「さて…、そろそろ二人で帰りましょうか…? ふふふ…」
『…そうはさせない!! 火炎放射!!』

ゴバアァァァッ!!

「?! ぎいいぃぃっ!!」

突然横のほうから叫び声が聞こえ、彼女に向けて二つの火の塊が直撃する。
ぶすぶすと体の表面が焼けていくのに、ミロカロスは悲鳴を上げ、身悶えする。
そこに、四人のポケモンが到着し、内二人は炎を吐いてミロカロスの進行を止める。

「! どうやら皆を集めてくれていたようだな、あのガーディは…」
「みんな…! …後はニューラさんを助けるのですね、ルギア様…!」
「……そこでなんだがブイゼル、お前に頼みたいことがある…」
「…? 何でしょうか…? 僕にできることだったら何でも申し付けてください…!」
「そうか…、では今から言うことを皆に伝えてほしいのだ…」
「は、はい…!」

………………………………

「えぇえ〜っ?! ほ、本気ですか?! ルギア様!!」
「私から話してもいいのだが、逆に怖がらせてしまうかも知れないのでな…頼む」

何かを話し合っていた二人だが、その意外な言葉にブイゼルは動揺を隠せなかった。
しかし、他の仲間たちも危険に変わりはないので選択の余地などなかった。

「確かにそのお考えが一番安全ですね…、分かりました!!」
「頼んだぞ、ブイゼル…」

少し戸惑いもあったが、ブイゼルがルギアを敬愛しているからこそその言葉を信じることができた。
彼はみんなに聞こえるように大きな声で叫んだ。

「みんな!! ここは危険だからすぐにルギア様の元に集まって…!!」
「ブイゼルさん?! でも、まだニューラさんが…」
「そうだよ、見捨てることなんてできないよ!」

火炎放射と10万ボルトで応戦していたウェインとピカチュウが意を唱えた。
確かにそのとおりで、ブイゼル自身も彼女を置いていくなんてしたくもなく、
言葉を詰まらせてしまった。

「忘れたの?! 二人とも、ニューラさんの意思を! 一人でもまた欠けてしまうと
みんなを助けられないことを……!」
「?! ご、ゴマゾウ君…」

ゴマゾウの説得にはっとする二人、同じく火炎放射で応戦していたガーディは、

「…何か考えがあるんだね…二人とも、僕達の力じゃ足止めはできてもニューラさんを助け出すのは
無理だよ! だったらブイゼルさんの考えに託してみないか?」

と、二人を説得する。

「………分かったよ、行こう? ウェインさん……」
「……くうぅっ…すまない、ニューラさん…」

悔いが残りながらもその場を撤退する四人、猛攻が終わったことで傷や火傷を自己修復するミロカロス、
そして喉を動かし、口内に納めていたニューラを体の奥へと運んでいく…。

ジュル…ゴクン……ズリュリュ…

「ふふふ…やっぱり最後はわが身恋しさに仲間を捨てて行ったわね…、安心していいわよニューラちゃん…
そんな奴らは生きて返さないから…」

お腹の根元まで運ばれていくニューラに優しく声をかけるミロカロス、触角でお腹を撫でると
弱弱しいが、ぽこぽこと小さな拳状にお腹が膨らむ。

「ふふふ…、可愛らしい抵抗ね…いつまで持つかしら…」

そう言いながら目を閉じ霧を漂わせていく、すぐにミロカロスの姿も覆われ、残るのは
鋭い眼光だけだった…。

一方、合流を果たした者達は…。

「それで、どうすればいいの…? 安全な場所なんてあるの、ブイゼルさん…」
「うん、一箇所だけあるんだけど…みんな驚かずに聞いて欲しいんだ」
「…? うん…、分かった…」

どこか怪訝な顔でブイゼルを見るみんな、その中でブイゼルは重い口を開ける。

「その場所は…、ルギア様のお腹の中だよ」
「………え…? ぶ、ブイゼルさん? それってつまり…」
「そう…、みんなルギア様に食べられて欲しいんだ!」

動揺するみんなに告げるのは辛かったが、はっきりと伝えた。

「…えぇえー?!! …冗談だよね?!」
「…そう言われても仕方ないけど、ニューラさんを助けるために必要なんだ!」
「にゅ、ニューラさんを…?」
「ルギア様の力ならニューラさんを助け出すことができるかもしれないけど、その力は強すぎるから
僕達がいると使えないんだ!」
「……そんな……」
「みんなの思っていることはよく分かってる、でもルギア様を信じて欲しいんだ!!」

