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※軽めの捕食あり









　あともう少し！　よし、捕まえた！



　慣れってものは怖いもんで、１週間もすれば普通に獲物を捕まえる事ができるようになった。獲物って考える辺り、俺もオオカミ色に染まっちまったもんだ。おっと、これは考えない約束だったな。俺の決心は未だについていねえんだ。



　捕まえた子ネズミはキイキイと鳴いている。

　「お、おねがい・・・たすけ・・・」

　ゴクリ

　俺は最期まで喋らせてはやらなかった。そんな事をしたら、喰えなくなるからだ。

　口の中にもごもごとした感触が残っている。これだけは慣れねえし、慣れちゃいけねえ。味は上々だが、どう転んでも俺には食事を楽しむ事なんて無理だ。

　「？？？？？？？？？？」

　何かを叫んでいる。命乞いでもしているんだろうな。いたたまれない気持ちになった俺は、唾液を絡ませてとっととそいつを飲みこんだ。



　だんだんと下へ降りていくのが分かる。そして、胃袋に落ち込んだ感覚も。だけど、血の味を感じるよりははるかにマシだ。だから、俺はいつも丸飲みにする。



　腹の中で暴れるのが分かる。どんな気持ちなのかは痛いほど感じられるぜ。俺だってたったの１週間前までは追われる側の存在だったからな。



　腹がギュルルと鳴ったところ、どうやら消化が始まったらしい。腹の中の動きが一気に大きくなった。今さっきの獲物がどうなっているか、俺は言いたくねえ。だけど、こいつはもうすぐ俺の栄養になるんだ。そうして、また何日かだけ命を繋ぎ止められる。



　だんだんと、動きが鈍くなっていく。もうそろそろ終わりだな。ずっと追われる側の気持ちしか分からなかったけどよ、オオカミってのも大変なんだな。よくもまあガキの頃からこんな事を続けられるもんだぜ。



　腸に流し込まれる感覚をおぼえた頃に、俺はじっと空を見上げる。特に意味はねえぞ？　俺の自己満足な弔いだ。こうでもしなきゃ、浮かばれねえや。あいつも、俺もな。





　「ふう・・・・・・」

　ひと段落ついたところで、俺は立ち上がった。空はいつのまにか日の光消えて、雲に覆われている。早く帰らねえと雨になっちまう。

　俺はルウに案内された場所のすぐ近くにある岩場に住む事にした。まっ、雨風さえ凌げる場所ならどこでもいいんだけどよ。この間までは、帰れば仲間たちがいたんだよな。今の俺は孤独。書いて字のごとくな一匹狼だ。今頃、みんなはどうしてるんだろうな？　俺が居なくなったこと、少しは悲しんでくれてるのかよ？



　「おーーーい！」



　届くはずもない声を、俺は仲間に向けて放った。



　「へっ、馬鹿馬鹿しいや。さっさと帰ろ・・・ん？」

　今、そこの草むらが揺らめいたような？　まただ！

　俺は全身の毛を逆立たせて、恐る恐る声を掛ける。



　「誰だ！　出てこい！」



　返事は、ない。

　そっと近づいて行く。生唾を飲み込むと、俺はさっと前脚で、その草をかき分けてみた。



　そこには見慣れた面がこっちを向いていやがった。

　「ビ・・・ビンバ？」

　怯えたようにこっちを見ている鹿。俺の親友のビンバだ。なんでこんな場所に？

　「う、うわあああああああああああああああああああ！！！？」

　「いてっ！」

　一瞬の間を置いて突然大声をあげたかと思うと、一目散に逃げ出しやがった。ご丁寧に俺の顔面を後ろ足で蹴り上げてから。

　「ま、待ってくれよ！」

　俺はあわてて声をかける。だけど、当然待てと言われて待つ馬鹿はいないってもんだ。元々俺のほうが脚は遅いんだ。どんどんと離されていく。

　「ビンバ！　俺だよ！　ビンバー！」

　最後に木の陰に消えたかと思うと、もう姿は見えなくなっていた。

　「はぁ・・・はぁ・・・・・・」

　舌を出して荒い息使いをしながら、俺は立ち止った。そして、湧き上がる感情を必死に押さえていた。



　「見たかい？　今の？」

　「危なかったわねー。でも、鹿さんが助かってよかった」

　近くの鳥がそんな勝手な事をほざきやがる。

　「ちげーよ！」

　俺が大声で怒鳴ると、二羽とも一斉に飛び立っていった。





　「ちく・・・しょう・・・」

　そうだ。傍から見ればただのオオカミが狩りをしているようにしか見えねえ。いいや、それだけじゃねえ。追われていたビンバもそうとしか思っていなかっただろうな。

　俺は仲間じゃねえ。敵なんだ。あいつらにとっての・・・敵なんだ。これまでの仲間たちにとっての・・・うぅっ・・・・・・



ポツリ・・・・・・・・・・





　俺の上に滴が落ちる。

　「ん？　雨か」

　俺はまた、自分の巣があるほうへ歩き始めた。



　どこか心の奥で、仲間に期待してたのがあったのかも知れねえ。ビンバやじーちゃん達と話をすれば、なんとかなるんじゃないかって。

　だけど、俺が甘すぎたんだ。決心がつかないってのは、ただの逃げでしかなかった。その事はこれまで分かったつもりで、決して分かっちゃいなかったんだ。未練がましい奴は俺は嫌いだ。俺はそいつらとは違うって事を見せてやりてえな。



　「ふふ・・・」



　不思議な笑みがこぼれた。また、明日からだな。他のオオカミに会ってみるのもいいかも知れねえ。もっとこの体の事を知らねえとな。ビンバ、お前のおかげで俺にも答えが出せそうだぜ。





　「ビンバ、ありがとうよ」



　俺は立ったまま涙を流していた。涙は雨と一緒に流れ、地面へと落ちていった。

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