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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜 − 旧・小説投稿所A

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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜
− 最初の晩餐 −
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浴場を出たロンギヌス達は、人気の無い休憩室に身を寄せていた。
今時の温泉には珍しい、年季の入った卓球台が部屋の中央に置かれている。
カイオーガは卓上のグリップとピンポン球を手に取ると、舐めるように観察し始めた。

「マスターこれなぁに〜?」

「…え? ああ….卓球の道具だよ。風呂上がりにみんなで対戦するのがイッシュの伝統だからな」

「……たっきゅう?」

困惑した表情で眉間にしわを集める。人間のスポーツには疎いらしい。
ロンギヌス自身も入浴後にプレイした経験はなかった。
そもそもこういう余興に富んだ温泉が、今頃は数えるほどしかないのだ。


「へぇ…面白そうだね♪ マスター、一緒にどう?」

「ふっふっふっ……俺の湯上がりはコーヒー牛乳を片手にマッサージ機(無料)に座るって相場が決まってるのさ……」

「まったまたぁ〜♪ 中年期のおっさんじゃあるまいし」

「おっさ……」

高校生のプライドに傷を付けられたためか、ロンギヌスのこめかみに戦慄が走った。
ユラユラと亡霊のようにカイオーガと対面し、骨と皮だけの拳をパキンと鳴らす。


「……よう言うたなお前。かつてサクラ組の卓球大会で準優勝したワイの実力…..とくとお前の脳に焼き付けたろやないかい!!!」

「へへぇ、そうこなくっちゃ……男だねぇマスター」

「(何で毎度毎度こういう展開にもつれ込むんでしょうね……?)」


カイオーガはその後、審判(強制)のラティオスよりルールについての軽い手ほどきを受けた。
お互いの準備が整ったところで、二人はスタート位置に立って向かい合う。

「……先攻はお前にやる。ハンデだ」

「エヘ……嬉しいけどいいのかな? 余裕かましてると痛い目に遭うぞ〜♪」

「その言葉……そっくりそのままお返しするとしようか…」

カイオーガは球をつかみ、自己流のポーズでラケットを構える。
数秒間にわたる沈黙の後、流れるような動きで第一打を打ち放った。



「ンーーッ…セイヤァっ!!」
「アチョォ!!」
「ウラァッ!!!」
「エターナルスマァッシュ!!」
「ほわあああああああッ!!!?」

「はい、マスターの負けですね」

わずか5秒のラリーだった。怒涛の一撃がロンギヌスの額に命中していた。
視界がグラグラと歪む感覚を味わいながら、ロンギヌスはバタンと仰向けに倒れた。

「わっはっはぁ! 卓球って面白いねぇ……マスター?」

「う、うぐぇ….」

無邪気に笑いを飛ばして、カイオーガがのし掛かってきた。
つるりとした肌の下敷きにされたまま、必死に喘ぐ。
しかしそんな抵抗に意味はない。ロンギヌスの唸り声は、勝者の白い腹の下に押しつぶされていった。


「う……ぐぉ…や、やめろ!! 胃が潰れる……!!!」

「じゃあその口で言ってごらん。参りました、ってね♪」

「ま、参りまし…た……」

悶絶する寸前で、カイオーガはぴょんと肋骨の上から飛び降りた。
今の彼は、特大サイズのぬいぐるみと言った方が分かりやすいだろう。
とはいえ種族が種族なだけに、これでも100キロを超える体重。
彼にとっては冗談のつもりが、ロンギヌスにしてみればまさに命懸けの戯れ合いだった。

その直後、休憩室のドアが開く。
風呂を出たばかりのレムリアだった。ピンク色のガウンを羽織り、微かに湯気を立ち昇らせている。


「あら……せっかくのお風呂なのにもう汗かいちゃっていいの?」

「よ、余計なお世話だ」

「…レムリアさん、そろそろ致しましょうか? さっきの約束…」

「あら嬉しい。それじゃ……お願いできる?」

「喜んで」


レムリアは床に突っ伏しているロンギヌスの横を素通りし、ラティオスの元へ歩み寄った。
彼の指示でガウンをハンガーに掛け、竜用の休憩用ベッドに誘われる。
その一部始終を、カイオーガはポカンと、ロンギヌスは唖然として見ていた。


