「それでは仕切りなおしだ」

「えっと、あたしに何の用ですか……ですよね」

「そうそう、確かそんな感じだったな。でもその答えはもう言ってしまってるんだ」

「あたしと、お近づきになりたい、ですか?」

「うん、やっぱりキミは冷静だな、よくあの状況の言葉を覚えているねえ」

「でもそれって、やっぱり……」

「最近はな、オトメよりオトコの方がロマンティックだったりすることもあるそうだよ。
 ワタシはね、そんなムリヤリなんてはいやだなあ。男女の合意がないと。
 それから、あれだよ、やっぱり物事には順番というものがあるはずだ」

「えっと、ちょっといいですか」

「別に構わないよ」

「さっきから、男女男女とご自身を男扱いしてますけど……、
 伝説のポケモンって性別不明じゃありませんでしたっけ」

「そもそも男女の区別というものは、比較によって生まれるものではないかな
 絶対的な個体数の少ない我々だ、性差を区別できるだけのサンプルがなかったのだろうね」

「つまり、伝説のポケモンにも一応性別はある、と?」

「伝説ポケモンと同じようにね。そして、ワタシは男だということだ。
 信じられないならわかりやすい証拠があるけど見るかい?」

「見ません」

「まあそう遠慮するなって。伝説のポケモンの伝説を見た伝説ポケモンなんて一体どれだけいると思うんだい?
 ものすごいラッキーじゃないか。時代の生き証人になれるのだぞ」

「見ませんから! 見ませんっていってるでしょう!」

「びっくりするかもしれないねえ。
 『俺のビックマグナム』とかいう表現があるらしいけれどもさ、
 まあ自分をビッグマグナムだなんて、おこがましくて称してはいられないが、
 ワタシとキミのこれだけの体格差だからねえ、相対的にビッグマグナムだろうよ」

「噛み砕きますよ!」

「じゃあ、やめる」

「やめてください」

「やっぱり見る?」

「見ません!」

「そうかい」

「さっき、ご自身で順番がどうとか言ったの忘れたんですか。すっ飛びすぎじゃあないですか」

「別にすっ飛んではないとは思うがなあ」

「……ほぼ初対面の女性に、み、見せつけるのがあなたの普通なんですか」

「見せ付けるものの名前は?」

「変態!」

「まあほぼ初対面だが、これだけいろいろ楽しくおしゃべりしてるのだから、この程度のジョークは許されるステップだと思ったのさ」

「ジョーク?」

「ソー、イッツアジョーク」

「嘘ですよね」

「まあ、あわよくば」

「変態」

「そんな変態とおしゃべりしちゃう君も大概変だな」

「だって、そうでもしないと帰れないでしょう?」

「おお、よくわかってるじゃあないか」

「どうせワタシはあなたの力を借りないと帰れないんです。あなたのご機嫌をとるより他はないです」

「世間では女性は少しバカなくらいがかわいいというらしいが、ワタシは聡明な女性は好きだよ、うん」

「ありがとうございます」

「嘘だな」

「当然。あなたに好かれても嬉しくないです」

「素直じゃないねえ」

「私と仲良くなりたいのでしょう?」

「そのために連れてきたんだからね」

「帰るために仕方なくおしゃべりしてるだけですからね」

「ツンデレ?」

「ツンデレなら二人きりのこの状況でデレデレしなくてどうするんですか」

「おや、旧ツンデレをご所望かい? なかなか古風だねえ」

「別に望んではないです」

「ワタシはキミにデレデレだけどね」

「私はあなたにはデレませんけどね」

「そんなこと言っていいのかな? そうしたら、キミがワタシにデレデレするまで帰さないかもしれないぞ?」

「そんな事言っていいんですか? そうしたら、私はあなたにデレデレする振りをするかもしれませんよ?」

「それじゃあ、そろそろ帰るかい?」

「えっ」

「えっ、て」

「帰してくれるんですか?」

「ああ、もうそろそろ夜になるよ」

「意外でした。3日くらいの長丁場は覚悟してたのに」

「泊まっていきたい?」

「帰ります」

「じゃあ送ろう」

「嘘じゃないですよね?」

「嘘じゃあないさ。今日はもう結構キミとは仲良くなれた気がするよ」

「帰りは、ゆっくりでお願いします」

「それじゃあワタシからもお願いだ」

「なんですか?」

「別れる前に、キスをしよう」

 

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