『ほっほーう。玉吉め、人を連れてきたか。』
先程の猫の一匹が言った。この猫は三毛柄。
『またやるのですか?ニタ殿?』
『当然。手伝えよ清白。』こちらは真っ白
『はあ… 何匹連れます?』
『あと3匹だ。』
『はぁ… 影丸。まず1匹目。』
『はぁい。』影丸と呼ばれた猫は白黒柄だ。八の字わけで、目の辺りも黒い
『あと2匹ですね…』
なにをたくらんでいるのか…
それはこの猫たちしか知らない…


                ※       ※       ※

              



『酔ってしまいますよ〜』
「黙って乗ってろよ…」
先程のお二人 じゃなくて一人と一匹
「まだなのか?」
『はいもう少しですね。』
見ると月が真上を通り過ぎている。
「今日の内にって無茶でしょ…」
『そうですかねぇ〜』
「うん。」
はっきり言ってやった。
しかし返ってきたのは関わりのない話…
『猫股岳にはその名の通り猫股が多くいるわけです。』
「話そらしたな… どんくらい?」
『さあ、聞いただけですし…』
「なんか俺、危ない橋を渡らされてる気がする…」
『そこにはニタ公という猫仙人がいらっしゃいます。』
「なんか間の抜けた名前…」
『失礼ですぞ。皆はニタ殿と呼んでいらっしゃいます。ニタ殿は猫魈といって無限に生きられるようになりまして…』
「ねこしょう? 不死身ってこと?」
『寿命が来ないの方が近いですね。』
「ふーん。」
『もうすぐです。下ろしてください。』
「やだ。お前歩くの遅いから。」
『いやしかし…』
「いいから送らせろ。」
『もう知りませんからね! もう着きますよ。』
その通りだった。坂道は平らになり、少し広場みたいになっている。

そこで何やら盛り上がっている。

『猫ぢや猫ぢやとおしやますが、猫が、猫が杖突いて絞りの浴衣で来るものか、オツチヨコチヨイノチヨイ〜♪』

焚火をして…

その近くに敷物を敷いて…

男が三味線を弾いて…

女が舞いを舞って…


おいおい…江戸じゃないんだから…!

つまりこんな真夜中に月夜の下、一人の男と四人の女が何やらお祝いでもしてるのか酒を飲み交わしている。しかも着物…

そして向こうは僕に気づいた。

「あら坊ちゃん。こんな夜中に何をしているの〜?」
こっちのセリフだ!
うーん…どう答えるのがいいのだろう。相当酒が入っている。
「そちらこそ何を?」
すると舞いを舞っていた別の女の一人が答えた。
「今日は特別な日でしてね。」
こっちはあまり酒が入ってないみたい。そしてまた別の女。
「坊ちゃんも一緒にどお〜?」
「いや…禁酒禁煙主義なんで… しかも未成年!」
「そんなこと言わずに〜 一緒に踊りましょ!」
そう言われて女四人に捕まった。
「わわっ やめろ!」
「いいじゃないのよ〜」
酒入りすぎ…こんな時に玉吉は黙り込んでいる。そのまま僕はズルズル引っ張られている。
「ほら。御握りもいっぱいあるのよ。」
そう言われておにぎりの入った箱を向けられた。
その女の目は…

「お前ら…」
そう言って再び息を吸って言った。
「人じゃねえだろ!」
女四人と男一人がビクッと身震いした。図星らしい。玉吉は「おおっ!」と驚きの声を上げている。
「な…何の事かしら?」
「いやいや目の瞳孔が細いし…」
成程目の瞳孔が糸のように細い。
「にゃっ! 吉祥殿逃げてください!」
その時、腕をおにぎりがかすめた。
「わわっ!食べ物を粗末にするなぁ〜」
何故これを言ったかは謎だ…
そう言って距離をとるため走った。そして玉吉が口を挟んだ。
『あの〜…それは普通の食べ物じゃないですよ…』
「は!?」
そう言って振り返ったら腕におにぎりが当たった。しかも服の裾がめくれていて、素肌に当たった。