「風呂上がりだし、今日は優しくお願いね…♪」

「ええ……それがお好みとあらば」

ラティオスは大胆にも、彼女のクリーム色の背中に馬乗りになった。
異様に輝かせた爪を、容赦なく彼女の首元へと持っていく。
その光景を前に何を思ったのか、ロンギヌスは急にパニックを引き起こした。


「ちょッ……やめろお前ら、こんな公共施設内でそんな&#8252; 俺の責任になっちまうだろ!!?」

「…何を考えてるんですか?」

「そうね……いっそマスターもやって貰ったら? 気持ちいいわよ、彼のマッサージ」

「え…マ、マッサージ?」


言われてみると確かにそうだった。
ラティオスの鋭い指先はレムリアの肩を的確に捉え、労わるような手つきで揉んでいる。
第三者の視点から見ても、なかなか心地良さそうな雰囲気だった。


「はぁ〜っ……風呂上がりには絶品ね。ありがとう、ラティオス君」

「あっ……こ、光栄です…」

異性の肩を揉むラティオスの頬に、わずかにピンクが刺した。
恐らくリーグの中で、未だにレムリアに君付けで呼ばれているのは彼だけだろう。





「……そうだレムリア。ギラティナとバビロン見なかったか?
男湯出てからどっちも姿を眩ましちゃってさ……」

「ふふ……知りません♪」


ものの見事に切り返された。何が「知りません」だ。
だが、二匹の行方が分からないのは事実だった。
また不可解な事件に巻き込まれていなければいいが……

と、その時、ロンギヌスの携帯がけたたましい着信音とともに震えた。
某アニメの主題歌だった。


「な、なんですかこの着メロ」
「趣味悪いねぇマスター♪」
「こんなの初めて聴いたわね…」

「う、うるせーな!! 俺の携帯だ!!」

ここまで非難されるのなら、やはり着信音ぐらいは「普通」にした方が賢明かもしれない。
彼らの心の狭さを心中で毒づき、ロンギヌスはポケットに手を突っ込んだ。
画面には、非通知設定の文字が浮かんでいた。


「……はい、もしもし!?」

ーーーなんだ。私の携帯番号、まだ登録していなかったのか? 貴重だというのに。

「あたり前田のクラッカー。お前がハードバンクに新規加入したの、つい昨日だろうが」

ーーークラッカーがどうしたって?


携帯越しでも分かる、相手を皮肉ったような陰険な声のトーン。
言わずもがな、バビロンからの着信だった。
夕飯はバイキング形式で好きなだけ頬張っていいので、早く食堂に来いとの事だった。
さっきまでレウスの豪華絢爛な「食道」にいたのになぁ…..などと馬鹿馬鹿しい洒落を巡らせる。


ーーーそうだ、あの金ピカ野郎が部屋に戻ってワケの分からない芸術とやらに没頭してる。ついでに連れてきてもらおうか。

「……何でお前はいつもいつも上から目線なんだよ」

ーーーフフ……この世の中、優れた方がが上座に着くものだ。
あと頼みというより忠告だが、くれぐれもあんたがギラティナを迎えに行くなよ。

「……は?」

ーーー早い話、マスター以外の全員であいつを迎えに行け、ということだ。
くれぐれもそれだけは死守してもらいたい。じゃあな。

通信はそこで途切れた。いや、大方、面倒臭がりのバビロンが一方的に切断したのだろうが。
ギラティナの回収に向かう旨をその場の全員に伝えると、レムリアとラティオスの溜め息が同時にこぼれた。

「そう…仕方ないわね、行きましょうか」

「……続きは就寝前にでも?」

「ふふ、よく眠れそうね」

前向きにベッドから降りるレムリアに対し、ラティオスは二度目の溜め息を吐いた。
手の筋肉が疲れること以上に、彼女へのマッサージを楽しんでいたのだろうか。

「マスター早く行こう!! 食べ放題って久しぶりだね♪」

相変わらずお気楽なこいつを、ロンギヌスは真っ先に休憩室から追い出した。
会話が弾んでいる様子のレムリアとラティオスも、即座にその後に続かせる。
誰もいない事を確認し、ロンギヌスは電気を消して自分も出ようとした。


