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カードに溺れろ 〜Dead or Money〜 − 旧・小説投稿所A

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カードに溺れろ 〜Dead or Money〜
− 勝者と奴隷 −
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お勧めBGM:『カイジ サントラ』


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「へへッ….それじゃあ帰らせてもらうぞ」


とんでもない額が書かれた小切手をヒラヒラと振りかざし、ディー
ラーのラティオスに別れを告げるゾロアーク。しかしよっぽどエー
フィとの対戦に集中している為か、ラティオスは返事すら返さなか
った。挨拶を無視するなど、彼にしては非常に珍しいのだが…..


「…まあ、精々がんばりな」

ギィッ…..ガチャン!!


蝶番が閉じる音が響いたものの、誰一人それに関心を寄せない。
特にラティオスとエーフィは、互いの気迫に押し潰されそうに
なりながら、未だに自分のカードを凝視していた。

彼らがジラーチやゾロアークのように、気安くカードを選択でき
ない理由。それは、二匹ともが持っている能力にあった。彼ら
はどちらも高度なエスパー使い……つまり、相手の考えが読めるのだ。



ーーーー恐らくこのラティオス、一枚目から【奴隷】は出せ
ないに決まってるわ。ならば不意を突いて最初から【皇帝】を
きるのもアリね…


ーーーと、貴方が考えてるのは分かってますよエーフィさん。
まあ彼女の実力なら…それも読んでいるでしょうけど。


勝負の鍵を握るのは、【市民】だった。エーフィは皇帝側なの
で、【市民】を出し続けてラティオスの自滅を待つこともできる。

だが万が一、ラティオスも同じ【市民】を連続で出してきたら?
そうなると皇帝側も奴隷側も、勝率は50:50になってしまう。
低倍率と引き換えに手に入れた4/5の勝率を、エーフィは失いたく
なかった。



パタッ…!

「…えっ…!!」


エーフィの予想とは反対に、ラティオスはすんなりカードを出し
てきた。エーフィはこれを好機と見たのか、ラティオスの思考を
読もうとする。だがしかし、彼の意識からは電池の切れた豆電球
のように、何も感じられなかった。


「(意識にフタをしたのね….やってくれるじゃない)」


……とりあえず、いきなり【皇帝】を選んで不意打ち……は彼も
計算ずみだろう。ならばやはり安全性のある、【市民】から……

エーフィの細い手が『CITIZEN(市民)』と彫られたカードを
持ち上げ、バンとテーブルに叩きつけた。



「(来なさい奴隷、奴隷、奴隷…!!!)」


読経のように、祈りの言葉をそう繰り返す。








エーフィ:【市民(CITIZEN)】
ラティオス:【市民(CITIZEN)】


「よ、読まれてたのね…..」

「・・・・・・」


戦闘を終えたカードをテーブルの端に寄せ、次なる決戦のカード
を考える二匹。その間に流れている沈黙がもたらすのは、恐怖、
自信、戦慄、そして疑心暗鬼。



……パタン。

「(来た……)」


ラティオスの二枚目が場に置かれた。艶のあるカードの裏面が、
シャンデリアの光を受けて鈍く輝いている。このカードの向こ
う側に隠されているのは……奴隷なのか、市民なのか…



ーーー定石なら【市民】を出し続けて、貴方の自滅を待つこともできる。
でも貴方ならきっと、私がそんな方法に捉われないのは知っているんで
しょう? ならここで…この二枚目で…決着を…!!!



エーフィの前脚が、【市民】のカード….の横にある【皇帝】のカード
を取り上げた。彼女はそっと目を閉じ、運命を左右するそれに祈りを
込める。だがしかしカードがテーブルに触れる寸前、それまで黙秘
していたラティオスの口が開いた。



「エーフィさん、勝利のルールって知ってます?」

「何よ…こんな勝負のまっ最中に世間話?」


エーフィは冷たく切り返したが、まだ彼女はカードを握ったまま
だった。突然話しかけられた事もあって、【皇帝】を出す勇気が
飛び散ってしまったのかもしれない。



「本物の戦場ならいざ知らず、ここは武力など何の役にも立たないカジノ。
『勇気』ある者は称えられますが、死ななければ英雄視される事はない。
どちらにせよ生き残るのは、勝ち抜ける強さを持った者と、逃げきれた
臆病者だけなんです」



ーーーー何が言いたいか分かりますか?



