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輝いたその先にあるもの − 旧・小説投稿所A

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輝いたその先にあるもの

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「うー、取れない……」
 さらさらと水が流れる小川で、イーブイは体に着いた臭いを必死に落とそうとしていた。
「おーいイーブイ、まだかよ。腹減ったー」
「はーい。……諦めるしかないか……」
 思わずため息をついてブルブルと体を振り、水を吹き飛ばす。体に残っているバンギラスの体液のせいで上手く飛んでいかない。
 ポタポタと垂れる水を若干気にしながらもイーブイはバンギラスのもとへと駆けた。
「腹減ったー」
「すぐ作るからちょっと待ってて」
 あたふたと準備をするイーブイを見て、バンギラスはふふっと笑ってしまった。
「な、なに?」
「いや、餌が夕飯作ってるって考えたら……ククッ」
 じっとりと汗で背中が濡れるのをイーブイは感じた。まったくこの人は……。
「まだしばらくかかるんだろ? ちょっくら散歩でもしてくるわ」
 よっこらせという掛け声が良く似合いそうな起き方でバンギラスは立ち上がった。
「ちゃんと帰ってきてよ?」
「へいへい」
イーブイに背を向けたまま、バンギラスはおざなりに返事をして外へ出た。日が沈んだ後のヒンヤリとした空気が頬をかすめる。
「うー、流石にちと寒いか」
 頭をボリボリと掻きながらバンギラスはそう呟いた。
いつもならあいつが火を起こしてくれるが、生憎とそいつは不在だ。火を起こすのがどれだけ大変だか。
「ちっ、あんにゃろ……」
 少し前まで居なくて清々していたのに、今じゃあ何だか寂しいような気もする。
「っ……何考えてんだ、オレは」
 ため息をついて空を見上げれば、鋭く尖った三日月が、さも当たり前のようにそこにいた。特にすることもなく飛び出してきたので、しばらくその月を眺めていた。
「……ゾロア」
 バンギラスは、半年前に出会った友人の名前を不意に口にした。今でもその顔が夢に出てくるときがある。その度にバンギラスは胸の中がムカムカする感覚を味わうのだ。
 どんなに悔やんでも、ゾロアにはもう会えない。
 頭では分かっている。けれどもう一度会えるならと思わない日はない。
「あー、くそ。何でオレが惨めになんだよ」
 ガリガリと頭を掻いて、ため息をつく。そのため息は、ため息とは言えないほどに短い吐息だった。
 このままここにいても虚しくなるだけ。それよりも、イーブイの近くにいた方が気分が紛れる。
 ちょっと前まで餌としか思えなかった奴が、不本意ではあるがバンギラスを支えていた。もっともイーブイは気づかないだろうが。
「……帰るか、もうあらかた出来てるだろ」
 ゆっくりと立ち上がり伸びをする。夕食前だというのに、欠伸で目が滲む。
 のしのしと地面に足をめり込ませながら、バンギラスは家に帰った。待っていたのは、帰りが遅いバンギラスに呆れるイーブイ――ではなかった。
 目を疑った。さっきまでいつもと変わらない平和な空気が流れていたというのに、今では百八十度転換している。
 イーブイは、何やら巨大な長いものに巻き付かれていたのだ。
「バ、バン……ギラ……ス」
「イーブイ!?」
 バンギラスの声に反応したのか、イーブイを締め付けていたそれが頭をもたげてこちらに向けてきた。
「あなたがバンギラス、ですか。なるほど、イメージ通りですね」
 まるで貴族のような綺麗な発音でそいつは言った。
「お前、何を」
 刹那、背後から凄まじい圧力を感じて振り返ると、恐るべき速さでバンギラスに拳が振り落とされた。
「なっ! くっ」
 一瞬の判断でバンギラスは腕を振り上げて何とかそれを受け止める。そのままバンギラスは“破壊光線”を繰り出した。
 しかし、まるでそれを予測していたかのように相手はひらりと飛び上がる。
「さすがです。主が認めただけはある」
「何が言いたい」
「手短に言います、私たちについてきてください。さもなければ」
 ぎちぎちとイーブイを締め付ける音がした。イーブイは声のない悲鳴をあげている。
「この子の命はありません」
「くっ……目的は何だ?」「“はい”か“いいえ”か、どちらか選べと言ったのだ」
 先程バンギラスに一撃を食らわせた者が鋭くそう言った。
「……分かった、てめぇらに従う。だからイーブイを離せ」
「交渉成立ですね」
 張り詰めていた空気が一瞬緩んだように思えたその時、イーブイを締め付けていた力が緩まり、まるで玩具のようにバンギラスに向かって放り投げられた。
「げほっ! うぅ……」
「大丈夫か、イーブイ」
 涙で目を滲ませながら、イーブイはバンギラスにぎゅっと抱きついた。こんな状況だというのに、バンギラスはそれが嬉しかった。
「申し遅れました。私はジャローダ、そしてこちらが」
「ジュプトルだ」
 バクフーンがいつもするようにイーブイを抱き締めながら、バンギラスはきっと二人を睨み付けた。
「そう怒らないないで下さい、私たちにはあなたが必要なのですから」
「もう一度聞く、てめえらは何が目的なんだ」
「この場所が未曾有の危機にある」
 ぱちぱちと火が燃える音がするだけで、周りはやけに静かだ。
「そこで我らが主は言った、あんたが必要だと」
「で、誰だ、そのお前らが言う主ってのは」
「フシギバナ様です」
 その名を聞いた瞬間、バンギラスは顔を曇らせた。
「なんだよ、あいつか……驚かせやがって」
「バンギラス?」
 イーブイが不安そうに顔をあげる。その顔にバンギラスは自身の大きな手をかぶせた。
「心配すんな、多分対したことじゃねぇ」
「いえ、下手したら大惨事になりかねません」
 間髪入れずにその言葉を入れるジャローダに、バンギラスは心底嫌そうだった。
「ちっ、空気読みやがれ草ヘビ」
「さぁ早く準備してください。時間は限られてますから」
「悪いことは言わない、その小狐は置いておけ。かえって足手まといになる」
「あぁ? おいヤモリ、てめえ誰に口聞いてんだ?」
「お前だデブサイク」
「っ! てめっ」
「バ、バンギラス!」
 身を乗り出したバンギラスに、イーブイが釘を打つことで、何とか事なきを得た。
「とにかくだ、こいつは嫌が応でも連れていく。何言われようが知ったことじゃねえ」
「……死んでも知らな――」
「死なせねえ」
 バンギラスにぎゅっと抱き締められて、イーブイは少しドキッとする。が、それはすぐに泡となって消えた。何故なら……。
「バン……ス、くるしっ」
 パシパシとバンギラスの腕を叩くが、その力が緩むことはなかった。
(バクフーン……)
 こんなこと言えない、言えないけれどイーブイは思った。
 バクフーンが帰ってきたら何から何まで暴露してやる、と。


<2013/03/02 19:10 ミカ>消しゴム
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