「あっ……いっけね」

卓球台の上に置きっ放しになっているコーヒー牛乳(すっかりヌルくなっている)を取り、全速力で飲み干す。
自販機横にさりげなく置かれた、『環境は大切に』と書かれたゴミ箱。
誰もいないのにわざわざそれに背中を向け、カッコつけて瓶を後ろ手に放る。


……ガチャン!!! ゴロゴロゴロ…


「……チッ」

ゴミ箱は既に満杯だった。






===========


バビロンの指示通り、ロンギヌスはカイオーガ達にギラティナを迎えに行かせた。

食堂に足を踏み入れた途端、高校の食堂のイメージが消し飛んだ。
なんと部屋の中央に、二本の鉄のレーンが走っている。
まさに回転寿司を連想させる光景だった。というより、回転寿司そのものだ。

「な、なんじゃこりゃ……!! 食堂で回転レーン……!?」

レーンの両サイドには、平たい木のテーブル(六人席)がいくつも置いてあった。
しかし時間帯が時間帯なだけに、見たところ空いているテーブルはひとつもない。
この様子だと、全員がバラバラに座る羽目になりそうだ。

ロンギヌスは黒い竜を探して目を凝らした。ところが………



「無芸大食のマスターにしては随分と遅かったじゃないか。どこで油売ってたんだ?」

「あっ…お前いつの間に!!?(それと無芸は余計だ)」

「さぁ……誰かさんがノコノコやって来る三十分前からだが。どうせピンポン球と無邪気に戯れてたんだろう?」

ーーー完全なる図星。
バビロンは温泉のマークを散りばめた白い浴衣をまとっていた。
どうりで黒い竜なんて何処を捜しても見つからない筈だ。


「まったく……何でお前だけ先に来てんだよ…」

「フフ……何故だと思う?」

「えっ……あ」

ロンギヌスは事態を把握した直後、先ほど口にした言葉を恥じた。
大混雑の中にも関わらず、バビロンの向かい側や隣の席には誰もいない。
いや、というよりバビロンだけがポツンと、空っぽの六人テーブルに座っている。

つまり彼は一足早く食堂に赴き、貴重な六人席を取ってくれていたのだ。


「あっ….ご、ごめん!!! 気付けなくて…..」

「まあそのチンケな脳細胞じゃ無理だろうな」

「ぐっ…..あ、ありがとよッ…!!」

「どういたしまして」

ロンギヌスは感謝半分悔しさ半分で、バビロンの右側の座布団についた。
しかし腰が座布団に触れるや否や、バビロンに胸倉をつかんで引き寄せられる。

「…隣に座るのは構わないが…..左側にしてもらえないか?」

「え…な、なんか問題でも…!!?」

「いいから」


バビロンの意向が尻尾を出したのは、ギラティナを呼びに行ったカイオーガ達が到着してからだった。

ロンギヌス達の座っている席は入り口に最も近い。
はしゃぎ回るカイオーガは入室時のスピードを緩められず、そのままバビロンの向かいの座布団を取った。

次に入って来たラティオスは、バビロンよりも兄の横の方が性に合うと踏んだのか、自動的にカイオーガの右隣へ。

ギラティナは言うまでもない、当然のようにカイオーガの左隣に陣取った。


そして・・・・



「あら、早くも満員じゃない」

レムリアは一応テーブルを見渡したが、必然的に空いているバビロンの右隣に座った。
彼の口元が、ニヤリと成功の微笑みを浮かべる。




「お、お前って奴は….」

「ククッ….な? 頭ってのはこういう時に使うもんだ」

バビロンはこめかみをトントンと叩いて言った。
レムリアがカイオーガより素早く入室してくるはずもない。
彼女ならしんがりを務める、という習性を見抜いたバビロンの計算に、ロンギヌスは閉口した。


「さーってさてさて……回転寿司なんて中学以来だから、バリバリ食うぞ!!
……まぁでもまずはお茶だよな」

何はともあれ、ロンギヌスは蛇口の下のスイッチに湯呑を押しつけた。好みの渋いお茶が流れ落ち、空っぽの湯呑を満たす。
醤油やガリも万全に準備したところで、ロンギヌスはようやくレーンに向かって手ぐすねを引いた。