ラティオスは奇々怪々な笑みを浮かべながら、手札に穏やかな視線を
送っている。その血液を連想させる真っ赤な左目が、ニヤッとエー
フィのカードに微笑んだ。



「…戦場では勇気なんて、自分を死なせるためのゴミでしかないんです」

「….そ、そうね….」


適当に相槌を打ちながら、エーフィは勝利への道を模索していた。
ラティオスが今さっき言った、勝利のルール。確かにアニメや漫画
ならば勇気=勝者の証となっているが、現実はどうだろう……



「(逃げきっても…..勝ちよね….)」


エーフィは空中で制止させたままの【皇帝】のカードを、そろそろと
手札に戻した。そして彼女の汗ばんだ前脚が掴んだのは、【市民】。
カードに描かれた、奴隷を狩ろうとする市民の絵。それが現実となる
よう願いながら、エーフィはそれをテーブルに伏せた。







パタッ…


ラティオス:【市民(CITIZEN)】
エーフィ:【市民(CITIZEN)】




「おやおや…また引き分けとは珍しい…」

「…あ、あなた…..まさか…」

「いいえ? とんでもない」


お互いのカードが【市民】だと分かった瞬間に、エーフィは
気づいた。ラティオスは勝利のルールを彼女に教えることで、
遠回しに「焦りは禁物だ」と言っていたのだ。すると緊張感で
張りつめていた彼女には、それは疑いようのない正論に聞こえる。
そして勇気の無意味さを知ったエーフィが、【皇帝】のカードを
出す確率は低くなるという算段だったのだ。



「(こ、こいつ…..なんて奴なの…)」


胸の中で悪態をつきながら、相手の裏をかけるような名案を浮かべ
ようとするエーフィ。しかしラティオスに見事に一本取られたため
か、心臓はバクバクと脈打っていた。



ーーーーー三回目。ここで蹴りをつけないと、勝負は五分五分の戦い
へと持ち込まれる。エーフィは皇帝側として、何としてもそれは避け
なばならなかった。



「随分と汗かいてますね….空調切りますか?」

「け、結構よ。タオルでも頂けるかしら」


ラティオスはパチンと指を鳴らし、係員にふかふかのタオルを
持って来させた。これが人生最後のゲームになるかもしれない
のだ…緊張するなと言う方が無理だろう。


パタッ…

「フフ….じゃあ再開しましょう…」

「……!」


ラティオスが差し出してきたそのカード。それを彼が気づかない間
に裏返せたら、どんなに幸せだろう。エーフィは一気に疲労した額
をさすりながら、自分の【市民】【市民】【皇帝】のカードを睨んだ。



ーーーーーーさっきは市民で大間違いだった。しかしだからと言って、
今回【皇帝】を出して勝てる保証はない。また、Eカードのルール上、
カードを無作為に選ぶことは許されていない。つまりは運には頼れない
….当てにできるのは、自分の持っている頭脳……いや、ずる賢さかもしれない。


「(私は後出しだから….言葉で混乱させることはできないのよね…)」


エーフィはやはり【皇帝】に目をつけた。自分を勝利へと導いて
くれる案内者となるか、奈落の底へと突き落とす悪魔となるのか。
エーフィはキッと目の色を変え、カードを表向けたままテーブル
に置いた。




エーフィ:【市民(CITIZEN)】


「・・・・・」
「…どうなのよ。早く裏返しなさいよ!」


カードを開いたというのにラティオスは石のように動かないため、
エーフィは一瞬だけ勝利を確信した。だが厳しい現実…...数秒後、
ラティオスはフフッと甘い声で微笑むと、パタッとカードをひっく
り返した。



ラティオス:【市民(CITIZEN)】


「う…そ、そんな…..」

「いやー偶然ですねー….今度こそ負けたと思ったんですが」


…ついに突入した、勝率50%の世界。
読むか読まれるか、稼ぐか食われるか。
さらにエーフィは皇帝側なので、勝ったとしてもその倍率は…
...はっきり言ってショボい。こうなれば命さえあれば儲け物。




「いや〜…やっぱり最後ですからね。ここは奴隷で締めるとしましょうか?」

「(こ、こいつッ…!!)」


ますます混乱させる言葉を吐き、実質のラストカード、四枚目を
場に出したラティオス。エーフィは必死に彼の意識を探ろうとし
たが、やはり心は閉ざされている。表情を見ても、特に何か興奮
している様子はない。冷静な面持ちで、自分のカードの裏を見据
えているだけだ。




