カラ…… 竜が踏みしめた大地から、小石が衝撃で斜面を転げ落ちた。 それ自体には、竜も特に気にした風もなく、黙々と下山を続けている。 大きさ自体は竜にしては未だそれほどではなく。 未だ子供の幼竜のようで、体長は尻尾の先から頭の先までで1.5mを少し越えるほど。 それでも背中に立派な翼を備えて、竜としての風格はしっかりと備えていた。 しかし……昔負った傷なのか、小さくではあるが左翼に小さな傷があり、 頬にも小さな傷跡が消えずに残っている。 今のところ、4足歩行をして歩いているが、 険しい崖を降りるとき、器用に2足歩行になって、 難所を切り抜けたりしているところを見ると、どちらも可能なのかも知れない。 もっとも翼を使って、空を飛べば楽に下山出来るのだろうに、 何か理由があるのだろうか、この竜はそれをしようとはしなかった。 そんな彼が何故、この山を下山しているのか? その理由は…… 「……師匠の馬鹿。 あれだけの修行をさせて冗談で言った嘘だなんて無いよ」 現在……険しい岩山の中腹辺り。 ヘルカイトは何かをブツクサと小さく呟きながら山を下っていた。 動きは鈍く、何処か意気消沈しているかのようにため息をつくと、 目に付いた石ころを八つ当たりに蹴り飛ばす。 石はカラカラと乾いた音を立てて、斜面を転げ落ちていった。 再びため息を漏らし、山を下りだす。 「それにようやく全部の修行を終えたら…… 『面倒を見るのは飽きた! 独り立ちしろ!』だって…… そんなの無理だよ……僕、山の外のこと何も知らないのに……」 彼は、世界の事を何も知らなかった。 長年すんでいたこの山だけが、今までのヘルカイトの知っている世界の全てだったのだ。 今も、次に何が起こるのか、何があるのかも分からない。 新しい世界に興味を覚えるのではなく、心に寂しさと恐怖を抱いていた。 「うぅ……怖い……」 未知という恐怖にヘルカイトは身体を震わせる。 この先どうするのか……? それを考えると不安で、思わず足が止まってしまった。 動かない足の変わりに頭を背後に向けると、山の山頂が遠くに見える。 (帰りたい……) 本気でそう思ったが、ヘルカイトには師匠の言葉に逆らうことは出来ない。 「でも行かないと……」 自分に言い聞かせるために大きな声で言葉にする。 少しは勇気がわき、ヘルカイトは再び前を向いた。 それが……どんなに理不尽でも、その言葉は絶対だったのだ。 ヘルカイトの師匠は……少なくとも今まで、育ての親だったのだから…… * * * 山を下り始めて数時間……道は険しいがさほど標高が高い山ではない。 足場にしていた大岩から、ヘルカイトは飛び降りる。 ドサッ! 翼を一瞬広げ、衝撃を和らげ上手く着地すると小さな土煙が足下に舞い上がった。 「はぁ……とうとう降りちゃった……」 彼は顔を上げ目の前の光景に目をやると、先には平坦な道が広がっている。 ついにヘルカイトは下山を果たしたのだった。 初めて踏みしめる大地を一歩、二歩と歩くとすぐに立ち止まる。 注意深く回りを伺い……ポツリと呟いた。 「うう……僕、これからどうしたらいいの?」 浮かばせる表情は不安で満ち。 どれだけヘルカイトが新しい世界に戸惑っているのか一目瞭然だった。 「はぁ……それでも何とかしないと…… まず、誰か話の通じる生き物を探そう」 ジッとしていても始まらない。 何も知らない自分に、その足りない何かを教えてくれるモノを欲して、 ヘルカイトはついに住み慣れた火山を離れる決心をした。 一歩、二歩、三歩……今度は止まらない。 不安げな顔は少し頼りないが、ヘルカイトは新しい世界に旅立っていくのだった。 ただ、新たな世界の歓迎は…… たやすく彼を受け入れる程、優しいモノではなかった。 数日の時が過ぎ去り、ヘルカイトは旅立ったはずの火山の麓に逆戻りしていた。 