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バベルの塔 − 旧・小説投稿所A
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バベルの塔
− 奇跡の背中は −
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「(フフフフ….起死回生の大逆転でも狙っているのでしょうが、そうはいきませんよ…)」


二回戦で負けたのが嘘のように、三回戦はラファエルの独壇場だった。
これを機に、一気に勝ち進んでいくのが場の流れというものだろう。
第四戦も、正直彼が負ける気配は微塵も無かった。



「…..おい、会長さん」

バビロンが突然声を発したので、ラファエルは顔を上げた。
ウォリアはラファエルの勝利に満足そうな顔のまま、彼に応じた。


「何だね? また無理な提案かね?」

「いや…質問だ。ルール違反とイカサマ、どちらが罪は重い?」

「…ッ…...それは….....と、当然イカサマじゃろう。
例えその二つが同時に起こったとしても….だ」

「フフ…..そうか、それならいい」


ウォリアの表情が曇っていくのに反比例して、バビロンは宝を手にした冒険者のような目だった。
それを目にした途端、ラファエルの心に疑念が吹き上げた。



「(まさか….気付いたんですかね….)」


「これ」を見破られては、四回戦は運否天賦の勝負になってしまう。
何とか四回戦でも「これ」を使い、安全に勝利を手にしたいのが本音だった。



ーーーー「これ」の正体。

右手で紅茶を口に運びながら、ラファエルの左手でとんでもない物を隠していた。
緊急事態に備えて、ウォリアが用意していた秘密の切り札。

ーーーーこれを使う発端となったのは、バビロンとの勝負が開始される数時間前。




==============






「会長、例の侵入者の件ですが…..また被害者が….」

「ほう….初期型の人工竜ごときが逆襲かね。なかなかやるではないか….」

「し、しかし会長。奴らがこの部屋に乗り込んでくるのも時間の問題では…」

「いやいや…..奴はひとりでやって来る。どんなに多くとも、二人だ」


ウォリアは自信満々の表情でソファに腰をおろした。
白いポットから紅茶を注ぐラファエルを横目に見ながら、溜め息混じりに言った。


「ただここに乗り込むころには、彼らも相当に体力を消耗しているだろう。
ラファエル、君の腕前なら難なく、彼らを殲滅することが出来るに違いない」

「はっ….お任せください…!!」

「しかし…....」

意味ありげな微笑みを浮かべると、ウォリアは組んだ両手を腹の上に置いた。
バビロンなど恐るるに足らぬといった風貌だ。



「…あえて私は、大富豪で決着をつけようと思っている」

「ま、またですか…..確か先週、セルシオカンパニーとの取引の際にも….」

「ああ、やった。契約と30億円を賭けたものだった。
だがラファエル、君も見ていたではないか。結果は我らの大勝。
そのお陰でバイオリック社は、有利な契約と30億もの追加資金を手に入れたのだ」

「そ、それはそうですが….」

「ん? どうしたのだ。不安な要素でもあるのか?」

「・・・・・」


ラファエルは言い難そうだった。
しかし最高権力者であるウォリアを前に黙殺する訳にもいかず、目を瞬かせながら言葉を続けた。



「その….今回の賭け金についてなのですが、相手は金では満足しないと思われます。
もともと我が社の崩壊を狙って侵入を企んでいたのでしょうから、こちらが会社の存続を賭けない限り、奴らは大富豪など受けないはずです。

となると、勝負を運否天賦に任せるわけには…..」

「フフ…ラファエル。用心深い君ならそう言うと思っていた。
そのとおり。だからこそ私は、会社そのものを賭け金として彼らに提示するつもりだ」

「し、しかしそれでは…!!」

「…だが安心したまえ。勝利の策は既に打ってある」



ウォリアは重要書類の詰め込まれた引き出しから、自前のトランプカードを取り出した。
だが彼が机の上にばら撒いたそれを表に向けた瞬間、ラファエルは異変に気づいた。


「か…会長…..このカードは…」

「良くいうなら知略。悪くいうならイカサマ。
だが我らバイオリック社に未来を授けるであろう、奇跡のカードだ」


ウォリアはラファエルに説明する例として、一枚のカードを指さした。

ラファエルは驚愕した。
なんと左上には「8」と描かれているのに、右下には「6」の数字が光っている。
おまけにカードの左上半分と右下半分で、マークの色が違っていた。


