「…まさか、あんたが今回の仕事の相方になってくれるなんてな…」

ゴルダックは情報屋のエレブーに紹介された凄腕のハンターの姿を見て驚く、
およそ七年前程からその道の五本指にはいると話題になった『神速の紅髪』の異名を持つ
ウインディが自分の目の前に立っているのだから。

「私はただ、この仕事に身を寄せていることしかしていない、だからそのような
誰かの付けたあだ名で私を判断しないでくれ、君とは同じ職の仲間であり、そして
仕事を共にするパートナーとして関わりたいんだ、よろしく頼む」

貫禄は十分だが、決して自分を奢らず対等の立場としてゴルダックに接する。
不思議と彼には自分と近いものを感じ、今回の仕事にやりがいを感じ始めていたゴルダック…。

「ああ、こちらこそよろしく頼――――」
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 遅刻遅刻〜〜〜!!!」

ドドドドドドドドド!!! ドガァッ!!

「?! ぐはぁぁっ?!」

ウインディとの握手を交わそうと手を差し伸べたその時だった。
言葉を遮られた上に何者かが全力疾走してきて鉄槌で叩かれたようなボディータックルが
ゴルダックの体を吹き飛ばした。

「ごめーん!! ちょっと夜更かししたら時計がいつもより一時間も先に進んでて…!」
「……………」

ウインディの前で息を切らしながら謝罪の言葉を発する黄色のとがった毛並みのをポケモン
サンダースは、初対面の挨拶とは程遠いくだけた話し方をしている。

「な、何すんだ!! この野郎っ!!」

吹き飛ばされた痛みと怒りで体を震わせるゴルダック、敵かと思い、
腰に閉まっていた双剣を抜こうとしたことをウインディは気付いていたが、彼をゆっくりと
なだめだした。

「すまんな、ゴルダック…この娘がもう一人の相方のサンダースだ、
このように落ち着きがないところが玉に傷だが、根はいい娘だからよろしくしてくれ」
「な、何?! パートナーだって?! こんながさつで落ち着きなくて、
タックル決めたことにも気付かず謝りもしないハンターの気質から程遠い奴と仕事すんのか?!!」

先程まで湧き上がっていたやりがいが急にしぼんで消えてしまいそうになる。ある意味忍者のように
隠密行動や余分なプロセスを省くハンター家業では最悪のパートナーだと判断したからだ。

「ちょ、ちょっとぉ! ぶつかったのは確かに悪かったけど何もそこまで言わなくてもいいでしょ?!」

そんなゴルダックの態度に負けじと不満をぶつけてくるサンダース、
そして口喧嘩はさらにエスカレートしていき…

「大体ねぇ、ハンターならあのくらいのタックルは予測してかわすなりしなさいよ!
このヘボハンター!!」
「んだとぉっ!! …よし、そこまで言うなら今この場でお前相手に
ヘボかどうかを試してやろうか?!」

両者とも睨みあって火花が飛び散る、一触即発…そんな光景を黙って見ていたウインディは、

「いい加減にしろ!! お前等ぁぁぁぁっ!!!!」

先程まで悠々とした態度をしていた表情が一瞬のうちに鬼神のような形相に変わる。

「?!!!」
「きゃいぃぃっ!! ご、ごめんなさいぃ…!」

取っ組み合っていた二人は凍らされたように固まってしまう、ゴルダックはそのギャップの違いに
言葉を失くし、サンダースは悲鳴を上げ謝った。

「仕事は遊びじゃない! 危険を伴うからチームワークを乱すような行動は慎め!!」
「あ、あぁ…、悪かった…」
「ふにゅうぅぅぅ…はいぃ…」

ウインディが声を荒げたのは二人の身勝手さを咎めたからではなかった、この仕事をしていく中で
チームワークの欠如は死に至るからだ。

「なら、喧嘩などせずにしっかりと挨拶から始めるんだ、いいな? 二人とも」

二人に握手を促すウインディ、当の二人は渋い顔で笑いながら握手をする…。

「よし、それじゃぁそろそろ今回の仕事についての確認を…」
「…ちょっと待っててくれ、二人とも…忘れ物をしてきた」
「忘れ物? あはは! まるで遠足みたい」

ゴルダックはアパートへと戻っていく、それを面白おかしく見ているサンダースと
何かを感じ取ったウインディは静かに背を向ける。
するとアパートのほうから…

「エレブー!! てめぇのせいでハンター家業最悪の仕事になっちまったぞ!!
とんだはねっかえり娘じゃねぇか、アイツ!!」
「い、いや…彼女ハンター歴短いからどうしてもやりたいっていって…
か、可愛いからいいだろ?」
「喧しい!! オイラはベビーシッターするためにハンターやってるんじゃねぇ!!」

ドガッ! バキィッ!!

「うぎゃあぁぁぁぁぁぁ…!!」

破壊音と誰かの悲鳴が外にまで木霊する、その後手をパンパンと掃うゴルダックが
ウインディ達の元へ戻ってきた。

「忘れ物ってなんだったの? 見たところさっきと持ち物が変わってないように見えるわ」
「いやなに、ちょっとやり残したことがあっただけだから気にするな、
それより仕事の話を始めよう」
「はぁ…やれやれ、先が思いやられる…」

三人が歩きながら会話をするなか、アパートではピクピクとのびている
エレブーの姿があった…。


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