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【保】神々の戯れ〜初めて出会った日〜 − 旧・小説投稿所A

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【保】神々の戯れ〜初めて出会った日〜

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月夜兎が溶かされる少し前。
先ほどまであれほど上機嫌であった水神の心の中では徐々に罪悪感が渦巻き始めていた。
本当にここまでやる必要があったのだろうか?
生きながらにして溶かされるというのは凄まじい苦痛に違いない。
いや、でもあの月夜兎とかいう奴は自分をからかってきたわけだし……。

「うっ……」

その時胃の中で月夜兎が激しく動き回っているのが分かった。
おそらく今まさに溶かされ始め、苦痛で悶えているに違いない。
吐き出すなら今しかない。
しかし自分のプライドがあの小生意気な月夜兎を許すなとも言っている。

「お父さん、私はどうすればいいの……?」

水神は父から教わったことを思い出した。

『我々は誇り高き竜族であり、私たちはその中でも特に位の高い神龍と呼ばれる一族だ。水綺、お前はその由緒正しい神龍の正統な後継ぎなのだ。だから他の種族に舐められることなど絶対にあってはならない』

うん、だったら私のしたことは正しいよね?
そう思おうとした水神であったが、父の言葉には続きがあったことを思い出した。

『しかし、だ。だからといって恐怖政治をすればいいという話ではない。恐れられすぎた神を待つのは死だ』

そうだった、確かお父さんはそう言っていた。
そして私がしたことは、恐怖政治と何ら変わりはない。
水神は月夜兎を吐き出すことを決意した。

「……あれ?」

ところが吐き出そうとしても、何も出てくる気配が無い。
そりゃそうだ。
月夜兎は今しがた消化されたのだから。

「ああ、私はなんてことを……!」

水神はその場に突っ伏する。
それからしばらくの間、水神は良心の呵責によって身を悶えさせることとなった。


「あー、水神様、だったかな」

不意に耳元で聞き覚えのある声がした。
水神はビクッとして起き上がる。

「うわ、いきなり起き上がるなよ!」

見ると地面に尻餅をついている月夜兎がいた。

「お、お化け!?」

水神の巨体が縮み上がる。

「違う。いや、ある意味ではあってるんだけど、そんなことはどうでもいいや。まあ単刀直入に言うとね、私は不死身なんだよ」

「不死身?」

「そう、何されたって死ねないわけ。なんだか君が罪悪感で身悶えていたから、一応そういうことだから気にしなくていいってことを言っておこうと思ったんだよ」

水神の心の中にある種の安堵感が広がっていった。

「からかったりして悪かったな。竜って威張りくさった連中ばっかりと思ってたんだが、君みたいに優しいのもいたんだね。私はここを出ていくことにするよ。じゃあね、水神様」

月夜兎はそう言って去ろうとする。

「ちょっと待て」

それを水神が呼び止めた。

「山の天気は不安定だ。特に今年は雪が多くて、今だって外は吹雪いている。いくら貴様が不死身といえども、下山に苦労するだろう。今年の冬が終わるまでここに住まわせてやる。竜族は寛大な心の持ち主だからな。この善意、受け取れないとは言わせないぞ」

これは水神なりに考えた『やりすぎた分』の償いであった。

「……本当に優しいんだな。じゃあお言葉に甘えさせていただくよ、水神様」

月夜兎は水神にそっと寄り添った。
この時水神は生まれて初めて誰かに頼られるということを体験し、それにちょっとした快感を覚えた。

「様などつけなくてもよい。まあ貴様、いや、月夜兎次第だがな」

寄り添われた水神もまんざらではないという顔になる。
こうして二匹は共同生活を開始したのだった。



<2011/12/05 23:08 とんこつ>消しゴム
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