「これは…..まさか…...」

「フフ…その通りだ。一枚二役、一石二鳥、一挙両得のカード」

まさに、二つの顔を持つカードだった。
基本は「8」だが、状況に応じて「6」にも変身できる能力がある。



だが重大な欠点があることは、ラファエル以前に小学生でも分かるはずだ。




「しかしこのカードは…..テーブルマジック等なら使えるでしょうが…..大富豪ではちょっと…」

「いやいやいやラファエルよ…...大富豪だからこそ使えるのだ」

「えっ…..」

「君はカードを提出する際、どのような出し方をするかね?」


ウォリアは普通のトランプの山から、2のカードを4枚選んで彼に手渡した。
ラファエルは言われるまま、自然なカードの出し方をやって見せた。

一応、革命であることが相手にも判るように、一番上に重ねたカード以外は、左上の数字の部分だけが見えるようにして出した。




「…そう! それだ…...無意識にみんなそうしてしまうのだ。だが誰もが何気なくやっているこの出し方も、裏を返せば強力な秘技となる。
もし今のような出し方でこのマジックカードを提出したら、相手にはバレると思うかね?」

「あ…....」


よくよく考えれば、非常に見抜きづらいものだった。
視野的にも心理的にも死角なのだから、まず相手は見抜けないまま終わる。



「…どうだ、面白かろう?」

「し、しかしこれを….どうやって手に入れるのですか?」

「どういう意味かね」

「いえ…..これを使えば簡単にトリプルや革命を起こせる、という利点は分かります。
ですが奴の目をくぐってこれを手に入れるには…..シャッフル時にもイカサマをすることになります。
二つのトリックを連立させるのは…..多少危険ではないかと….」

「なるほどな….」

ウォリアは顎を指でさすり、しばらく考え込んだが、わずか数分で対応策を見つけ出した。


「いや、問題ない。ラファエル、君が初戦で、相手にも分かりやすいイカサマをすれば良い。

するとそれを発見したバビロンは対抗心を燃やし、二回戦では彼の方がイカサマをするだろう。
それが如何なるネタかはいざ知らず、ワシはそれを罵倒し、イカサマ禁止令を二人の前で公言する。

そして公正なシャッフルをするとの名目で、別の社員を工作員として仕立て上げれば良い。
そしてその工作員に、隠し持っているイカサマカードを君に渡させよう。こっそりとな」

「は、はぁ…...」

「イカサマ禁止令が出た直後にイカサマをしてくるとは、まさか奴も考えまい」


ラファエルとしても、なかなか筋が通っている気がした。
結果その作戦を遂行して、三回戦を制することになるのだ。


=================


「(確信ではないですが…..嗅ぎつけられましたかね….)」


イカサマがバレると当然厄介なことになる。
ラファエルは安全を第一に考慮し、イカサマカードを使うのを避けることに決めた。
一応ウォリアにさりげなく視線を送り、彼の指示を仰いだ。しかし・・・・





「(…..なっ…しかし会長…!!)」


ウォリアは首を縦に振った。つまり、「イカサマを決行せよ」との合図だ。
ラファエルはすかさずその訳を問おうとしたが、バビロンが怪しむようにこちらを向いたので顔を戻した。


「(なぜですか会長…..ここでこれを使えば見破られる可能性が….)」


当然、第三者としてこの勝負を見ていたウォリアなら、そのことを冷静に見抜けるはずだ。
理由は分からないが、ウォリアの指示となれば拒絶する訳にもいかない。
ラファエルは鼓動を早めながら、苦肉の策でイカサマを使用することにした。




ー 大富豪・四回戦 ー


恒例のように、黒服の手によってシャッフルが執り行われる。
流石にウォリアが選抜した精鋭だけあって、シャッフルの腕前は実に巧妙だった。
さりげなくイカサマカードをラファエルに配り、食えない顔でその場を一歩引いた。


