話を終えたミロカロスはニューラと、岸辺にいるブイゼルの表情を見やる。
目を開き涙を流すニューラ、真実を知り絶望を味わったことで体の各部がだらんと垂れ下がる。
ブイゼルはあの時のことを悔いて、地面を手で叩きつける…。

「貴女も同じ、仲間を気にするあまり自分のことに気が回らず苦痛を味わっているのよ」
「そ、そんなこと…、仲間を心配するのは、当たり前のことよ…」
「どっちでもいいわ、貴女が心配しようともしなくとも…、私は食べるだけなんだから…」

止めを刺すように冷たい言葉で言い放つ、ミロカロスのことを見上げていたニューラの顔も
地面へと視点が下がっていく…。

「まだゴルダックさんは死んでない!!」
「?!」
「…ぶ、ブイゼル……?」

突然のブイゼルの大声に二人は驚く。

「ゴルダックさんは最後まで諦めなかった! だから僕達も諦めちゃ駄目だよニューラさん!!」
「……そう、ね…ここまで心配かけさせたアイツの顔をいっぺん叩かなきゃね…!」

ブイゼルの必死の説得に消えかけていたニューラの瞳に光が戻る。
その様子を見ていたミロカロスは、

(面白くない…もう食べてしまおうかしら…?)

胸の痛みが先程より増すが、湧き上がる食欲が勝り、静かに口を開けニューラに顔を近づけていった。

「諦めなさい…、いずれみんなそこに連れていくから寂しくないわ…」
「ぐぐっ…だ、誰が諦めるって言ったの…?! わ、私は彼を助けるまで、あきらめ…ない!」

彼を助けたい、そう思うと消えかけていた力を取り戻すように、巻き付いてくる胴に爪を突き立てた。

ザシュウッ!!

「ぐぅっ!…この小さな体のどこにこんな力が…」

爪を突き立てられて、一瞬ではあるが巻き付けていた胴の拘束が緩む。

「…! 今だわ! …彼を、ゴルを吐き出しなさい!!」

ドゴオォッ!

「がっ?! ぐぼあぁっ!!」

渾身の力で放たれた一撃がミロカロスの胴に深々とめり込む。その衝撃で彼女は苦しみ、
お腹に収めていた膨らみが上へと移動し大きな音と共に口からゴルダックが吐き出される。

「う……ぐっ…」

苦しそうに呻きながら、その場に崩れ落ちたミロカロス。

ザッパーン!!

湖に落ちるゴルダック、何の反応も見せず、沈んでいく…。

「だ、駄目! 死なないで…! ゴルゥゥゥ!!」

沈むゴルダックを必死で追うニューラ、そして、ようやく追いつき、抱えながら水面へ上がる…。
疲労が溜まっていて、上手く泳げなかったが、それでも一秒でも早く彼を安全な場所に連れて行きたかった。

「ぷはぁっ! はぁっはぁっ…は、早く彼を岸に…」

その時…水面下で動く巨大な影がニューラ達の真下に現れ…、鋭い眼光で睨みながら
彼女たちの様子を窺っていた…。

「ニューラさん! もう少しだから頑張って!!」
「か、彼を…、先に…早く…!」

岸まで2メートルもなくなり待っていたブイゼルに運んできたゴルダックを預ける、
引き上げた時彼に意識はなく、体のあちこちが溶かされ爛れていた。しかし、
弱弱しいが確かに鼓動が聞こえてくる…。

「うぅ…ゴルダックさん、今安全な所に行くから死なないで…!」
「い、急いでみんなと合流しないと…、でも、一体何処にいるのかしら…?」
「…もうすぐ、助けが来るから、できるだけここから離れ……」

ズバアァァァン!!

「?!」
「うわあぁっ!!」

湖から這い上がろうとしたその時、ニューラの真下から水柱が上がり、ミロカロスが現れ
額に乗せたニューラを上空高くへほおり投げる。
水柱の衝撃でブイゼルとゴルダックは吹き飛ばされ、しばらく動けない状態になってしまう。

「さあ…! 降りてきなさい…、苦痛のないよう一瞬で食べてあげるから……!!」
「うあぁっ! い、嫌…、動けない…」

空中では抵抗はおろか逃げることさえ叶わない、その中で冷淡な捕食者は大きく口を開き
獲物が降りてくるのを愉しそうに待っている。

ゴオオォォォォ……!

ニューラが上空に舞い上がっている時、遠くから何かが向かってくる音が聞こえる…。

「! あそこだな!!」

その何かは地上へと落ちていくニューラを発見すると、猛スピードで追いかけ始めた。

「ふふ…いただきます…」
「くうぅっ! もう駄目…」
「にゅ、ニューラさん……」

地上が近づくと同時にニューラの視界にはミロカロスの口の中が入ってくる、
もう助からない、そう思い静かに目を閉じていく…。

ゴオオォォォ…! ドサッ!

「……どうやら間に合ったようだな…」
「?! わ、私、食べられたんじゃ…?」
「な、何なのよ貴方?! その子を助けるなんて…!」
「……ああ、来てくださったのですね……!!」

ミロカロスの口に落ちゆくその瞬間、追いついた白く大きな翼竜が背中でニューラを受け止める。
そのまま旋回し、ブイゼルのほうへ向かっていく。

「あ、貴方は……る、ルギア様?!」
「いかにも…、しかしのんびりと語らう時でもないようだな…しっかりと掴まっていてくれ…」

そう言うとルギアは急降下し、ブイゼルとゴルダックの元へ降り立つ…。
そしてゆっくりと腰を落とし、ニューラが降りれるようにした。
地面に降り立つニューラ、そしてルギアに、

「あ、有り難う御座います!!」

と一礼をした。

「ルギア様!! 来て、来てくださったのですね!!」
「…ブイゼル…、無事で何よりだ…、しかし、そのゴルダックは……」

再会を喜びルギアのお腹に抱きつくブイゼル…、ルギアにも少しの安堵が浮かんだが
その近くで横たわるゴルダックの無惨な姿を見ると、少しの焦りが生まれた。

シュルルゥッ! パシィッ!! ズルズルズルズル!

「きゃあぁっ?!」
「ふふ、感動に浸っている場合じゃないわよ…」
「くっ?! しまった!!」

全員が油断していたときにミロカロスの触角がニューラの足を捕らえ、
湖へと引きずり込んでいく…。
ルギアも地上での行動にすぐに対応できないため、追いかけるのは非常に難しい。

「嫌ぁっ! は、離しなさい!!」
「無駄よ…、もう離さないわ…」

触角で引き寄せながら大きく口を開くミロカロス、そして…。

ガプゥッ! ジュルジュル…

「嫌っ…嫌あぁぁぁぁ!!」

一口で足から腰まで咥え込まれ、どんどん啜りこまれていくニューラ。
残された手で抵抗するも、力を使い果たした彼女の攻撃はまったく効いていなかった。

「ふふ、貴女だけでも食べてから湖に帰るわね、残念だけど、あの翼竜さんは
この開けた湖でしか動けないから、はぐれたお仲間さんも一人ずつ貴女に会わせてあげる…」

話しながら喉を動かして呑み込んでいくミロカロス、話を終えるころにはニューラの全身を
口の中に収めていた。
ニューラの瞳には再び涙が溢れている、折角手にした希望を奪われ悲しみに囚われていた…。


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