この数日に経験した事にふて腐れ、疲れたように独り言を呟く。 「だ、ダメ……何で他の生き物って、 僕の姿を見ただけで逃げていくんだよ……?」 決して多くはなかったが、数日の間に出会った生き物は確かにいた。 しかし、その全ては竜であるヘルカイトに怯え、すぐに逃げ出してしまった。 ヘルカイトはそれに少しショックを受けたが、最初はめげることなく。 今度は工夫して、なるべく笑いながら優しく声をかけようとするのだが…… 彼を見ると……やはり脱兎のごとく逃げ出してしまう。 空回りする努力。 心に重くのし掛かるような孤独感。 「みんなの馬鹿。何で逃げるんだよ…… 寂しい……誰でもいいから一緒に居て欲しい……」 ……ポタッ ……ポタッ 地面に水滴がこぼれ落ちる。 何度も何度もこぼれ落ち、小さな水たまりを作っていく。 「怖か……ったけど……師匠と…いた、時は、こんな気持ちに……ならなかったのに……」 震える涙声を辺りに響かせ、ヘルカイトは泣いていた。 決意が折れ、悲しみに押しつぶされるように地面に蹲ってしまう。 『別れる』この言葉の意味を、ヘルカイトは改めて思い知った。 他人のという存在の重さを……再び痛感していた。 その寂しさが昔の記憶を呼び覚ましてしまう。 「……母上……父上」 思い起こされたのは戦争にかり出され、いまだ戻らない両親の姿…… 心が弱っていたヘルカイトに、2度目の別れとこの記憶は辛すぎた。 気力を失い、今は何もする気が起こらない…… 悲しみと寂しさで心をいっぱいにし、頭を俯かせてしまった。 * * * そんな折……珍しくこの山を訪れた者がいた。 その者とは一人の男性。 『ガイル』 男性の平均身長より少し大きいぐらいの彼は少し目が悪いのか? メガネをかけていて…… 背中に背負っている大きなリュックに見合った、引き締まった身体つきをしていた。 彼を冒険家というと、少し違うのかも知れない。 いろんな生き物や風景を見てみたい、時には命がけでという冒険家とは違い…… あくまで彼……ガイルにとっての旅とは、 趣味というか観光と言ったレベルのモノだった。 しかも、何処に行くかは脈絡が無く。 このような石や岩だらけの山にも平気でやってきたりする。 もはや気まぐれとしか言い様がないだろう。 だが……その偶然がガイルに一匹の竜と出会わせた。 その瞬間は、もうすぐ迫ってきている。 ちなみに、ガイルの今の様子はというと…… 「ぐへぇ……なんて暑いところ……」 言いつつガイルは噴き出す汗をタオルで拭い取る。 火山の影響があるとはいえ、それほど気温が高いわけではないのだが、 寒い方が好きなガイルにとって、この暑さはかなり堪えていた。 「はぁ……僕って暑いのは苦手なんだよねぇ〜」 大きく腰を曲げ、両手をダラ〜ンと地面に向かって垂らし、 のっそりと歩く姿はまるで老人のよう。 「あぅ……暑すぎるぅ〜 ひ、干からびそうだ……もう帰ろうかなぁ〜?」 この場所を今回の旅の目的地にしたことを、内心……後悔する。 (でもねぇ、折角ここまで来たんだし……) せめて火山の麓までは行って見よう。 そう思い、ガイルは身体を起こした……その時だった。 偶然……前方に向かって数百メートルほど先に、奇妙なモノを見つけた。 不審に思いつつも、ガイルはゆっくり近づいていく。 残り百メートルほどで、それは真っ黒な何かだと知ることが出来た。 「おっ? ……なんだあの黒いのは?」 黒い固まりに興味を覚え、ガイルはさらに近づいていく。 それが僅かに動いていることに気が付いて、さらに慎重に歩を進めた。 「一体何が動いているんだ……?」 じっくりと遠回りをしながら辺りを見渡すと、 丁度、近くに手頃な林があり、隠れながら後ろに回り込む。 さらに数メートルまで近寄って腰を下ろした。 そして、黒い固まりの姿を確かめる。 瞬間……ガイルは目を見開いた! (うぉっ! な、なんなの、こいつ!) 