そんな口論が続いていると、辺りが霧で霞んでいく。
先程のミロカロスの霧が漂ってきた。

「…このままじゃニューラさんもゴルダックさんも手遅れになってしまう…、この霧で僕達だって
危ない…みんな、迷っている暇なんてないんだ!」

ガーディがみんなの迷いを断ち切るかのような言葉で説得し、ルギアのいる場所へ走り出す。
それに呼応し、ゴマゾウとピカチュウも走り出す。

「みんなで帰るんだよね? ブイゼルさん…」
「…もちろんだよ、ウェインさん…」

そう言い合いながら、微笑んで走り出す二人、やがて彼らのいた場所は霧に包まれ何も見えなくなる。
そしてルギアがいる場所へ訪れた、その近くで横たわっているゴルダックをガーディが担ぎ、
ルギアの元へ集まり皆が深々とお辞儀をする。

「すまない…このような方法でしか皆を護ることができなくて…」
「…そのようなことはありません! 感謝の言葉では足りないほどで御座います」

申し訳なさそうに言うルギア、その言葉に自分たちの気持ちを精一杯伝えるウェイン。
ブイゼルもウェイン達、そしてルギアに信頼の相槌をうつ。

「必ずあの娘を助け出す、だから待っていてくれ…」

ルギアは大きく口を開ける、まずウェイン、ピカチュウ、ゴマゾウがその中へ入っていく。
三人が口の中に納まると、ルギアは一旦口を閉じ、呑み込みやすいように唾液を舌で
塗りたくっていく…。

ペロペロ…グチュグリュゥッ…ピチャピチャ…

「うぶぅっ…うあっ、はひっ!」
「ひくっ…ちゅ、ちゅうぅ…」
「あうぅっ…、な、舐められるって変だよぉ…」

慣れない感触に困惑し、ただ喘ぎ声をあげる三人、その言葉を聞いてかルギアは舌を動かしながら
テレパシーでこう伝える。

『すまない…、何分呑み込む時にかかる圧力でお前たちを傷つけたくはないのでな…』

彼らを安心させるように語り掛けるルギア、次第に口の中の三人の全身に唾液が塗り渡り、
また彼らもその優しき行為に身を任せるようになる。

「る、ルギア様……僕達、もう……」
『うむ…、よく堪えてくれた、そろそろいただくとしよう……』

ググッ! ゴクリ…

頭を持ち上げ、喉へ滑り落ちていく三人をゆっくりと呑み込む。
彼の長い喉からは三つの小さな膨らみが胴へと運ばれていく…。
そしてその膨らみが胴の根元まで到達するとルギアのお腹を少しだけ
膨らませ、小さく蠢きだす。

「うぅん…ここが、ルギア様のお腹の中……?」
「不思議…、もっと何か暗くて怖いところだと思っていたのに…」
「うん…、こう…暖かいもので守られているような気がするよ…」
『大丈夫か…? お前達…、苦しくはないか…?』

ウェインの尻尾の灯火で辺りを見渡しているなか、肉壁の奥から聞こえる鼓動と共に
ルギアのテレパシーが聞こえてくる。

「ルギア様…、……有難う御座います、僕達は大丈夫ですから…
ニューラさんを助けてあげて下さい…」

ウェインは涙を溜めて感謝を示す、その姿を見ることはできないルギアだったが
彼の気持ちは十分すぎるほど伝わっていた。

「…さて、次はお前たちの番だな…」

視線をまだ外にいる三人に向ける、その視線の先にはガーディにもたれかかっている
ゴルダックの姿があった。

(ゴルダック…、お前のお陰で私はブイゼルの無事な姿を見ることができた、
しかし、そのお前が息絶えてしまったらブイゼルは自責の念に潰れてしまう…、
彼にその様な闇を背負わさないでくれ……)

深く祈るように物言わぬ者へ思うルギア、そして次の視線には心配そうにゴルダックの
手当てをしているガーディが移っている。

(私が小島を離れ、この森の手前でお前を見つけて本当に良かった…、
森の中で倒れてしまったブイゼルや、ゴルダックはお前の持ってきた薬が
なかったら危険な状態のままだったのだからな…、それにブイゼルにこの湖に戻り
仲間と合流するようにと頼み、仲間を集めてくれたお前には感謝の言葉で表せないほどだ)

無言でガーディに頭を下げるルギア、それに気付いたガーディは少しはにかみながら首を振る。

(僕はみんなが心配だから来ただけですよ、それに、僕もルギア様に会っていなければ
ゴルダックさんを助けるどころか、ミロカロスのお腹の中で再会するようになっていましたから…)

