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ぼくのなつやすみ − 旧・小説投稿所A

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ぼくのなつやすみ
− 法を超えるリスク −
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「嫌な天気ね….さっきまで晴れ渡ってたのに…」


レムリアは呟いた。都市の上空を、どんよりと厚い雲が覆
い隠している。清掃の行き届いていない裏路地を闊歩する
彼女の上には、カラスがギャーギャーと唸るように鳴いていた。


「……あ…今日の新聞…」


電柱の根元を埋め尽くしていたゴミ袋の山に、今朝発行さ
れた朝刊が放り投げられていた。レムリアは付着していた
生ゴミをバサバサと落とし、【TIMES イッシュ】と題
された一面に目をやった。トップ記事には、やはり凶悪犯
罪者・・・マスターや仲間が写っている。


「…この竜が放つ悪臭は花さえも枯らしてしまうと噂が…
…何よこれ、バビロンが花に近づくはずないじゃないw」


ところどころに出てくる他愛もない噂に憤慨しながら、
目的のページを発見した。あのポンコツニュースキャス
ターが結局教えてくれなかった、仲間達の懸賞金だ。



「え〜と….なになに? 今回の懸賞金はバイオリック社の
強い要望と寄付により、通常の賞金の限度額をはるかに上
回る金額に設定しました?」


染み付いた文字を読み通しながら、レムリアはコクコクと
頷いた。しかしその「限度額を上回る金額」を見た瞬間、
彼女は自分の目を疑った。


「何よ….これ…」


【狂人チャンピオン】ロンギヌス:2億4000万円

【青い悪魔】エターナル=カイオーガ:3億3300万円

【人工竜】バビロン:3億円


どうやらバイオリック社が、警察の懸賞金に多額の上乗せ
をしたようだ。恐らくこのイッシュ史上、最高額を記録し
たに違いない。レムリアは開いた口が塞がらない様子で、
クラクラと廃店のシャッターにもたれかかった。



ガチャン・・・!!!!

「ん〜?」


隣に置いてあったゴミ箱の蓋が、不自然な動きを見せて
落ちた。レムリアはスッと眼を細め、不審そうに近づい
ていく。ゴミ箱の陰に、誰かが息を潜めているらしい。


「誰かいるんでしょう? 恥ずかしがらずに出てきたら?」

「・・・・・・」


彼女の声に返事することもなく、大人しく姿を見せる様子
もない。レムリアは先程よりも浅い溜め息をつくと、クス
ッと微笑んでゴミ箱を払いのけた。



「……だれ?」

「…っひ….あ、あんたに用事はないわ….ただ通り過ぎようとしただけよ!!」


レムリアのマスカット色の瞳に映ったのは、「ただ
の」通行人を名乗る二十代の女性だった。まるで生
徒指導の先生のような、厳めしそうな顔つき。しか
しどこかに恐怖と、不安と羞恥が見え隠れしていた。


「ちょ、ちょいと聞かせな….あんた何処から来た?」

「さぁ、どこかしら♪」

「…うっ、うわっ…!!」


質問には一切答える素振りを見せず、女をアスファルトの上
にツンと押し倒すレムリア。そのまま抵抗を許さず、足首か
らハグッと咥えるのだった。


「なっ…!!!」

「ちょっと失礼するわね….私、お昼の時間なの」

「い、意味がわからn…ああっ、ヤメテ…!!」


空腹時にいそいそとやってきた新鮮な肉を、逃がすほど彼
女は優しくはない。女の膝の辺りまで口に押し込むと、上
半身を両手で抱え、レムリアは立ち上がって上を向いた。
あとは女の方から重力に従って、喉に沈んでいくのを待つのみ。



「ああ….なんで…どうして…ぇ…!」

「私の目の前に…出ちゃったから♪」


唾液で艶のある舌で、女をずぶずぶと引き込む。さほど
広くない肉のトンネルは、早くも下半身を呑み込む。そし
てせめて苦痛を与えないように、レムリアは素早く喉をゴ
クンと鳴らすのだった。