驚きを無理矢理、心に押し込めていき、 気が付かれないように小さく押し殺した息を吐きだす。 目の前にいるのは『竜』だった。 まだ小さくて子供のようだったが…… その体から放たれるプレッシャーを感じ思わず唾を飲み込む。 (すご……竜なんて初めて見た……) 自分の胸が高鳴り、気分が激しく高揚するのをガイルは感じる。 思わず飛び出しそうになったところで……ハッと正気に戻り慌てて一歩後ずさった。 それから深呼吸をして気分を落ち着けていく。 (あ、あぶなかった……もう少しで飛び出すところだった。) 暑さとは別に流れ出た冷や汗を、ガイルは肩で拭い取る。 正直……竜に興味はあるが、下手に手を出して襲われたくはない。 そう思ったガイルが背を向け、このまま逃げだそうとすると…… ……グスッ ……グス 自分の背後から、啜り泣く音が聞こえてきたのだった。 思わぬ竜の泣き声に後ろ髪を引かれ、ガイルは思わず足を止めてしまう。 (な、泣いているのかな……?) 恐る恐る背後を振り帰ると、蹲る竜の目に涙をみとめてしまった。 途端に心の中で葛藤がわき起こり、ガイルを悩ませた。 (あぅ……あんな声で泣かれると気になって…… いやいや、これ以上、仲間を増やすと食費や生活費が……) 一瞬、竜を家に連れ帰ろうかと大胆な事を考えたかと思うと、 今度は、やたらと現実的な問題を思い起こしガイルは頭を抱える。 彼の家には沢山の仲間が住んでいて、生活費がかなりの額にのぼっていた。 だが……後一匹小さなあの竜ぐらいななら、 まだいけそうな余裕は確かにあり……ガイルはひたすら迷いに迷う。 十分以上もその場で頭を抱え続けた結果。 何とか自分に言い聞かせる事に成功する。 (うぐぐぅ……心を鬼にするんだ確かに余裕はある。 しかし、あの子は子供だ大きくなったら、どうなるか分かるだろ……) 未だ残る葛藤を振り切り切るため、今すぐこの場を去ろうとした時…… 後ろからとどめを刺された。 「寂しいよ……ぅぅ……グスッ」 『寂しい』その言葉が、不思議とガイルには大きく聞こえた。 (あうぅ……しょ、しょうがないよな。 この場合……しょうがない) 諦めたようにガイルは大きなため息を吐き出し、再び竜に向き直った。 結局……泣いている小さな幼竜を見捨てることは、 ガイルには出来なかったのだ。 (まぁ、何とかなる。 たとえ無理でも…… せめてもっと大きくなるまで、我が家で面倒を見るぐらいなら出来るさ) 心の中で、無理矢理自分を納得させると、一度深呼吸をした。 覚悟が決まる。 林を抜け出しすと……竜……ヘルカイトにゆっくりと近づいていき。 ガイルは優しく声をかけた。 「お前、何泣いているの?」 突然かけられた声にヘルカイトの首が跳ね上がる。 直ぐさま声の主を二つの目が捉え……ヘルカイトは驚愕した。 「……っ! だ、誰!? 誰なの!?」 ガイルにとっては優しい声だったのだが…… 不意打ちでかけられた声は、ヘルカイトを驚かせ警戒させるに十分だった。 「ぼ、僕に何のようなの!?」 その場で跳ね起きると、突然現れた見知らぬ生き物を警戒し、 ヘルカイトは頭を低く構え、…グルルルっ…と、うなり声を上げながらガイルを威嚇する。 と……ここまでなら未だ凛々しい竜の姿だったのだが…… 下山してから、会う生き物全てに逃げ出されていたヘルカイトは、 自分から話しかけてきたこの生き物に恐怖を抱いていた。 そう……今まで自分を恐れ震えていた生き物たちのように。 その証拠に、今にも後ずさりしそうにヘルカイトの腰が引けている。 そんな姿では、威嚇も効果がある訳はなく。 逆にガイルは心配そうにヘルカイトを見つめて声をかけた。 「お、おい。そんなに警戒しなくても大丈夫だって……」 冷や汗を掻きつつ、なるべく慎重にガイルは一歩近づいた。 