(う、うぅ…、痛い…体中ばらばらになるみたい…) エアロブラストによる衝撃によって自己再生が追いつかないほどのダメージおった ミロカロス、虚ろとする瞳からはぼやけて何かが近づいてくるのが分かる。 (あれは…、そう…、やはり戻ってきたのね……) 先程飛び立っていったあの白い翼竜が舞い戻ってきたのがわかる、多分、 あの侵入者達を安全な場所まで送り届けてきたんだろう。 ずしん、ずしんと一歩ずつ近づいてくる音が聞こえる、彼女は自分の中で 獲物と狩る者が逆転したことを感じ、目を閉じる。 (…はは、まさか自分が食べられて最期を迎えるなんて思いもしなかったわ…) 少し自嘲気味に笑みを浮かべていると足音が止まり、大きく開かれた口が ミロカロスに向かって覆いかぶさり… ガプッ…グイィッ! (?!) 頭ではなく、首を咥えられて湖の方まで運ばれていく。 ザッパーーン!! 大きな水しぶきを上げてミロカロスの体は湖に浸かっていく、彼女は何が起こったのか分からず 水の中で呆けていたが、痛む体を起こし岸辺にいるルギアに問いかける。 「…な、何故助けたりしたの…? 私は貴方の大切な者達を食べてしまおうとしたのに…」 「…………」 「貴方にとって、私はただの敵でしかないのに…何故…?!」 「……とったやり方はどうあれ、お前はこの森を守ろうとしたのであろう…? 外敵から住まうポケモン達を守ろうとしてやったのだろう…?」 彼女の問いに静かに答えるルギア、その瞳には敵意の欠片もなく穏やかに見つめている。 再び彼女の胸を締め付けるような痛みが出てくる。 「…何故貴方達はそこまで相手を助けようとするの…? 前にここに訪れてきた者達は わが身恋しさに仲間を犠牲にして命乞いをしてきたわ…、なのに何故…」 「…あの者達は一人では何も満たされない、相手と共に喜びも悲しみも感じていきたいから 助け合っているのだ…」 「…………」 「私も一つの過ちによって大切な者を失いかけたことがあった、護ろうと思う気持ちが 捻じ曲がり、いつしかその意味さえ忘れてしまっていた…しかし、信じ続けてくれた者のお陰で 私が私であることを思い出させてくれたのだ…」 その言葉を聞き、ミロカロスには過去の出来事が浮かんでくる――――。 「…お、お願い…、この子達に何もしないで…」 今より身長が低いが、ボロボロの姿のミロカロスが森に住まう子供達を庇うように 略奪者に許しを請う。 (そう、これが始まりだったわ……、私が彼らを護るようになったのは…) 「ひははは! 食料はあらかた手に入れたからてめぇらは用済み…いや、まだ食料が 残ってるか…」 その身を挺して庇うミロカロスを思い切り殴り飛ばし、隠れていたポケモンの子供を 掴み上げ、大きく開けた口の中へ放り込んでいく。 「やだあぁぁっ!! だしてよぉぉ…!」 「おーお、いい声で鳴きやがる…そんな声聞いてるとすぐにでも腹に収めたくなるぜ…」 「嫌…、やめ、止めなさい…」 霞む景色の中、略奪者の口の中から悲痛な声が聞こえてくる。 助けに行こうとするが激しい痛み体が動いてくれない。 ズリュリュッ! ゴクッ!! 「うあぁぁぁぁ…」 略奪者の喉がひときわ大きく膨らむ、それと同時に耳を塞ぎたいとまで思った悲鳴も、 吸い込まれるように小さくなり消えていった…。 目が丸く開く、涙が溢れて体全体が熱くなる、それなのに心はきつく締め付けられて チクチクと痛みとても悲しい。 「…ァ……ゥ…」 「あー!! やっぱり美味ぇなぁ! ポケモンのガキってのは…、ま、腹にたまらないのが 難点だが、まだいるから問題ねぇ」 げらげらと下品に笑いながら舌なめずりをした後、震えて逃げようとしないポケモンの子供に 手をかけようとする。 