「さぁ……手始めにまずは…ってあれ!!?」

イクラやウニに手を付けたいのに、流れてくるのは玉子やケーキ等のデザートばかり。
原因は明らかだった。このテーブルの位置が、レーンのほぼ最終地点にあるからだ。
おまけに全席が満員御礼なため、ほとんどのネタは大飯食らいの捕食者の口に運ばれていた。
つまり、ロンギヌス達の手元に流れてくるのは、実質彼らの「おこぼれ」ばかりということになる。


「これはなかなか厳しそうですね……いっそ、デザートでお腹膨らませましょうか」

「それは…ボクちょっと勘弁かな」

「お前らは好き嫌いし過ぎだ。揚げ物を食えばいいだろう」

まさかとは思ったが、案の定、流れてくるポテトやフライはバビロンの餌食になっていた。
ロンギヌスも揚げ物類は嫌いではないが、真っ先にそれというのは胃が沈む思いだ。
ところが対極の席に着している「彼」も、ムシャムシャと美味しそうな音を漏らしていた。

「ん〜ッ♪ このウニトロットロだぁ〜!」

「えっ……カイオーガ、ウニなんか流れてきてないぞ!!?」

「ここにはね。だから無理やり引っ張ってきたの」

「無理やり……?」

次の瞬間、カイオーガは舌をレーンの入り口付近にまで伸ばし、皿の下に滑り込ませて持ってきた。
早くも二皿目に突入した彼の頬の膨らみを、ロンギヌスは呆然と眺めるしかできなかった。

「……取ってあげようか? マスター」

「えっ、マジ!!? じゃあ数の子とトロ、プリーズ!!」

「ハハ…マスターも現金だね♪」

カイオーガは百戦錬磨の舌先を器用にくねらせ、たった数秒でターゲットを捕獲した。
ロンギヌスの面前にやってきたピンク色の大蛇の上には、2つの皿が絶妙なバランスで載っかっている。

「さ、サンキュー!」

両手でそれを受け取り、まじまじと眺めまわす。
数の子は蛍光灯を受けて金の粒のように輝き、トロに至っては食欲をそそる濃厚な脂に目が釘づけになった。

ショートケーキの苺は最後に食う性格のため、まず数の子を一口でモグモグと味わう。やはり一品目の味は絶品だった。
続いてトロ……を口に頬張ろうとした瞬間、レーンを流れる皿のひとつに目が留まった。


「(なっ……あれは大トロ!!? 何で!!?)」

幾多の捕食者の目をかいくぐってきたと言うのか。
しかも刺身の大きさは、素人の目からしてもあちらの方が大きかった。
『これ』(長さ3センチ×幅2.5センチ=7.5平方センチメートルっぽい)
『あれ』(長さ3.5センチ×幅2.5センチ=8.75センチメートルっぽい)

「しかもこれ、ちょっとカイオーガの唾液が飛んでるし……よし、チェェェンジ!!!」

しかし皿を戻そうとした刹那、左に座っていたバビロンにそれを阻まれた。
鬼気迫る顔でキッと睨みつけてくる。

「な、なんだよ……」

「一度とった皿はレーンに戻すな。客として最低限のマナーだ」

「え…あっ、そうなの?」

まさかバビロンにマナーを注意される日が来ようとは。
張り合っても負けは見えているので、仕方なしに絶好の大トロを見逃す。
手元の唾液付きのトロに目を向け、醤油に浸してそれを口に押し込んだ。

「はぁ……うめぇ…」

だが精神的にどこか物足りない。もうひとつのトロと、ガリを同時に貪りながらロンギヌスは思った。
同じ「寿司が取れない組」だと思っていたギラティナやラティオスも、カイオーガと同じ手法を取るなり、エスパーで引き寄せるなりの工夫をして寿司にあり付いていた。
ほぼ空っぽに近いレーンを横目に、舌も長くない、超能力も使えない人間に産まれてきたことを激しく後悔する。

……最悪、エスパーのラティオスに頼めばいいだけの話だ。
だがしょうもないプライドに妨害され、その頼みの一言が言えない。
ここで誰かに頼ってしまうと、全員から白い目で見られるような気がする。
そう、「回転寿司」は言わば孤独な戦場なのだ。獲物は自力で手に入れなければならない。


