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バベルの塔 − 旧・小説投稿所A
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バベルの塔
− 死を踏み越えて −
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ーーーさぁ….読めるものなら読んでみなさい…!!


策を弄したラファエルが考えついた、敵の失敗を誘う作戦。
もしこれが計画どおり運んだ暁には、バビロンはルール違反で即刻負けとなる。
ラファエルのカードに触れた罰の対価を、主人と自らの身で払う羽目になるのだ。


ラファエルは次に5を切ったが、バビロンは豪勢にもKで返してきた。
ここで一応、対抗手段としてAを出すことは出来る。

だがここでそれをしてしまうと、敵は屈服して「パス」と口にするだろう。
イカサマカードはあくまで自然に、さりげなく通さなければならない。
つまりバビロンがダブルやトリプルを出し、それに対して偽カードを提出する、というのが理想なのだ。
できるだけ、こちらからイカサマを仕掛けていくような真似はしたくない。


「…パス」


だからこそ、こうしてバビロンに先攻権を与えるのだ。
一見チャンスを失うような愚行だが、ラファエルは心の中で舌を出していた。


「(さぁどうぞ…..トリプルは無理でも、せめてダブルは手元に揃っているでしょう? ならそれを出せ…..吐き出せ…!!)」


ラファエルの無言の願いに、幸運の女神は見事にほほえんだ。
バビロンが三十秒の時を経て出してきたのは、望みどおり、4のダブルだったのだ。


「(来た…..!!!)」


必死にカードで隠しながら、ラファエルは込み上げてくる笑いを抑え込んだ。
やはり運気は自分にある。天はバビロンを見離したに違いない。



「(いやいや、厳密にはまだ笑えませんね….どのトリックカードで行きますか…?)」


ラファエルの偽カードは計6枚で、6、6、6、7、7、8だ。
これなら6や7のダブル、トリプルは勿論、8を使えば階段さえ起こせる。

できれば、階段というデザートは最期まで取っておきたいのが本音だ。
しかしバビロンがイカサマに気付いていると仮定すれば、そんな強コンボを出せば一気に怪しまれる。
ここは6のダブルで、その後はチビチビ消費するのが保険というものだ。

気づかれていない、という確かな自信を胸に、ラファエルはイカサマカードを提出した。



ーーーパサッ。

「…..ほう….随分と良いカードを持っているなぁ…?」

「(なっ…し、しまった…!!)」


6の偽ダブルを提出した直後、ラファエルに取っては予想外の出来事が起こった。
バビロンが場のそれに向かって、手を伸ばしてきたのだ。


ーーー終わったーーーーそう覚悟した。






ーーーカチャン。

「お代わりを頂きたいんだが…...構わないよな? 紅茶」

「…あっ!? ああ…..どうぞ…」


速攻で引きつった笑顔を作り、手元にあったティーポットを彼に引き渡す。
内心、崖から引き上げられたような安心感に打たれていた。


「(な、何ですかもう…..てっきり、バレていたのかと…)」


ひとまず胸を撫で下ろす。
バビロンは特に何かに勘付いた様子もなく、ただ能天気にカップに紅茶を注いでいた。



「(………まあいいです….バレていないのならそれはそれで…)」

というより、それが最も望ましい展開だ。
もし彼がイカサマの真意にたどり着いていないのなら、この勝負は圧勝に間違いない。
つまり社運と命を賭けたこの大富豪を、九割九分、制することが出来るのだ。


「(結果論に過ぎませんが….この四回戦に関してはイカサマは不要だったかもしれませんね…)」


本来、勝利のサポートとして取り入れたこのイカサマカード。
だがそれ以外の配られたカードが、偶然にも強いメンバーばかり。
10やQは勿論のこと、Aも揃っている。むしろイカサマカードの方が霞んで見えそうだ。





「……再開だな、パスだ」

「は、はぁ….」

追い詰められているとは思えない、至って普通の口調だった。
こちらが優勢なのは間違いないが、勝負の主導権はバビロンに握られている気がした。
まあそれならそれで良い。勝ちさえすれば、この澄ました顔も恐怖に沈むはずだ。


バビロンの「パス」の一言で先攻権が返ってきたので、ラファエルは手中のカードを舐めるように見た。
ーー3、7(偽)、7(偽)、8、10、J、Q。

この七枚をどう減らしていくかが勝利の鍵だ。
上下でカードの図柄も数字も異なる、というイカサマカードの特性上、シングルで提出することは出来ない。
つまり、7(偽)のダブルをどのタイミングで出すかが問題なのだ。


