いつくしみポケモンと言われるミロカロス。 高さが約6.2m。重さが約162.0kg そう…このポケモン図鑑には書かれていた。 しかし、今この目の前に居るミロカロスは大きかった。 6.2メートルだとかよりも、はるかに大きい。その倍はありそうだった。 最も、正確に測った訳でもないが、とにかく目の前の存在は図鑑の情報よりも大きいのは確かだ。 その体を維持する為にどのぐらいのモノを食べるのだろう。 既に、シャワーズ…サンダース…ブースター。 そしてブラッキーとリーフィアが、そのミロカロスに呑み込まれ、今やその腹の中に納められている。 もはや自分は、そのミロカロスの虜となっていた。 目の前で、自分のポケモン達が呑みこまれていく。 その度に妖艶な笑みを浮かべ…自分を誘うような視線がどうしようもなくそれが頭に残る。 (アナタもどう?)(ワタシと一つになれるのよ…) (うれしいでしょう?)(此方にいらっしゃい…) (たっぷりと可愛がった後…)(やさしく呑み込んであげる) 逃げる事も考えずに、自分はミロカロスの元へと歩み寄っていた。 このまま、自分の事も呑み込んで…そのままポケモン達と一緒になりミロカロスのナカで溶けていく。 そんな最後もいいかもしれない。 顔を一嘗め。 ミロカロスの長い舌が自分の顔に絡みつく。 唾液に塗れたその舌が、自分の顔を濡らしていく。 自らを誇示し、圧倒的な力の差を見せながらも… 獲物を恐怖だけで制圧しながら食べたりはしない。 なだめるように、舌で体中を嘗めまわし。 まるで相手の考えている事が分かるかのように、抵抗しようとした部分をその長い胴体で押さえつけられる。 捕食の対象となる獲物は…やがて体力を奪われ、その舌使いによる快楽に身を任せる事になる。 自分のように…。既に、呑み込まれてお腹のナカで眠っているポケモン達のように。 意識のないままに呑まれたポケモン達もいるだろうが… 意識があろうが無かろうが結果は同じだっただろう。 美しい笑みに…物欲しげに見据えてくる視線。 吸い込まれそうな程に奇麗な瞳とその美しい姿に惹かれ、近寄ったら最後。 長く大きい体に巻き寄せられ、その巧みな舌使いにより瞬く間に捕食の虜となってしまう。 無意識に、自分はミロカロスの頭を引き寄せて撫でていた。 ミロカロスもそれを受け入れるかのようにおとなしくなっていた。 * * * ―――その様子をグレイシアは眺めていた (ご主人…様?) それはグレイシアから見れば、奇妙な光景だった。 傍からみれば、じゃれあっているようにも見えた。 ミロカロスの長い胴体に腰をかけ、まるで自分の可愛いポケモンを相手にするかのようにその頭を撫でている。 唖然とグレイシアはその様子を、ただその場に座り込み、伺っている。 暫く座り込んでいると、いつの間にかグレイシアの傍にエーフィも座っていた。 「驚いた。こんな事になっているとはね。」 「…姉さん?」 エーフィとグレイシア。 2匹がその様子を眺めていると、2匹のご主人は思いがけない行動へ出た。 ミロカロスを寝転がすと、あろうことかその口の中に腕を突っ込んだのだ。 そのまま、頭からミロカロスのナカへと呑み込まれていく。 「ご主人…!?」 その状況を前にして、グレイシアは飛び出していきそうになった…が。 「姉さん…?離して!?」 「いいえ、アナタが行っても邪魔になるだけ。」 尻尾をエーフィに押さえつけられ、グレイシアは動けなかった。 「なんで!行かないと、ご主人が!」 「………少し、黙りなさいよ、今…いいトコロ…なんだから。」 (え………?) ―――『サイコキネシス』 「―――ねえ…さん?」 エスパータイプである、エーフィの『サイコキネシス』がグレイシアの動きを封じた。 その様子は何時もの姉さんの様子とは、どこかがおかしかった。 笑みを浮かべていた。 まるで…あのミロカロスのような。妖艶な笑みを浮かべて主人を見ていた。 (まさか…姉さん?) 声も出せず、グレイシアは訴える術は一つもなかった。 暴れようともするが、エーフィの『サイコキネシス』の威力は強く、抜け出すことは敵わない。 ふと、エーフィの視線はグレイシアへと移る。 何かを思い立ったかのように、グレイシアへと顔を寄せ、首筋を舐めはじめた。 続けて、グレイシアを仰向けにと転がし、体中を舐めはじめ… 毛づくろいをするような感覚で、体中を余すところなく舐め回しながら、そのままグレイシアの上へとのしかかる。 (あぁぁ…なんで……こんなコトを………) エーフィはグレイシアに馬乗りになりながら、ミロカロスを。主人を見ていた。 世界がぐるりと反転した状態で、グレイシアも同じくその状況を見ている。 「早く…早くしないと……あぁ………」 (姉さん……くるし…い。。。) グレイシアを下敷きにしながら、エーフィは激しく体をゆすっていた。 主人を飲み込む、ミロカロスのその様子を見据えながら。 「ブラッキー…! マスターが向かったわ!」 (う……あぁ………姉さん…意外と重い!……これじゃ…ボク………!) 体中を舐めまわされたグレイシアの上で、エーフィは何か、声を洩らしながら動いていた。 妙に興奮しながら、ブラッキーと時折口に出しながら… 「あぁぁ……意外と………いいわ!ブラッキー、大丈夫?」 (さっきから…ブラッキーって。。ボクはグレイシアで、姉さんは上で……) 「そう…そうよ! いい感じよ! もっと力を入れて…! 押しのけて!」 (姉さん…何を言っているんだろう…。また…シンクロしてる……?) グレイシアを強く、力強く抱きしめながら、エーフィは叫ぶ。 見れば…もはや、主人の姿はなく…完全にミロカロスのナカへと消えていた。 「いいわ…あとは……出て…外へ……引き抜くの………早く……早く!」 (そう、そうだ…早く、早くしないと!) ―――ごろん。 「姉さん…?」 グレイシアの体が動いた。 その上に乗っていたエーフィの体は力無く、転げ落ちる。 拘束していた『サイコキネシス』の力も既に解けていた。 「そうだ、ご主人様!」 グレイシアは何の策もなくただ、主人の元へと走っていく。 ミロカロスの傍へ。主人を呑み込んだミロカロスの元へ。 「ご主人様を…出せぇー!!」 そう叫びながらグレイシアは『すてみタックル』を繰り出した。 しかし、手応えは殆どなかった。 覚悟していた反動も全くと言っていいほどになかった。 しかし、そんな考えなしの一撃が功を奏したのか。 ご主人様の足であろう部分が口の端からはみ出してくる。 そう、ならばもう一度! と、考えたその時だった。 ミロカロスは口を開き、目の前にその頭を差し出してきたのだ。 一体何なのか、グレイシアの事も食べようとしているのかと思ったのがそうでもないようだった。 ふと、グレイシアの頭に、エーフィの言葉が浮かぶ。 (引き抜くの………早く……早く!) (引き抜くの?これを?) 思い立ったら、それ以外の選択肢は無いように感じた。 もう、やるしかないと。グレイシアはなるべく牙を立てないようにと、足を咥え力を込めて引っ張り始めた。 ミロカロスも元より吐き出すつもり、だったのだろうか。 思ったよりもあっさり、その体は引き抜かれていく。 やがて、主人の体の大半が見えてきた頃、その腕の中には何かが抱えられていた。 それはブラッキーだったが、他のポケモン達は居なかった。 |