結果としてエーフィは、闇雲にやるよりは良いだろうと思い、
ラティオスの発言を洞察することにした。




ーーーー『ここは奴隷で締めるとしましょうか』
ラティオスは確かにそう言った。もちろんその言葉を信じてはいけない。
…いや、逆に信じるべきかもしれない。流石のラティオスも、私がその
言葉を鵜呑みにするとは思っていないはず。

となればこのカード……奴隷? の可能性が高いように思えてくる…






エーフィの心に、ついに最後の結論が下された。
CITIZEN(市民)と
書かれたを先ほどと同じく表に向けたまま、大袈裟にテーブルにバンと
叩きつける。



エーフィ:【市民(CITIZEN)】



「ハァ…はぁ…はぁ…はぁっ…..」


「….エーフィさん…」







「僕が、私が…蛇に見えました?」

「蛇….ええ、そうね。他人を騙し、取って喰らおうとする卑怯者。
あなたにそういう感情を抱いたの、ブラックジャックを始めた時からよ」

「….やはり……そうでしたか…..」



ラティオスの青白い頬を伝う、ガラスのような熱い涙。
それを見た瞬間に、エーフィは彼に対する慈悲が込み上げてくるのを感じた。
…確かに今の今まで自分を騙し、喰らおうとした蛇なのかもしれない。

でも……それでも……




「そうか…僕はやはり….っ….そういう…」


戦場だったテーブルに肘を置き、両手で顔を覆い隠すラティオス。
その鋭い爪がついた指の隙間からは、涙が一筋、温かい光の下で輝いていた。


「だ、大丈夫よ……あなたはディーラー、私は挑戦者。あなたの未来
が消えた訳じゃないもの…」

「そう…ですかね…ハハ…」


涙でポロポロとテーブルに染みを作り、泣き崩れるラティオス。
よっぽど悔しかったのか、ときどき子供のようにしゃくり上げている。



「じゃあ….金券貰っていくわね」

「待ってください……」


顔を俯かせたまま、ラティオスは低い声で唸った。




「あなたさっき…僕のこと、蛇に見えたって言いましたよね….」

「ええ….だ、だって私を何回騙したと思ってr…」

「…そう、負けるのが怖い臆病者。
そして他人を簡単に騙してしまう….何故だか分かりますか?」








「だって…蛇ですもの」


ラティオスはそう呟くように言うと、まだ裏を向いたままの
カードに手を伸ばした。不器用な優しさで包まれていたエー
フィの顔が、サーッと蒼ざめる。





パァンッ!!







ラティオス:【市民(CITIZEN)】




「えっ………………」

「フフフ….あれ、僕負けたなんて言いましたっけ?」


顔を覆い隠している手の下で、ルビーのような彼の左目がキラ
リと毒々しい色に煌めいた。べぇっと舌を出し、兄そっくりの
悪顏でニヤける。


「ちょ…ど、どういう事よコレ…」

「えーっと四枚目も引き分けという事ですので、自動的に奴隷側、
すなわち私の勝利という結果ですね」

「なッ……!!!」


開いた口が塞がらないエーフィ。これではまるで、負けも知らずに
慈悲を掛けていた自分が馬鹿みたいではないか。気がつけば彼女の
肢体はカーペットを駆け抜け、ラティオスに飛びかかっていた。

しかし待機していた係員に取り押さえられ、無理やり床に組み伏せ
られる結末に終わった。



「ど、どういう事よ….また私を騙したっていうの!?」

「いいえ、私がカードを裏返す前に、勝手に勝ちを宣言していたのは
あなたですよ? その責任をなすり付けられては…いやはや困りますね…」


ラティオスは自分の【奴隷】カードを、エーフィの【皇帝】の上
にカチャッと重ねて置き、勝利を宣言した。エーフィは係員ら
に四肢を掴まれ、歯軋りしながらラティオスに怒りの目線を投げ
つけていた。



「あなた最低よ….絶対に殺してやる!!!」

「…ええ、最低の極みですよ。
騙して騙して騙して騙して……騙す。それがEカードですから」


その後エーフィは強制的に連行されていき、別室で罰ゲームを受け
ることとなった。彼女がダイヤの部屋に消えていくのを、【奴隷】
はクレイジーな瞳で笑っている。





<2011/09/17 00:38 ロンギヌス>消しゴム
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