「(また貴方がダブルを出してくれれば理想なんですが….その可能性は薄そうですね…)」


もうそういった期待は掛けない方が良い。
となれば7(偽)ダブルは、こちらから捨てる必要がある。
その瞬間を、自らの手で作り出さなければ。


ーーーパサッ。

ラファエルは刹那、ここが正念場だと確信した。
Jを出してイレブンバックを起こし、本来最弱のカードである3の出番をつくる。
これが8で切られさえしなければ・・・




バビロンの手が額から顎へと伸び、一枚のカードを選び出した。
彼としては策を巡らし、考え、厳選したのだろうが、ラファエルには自信があった。





ーーーパサッ。


バビロンがジャックの上に重ねたのは、なんと平凡極まりない事だろう、10だった。
ラファエルは反射的に3を投げ捨てる。迷いなどなどない。
勝利への執念を背中の後ろに燃やしながら、バビロンの次の出方に目を傾ける。



「……パス」


これだ…この声だ。この声が聴きたかったのだ。
恐怖に震えているのを相手に悟られまいと、必死に抑え込んであろう声。
これさえ耳に入れば、もう何の文句もない。
ラファエルは場のカードを、テーブルの端に勢いよく払い除けた。



そして・・・・・




「(締めますか….そろそろ….)」


ラファエルはついに意を決した。
ここでイカサマカードを捨てれば、残りはAやQのようなカードでほぼ確実に勝ちを拾える。
勝負後は、黒服が場のカードを全て回収し、イカサマの証拠を持っていってくれる。




「(貴方がどれだけ主人を助けたいかは知りませんが…...)」


この大富豪において、引き分けなど許されない。
決着がついた後、バビロンがどれだけイカサマを主張しようと後の祭り。
例え事実であっても、それは勝利と同時にもみ消されるのだ。



「(せめて貴方は無傷で帰ってください….チャンピオンの消えた、ポケモンリーグに!!)」


歓喜と同時に胸の内に込み上げる、バビロンへの憐れみ。
自分自身….人工竜「ラファエル」の株を上げてくれたことに対する感謝。

そんな諸々の思いを抱きながら、ラファエルは偽の7ダブルを場に押し付けた。
ピシッという何ら異常のない音を立てて、カードは真っさらテーブルの上に貼りついた。
ラファエルの、自信と誇りを乗せて。






「……なるほどな…」


目を場のカードの山に落としたまま、バビロンは重い声で呟いた。
今度はどんな苔脅しを投げてくるのかと、ラファエルはわざわざ身を乗り出した。


「それが私の上を行く…..最優秀な人工竜のご決断とはね….」


挑発的なその言葉を受けて、最先端の頭脳がムッとした。
プライドに掠り傷を付けられ、多少息を荒げながらラファエルは反発する。


「な、何を馬鹿な…..無駄ですよ? そんな思わせぶりな顔で何を言おうと….」

「無駄? フフ….いやぁ、それがそうでもないんでね…...」


不敵に微笑むバビロンの姿に、一瞬ラファエルは背筋が寒くなった。
これは勝利を確信した者、相手の死に様をあざ笑える者にしか成し得ない笑みだ。
ラファエル自身も、勝負中に何度もあの不吉な笑みをこぼしてきた。

なんと、余裕を浮かべた自分とは、これ程までに憎たらしい表情だったのか。


バビロンは内心ヒヤヒヤとするラファエルに、さらに追い討ちを掛けた。



「…怖いだろう? 正体の解らない恐怖に、お前はゾクゾク怯えているはずだ」

「ふざけないでください…..いいですか、貴方には何もない!!! ないに決まっている!!
運も知略も…...生まれ持っての性能も!!」

「ああ確かにそうだ。性能だけで考えれば天地の差があるかもしれない。
私がどれほど学を詰め込もうが、知識ではお前に一生届かないかもしれない。
だがな・・・・」


















「死ぬまで覚えてろ。どんな災難や不幸に見舞われようが.….私は、負ける勝負はしない」


バビロンはカードに手を触れ、そして7のダブルをテーブルから引き剥がそうとした。
ラファエルが咄嗟にその腕を捕らえる。純白の顔が青ざめていた。


「な、何を…!! カードに触れてはいけないというルールを忘れたんですか!!?」

「フフ…...黙れ。ルール違反はお前も同じ…......同罪、いやそれ以上だ!!!」


ラファエルがカードを流す前に、ウォリアが罵声を飛ばす前に。
バビロンは彼の…いや、彼らの偽られた強運の証拠を、白日の下に晒し出した。


「あっ…...」

永遠のような長い沈黙がお互いの間を流れ、バビロンは薄っすらと牙を見せて笑った。
言い逃れなどしようもない確実なイカサマの証拠を、目下に眺めながら。





作者の皆様、ROMの皆様、明けましておめでとうございます。
Bに向けた作品も同時進行で書いているので投稿は遅れるかもしれませんが、何卒今年もよろしくお願いしますorz
<2012/01/05 22:49 ロンギヌス>
消しゴム
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