そしたらにゃんと!じゃなくて、なんと!当たったところから猫毛が生えてきた!!
しかも白い毛… 中は黒猫なのに…

『当たったところから猫毛が生えます…』
「早く言え!」
『全身にまんべんなく塗るか食べるかすると立派な猫になりますが…』
「既に猫だし!」
あの5人…5匹はまだ笑いながらおにぎりを投げてくる。
「コノヤロ〜!」
僕は思いきって反撃に出た。
籠を下ろしてから石を拾い、5匹めがけて投げつけた。
幸い、ハンドボールが得意だったので真っ直ぐ飛んで行った。
そして5匹の中の1匹の女(の姿をしたヤツ)に命中した。
「ギャッ!」
奇声を発して仰向けに倒れた。
「ニタ殿?」
「ニタ殿〜!」
残り4匹が一気に駆け寄った。ニタ殿って事は武将を一発…いや、一石で倒してしまったことに…

ちょっとまて。ニタ殿!?

「おい玉吉…ニタ公って女か…?」
『さあ…いろいろ化けていらっしゃるので…』
《やれやれ年とともに俺まで忘れたか?》
声がする。しかもエコー気味…
石に命中した奴が仲間に体を起こされている。

良かった。恐らく男だ…  いや、良くはないかも。変らない?
《だいたい人間、猫股岳の猫仙人に向かって石など投げようとは、なんて奴だ。》
エコー気味の声がまだ続いている…どうやってやってんだろ?
「知るか。先に仕掛けてきたのそっちだし。」
玉吉が(それ以上言わない方がいい)と目くばせしている。
《ほう… 上等ではないか。驚くがよい!》
そう言って猫仙人を煙が包んだ。その煙はどんどん大きくなった。
それと同時にさっきの4匹が術を解いて猫の姿に戻って、この煙から離れた。
こいつらは多分、玉吉と同じく猫股だろう。

煙が薄くなると、巨大化した猫仙人の姿がよく見えるようになった。
「わお…レオンに負けてないね…」レオンとは異世界の龍の事だ。
《…なぜ驚かない!》
「うーん、見慣れてるって言うかなんと言うか…いや、十分すごいぞ…」
《人の驚く姿が面白いというのに!》
なんか悔しそうだ…
「んなこと言っても…」
《つまらん…》
「は?」
《つまらんぞ〜!!》
そう怒鳴って、木を一気に跳ね飛ばした。猫たちが逃げまとっている。
『ニタ殿〜もう帰りましょうよ〜ばれちゃったんですし…』
後ろから声がした。見ると二脚で立った白猫がいた。
「猫仙人があんなじゃお前らも大変だね〜」
『そうですよ〜… すみません。あれ落ち着けてくれませんか?』
「は?」
いきなり部外者に向かって…
「できなくもなくもないけど…どうすりゃいいの?」
『さあ?なんでも…』
「お前はお前でひどいな…」
苦笑いしながら言った。
そして暴れるニタ公の所へ歩いて行った。ニタ殿はどんどん破壊活動を続けている。

