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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜 − 旧・小説投稿所A

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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜
− 愛か食欲か −
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一ミリの隙間もない胃壁が、むにょむにょと粘液質な音を奏でてくる。
しかしそれを堪能する前に、ロンギヌスは鼻を千切りたい衝動に駆られた。
胃袋に充満している悪臭が、鼻炎が治りたての嗅覚を襲う。


「く…くっさぁ…..おい、バビnnnn…!!!」

「食事中には来たくないってか? 安心しろ、マスター以外はもう消化済みだ」

「そ、そうだとしてm…...や…やえっ…」

この異臭の発生源であろう胃壁にダイブなどすれば、ある意味で楽になれるかもしれない。
だがここでどんな奇怪な行動に出ようとも、全てはバビロンの手の平の上で踊らされるだけだ。

….いや、正確には胃底の上。
彼がしようと思えば、いつでも胃壁の最深部にうずめることが出来るのだ。

ならばいっそ・・・・


「……働きぞんのくたびれ儲け、か…..」

どうせ相手はバビロン。抵抗や文句、不満なんて通用しない。
ならば鼻が爆発するまで、たっぷり遊ばれてやろうじゃないか。

鳴かぬなら、こちらが泣こうホトトギス……ってね。


クチュッ….ぬるぅ….ぺちょり…むにゅぅ….

胃粘膜に包まれた肉壁が押し付けられる。
溶けたのりのような唾液に顔が覆われ、息苦しさとともに地味な快感を生む。
まるで臭いなど気にするなとでも言うように、緩めのマッサージで風呂あがりの四肢を蹂躙される。

しかしその時、噴門をこじ開けてきたのか、上から何かが降ってきた。
ペチョッと軽い音をたててロンギヌスの頭上に落ちる。


「げっ….こ、これってオイ….」

「ふふ…マスターのぶんの大トロの刺身だ。
喰いたかったんだろう? 特別に私のも分けてやる」

続けて二枚目、バビロンのぶんの刺身もロンギヌスの隣に着地した。
噛まずに呑み込まれたとはいえ、どちらも既にバビロンの唾液でベトベトになっている。

「お、お前なぁー…..!!」

「ん? なんだ、怒られるのは心外だな。
私はただ好意で、哀れなマスターに新鮮なトロを届けてやっただけだが?」

「こんなの喰えるかァ!!!」


ロンギヌスはネトネトに覆われたそれを頭から引っぺがし、胃壁に叩きつけた。
ところがその行為こそ、バビロンの狙いだったようだ。
笑い声とともに、いつもの嫌味な彼の声が耳に飛び込んでくる。


「あ〜〜…...やっちまったなぁマスター」

「何がだよ」

「私の胃は残念ながら飽和状態でね…...ちょっとした刺激でも興奮しちまう」

「えっ…..あ、おい…やめッ…..!!」


その予告どおり、肉団子のような肉壁が、これまでになく強い力で圧迫してきた。
分泌される唾液の量も一気に増し、液だくの胃肉にグヨグヨと揉みつぶされる。
全身に粘液キスの嵐で、呼吸を繋げる余裕さえない。
それどころか腐臭をそのまま実体化したような粘液が、絶え間なく鼻の前に押し付けられる。
想像を絶する臭いに悶えながら、ロンギヌスはついに白旗を揚げた。


「あっぷ….むぅお…..は…ッ……出しt…!!!」

「そういう理由で、因果応報、自業自得だな。それじゃ」

「まてっ….…やめろ…本当に吐いちまう…!!」


強制されるマッサージと、消化不良を起こしたかのような異臭。
吐き気が吐き気を呼び、とうとうキャベツも白飯も逆流しそうだった。
しかしそんな淡い願いを奈落に突き落とすが如く、バビロンはこう言った。


「….好きにしろ。大好きなマスターなら、私は一向に構わない」

「は、はぁッ…!!?」

「フフ….勿論冗談………じゃないぞ? 今回はな」


ロンギヌスにしてみれば予想外の言葉だった。
しかもそれを最後に、バビロンとの会話の糸は切れてしまった。
個室と化した胃袋の中で、孤独に肉壁とのスキンシップを受け続ける。


「…..大好きって…..あいつも大胆というか…何というか…」

修羅場を一緒にくぐってきた大切な仲間である以上、当然バビロンは嫌いではない。
だが悪戯とはいえこうも直球的に言われると、妙に気恥ずかしくもなる。

気がつけばロンギヌス度肝を抜かれ、悪臭さえ気にならなくなっていた。
むしろ真正面から言われたことで、ロンギヌスは彼に対する愛情が湧き出るのを感じた。
そして目前に迫る胃壁にもっと愛撫されたい、ズブズブと沈み込みたいという、性欲にも似た欲望に駆られる。

くちゅッ….ぶよっ…とぷん….

「…っぷ…..もっとやれぇ畜生….」

そしてそんな願いに呼応するように、胃壁の隙間がグボッと口を開けた。
被食フェチにとってそこは、左右からの肉壁の密着を味わえる理想郷。
ロンギヌスは欲求にブレーキを掛けようともせず、その奈落のような暗い谷間に呑み込まれていった。

しかし曲がった針金のような彼の性格を考えれば、すぐまた臭いがプンと鼻を突くようになった。


「….あ、大好物ってことね」

バビロンの「大好き」の意味をを導き出した途端、ロンギヌスの心の風船は儚く萎えていった。




<2012/03/12 03:48 ロンギヌス>消しゴム
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