時間はさかのぼり、昨日の夜中の湖…。 そこには、湖から獲物を見下ろすミロカロス、そして岸辺にはブイゼルとゴルダックがいて、 何かの口論をしていた。 「…何故なんすか?! オイラ達は略奪による食料集めは絶対にしないっす!」 「そうだよ! 平和交渉での食料集めが目的なのにどうして断るの?!」 必死にミロカロスに訴える二人、しかし、ミロカロスの返答は変化を見せることなく、 「…今までこの森に入ってきた者は口を揃えてそう言ったわ、そして結果は同じ、 彼らは略奪に走り、住まうポケモンや木々を躊躇せず傷つけたわ、そんな輩に対して私が 同意を示すと思っているの…?」 と言って一向に考えを改める気のないミロカロスに、これ以上の説得は無理と判断し、 「…諦めよう、ブイゼルさん、ここじゃない森で食料を探すしかないっす」 「……うん、そうだね…、ミロカロスさん、さようなら…」 そう言って二人はミロカロスに背を向け仲間と合流しようと歩き出す。 しかし、すぐに足を止めることになってしまう…。 「うっ! …霧がまた濃くなってきたっすね…」 「…ねえ、ゴルダックさん…、なんだか、ぼーっとしてこない…?」 「…そういえば、なんだか頭にまで霧がかかった…よう…な…」 霧に包まれた二人の様子が段々とおかしくなっていく。 霧で視界が無いこともあるが、それ以上に思考が定まらないということで、 足を前に出すことができなくなっていた…。 「ふふふ…、逃がさないわよ…」 背後からミロカロスの声が聞こえてくる、先程までの冷静な声で話しているのだが、 どこか妖しく、そしておぞましい声に二人は背筋が凍る。 「な、何を…、ミロカロスさん…? この霧…まさか、貴女が…?!」 「…お、オイラ達はもうこの森を荒らさないっす…だから帰してほしいっす…」 靄がかかったような意識の中で、必死に要求を求める二人、しかし、 ミロカロスは彼らのそんな甘い考えを打ち砕くように、 「笑わせないでくれる? 目の前にある食事を食べない人はいないわ… それに、貴方達を帰したら、仲間に知らせて大勢で戻ってくるかもしれないでしょう?」 ビシュビシュゥッ! パシッ…スカッ! 二本の触角で素早く獲物を絡め捕ろうとするミロカロス、一つはしっかりとブイゼルを捕まえ、 もう一つはもう少しのところで、ゴルダックにかわされてしまった。 「うわぁっ?! は、離してよ!!」 「あら、一匹しか捕まえられなかったわね…、まぁいいわ」 触角に巻き取られ暴れるブイゼルを見やった後、勢いをつけて湖に放り投げた。 放物線を描くように湖に投げ飛ばされるブイゼル、始めは何が起こったのか分からず 放心していたが、今起こっていることを理解するに至り、喉の奥から何かがこみ上げて くるのを感じた。 「…え? う、あぁ…あああぁぁぁぁ!!」 「くぅっ! ブイゼルさん!!」 ミロカロスが何をするかある程度察していたゴルダックは走り出し、自分がブイゼルを 抱える体勢になるように湖に飛び込んだ。 バッシャーン!! 間一髪のところでブイゼルを抱え込み、水からの衝撃を最小限に抑えることに成功した ゴルダック、それでも勢いが強く、みるみるうちに岸辺から遠ざかっていく…。 「ぷはぁっ! げほっげほっ…! ご、ゴルダックさん…ありがとう…」 「…お、お礼なんていいっすよ…、そ、それより、早く岸に戻らないと…」 「…? ゴルダックさん、もしかして怪我を…?」 「…流れていた流木に少し打ち付けただけっす…ほ、ほら、ブイゼルさんも泳いで…」 体が痛みに軋む中、二人は岸辺に向かって泳ぎ始める…、しかし彼らは気づいていない、 湖は彼女の鳥篭であることを…。 ザザザァァァ…バシャバシャァッ! 「うっ…ぷあっ! な、波が…邪魔して上手く泳げないっす…」 急にうねりを上げだす湖、さらに勢いを増し、小さな渦潮となって 二人を巻き込んでいく…。 二人は引き離されないようにお互いの手を強く握りながら渦潮に耐える。 