わる。」

ニタが暗く、また明るい星空を見上げて呟いた。

「今なのね…」

そうして、視界が再び歪んだ。今度は少し長く暗闇の中にいた気がする。
しかし、暗闇に入る前、確かに聞いた。

ミュー…


とてもか細い、子猫の産声が、ほんのわずかに耳に響いた。

 

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