「(よし……上出来ですね….)」


素人がこのシャッフルを行っては、イカサマのカードがバビロンの手に渡りかねない。
黒服の手際の良さに感服しながら、ラファエルは自分のカードを確認した。

….完璧だ。
12枚のカードのうち、6枚がトリックカード。
残る6枚の普通のカードも、なかなかの強さだった。


「(フフ….これで貴方の首…獲らせてもらいましょうか)」


勝利を確信した者のみに許される微笑み。
ラファエルはそれを胸の底に沈めながら、バビロンの先手を待った。

ーーーそしておよそ四分後。
熟考の末に彼が提出してきたのは、見るに堪えない弱カード。
4のシングルだった。


「(わざわざ貴重な先手を無駄にした…? 馬鹿な…..)」


しかしそれを問題視して時間を浪費している場合ではない。
こちらのイカサマを成功させる為には、スピードが必要なのだ。
トントン拍子でゲームが進行していき、その流れに乗じて如何にトリックカードを通すか。

それこそ最重視しなければならない、絶対的ポイント。核心。


ひとまずこの場は8を切り、先攻権を奪い取るのが基本だとう。
その思考にまるで糸で操られるかのように、ラファエルは指先を動かした。


「………チッ…」

バビロンの舌打ちが耳をついた。
誰でも、8で流れを奪われてしまえば悔しがるのが自然。

だが油断はならない。
この舌打ちこそ相手を巻き込むための罠かもしれないのだ。
他人の事は言えないが、ラファエルはバビロンの非道さを二戦目で痛感していた。



「(さて問題はこれからですね…..いったいいつトリックカードを通せば良いか…)」


会長にはイカサマをやれと指示されたが、バビロンにそのタネが見破られたリスクも否定出来ない。

ラファエルが今、疑心暗鬼になっている原因。
それはこの勝負前に、バビロンが会長に訊いたこの質問だった。


ーーー ルール違反とイカサマ、どっちが罪は重い? ーーー



この質問はつまり、ルール違反とイカサマが同時に起こった場合、どちらに非があるかを確認するためだ。
となると考えられる可能性はただひとつ。




ーーー私のイカサマ….その現場を抑えて白状させるつもりですね?
ーーーそしてその見返りとして、私を反則負けに追い込む。
ーーーそれがあなたの狙い…..計算ですか…...?


ラファエルは目を細め、バビロンから溢れてくる感情の波を推し量ろうとした。
が、凡人ならこの読心法で打ちのめすことが出来たにも関わらず、バビロンの表情には掴みどころ、穴のようなものが無かった。


「(失策でしたね…..あの質問の答え方さえしっかりしていれば…)」

イカサマとルール違反、どちらが悪役かというバビロンの問いかけ。

会長は公平感を与えるためこれに「イカサマ」と答えたが、ラファエルは正直その逆を願っていた。
「ルール違反」あるいは「引き分け」とさえ答えていれば、少なくとも彼を思い留まらせることが出来た。

ルールを破ってまでイカサマを証明しても、何の意味もない。
そう思わせることが出来たに違いない。





「(ならいいでしょう。お望み通り….使ってあげようじゃないですか…!!)」


ラファエルは早速イカサマカードに手を触れたが、直前で思いとどまった。

そうだ…..逆に利用してやればいい。
確かにイカサマとルール違反なら、悪いのはイカサマで、こちらに非がある。
だがしかしバビロンが勝手に起こしたルール違反だけなら、罰を食らうのは彼一人。

つまりイカサマを出すタイミングさえ見計らえば、後は向こうが独りでに転んでくれる。
こちらのトリックカードを押さえようと場札に手を出し、場札に触れてはいけないというルールに引っ掛かってくれる。

言うなればーーーーーーお手つき。




「(フフ…..そんなムキになってたら見えませんよ? 私の動向なんて…)」


ラファエルがトリックカードを通し、当然のように完全勝利を掴むか。
それをバビロンが押さえ、イカサマを白状させて敗北に陥れるか。

一時的に大富豪の本来のルールを無視した、本当の意味での読み合い。
既に二回の負けを味わったバビロンにしてみれば、これが最期の防衛戦だった。





<2011/12/22 20:21 ロンギヌス>消しゴム
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