深々と礼をするガーディにルギアは微笑むように口を歪める。
そして…

「……怖くはないのか…? あの時は心乱れていたとはいえ、お前のことを酷い方法で
私は食べてしまったのだぞ…?」

ブイゼルを見ながら自分が以前してしまったことを思い出しながら語る。
しかし、ブイゼルの表情は曇りを見せず、

「…僕はルギア様にこの身の全てを捧げると心に誓いました、ですから
貴方をお慕いする気持ちに迷いなどありません…」

凛とした表情で微笑むブイゼル、その時彼とルギアの瞳は一点の曇りもなくなっていた。
そして静かに口は開かれ…

「私はお前達と共にある、お前達が一人でも欠けてしまうと私は私ではなくなる…
あの娘は独りにはさせない…!」

感情のこもった言葉が響く、そして信頼の眼差しを送るブイゼルと
手当てを終えたガーディがゴルダックを抱えながらルギアの口の中へと足を進める。
三人が口内に入ったと感じるとその口を静かに閉じ、優しく舌を這わせて唾液をまぶしていく。

ピチャピチャ…ニチュァッ…ペロォ…

「きゃうっ…うあぁっ…る、ルギア様っ…あっぷ…」
「きゅ、きゅぅん…あぅぅ…」
(くっ…)

舌が体を塗らしていく度に身震いのような感触を覚える二人、気色の悪いという感覚ではないが
体が過敏に反応してしまう。
ルギア自身も三人を舐めているうちに一つの葛藤が生まれていた。

(先程の三人から意識はしないようにと思っていたが、やはりブイゼル、お前や他の仲間たちも
美味しい味がして気が狂いそうになってしまう…)

頭の中でそんな考えが渦巻いていると、すっかり全身唾液で滑らかになったブイゼルが、
怪訝そうに尋ねる。

「る、ルギア様、も、もう十分と思われますが……?」
『?! す、すまないな…、では、いただくとしよう…』

ズズズッ! ゴクリ…

少し慌てながらブイゼル達を喉の奥へと運ぶルギア、彼の喉を小さな膨らみと
重なったような大きな膨らみが徐々に胃袋へと下っていく。

ズリュリュ…グニュグニュ…ジュルゥッ…

せめて喉を下る感触だけでも楽しみたいルギアはなるべくゆっくりとブイゼル達を運んでいく、
そして胃袋に収まった重量感を感じながら一呼吸おき、湖の方へ羽ばたき向かっていった。

ゴオオォォォ…

「! 来たわね…」

濃い霧の中、目の鋭い光だけが静かに開かれる。
しかし、あれだけ濃かった霧もこちらに向かってくるルギアの突風によって
全て掻き消されていき、ミロカロスの全身が曝け出された。

「?! き、霧が…」
「…一度だけ問うぞ、先程お前が呑んだ娘を返してはくれないか…?」
「……侵入者は私の食事…、それが変わることはないわ」
「交渉は決裂ということか、なら仕方がないな…」

冷静を保っていたルギアであったが、一瞬にして表情は険しくなり
彼の周囲には風が渦巻き始める。

「くっ…?! はぁっ!!」

シュルルルッ! バアァン!!

危険を感じてか、ミロカロスは触角でルギアを制止しようとするが
密度を増す風に弾かれその攻撃が届くことはなかった。
やがて風はルギアの口に収束していき、嵐の核のような球体になる。

「エアロブラスト!!」

ルギアから放たれた風の塊がミロカロスに直撃し湖に暴風を生み出す。

「がっ?! ああぁぁぁぁぁっ!!」

凄まじい衝撃がミロカロスを襲い、体の上下感覚が失われていく、
それと同時に喉の奥から何かがこみ上げてくるのを感じる。

「ぐぼあぁぁっ!!」

口から空中へと黒く体液まみれの黒猫が吐き出される、しかし暴風に巻き込まれ
激しく地面へと飛ばされていく。

「くっ! まずい! このままでは地面に…!」

急いでニューラを受け止めようとするルギアだが、エアロブラストの余波で押し戻されてしまう。
ニューラ自身も気絶していて受身も取れない状態にあり、諦めかけていたその時だった。

ヒイィィィン……フワァッ…

「なっ? こ、これは…」

ニューラの周りを青い光が包み、地面につく直前でスピードを収縮させ宙に浮かぶ。
気付けばルギアのお腹からも同じ青い光が発せられていた。

「ご、ゴルダックさん…」

ルギアのお腹の中の仲間達は驚きを隠せなかった、今まで気絶していた彼の手から
淡い光が放たれていることを…。

「にゅ、ニューラ……」

一言、ただ一言だけそう呟くと手から光が消えていき、その場は静かになる。

「これなら間に合う…!」

風が弱まり、なんとかニューラを咥えることに成功したルギア、急いで彼女を
口内に納めると再び羽ばたき上空へ飛び立ち、集落の方へ向かっていく。

やがて静けさが訪れ、そこに残ったのは小さく波を立てて揺れる湖と
湖の岸辺でボロボロになって横たわるミロカロスだけだった…。


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