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カードに溺れろ 〜Dead or Money〜 − 旧・小説投稿所A
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カードに溺れろ 〜Dead or Money〜
− 裏切りご免 −
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「…こ、これは……」
「フフ…どうしますか?」


テーブルの上に散らばった四枚のカード。それらを全て
足すと、なんと18になるのだ。勝つか負けるか微妙な
数字に、ワカシャモは息を殺して策を巡らせた。


ーーーーどうしようーー
ここで【3】が出れば、大逆転勝利できる。だがもし
それ以上の数字が出てしまえば、私はあの別室行き・・
つまり殺される。このターンで勝てる確率は1/10・・・




「ド、ドロップアウト….ドロップアウトさせて!!」

「おや、勝負を辞退なさるんですか?」

「ええ….死にたく、ないもの…」

「…了解しました。それでは30万円、頂きます」


ワカシャモはラティオスが言うより先に金を出していた。
貴重な命と比べれば、30万なんてはした金だ。


「さて、Ms.ワカシャモが棄権なさったので…
Mr.ポチエナ、準備は宜しいですか?」

「い、いつでも来やがれ…」


次に目を付けられたポチエナ。
ラティオスは名簿をペラッとめくり、微かに鼻で笑った。


「あなたは捕食フェチらしいですが….どうで
す? わざと敗北してみては」

「ば、馬鹿言うな!! 死にたい訳が…ねぇだろうが…」

「冗談ですよw 勝てばちゃんと解放して差し上げます」


大勢の前だからか、ポチエナの顔に赤色が走った。ラテ
ィオスはニヤッと意地悪そうな笑みを見せつけると、長
い首を近づけてこう囁いた。


「…実は僕のマスターも同じ趣味なんですよ…

…よかったら選ばせてあげましょうか? 負けた時の処刑人を♪」

「そっ、そんな縁起でもないこと…!!」

「フフ….そうですねぇ…現実にならなければいいですねぇ…?」


ラティオスの燃えるように赤い左眼が、シャンデリアの
暖かい光を受けて煌めいた。その心を見透かすような目
線に耐えられず、ポチエナは顔をそらす。


「…恥ずかしがる事ないですよ。
趣味が『読書』より面白いじゃないですか」

「お、面白い…!?」

「…? ええ。でも勝負の方は、手加減しませんからね?」


ラティオスはシャッフルしたカードを、揃え合わせてポチ
エナの前に置いた。少し穏やかだった雰囲気が急変し、
再び「命を賭した」ゲームの空気が流れ始める。



「……賭け額は?」
「200万」


ポチエナの懐から取り出された札束を、ラティオス
は優しくテーブルに置いた。頭脳と運が渦巻いてい
る中、ポチエナが呟いた。


「お先に…どうぞ」

「おやおや…先攻を譲っていただけると?」

「ああ、お前から先に引いてくれ」

「……それではお言葉に甘えて」


ラティオスの細い手が山札へ伸び、ペラッと頂上のカー
ドを裏返した。カードに記されていたのは、四個のダイ
ヤと【4】の文字。


「・・・・」
「・・・・・・」


お互いに一言も喋らない。まるで呼吸ができなくなったようだ。
ポチエナは目を細めて自分のターンを迎え、二枚目をめくる。


ペラリ…

「・・・はぁ・・」


スペードの【1】、ほっと胸を撫で下ろす。しかしラティオスは間髪入れまいと、手早く次のカードを裏返した。


ハートの【7】
・・・全部をたして12だ。死という罰ゲームがないラティオスに対して、ポチエナの声が震え始める。



「や…やっぱり選ばせてくれ….俺の処刑人…」

「…負ける気ですか?」

「違う!! ただまあ…死ぬ時ぐらい…好きな奴に喰われたい…」


ペラッ・・・

ハートの【4】だ。
死期にせよ勝利にせよ、ゲームエンドが近づいてくる・・・
ポチエナが電動マッサージ機のように振動している
間に、ラティオスは次のカードを取った。