「美味イ? 食ベタ? 誰ガ、誰ヲ? マダイルカラ…、何…?」 「?!」 ミロカロスからは先程までの哀願のような声は消え失せ、代わりに全てを凍てつかせるような おぞましい声が略奪者を突き刺す。 そして身の危険を感じた略奪者がその場を離れようと振り向いた瞬間、 バグウゥッ!!! ジュルルルルルルル!! グチャグチャギチュァッ!! 略奪者は何が起こっているのかよく分からなかった、振り向いた後、 視界はすでに暗く腹に物凄い圧力が掛かり、顔を顰めていると強い力で暗闇の中へ 引きずり込まれ、ぬめぬめとした空間の中を乱暴に掻き回されている。 「があっ?! げうぅっ!! ぎいやあぁぁぁっ!!」 「汚イ声…、耳障リダカラ消エテチョウダイ…!!」 グググッ! ゴクリ… 悲鳴を上げる暇さえ与えないように呑み下すミロカロス、その喉を流れていく膨らみからは 必死に抵抗の反応が見られたが、それにさえ体を収縮しきつく締め上げていく。 そして完全にお腹の中に納まった獲物を重さで感じると少しずつ意識が戻っていく。 「うぅ、わ…たし…?」 「ば、化け物…!!」 「…え……?!」 「た、助けてー!!」 ミロカロスの姿を見て脅えながら逃げ出していく子供達、あれだけ怖いと思っていた略奪者を いとも簡単に呑み込んでしまったことから、子供達は自分たちも襲われると思ってしまった。 「あ…ははは…、化け物…そうよね、私はあいつだけでなく、あの子も一緒に 食べてしまったのだから…」 だんだんとお腹の膨らみは縮んでいき、消化が始まっていて手遅れなのが分かる、 しばらく放心していた彼女だったが、一つの結論に辿りつく。 「美味しかった…、ここで、森の番人を続ければ何度でも味わえるのね…あははは…」 彼女は森の住人を護るということを名目に森の番人となった、彼女は気付いていなかったが その瞳からは悲しい涙が流れていた―――――――。 「…笑っちゃうわね…、私が護ろうとしたものは森の住人じゃなかった、ただ自分自身の 悦楽を護ろうとしていただけだった…」 水にうなだれながら涙を流すミロカロス、今はそのことを思い出し悲しさで 押しつぶされそうになっている。 しばらく黙っていたルギアだったが、ゆっくりと口を開く。 「…また、住人たちとやり直すことはしないのか…?」 「……無理よ、あの子達は私の姿がない方が幸せに生きていけるわ…、 このまま私が消えたって…」 「……そんなの嫌だ!! 何処にも行かないでよ! ミロカロス様…!!」 「?!」 突然聞こえる懐かしい幼子の声、二度と見ることが叶わぬと思っていた子供達が 涙を流しながらこちらへ駆け寄ってくる。 「あぁ! だ、駄目よ、お前達!! この湖は深いから危ないわ…!」 「嫌だ! 僕達がつかまえてないと何処かに行っちゃうでしょ…?! だから溺れたって構わない!!」 「あの時はあんなこと言ってごめんなさい!! 僕、ずっとミロカロス様に 謝りたかったよー!!」 ざぶざぶと音を立てて湖に入ってくる子供達、その姿はまるで母を心配して 泣きつく本当の子供のようだった。 静かにルギアは口を開く。 「どうするんだ…? 後はお前の気持ち一つなのだぞ…?」 そう言いながら羽ばたいて飛び立つ準備をし始める、そしてミロカロスの返事を 笑顔で待つ。 「もう…、本当にしょうがないんだから…、ふふふ…」 ミロカロスからは涙と共に笑顔がこぼれる、泣きながら抱きついてくる小さな 子供達の温もりを感じながら…。 そしてルギアは大空へと飛び立ち、小島へと向かっていく、確かな返事を得て、 安心できたのだから…。 |