「あっ! く、来るな……こっち来ないでっ!」 あっさり威嚇を無視されたヘルカイトは慌てて後ずさる。 まさか近づいてくるとは夢にも思っていなかったのだ。 さらに運の悪いことに後ずさった場所には、大きな石が転がっており…… 派手にステンっ!と尻餅をついてしまった。 「ウギャッ! グゥゥゥ……」 恥ずかしさと無様さを感じ、ヘルカイトの黒い顔が真っ赤になる。 起きあがろうとワタワタとせわしなく、翼や手を動かしているのだが、 焦っているせいで足がもつれ、再び尻餅をついた。 自分を見つめるガイルを見上げ……ヘルカイトは情けない鳴き声をならした。 「ギャウッ……グゥ……」 「……な、なぁ…大丈夫か? 落ち込むなって…こんな事もあるよ」 「ギャゥゥ……」 思わず慰めの言葉を呟いてしまったガイル。 それでヘルカイトが元気になるわけはなく、ガックリと頭を下げてしまった。 (いきなり近づいたのは不味かったかぁ……) 自分の不注意をガイルは反省をした。 それでも内心では、ヘルカイトの反応に好感を抱いていた。 (しかし……面白い奴だねぇ) 今までガイルが抱いていた竜というのは、もう少し…… と、ここまで考えてガイルは考えるのを止めた。 今更、意味がないからだ。 変わりにヘルカイトから一歩下がり、何もしないことを両手を挙げて示すと、 慌てているヘルカイトをまず、落ち着かせようと静かに話しかけた。 「ほらな……何もしないよ……」 優しい笑顔を浮かべて話を続けていくガイル。 その様子にヘルカイトは、少し落ち着きを取り戻したが…… まだ不安そうに頭を下げ低い位置から、ガイルを唸りながら見つめ続ける。 (ぅう……本当かな? でも、やっぱり怖い……) 相手の不信感を感じ取ったのだろう、ガイルは少し困った笑みを浮かべた。 「んん〜やっぱり……僕が怖いか…… しょうがないよな、まだ子供みたいだし……」 絶えず笑顔を浮かべつつガイルは……静かに座り込み、 ヘルカイトと目線をなるべく合わせると、一つお願いをした。 「なぁ、竜さん……頭撫でても良いかな?」 「え、ええっ……? ど、どうして!?」 明らかに狼狽えた声をだしたヘルカイト。 これはガイルの秘策だった。 ガイル自身、相手が撫でさせてくれるかは分からなかったけど…… 相手との触れ合いが、相手を安心させる一番の近道だとガイルは思っていた。 「理由? それは……君と友達になりたくてね。」 「ぅう……友達? な、何でいきなり?」 「んん〜どうしてかな? ほっとけなかったからが……近いかな。 それで……ダメかな?」 「あぅあぅ……良いけど……」 優しげなガイルの雰囲気に押され、ヘルカイトは思わず頷いてしまった。 確かに相手から敵意を感じ無かったのも理由の一つだった。 「おっ〜 いいのか、ありがとう」 「ヒウッ!」 近づいてくるガイルを見てヘルカイトは目を瞑り、身を竦める。 そんな怯えた竜の頭にガイルはそっと手を乗せた。 「じゃ…なでなで♪」 「あっ んん……」 頭に乗っている大きな手が、優しく自分の頭を撫でていく。 その度に温かい手が気持ちいい感触が伝わり、自然とヘルカイトは声を漏らしていた。 (あっ……なんだろこの感じ…… 懐かしくて……ちょっと気持ちいいや……) 不思議とあれだけ怖がっていた気持ちが、溶けていくような気がした。 (あぅ……ダメ……まだ、気を許しちゃ… でも、気持ちよくて……んん〜) 頭を心を暖められる感触に…… ヘルカイトはいつしか顔を気持ちよさそうに赤らめていた。 完全にリラックスした目は、トローンと撫でる手の動きだけを見つめていく。 (んん〜♪ 暖かくていい気持ち……♪) ついに撫でる手の虜になり身を任せしまう。 この瞬間、ヘルカイトの心の扉は完全に開かれたのだった。 