「…ねぇ、ここら辺で見失ったの…?」 まだ日が出て間もない朝、足を前に進めながら先頭にいる仲間に声をかける 黒猫のようなポケモン…。 先頭の仲間は少し不安になりながらも足を止めずにいる…。 「う、うん……僕がちょっと目を離したうちにみんなが……」 先頭には、しっぽに灯った小さな火を前にかざして歩く、トカゲのようなポケモンが……。 その後ろには、黄色くてかわいらしいポケモンや、小さなゾウのようなポケモンが続いている…。 仲間を探すために出発した彼らだったが、みな心なしか震えている…。 元々、彼らはこの未開の土地への食料を求めて調査に来ていたが、仲間が消え、 それどころではなくなっていた…。 「何か気になる事があったとしても、単独行動だけは駄目よ、 これ以上仲間を減らすわけにはいかないわ…」 そう言って、最後列で皆の表情を見やる…何処と無く、 ウェインの尻尾の炎が縮んでいるのが分かる。 「ウェインさん、疲れているのなら休みましょう…疲れたまま動くのは危険よ…!」 少し強めに言う、そうでもしないと責任感の強い彼はずっと歩き続けるだろう…。 だが、ウェインと呼ばれたヒトカゲは、その言葉に首を縦に振ろうとしない。 「ダメだよ……こうして休んでいるうちに、いなくなったポケモンたちに何かあったら……」 彼は、自分に対して強く、そして激しい後悔の念を持っていた…… 僕があそこで目を離さなければ……みんないなくならなかったかもしれない……と 彼の後ろにつく三匹のポケモンたちは、それが身にしみるほどよくわかっていた……」 小さく溜め息をつく黒猫のニューラ、頑として断るウェインに、 「判ったわ…でもこれだけは約束して! これ以上無理だと私が判断したら止めるわよ、 殴り倒してでも…!」 ニューラも消えた仲間のことは気になる、一秒でも早く探し出してあげたい…。 しかし、一人でも倒れられてしまうと残った仲間も集中力を乱し、二重遭難の危険性も出てくる。 酷かもしれないが、彼女はウェインさんに脅すように言い放った…。 「ウェインさん、さすがに休もう? ゴマゾウくん、もう息が上がっちゃって……」 ウェインの後ろで、遠慮がちに、でんきねずみポケモンのピカチュウがそう呟いた…。 ゴマゾウは最近共に行動をするようになったばかりで、遠出には慣れていない… それをウェインは忘れていたのだ。 後ろから必死でついて来ようとするゴマゾウだが、もうその息は絶え絶えである……。 「……しかたない、ちょっと見渡しのいいところに出たら、一度休もう…。それからまた出発だ。」 彼としては、消えた仲間たちを一刻も早く探し出さないという使命感があったが、 疲れ果てたゴマゾウの姿を見ると、休まざるをえないと判断をせざるをえなかった…。 見渡しの良い場所を探して森を進む者達… 「…霧が出てきたわね、ほら、ゴマゾウ、もう少しだからしっかりして… 」 今にも倒れそうなゴマゾウを支え、元気付ける。 「ご、ごめんね…ニューラさん…僕が体力無いばっかりに…」 「ふぅ…弱音を吐く前に足を動かしなさい、後ろ向きになっちゃ駄目よ!」 少しきつい言い方だが、励ましの言葉をニューラはゴマゾウに贈る。 道中、折れそうになる心をお互いで支えあった… その矢先だった、ガス漏れのように濃くなる霧、最早、 お互いの顔を識別することさえ困難な程濃くなっていく… 「くっ! 皆、お互いの手を放さないで! そうでないとはぐれ…っ?!」 「にゅ、ニューラさんん…ピカチュウ君の手が見当たらないよぉ…」 「ご、ゴマゾウ…! …ピカチュウゥゥッ! ウェインンン…! 何処にいるのぉ?!」 「あれ、みんなどこ!? みんな、みんな!!」 恐れていた事がついに起きてしまった…残り少なかった仲間達も二つに分かれてしまった…。 霧によってあたりは、深い白に覆われ……霧が晴れるころには、全員の姿が消えていた…。 霧が薄れていき、ようやく仲間の姿を確認できるようになる…。 「…駄目ね…、二人の姿は見当たらないわ…」 注意深く辺りを見回すが、ピカチュウとウェインの姿はやはり無い…。 「ね、ねぇ、ニューラさん…? なんか、周りの景色も違うよ…?」 ゴマゾウの言葉にはっとする、自分達がいた場所はうっそうと茂る木々の中だったというのに…。 「木が無い…、それどころかここは…湖…?」 ニューラ達が見ている景色…それは一面透き通った大きな湖だった。 「み、水…喉渇いたよぉ、ニューラさん、早く行こう…!」 湖を見て、すっかり水の事しか見えなくなってしまったゴマゾウ、 ニューラも周りの様子を確認しつつ、 「不幸中の幸いね…ここを拠点として皆を探しましょう…」 と、ゴマゾウを追いかける…。 二人はまだ気づいていない…この湖の底から獲物を待ち続ける存在のことを…。 一方そのころ、ニューラとゴマゾウとはぐれてしまったウェインとピカチュウは、 二人を探すべく、行動を開始していた。 「……とりあえず、ピカチュウくんとだけは再会できてうれしいよ…早く二人を探さないと…」 だが、あたりの様子がおかしい。鬱蒼としていた木々は眼下にはなく、 代わりに美しく大きな湖があるばかりである。 「あれ、ウェインさん……僕たちさっきまで……」 これ以上言葉が繋がらないピカチュウ、不可解なことが一度に多数も起きたせいで、 頭が混乱するばかり。 「……静かに、あそこに誰かいる」 ピカチュウを押さえ、うっすらと霧のかかるところを指差すウェイン……。 だが、かれらはまだ気づいていない…、捜し求める仲間が同じ場所にいることを…。 そして彼らが絶対絶命の状況に置かれていることも………。 |