「…ぅ……」

「はい、おしまい」


人間を丸々呑み込んでしまったお腹は、重みでずむっと下
に垂れ気味だ。甘い生クリームを連想させる色の、もっこ
り膨らんだ彼女のお腹。食事後の舌舐めずりをジュルッと
済ませ、レムリアは翼を広げた。


「ふふ….マスターも今日ぐらい、わがまま許してくれるかな?」



==================


一方こちらは、やっとの事で警視庁に到達できたロンギヌ
ス組。カイオーガは初めて見る「警察」という軍隊(?)に、
声を昂ぶらせて興奮していた。堂々とした門には、右と左
に一人ずつ、警備員が唇をキュッと結んで立っている。


「よぉ〜し、カイオーガ、右の奴を頼んだぞ」

「了解ッ!」

「あ、くれぐれも喰ったり殺したりしないように」

「……チェッ…りょーかい」


ポケットから勢いよく飛び出し、本来の大きさに戻るカイ
オーガ。ロンギヌスはケースの奥に沈んでいたメモリをひ
っ掴むと、電柱や看板に隠れながら警備員の元へと近づいていく。
そして・・・・



「ぅおらぁぁぁぁっ…!!!!!!!!」

ゴッチーン!!!


金属製のメモリの角を、全身全霊で警備員の頭に叩きつける。
痛さに呻く時間もなく、警備員はドサッと地面に転がった。


「フッハッハ….どうだ参ったか!」


シャキーンとメモリを振りかざして威張るロンギヌス。何か
を成し遂げた直後はいつもこれだ。その度にラティオスかカ
イオーガが突っ込む羽目になるのだが、今は状況が違う。カ
イオーガは警備員の首に舌を巻き、ムギュギュッと締め上げ
ていた。あっさりと、第一の関門は突破する。



「よし…成功しt…」

「そうはさせないよ」


真面目そうな青年の声に、二人は空を見上げた。灰色の曇
り空をバックに浮かんでいたのは、鮮やかなシアンブルーの
竜・・パチンコ屋で別れたはずの財竜だった。さっきと比べ
て異常に鋭い彼の目線に、ロンギヌスも思わず震え上がる。


「よくもボクを騙したね….許さないよ君達!」

「あ〜ゴメンゴメン。焦ってたんだよ、さっきは」


『ド変態』と『殺人鬼』が素直に「ゴメンなさい」を言う
などありえない。中指を立てたりブーイングをしたり、明
らかに挑発としか思えない動きを繰り返すロンギヌス。
まるで、向こうから攻撃してくるのを待っているようだ。



「…イッシュ刑法第12条、高等警察に対する不謹慎極まり
ない侮辱は厳罰に処する。君たちがどんなに強くても….法
の壁は破れない」

「俺らは法を犯しに来たんじゃない。誤解を解いて、また
リーグの糞まずいコーヒー、飲みたいだけだよ」


ロンギヌスはポーチから、チャンピオンの真紅のマントを
引っ張り出した。伝統は嫌いという理由で身につけた事の
なかったそれを、生まれて初めて首に巻きつける。


「なんだ? マントを着たらパワーアップするのかい?」

「まあ……これでも一応、チャンピオンですから」


財竜の手から、安全装置である手袋が外された。あの黄金
の右腕に触れてしまえば、気付いたときには牢獄の中だろう。
ロンギヌスは自慢のガイアメモリを全てマントの裏側に忍
ばせると、カイオーガにこう囁いた。



「…今日だけは、援護の方よろしくな」

「……喜んでっ♪」


その無邪気なにこにこ顔を、ずっと見ていられたらどんな
に楽だろう。だが時間が経てば経つほど、警備員がどんど
ん集まってくるに違いない。ロンギヌスはとっさに駆けだ
し、財竜の懐を目がけて突っ込んでいった。











「(頼むぞ….バビロン…)」





<2011/08/27 22:50 ロンギヌス>消しゴム
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