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草の根かきわけて − 旧・小説投稿所A
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草の根かきわけて
− 出会ってはいけなかった者達 −
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何度寝ても、何度覚めても、現実は変わらなかった。

俺はオオカミになっちまったんだ。



ひとまず現状を整理しよう。

俺は確かにあの時オオカミに喰い殺されたはずだ。まさか生まれ変わったら・・・と言ったのが叶ったのか? いいや、違う。生まれ変わったなら、赤ん坊からスタートのはずだ。

もう一度、自分の体をよく見てみる。明らかに成獣している様子だ。元の俺と同じ位の年齢だろう。



 「ちっ、あの森のせいか」



聞いた事がある。裏裏森には、誰にも理解される事のない摩訶不思議な出来事があると。

それが俺の身に起きた。そうとしか考えられねえ。



 「ちくしょう。なんで俺だけがこんな目に合わなきゃいけねえんだ」



大声で吠えると、どこかに潜んでいた鳥たちが一斉に飛び去って行った。

それでも、死ななかっただけよかった。今はそう前向きにとらえるしかねぇ。いいや、そうでもしなきゃ気持ちが持たねえ。

もっとも、本当の俺はもう死んじまったかも知れねえけどよ。



 「ちょっと」


突然声を掛けられて、俺は飛び上がって驚いた。

無理もない。岩陰から突然飛び出してきたんだ。誰だって驚く。

だが俺が驚いたのはそれにじゃねえ。

目の前にいたのは紛れも無く





俺を喰った、あのオオカミだ。





 「あんた誰よ? 一体どういうつもり? ここ、私の縄張りなんだけど?」

 「あっ、すみません」

って何普通に謝ってんだ俺! そうじゃないだろ!

 「ったく。良い度胸してるわね。私を誰だと思ってるの?」

俺を喰ったオオカミ。 と、言う勇気も無かった。

 「ちょっと聞いてんの?」

目の前で前脚を振られて、俺は我に返った。

 「す、すぐに出ていきま、すれ、す」

だから何普通に返事してんだ俺! 自分のチキンハートさに泣ける。鹿、いやオオカミだけど。

 「やっぱり、あんた、この辺のオオカミじゃないわね」

 「いや、この辺」

 「私を知らないって事は、群れの者じゃないんでしょうしね」

そのオオカミは矢継ぎ早に話す。この辺りに住んでるのは本当なんだけどよ。

 「はぁ・・・・・知らずに迷い込んだのね。かわいそうに、よっぽど方向音痴なんだわ」

言いたい放題だ。

 「まあいいわ。ついてらっしゃい」

 「あ、ちょ・・・」

俺に回答権なんてものは無かった。





今は薄暗い森の中、この間の森とは違うぜ? 俺はさっきのオオカミの後に続いて歩いて行く。ぬかるんだ沼や、いばらだらけの草むらと散々な道だ。体の感覚が変わったせいか、妙に歩きにくい。目線が低くなったのも、幽鬱だ。
ふと顔を上げると、目の前をオオカミが歩いて行く。ぱっと見、すごく無防備だな。本当なら今からでも復讐してやりたいところだが、俺の今の状態の原因に関しては間違いなくこいつがキーだ。うかつにはできねえ。
とすると、おとなしくついて行くのが懸命って事だ。



 「なあ、今からどこへ行くんだ?」

 「ぞんざいな口ぶりね」

うっ、なぜか蔑むような目で見られたぞ。

 「まあいいわ。心優しい私が縄張りの外れまで案内してあげるの。感謝しなさいよね」

それはできないな。

 「何か言った?」

 「いや、何も」

心を読まれた!? 恐ろしい。



とにかく、ここは我慢、我慢だ。

俺は、ただひたすらに後をついていった。





<2013/01/14 00:53 ぶちマーブル模様>消しゴム
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