「うぶっ…がぼげほっ! お、溺れちゃうよゴルダックさん!!」 「がぐぅっ! て、手を離しちゃ駄目っすよ、しっかりつかま…うぐっ?!」 急に打ち付けた背中に激痛が走り、ゴルダックの手の力が緩み、 繋がっていていた手を引き剥がされてしまう。 「ご、ゴルダックさあぁーん!!」 「う、うぅ…ブイゼルさ……がぼ…」 ブイゼルは岸近くまで流されていき、ゴルダック湖の奥へと流されてしまった。 背中を刺す激痛と渦潮の衝撃に耐え切れず、とうとう気を失ってしまった ゴルダック、その体は湖の底深くへと沈んでいく…。 「ふふふ…この湖に入り込んだ奴の運命は唯一つ……」 自分の尻尾を巧みに動かして渦潮を造り、近くまで流れてきたブイゼルに、 巻き付いて、自由を奪うミロカロス。 「がはっ?! く、苦しい…」 「うふふ……やっと美味しそうな食事にありつけるわ…」 歓喜にミロカロスの体が震える、しかしそれも一瞬だけで、 すぐさまブイゼルの体力を搾り取るように胴で締め上げる。 ギュムッグギュギュギュギュッ!! 「がっ?! うあああぁぁぁっ!!」 「ふふふ……とても素敵な声ね……」 耳を塞ぎたくなるほどの悲痛な声で悲鳴を上げるブイゼル、しかし、ミロカロスは その叫び声すら前菜といわんばかりに味わう表情を浮かべ、更に巻きつく力を強め 獲物を弄ぶ。 グギュッギリギリギリ… 「あぐっ…! あ…うあぁ…」 激しい圧力にブイゼルの体は反り返り、瞳からはぼろぼろと苦痛の涙が溢れ出る。 呼吸も行えず、叫び声も小さくなっていく…。 「あら…、ちょっとやりすぎたみたい…、ごめんなさいね…」 ペロッ! 「ひっ?! …くっ、うぅ…」 そう言って締め付ける力を緩めながらブイゼルの鼻先を軽く舐めるミロカロス、 その行為が謝罪の意味なのか、それとも味見をする意味なのかは知ることが できないが、ブイゼルにとっては恐怖をかきたてられる以外のなにものでもなかった。 「ご、ゴルダックさん………」 「ふふ、美味しいわよ、貴方……、もう少し味あわせてね………」 ペロペロ…クチュッ…チュルウッ… 「んぶぅっ…! ひぅっ…あうぅ…」 ミロカロスの舌はブイゼルの顔を下から上へ優しく舐めあげ、首筋、全身へと 這わせていく、ブイゼルは全身が唾液で湿っていくのと同時に体力が奪われ、 痺れるような感覚に襲われてか細い喘ぎ声をする。その声が届いたのか、気絶 していたゴルダックの瞳に光が戻る。再び迫りくる背中の激痛に少し顔を顰めるが、 一気に水面まで浮上する。 「ぶはぁっ! …ぶ、ブイゼルさん…? 何処に……え…?」 一瞬目を疑った、ゴルダックが見た光景はミロカロスに拘束され、全身を 舐め回され蹂躙されているブイゼルの姿だった…。そして、十分に味を堪能 したのかミロカロスは舌を止め、触角でブイゼルを抱え上げ、口元に近づけていく。 「う…ぐ、あぁ…」 「ふふ…怖がる必要は無いわ…、私のお腹の中ですぐにお友達とも会えるわよ」 呻き声しか出せず、体の痺れで抵抗できないブイゼルに、呟くようにに語りかけるミロカロス、 やがてその口は大きく開きブイゼルの頭を覆うように銜え込んだ。 カプリ…ジュル…ジュルジュルル… ゆっくりと…、ミロカロスの口内へ引きずられていくブイゼル、自分を更に奥へ 運ぼうと脈動する舌や肉壁、その奥には長くお腹まで続く喉が期待しているかのように 蠢いている…。 「…ルギア…様……」 深い悲しみの中、一つの言葉が発せられる…、敬愛し、共に歩んでいこうと心に誓った ルギアにもう会えないのかと考え、すすり泣き続けることしかできない自分に絶望を 感じ、喉の入り口で体を震わせていた…。 ジュル…ジュルジュルジュルリ… その間にもミロカロスはブイゼルの体を味わいながら舌を動かし、口からはみ出している足を 一気に啜って全て口内に収める、頬は膨れ、収めた獲物の大きさを物語っていた。 (さて、あとはゆっくりとお腹の中に…) 「やめるっす! この化け物!!」 