ペラッ・・

「おやおや…?」
「し、しまっ…」


二匹の視線が、ひっくり返ったカードに重なった。クラ
ブの【5】が、その黒いシンボルをテーブルの上で輝かせていた。


16+5で……【21】。
ポチエナの敗北が、決まってしまった。




「う、嘘だろ….ドンピシャだなんて…」

「フフ…さあ、どの部屋がよろしいですか?」


ラティオスに釣られて横を向くと、四つのドアが闇に浮か
んでいた。それぞれ金メッキで、スペード、クラブ、ハー
ト、ダイヤが描かれている。どれを選べと言われても、中
に誰が待っているのか、ポチエナが知る訳がない。


「ちょ…ちょっと待った!! 処刑人の名前は教え
てくれないのか!?」

「そんな事できませんよ。その秘密を知ることができるのは….」








「私と、敗者だけです♪」

「う…そ、そんな….」


ポチエナも、既に死ぬ覚悟はできていた。だが最後ぐ
らいは…自分の趣味にそった奴に喰われたい。もし、
苦手なタイプに呑み込まれる運命だったら・・・





「じゃぁ…..ダ、ダイヤで」

「ダイヤ……宜しいですね?」


ラティオスはポチエナの背中に手を回し、その扉の前
まで(強制的に)導いた。スポットライトに照らされ
たダイヤマークが、地獄への入り口として、ポチエナ
の正面で輝いている。


「さあ…いってらっしゃい」

「ま、待て…まだ心の準備が…」

「残念ですが…あなたの決心を待つほど、私は暇じゃないんです」


ポチエナは冷淡なその言葉に振り返る間もなく、背中
をドンと押された。豪華なカーペットとが敷かれたゲー
ムルームとは違い、冷たいコンクリートの床に倒れこむ。


「痛いっ…!! な、なにしやがる!!」

「フフフ….あなたの遺産も、ここの資金に充てさせて頂きますね?」

「えっ……」


ポチエナは気づけなかった。首に掛けていたはずの銭袋
が、いつの間にか消えていたことに。「まさか」とい
う引きつった表情で、ラティオスの方を振り返る。




「んじゃあね♪」

ギィ…バタン!!! ガチャリ…


ペロリと舌を見せたラティオスの手には、札束の詰めこ
まれた袋が。ポチエナは取りかえそうと駆け出したが、
扉は残酷にも閉じられてしまった。その上、鍵が掛かる
音が耳につく。


「あっ…あの….ど、ど、泥棒野郎ぉ!!!!」


硬い金属製のドアに爪を立て、怒りを露わにするポチエ
ナ。これから殺されるから関係ないとはいえ、最後の最
後まで金を搾られた。あの憎たらしい悪戯笑顔が、ます
ます恨めしく思えてくる。







「ま、真っ暗じゃないか……誰もいない?」


自分が生きてるのか、不安になるほどの闇だ。ただ生き物の気配は、全くといって感じられない。


「でももしかしたら….に、逃げられるかも…」


ただ物音がしないだけで、生まれてくる余裕。儚い望みだ
とは知りつつも、この状況ではそれにしがみ付くしかない。



・・・・・・・・



ドチャッ・・!!!

「うわっ…!!」


かなり重みのある体が、突然目の前に転がり出た。跳ん
で避ける間もなく、ポチエナは足を取られてすっ転ん
だ。顎を床に強く打ちつけ、視界がくらくらと歪む。



「なんだ…これ…」


自分達がゲームをしている間、背後で待ち構えていたは
ずの警備員だった。塵一つなかった黒スーツは謎の液体
に濡れ、堅苦しそうな黒めがねのフレームは曲がっていた。


「残念ねぇ〜…苦労して捕まえたのに」

「あっ….お前…!!」


女の色気に満ちた声が、 ポチエナの耳をピンと立た
せた。他人を惑わすような気配を感じ、一歩後ろに下
がって威嚇する。だがその牙は、すぐに口の中へ引っ
込む事となるのだが・・




<2011/08/12 22:41 ロンギヌス>消しゴム
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