手始めに…
(タライ落下!)
そして(ガ〜〜ン)とよく響く音が鳴った。
白猫や他の猫が唖然としている。そりゃそうだ…
「暴れるのやめれ。」
《…やる気か?》
ニタが睨んできた。
「うーん…自称平和主義者なんだけども、いいよ。」
《フン。口だけは達者な奴め。》
僕はさっきの白猫に聞いた。
「怪我は避けた方がいい?」
『あっ ええ… その方が望ましいです。 何をする気ですか?』
「まあ見てなって。」
(木刀!)
そう思い浮かべて右手に木刀を握った。習ったことないけどね…
《ほう。いい物を持っているな。》
「そう?ホントに知っているとしたら厄介だね。じゃあこっちから行きます。」
僕はニタに向かって駆け出した。距離は20メートル位。
《フン。》
ニタは素早く駆け出した。20メートルの間合いが一瞬で埋まった。
攻撃はニタの方が早かった。前足が目の前に現れ、横っ腹を強い衝撃が走った。
「うぐっ…」
ひるみながらも、僕はひらりと飛んだ。
そして前足を踏み台にし、頭の上に乗った。そして木刀で頭蓋骨に一発入れてやったが、まんざらでもないようだった。
《どうせそんなもんだろう。》
「あはは…」
俺は苦い笑いを浮かべながら次は鼻の上に降り立った。
「じゃあこれは?」
僕の顔より大きい眼球に木刀を勢いよく向けた。脅しだけど…
《そんなものに騙されるとでも?》
その瞬間足場が急に消えた。そして景色は暗い月夜を見ていた。
自分の状態が3秒くらい分からなかった。
が、投げ飛ばされていると悟った。体を縦にそらして後ろを見ると…



……

赤い何かが…

…口!?


ニタが僕を空中へ投げ飛ばし、下で口を開けて待っているのだ。

しかも軽いショックで頭の回線がショートしていて、逃げることができなかった。

ガチン!

歯と歯の噛み合わさる音がした。
恐る恐る目を開けると…

あれ…

明るい…


無意識に後ろを見ると、歯で僕の服を器用に噛み、僕は仔猫みたいに持ち上げられているのだった。

《やっぱり弱いじゃねぇか。しかも術をかけて人の姿をしてるな?》
その瞬間視界が蒼くなった。

人の姿をしている魔法を解かれたのだった。
つまり僕は黒猫の姿に戻ってしまった。
《やはりな吉祥。なんの真似だ?》
『えーっと…まあいろいろ…』
今の僕の状態は割合の悪い親子だろう。親が大きいのか子が小さいのか…
《何ならこのまま喰ってもいいんだぞ?》
『え… いやそれは遠慮しておきます…』
逃げるために足を動かそうとしたが、麻痺して動かない。
<猫は首の後ろを噛まれると仔猫の時の麻痺作用が働き、ほぼ動けなくなる>
本でこんな事読んだな…
やばいやばい…意識はやたら早く働くのに肝心の体が言う事を聞かなかったら…
《どうするか? 謝るか? 食われるか?》
『うーん…選択肢を変えること出来ないの?』
《断る。》
時間稼ぎにもなりゃぁしない!
僕は、自分の首元を見た。

肝心の首輪がない!

下に落ちていた…あの野郎め…うまいことやりあがって…木刀まで…

《さあ残念時間切れ。》
『は?』
《ではさようならだ。》
その直後首に痛みが走った。
そしてまた空中旅行を楽しむはめになった。

ドン!!