喉を動かし、ブイゼルを食道へと運ぼうとしたその時だった、少し遠くから聞こえる ゴルダックの叫び声と同時に自分に向かってくる、青い光でコーティングされた水の 砲弾…。 ドゴォッ!! 「はぐぅっ?! …ぐっ、ぐぼあぁっ!!」 咄嗟のことで回避できなかったため、彼女の頬に直撃し、その表情を苦痛に歪める、 それと同時に吐き気に襲われ嚥下していたブイゼルを吐き出してしまう。その勢いで ブイゼルは湖を飛び越え、岸に転がる。 「このぉ…、折角味わっていたのに…よくもぉ…!」 「くっ…、ブイゼルさん! 逃げるっす!!」 怒りの表情をゴルダックに投げかけるミロカロス、その形相に少しすごむゴルダック だが、矛先がそのまま自分に向かうことを願い、念力でぐったりと横たわっている ブイゼルの体を浮かし、湖から遠ざけていった。 「仲間に知らせて…撤退するように伝えて…頼んだっすよ、ブイゼルさん…」 気絶状態にあるブイゼルにそんなことを頼むのは無理があるかもしれないと思った、 しかし、少しでもある可能性を信じたかったゴルダックはその方法しか選べなかった。 シュルルル…グギュウウゥゥッ!! 「ぎっ?! がああぁぁっ!!」 いつの間にか背後に回りこんでいたミロカロス、ブイゼルの時と…いや、それ以上の 力で締め上げていく…。 「他人のことを心配する余裕が貴方にあるのかしら?! そんなことをしたら、 誰も助けに来ない、貴方は独りで最後を迎えるのよ?」 怒りに任せ強く締め上げながら、ゴルダックに怒号を放つミロカロス。 痛みに耐えると共に、ゴルダックからは不敵な笑みが浮かぶ。 「………心は皆と共にあるっす、貴女とは違ってね……!」 キイイン! ドギュドギュウウン!! 先程のように念力で水を砲弾を造り、ミロカロスに向かって撃ちだす、しかし、 今度は予測されてしまい、かわされ、触角で叩きおとされ、有効打にはならなかった。 「幸いここには水が豊富にあるっす! オイラの念力が続く限り、 抵抗させてもらうっすよ!!」 「ふふ…悪あがきということね、いいわ、付き合ってあげる…せめてもの手向けとして」 二人しかいない湖に木霊する轟音、その間に意識を取り戻したブイゼルは痺れを 感じながらも懸命に足を動かす。 「うぅ、ゴルダックさん…みんな…そして、ルギア様…」 体力の限界により、その場に崩れ落ちるブイゼル…、瞳が閉じていく中で、がさがさと 近くの草が揺れる音がした。 「…みんな…? それとも……」 その正体が敵でも味方でももうどちらでも良くなっていたブイゼルはそのまま瞳を 閉じていく、そして草むらの音が消えブイゼルの前に何かの影が現れる。その影は ブイゼルに重なり、何かを始めた、その行為は何を意味するのか、そしてこの影は 誰なのだろうか…。 小一時間後――――― ジュル…ジュルリ…ゴクリ…… すでに轟音は止み、静寂の中で生き物を啜り呑み込む生々しい音が響き渡る…。 ミロカロスの喉から胴にかけて不自然なほどの膨らみが抵抗することなくゆっくりと 下へ運ばれていく。 「ふふ…、いくら抵抗しても無駄なのに…」 ミロカロスの体は青い光に包まれ、体についた傷を塞いでいく。そして二つの触角で 先程丸呑みにしたゴルダックのいるお腹の膨らみを、優しく撫で上げる。しかし、 ミロカロスの表情は晴れやかとは言えず、どこか陰りを見せていた。 「…足りない、一匹だけじゃ……いいえ、それだけじゃない……こんな食べ方……」 彼女の中で一つの疑問が生まれていた。今まで食べてきた連中の時には感じていた満足感が 感じられず、チクチクと胸が痛む不快感も出てきた。 「………………」 ふと気がつくと、辺りは白んできて、もう数刻の後に朝を迎えるようになる。 「…気配がする…、数は…4匹……例の仲間ね…、彼らを食べればこの痛みも晴れるかしら…」 そう言いながら湖の底へと潜っていくミロカロス、揺れる湖に静けさが訪れる。 やがて湖は霧に包まれ、森を彷徨う新たな獲物をいざなうのだった…。 |