---

某国、国境付近のとある集落。森に囲まれ、人々が農作物を作りながらぼそぼそと暮らすこの集落に、不安の空気が漂っていた。

と言うのも、国境近くで武装抗争を続けている集団の一つが、食料や飲料水を求めて度々強奪に訪れるのだ。

抵抗すれば容赦なく殺(や)ると言う向こう側の脅しに、集落は渋々要求を飲んで来たが、要求はエスカレートし、遂には収量の大半をよこせ、というものに変わった。

大半を持って行かれれば、集落の住人は飢え死にするだろう。だが、抵抗しようにも、相手は武装していて歯がたたない。

集落の長は苦渋の話し合いの結果、傭兵を雇う事を決意する。

そしてそれに応じてやってきたのは、一人の若い青年だった。





集落に向かう森の中の一本道を、二台のピックアップトラックが駆け抜けていく。前を行く方の荷台には重機関銃が据えられ、機関銃に男が取り付いている。

後ろをいく方の荷台には、武装した数人が身を寄せて、武器の様子を見ている。

俺はうつ伏せの態勢で、構えているライフルに取り付けた望遠鏡(スコープ)を通して、その様子を伺っていた。

俺が今居るのは、一本道からだいぶ横に外れた森の中。少し開けていて、道の全体を見渡すのに適している。

武装したピックアップトラック(テクニカル)の接近を確認したがら、俺は横に置いておいた、森の植物を模して迷彩が施されたカモフラージュシートを被った。これで向こうからは、俺はただの変哲も無い草むらにしか見えないはずだ。

手にしていたM21狙撃銃の安全装置を外し、改めてスコープを見直す。

このM21ライフルは、M14というライフルを狙撃用に改良したものだ。元々命中精度が良好だったM14に改良を加えたM21は、ピカイチの命中精度を誇る。中距離での狙撃にはもってこいだ。更に消音器(サイレンサー)も付いている。銃声でこっちの居場所がばれる心配も無い。

スコープから伺っていたトラックとの距離が、だいたい二百メートルを切った。そろそろ頃合いだな。

前を行くテクニカルの前輪に、スコープの十字を合わせる。ただ合わせるだけでは当たらない。相手は移動している。動きを予測し、弾丸の到達する場所と相手のスピードを逆算して撃たなければならないのだ。

タイヤより少し前に狙いを付け、引き金を引く。

消音器でほぼ抑え込まれた鈍い銃声がした後、スコープに映っていたテクニカルのタイヤに風穴が開いた。

---