再び横っ腹に痛みが走った。
そうして軌道を大幅に修正された。

《!?》
『うぐっ!』

僕は本能が自動的に働き、地面に四足で着地で来た。猫だしね。
「ドサッ」
この音を立てたのは僕ではなく…
『玉吉?』
そう。空中旅行をやってる最中に、体当たりをぶちかまし、ニタの夜食になるのを防いでくれたのだ。
『大丈夫!?』
『…ガハッガハッ』
玉吉が横倒れたまま咳きこんでいた。そしてよたよたと立ち上がりニタに向かって、
『ニタ殿?何をなさるのですか?吉祥殿は今までほとんどの事を知ってはおりません!
私が内容を話していないからです!それなのにこのような事があってはなりません!…』
玉吉は少しよろけながらも続けた。
『このような事を続けるなら、弱輩ながら私がお相手いたしましょう!!』
そう言いきって、力強く『シャー!』と威嚇した。力強く… ?
《ふん。長い間下に降りすぎたな。玉吉よ。俺は石をぶつけた事や得体の知れない金属を落としたことを謝れと言ってるだけのこと。》
そうしてニタは足元に目をやった。
《で、お前は何をやってる。》
『げ、ばれた…』
こんなシリアスな会話の中、僕はちゃっかり首輪を拾いに行っていた。
急いで首輪を咥えて走った。そして首に取り付けた。(無論、石の力を使ってのことである。)
《このっ!》
『ストップストップ!』
僕は怒鳴った。ニタの動きが止まったので人の姿になった。
「ちょっと俺もあらすじが分かんないんだけど…」
《分かんなかったらタライなんか落とすか?普通?》
「いや… そりゃ悪かった。」そう言って軽く頭を下げた。
「だからってそこまでやる?普通?」
同じ口調で言い返す。
《お前が悪い。》
「じゃあ分かった!話し合いねっ。 ねっ!」
《ふんっ 良かろう。》
猫仙人は地べたに腰をおろした。
「あともう1つお願いが…」
《何だ?》
「その声のエコーを何とかしてくれ。」
さっきから気になってたんだよ…
「ああ、悪い。」
ニタが、普通に日本語を話してくれたので、魔法は使わずに済んだ。念のためもう一回書くと、さっきからの会話は猫語である。
「まず、なんで俺が猫なのか教えてくれ。」
「は?聞いてなかったか?」
「うん。」
ニタは後ろを見て言った。
「話してなかったのか?玉吉?」
しかし、玉吉の応答が無かった。
「玉吉?」
ニタが後方に問いかけていたが、ニタが死角になって見えなかったので、横に動く。
すると見えてきたのは…

玉吉が、横倒れていた。

「玉吉!!」
僕は、急いで駆け寄ったが、僕よりも先にニタが駆け付けた。
「…このっ」
「大丈夫か?玉吉!」
しかし、ニタが邪魔で近寄れない。
「どけよっ 玉吉がっ!」
「うるせえ!」
ニタに怒鳴られ、僕は黙ってしまった。
「邪魔すんな。集中できねぇ」

僕は、ここで初めて猫股の術を間近で見た。
ニタの口から煙のようなものが吐き出され、玉吉が包まれていく。
そして玉吉についていた傷(少ししか分かんなかったけど)が癒えていくのが分かった。

あっという間だった。
玉吉は、ほうっ… と息を吐き出した。よかった…

ズサッ

思わず足の力が抜け、座り込んでしまった。
「申し訳ありません。私が不甲斐ないばっかりに…」
「お前も年だ。気をつけろ。」
案外仲間に優しい所を見て、少し見直した。


なんとなく周りを見渡してみた。
確かニタの下っ端が見物してたけど…

しかし彼らはニタが吹っ飛ばした気の復旧作業に当たっていた。
立派な弟子たちだ… きっといい猫股になるぞ!

視線を猫仙人に戻し話再開。
「さてとニタ殿?彼らのお手伝いが先じゃないの?」
「ほっとけ。勝手に済むだろう。」
おいおい… 自分で八つ当たりしといてそりゃないでしょ…
「その力使って何とかしろよ。」
「ではそうしよう。話が終わり次第な。」
「そうですか。じゃあこっちから話すのが礼儀かな。じゃあ自分の話するよ。」


とりあえず、自分の話を全て語った。


自分が異世界の王であること。
魔法が自在に使えること。
龍と面識があること。


ニタは黙って聞いていた。
玉吉は目を丸くしていた。(猫だから十分丸いけどね。)

ニタは、しばらくして言った。
「お前は随分特別だ。猫仙人候補で生まれ、別世界の王として光臨している。」
「僕は猫として生まれたのか?」
「その通り。俺が人間に化かして潜り込ませた。」
「なんだそりゃ…  じゃあその話を聞きたいんだけど。」
「いいぜ。」
ちょっと間を置いて話はじめた。
「あんたが生まれた時の子猫たちの中で黒いのはお前だけだった。」

しかし、次の瞬間、視界が歪み、見えたのは薄暗い、洞窟のような場所の中だった。

 

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