「(おっ、あれは……)」

視界に飛び込んできたのは、なぜか刺身が片方だけ取られたシメサバだった。
好きとも嫌いとも言えないが、この際思いとどまっている場合ではない。素早く引っつかんで食べる。
シャリの割合が2倍なだけ、サバの味はほとんどしなかった。

「(まぁまぁだな…….さぁ次!!)」

萎えたシャリの上に、冷めたハンバーグがちょこんと載せられていた。
オリジナルの寿司は普段絶対に食べないが、それでも今日は事情が違う。慌てて取り上げて頬張った。


「ああ……こんな虚しい作業の繰り返しなのか…」

微妙な寿司ばかりがやって来るため、胃袋の満足度も正直微妙だった。
いっそのこと、デザートで夕食を済ませた方が賢明かもしれない。
事実レムリアはそうしているらしく、手元に置いたチョコケーキやフルーツポンチを美味しそうに食べていた。

結局ロンギヌスもそれを採用し、無言で口を動かし続けること数十分ーーー
腹もパンパンに膨れあがり、もうガリすら食べられそうになくなっていた。
ぬるま湯と化したお茶を飲み、ハァッと無念の詰まった溜め息をつく。

そんなロンギヌスの向かいで、カイオーガ達は予想外の行動を取っていた。
レーンの上の妙なパネルをタッチしている。

「数の子と甘エビと大トロください♪」
「私も同じものを」
「僕は茶碗蒸し、お願いします」

「ちょ……な、何やってんだ? お前ら」

ロンギヌスが質問すると、カイオーガが目をぱちくりさせて問い返してきた。
再度聞き返すと、今度はギラティナが応じた。

「何をと言われても……寿司ネタの注文だが」
「どうしても欲しいのが来なかったら、これで注文するんだよ〜?」
「ま、まさか知らなかったんですか? マスター……」











「…………知らなかった…」




全員がニコニコと食事を終えた頃ーー
ロンギヌスは腕を組み、頭を突っ伏して失意に打ちひしがれていた。
結局、冷めたハンバーグやしおれたタ
タコ、そしてデザートの類しか口にしていない。
今さら大トロを追加注文しようにも、おぞましい程の満腹感がタッチパネルに触れることを許さない。

その時、背中に面していた他のテーブルから、見上げるほど巨大なバンギラスが頭を突き出してきた。


「へへっ、よう人間。暇ならこっちで俺と遊ばねえか?いやぁ、俺のマスター風邪で寝込んじまってよ。
ちょうどお前ぐらいなら食後の口直しにも丁度良さそうだし……どうだ」

れっきとした被食の勧誘だった。食事前ならOKも言わず抱き着いていただろうが、今は気分がそぐわない。
しかしダメ押しのつもりで断ろうとしたところ、ひと足先にバビロンが口を開いた。


「…やめとけ、こいつは私の獲物だ。
この食事が終わればすぐ喰う予定なんでね、邪魔は控えてもらおうか」

「チッ……」

相手が竜では脅す勇気も沈んだのだろう。
バンギラスは舌打ちし、頭を自分のテーブルに引っ込めた。
ロンギヌスは安堵の溜め息とともに、彼のたくましい左腕にもたれた。


「あ、ありがとよバビロン、助けてくれて……下手すりゃ俺、また1時間幽閉されちまうとこだったよ…」

「フフ……何を言ってる? 単に相手が変わっただけじゃないか。
それに……元よりお前を助けようと思った訳じゃないんでねぇ……ククッ…」

「………は? うわっ……!!!」

突拍子もなく押し倒され、ロンギヌスは隣のレムリアの膝の上に仰向けに寝かされた。
もちろん彼女にも助けを求めたが、食後のせいかウトウトとしていて気付かない。
シャツの胸元に、ネトネトと粘っこい液体の染みが作られた。


「ちょっt…待って、昨日薬飲んだから鼻炎治ってるんだってば…!!」

「ほう….そりゃおめでとう」

「アッ…....」


アグッ、グイッ…..ジュルッ..ゴクン…!!






<2012/03/12 03:45 ロンギヌス>消しゴム
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