「ふむ、なかなか美味いな、この木の実は」
「はい! とてもみずみずしくて美味しいと評判なんですよ、ルギア様…」

あれから数日後、再会を果たしたルギアとブイゼルはあの森で収穫した木の実を
頬張りながら楽しく会話をしていた。

「そういえば、ブイゼル、集落の皆の様子はどうなのだ? 大事ないのか?」
「あ、はい、ウェインさん達は――――――――」

舞台は変わり、小島から森の中の村へと移動する。

「それじゃぁ、この痛み止めの薬とその木の実を交換するね」

ピカチュウが薬の入った笹包みを渡すと、相手のケーシィが葉の巾着に入れられた
木の実をピカチュウに渡した。

「助かるよ、僕達の森だと食料はよく採れるけど薬はなかなか手に入らないんだ」
「ううん、僕達もこんなに美味しい木の実が食べれて嬉しいよ」
「あれ? 君の友達は何処に行ったんだい?」
「ウェインさん達なら君の友達と一緒に食料を採りに行ったよ、もうすっかり
仲良しになって…」

そう言いながらくすりと笑う二人、村の近くの湖の岸辺では…、

「ご、ゴマゾウ君…もうちょっと鼻を伸ばして…!」
「こ、これが限界だよ…ウェインさん…、後はカラカラ君と頑張って木の実を
落としてよ…」

高い木にぶら下がった木の実を採ろうとめいいっぱい伸ばしたゴマゾウの鼻の上に乗り、
棒や骨で突っつく二人。

「もうちょっと…ふっふっ…と、採れたぁ!」
「はぁ…! やったね、カラカラ君…っとっとっと?!」
「ウェインさん?! ってうわわわわ…?!」

木の実は採れたが、バランスを崩した二人はそのまま仰向けになり湖へ落ちていく。

「うわぁっ!! ぼ、僕水は駄目なんだ! 助けて〜!!」

ヒュウウゥゥッボスッ

「もう、本当に危なっかしいんだから…二人とも」
「あ、有難う御座います、ミロカロスさん…」
「へへ、ごめんなさい…」

間一髪のところで二人を背中で受け止めるミロカロス、少し呆れた顔をしていたが
表情は穏やかで笑みを浮かべながらその幸せを噛み締めていた―――――。

「ふむ…、どうやら打ち解けることができたようだな」
「はい! 僕もはじめは驚きましたが、今のミロカロスさんは優しさそのものと
思いましたよ」
「彼女も思い出せたのだな、彼女が彼女であるための大切な者達のことを…」
「…? 彼女が彼女であるため…ですか…?」
「まぁ、今の私とおまえのようなことだ…」
「ルギア様…」

ルギアのその一言にはにかみながら喜ぶブイゼル、しかし流石に恥ずかしすぎると
思った彼は気を紛らわすように、

「あ、あと、ゴルダックさん達なんですが――――――」
「ふふ…、慌てなくとも聞いているぞ…」

場所は変わり、集落にある診療所の一室…。
ベッドにミイラ男…もとい、ゴルダックが寄りかかって休むなか、
彼の手の包帯を解き軟膏を塗るガーディと花瓶に花を生けるニューラの姿があった。

「痛てて、し、しみるっすよこの薬…!」
「少しくらい我慢しなよ、あれだけみんなに心配かけたんだから!」
「そうよ! ちゃんと治さないと承知しないからね!」

あの後どうにか意識を取り戻した二人、ニューラ自身の傷はそれほどでもなかったため
一日の入院で退所できたが、ゴルダックの傷は深刻な状態で衰弱もしていたから
治りが遅く、ベッドに缶詰の状態になっていた。

「まったく…いくらブイゼルを助けるためとはいえ、あんな無茶二度としてほしくないわ!」
「き、きついっすね〜、オイラ病人なんだからもっと労わってくれたって…」
「病人だったらもっと安静にしてるもんだよ、昨日もベッドから抜け出して木の実ジュースを
飲みに行こうとするし…」
「い、いや、ニューラさんからの差し入れ、味がしなかったもんだから…つい…」
「な、なんですってぇ?! ゴルのバカァ!!」

バシイィィィッ!! ズキズキズキズキ!

「?☆$Ω●△!!!」

ニューラの平手打ちがゴルダックの背中を叩きつける、傷に大きく響いたが
それ以上に彼の背中にはくっきりと手形が残った。

「あーあー…、また傷を増やしちゃって…はぁ〜…」
「ご、ごめんなさい………ふふっ」
「あ、オイラが痛い思いしたのに笑うなんて……あははっ」
「うくくくく…、も、もう二人して笑うから僕まで、く、くくくっ…」
「あははははっ!!」
「ふふっふふふふ、あはははは…」

病室から溢れる笑い声、そこには互いに再会を果たした者達の喜びも一緒に
溢れ出ていた。

「私ね、貴方が食べられたって思った時や助け出せたのにまた引き離された時に
ただ目の前が真っ暗になって悪い夢を見てるんじゃないかって、夢なら醒めてって
何度も、何度も願ったのよ…」
「…うん、本当に心配かけてすまないっす、…でも、本当は……」
「うん? どうしたの? ゴルダックさん…」

真剣な顔をして何か考えるように呟くゴルダック、薬を塗り終わり、包帯を巻き直していた
ガーディが不思議そうに尋ねる。

「オイラ、ミロカロスさんからブイゼルさんを助け出すときについ、化け物って
言ってしまったんだけど、怒っているはずの彼女の目から悲しい涙が流れてるのを
見たんすよ…」
「…それって…」
「それだけじゃないっす、オイラを呑み込んだ後、望んだ食べ方ができなくて
彼女は胸の痛みを感じだしたっす、もしかしたら無意識の内に自分を責めていたんじゃ
ないかって、本当に悪夢を見続けていたのは彼女自身なんじゃないかって…」

ゴルダックが話し終えると静寂が訪れ、皆が何かを考えるように瞳を閉じている、
数分の静寂の後、急にニューラ立ち上がる。

「私、これから彼女に会ってくるわ、これからは悪夢なんかじゃなくて
現実で夢見たいな出来事を作ってあげるんだから!」
「あはは、ニューラさんらしいっすね…、…オイラもこの傷が治ったら彼女に
会いに行くっす、いろいろ話したいことがあるっすからね」
「それじゃぁ、昨日みたいに抜け出さないで早く治さないとね、ゴルダックさん」
「が、ガーディさん…、それは言わないお約束っすよ〜」
「あはははっ、それじゃ行ってくるわね!!」

元気に診療所を駆け出していくニューラ、その先には霧で霞んでいた森はなく、
笑い声の絶えない美しい森が彼女を招いていた――――――。

「ふむ、どこまでもお人好しだな…あの者達は」
「本当ですね…、でも…とても暖かいです…」
「ああ…そうだな…」

話を聞き終えたルギアは空を見上げる、そこにはミロカロスと過去の自分を
重ね合わすように思い描いていた。

(過去を変えることはできない、目を背けることも出来はしない、
しかし乗り越えて新しくやり直すことは可能だ…、共に歩む者がいれば…)

カチ、カチ、カチ、カチ…

止まっていた時計の秒針が再び時を刻み始めた、皆の新しい始まりを知らせるように―――――。

END


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