そして、撫でるのに夢中になっていたガイルが気が付いた時には…… (うぉっ……これは……メチャクチャに可愛い……♪) 自ら頭を手にすり寄せて気持ちよさそうに口が開き、 中で小さな舌をユラユラと揺らして、ヘルカイトがとても可愛い姿をさらしていた。 その姿にガイルは思わず頬を赤く染めてしまう。 それだけではない、抱きしめたくなりそうなのを…… 何とか堪えることに成功する。 ただ、そのおかげで腕の動きが止まり、 撫でるのが止んだことでヘルカイトはガイルを見つめた。 「ねぇ……どうしたの?」 「んっ……いや。 何でもないから」 誤魔化すように笑った後、ガイルは別の話題をヘルカイトに切り出した。 それは、最初からずっと疑問に思っていたこと。 「なぁ、竜さんは……さっき何で泣いていたんだ?」 「……そ、それ…は……」 ちょっと答えにくそうにヘルカイトは押し黙った。 暫く沈黙が続くがガイルは辛抱強く待つ。 (何だろ……この人には話してもいい気がする) ヘルカイトはガイルに語った。 泣いていた理由を…… 親がもういないことを…… その後師匠の家に預けられたことを…… そして、まだ子供なのに無理矢理旅立たされたことを…… これからどうしていいのか分からないことを、ガイルに全て話していった。 その話を全て聞き届けたガイルは、 すでに決めていた覚悟をさらに強く固める事になった。 ヘルカイトの頭をまた撫で始め、お互いの目を合わせると…… 「……なぁ、もし……何処にも行く当てがないのなら…… 一緒に……僕に付いてこないか?」 「えっ……い、いいの……?」 予想外の言葉にヘルカイトは、戸惑うような声をあげる。 その真意を測るかのように上目遣いにガイルの目を覗きこんだ。 「……でも、どうして……?」 「ん? 言っただろ…友達になりたいって……」 その視線にガイルは笑いかけた。 バッと両手を広げて自分の胸を解放するとヘルカイトが動くのを待つ。 その姿にヘルカイトは自分の心に、何か暖かいモノが込み上げて来るのを感じて…… 「う…うぅ……あり…がとう!」 ポロポロと再び……今度は嬉しさに涙を零してしまった。 ゆっくり震える声で何とか声を絞り出すと…… 目を閉じたままガイルの広げた腕の中に飛び込んでいく。 「うおっ! あぅっ! ちょっと竜さんっ! なんか身体が大きくなってない!?」 胸に飛び込んできたヘルカイトを、抱き留めたまでは良かったのだが、 段々と腕の中で身体が大きくなってきていることに気が付いた。 いつの間にか、自分より大きくなっていたヘルカイトに、 ガイルはそのまま、押し倒されてしまう。 「ぐぉ……一体どうなっているの竜さん…?」 およそ二メートル程に巨体の下敷きになり、ガイルは呻き声を上げる。 だが、夢中で抱きついているヘルカイトはそれに気が付かない。 (ま、まずい……このままだと……) 息が詰まり、段々苦しくなる中、ガイルは危機感を抱いた。 気づいて貰おうと、ヘルカイトの身体をパンパン叩く。 「あっ! ご、ご免なさい……」 「ぐぅ……謝るのはいいから……早く退いてぇ〜」 その努力が実り、慌ててヘルカイトはガイルの上から退いた。 ご免なさいと何度も頭を下げると、自分の身体の性質を説明しだす。 もっとも全てを語るわけではなかったのだが…… 「僕、自分の大きさを自由に変えられて……」 「なるほどね……ねぇ、竜さん名前を教えてくれないかい?」 再びシュンと項垂れてシュルシュルと、 1m位に縮んでいくヘルカイトの様子を見て…… ガイルは手を横に振り、心配するなと笑いかけ名前を聞いてみた。 「あっ……その…名前言ってなかった…… 僕…漆黒のヘルカイトといいます。」 「おおっ 格好いい名前だね〜 僕はガイル。 宜しくなヘルカイト♪」 ちぐはぐながらお互いの自己紹介も終わった。 今から友達になったガイルとヘルカイト。 何はともあれ……ここに新たな物語が始まったのだった。 |