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ぼくのなつやすみ − 旧・小説投稿所A

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ぼくのなつやすみ
− 『財宝』を司る者 −
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貴重な情報をたんまり手に入れたバビロン。だがその顔色は、
ウキウキらんらんという雰囲気ではない。実は先ほど尋問した
男の話の中に、気がかりな内容が含まれていたのだ。男が泣き
叫ぶ声が、はっきりと蘇ってくる。



ーーーー警備隊に、財務省から派遣された強者がいるって聞いた….く、詳しくは知らないんだ!! 本当だ、信じてくれ!!


「……財務省からの、強者か…」


男の残したセリフが、どうも脳裏に引っかかる。ロンギ
ヌスにはカイオーガが付いているし、レムリアだってお姫
様じゃないのだ。それなりの戦闘力は持っている。

だがその強者とやらが、人間じゃないのであれば話は別だ。
実際に遠くの国では、竜が警備隊に所属しているという話
も聞いたことがある。万が一・・・用心棒として竜やらポ
ケモンやらが派遣されたのなら、仲間にも危険が及ぶ事になる。


「….何を考えてるんだ私は…」


他人のことに気を寄せる余り、電柱に正面衝突しそうにな
った。バビロンは自分の頬に一発ビンタをかまし、飛ぶこ
とに意識を集中させようとする。


「……マスターの奴…出くわさなければいいが…」





=============



「ヘッ…ハッ…ハックシュン!!!!」

「マスター大丈夫? 夏風邪でも引いちゃった?」

「うぅ….おそらく、誰かが俺を褒めまくってるに違いない」


ロンギヌス(カイオーガ付き)は、巨大なパチンコ屋の駐
車場に身を潜めていた。銀のセダンの陰に隠れて、一歩ず
つ警視庁との距離を縮めていくつもりだ。まあどう少なく
見積もっても・・・あと四キロはあるが。


「でもさぁ…瞬間移動できるメモリってあったよね? それ使おーよ♪」

「あのな….警備員の気持ちになって考えてみろ。いきな
り目の前に指名手配犯がテレポートしてきたらどう思う?」

「お手柄ゲットの大チャーンス!!」

「いや、それもあるかもしれないけど…まずは警備隊を
呼び出すだろ。そんな大事を起こす必要はないの!」


「テメェら….他人の車で何してやがるんだ!!!?」


鼓膜が震えるような大声に、ロンギヌスはサッと振り返る。
するとそこには、不精髭をボーボーに生やし、くたびれた
スーツを着た男が立っていた。全身から「パチンコで大負
け」のオーラが漂わせている。


「見事に傷つけてくれやがって….ほら取りあえず持って
るだけでいいから…金出しな」

「(指一本触れてないのに・・・)」

「マスター、ヤクザ処理ならお任せあれ♪」


カイオーガが待ってましたと、胸ポケットから飛び出して
男に掴みかかろうとした。しかしロンギヌスの背後から、
聞き覚えのない声が轟いてきた。


「ちょっと待った君たち!!!」

「「「・・・・?」」」


全員の視線が、まっすぐにその声の主へと移る。
そこには青空と同じ、美しいシアンに身を包んだ竜がいた。
ただ右腕だけは純金を溶かしたような金色に輝いており、
両手には似合わない手袋をはめている。



「ここで暴力事件は困るからね….取り締まらせてもらうよ」


バビロンやレムリアとそう変わらない巨体が、ズンズンと
近づいてくる。いざこざの原因を聞かれると、ロンギヌス
はさりげなく腕で顔を隠しながら喋った。


「こ、この人がいきなり….壊してもない修理代を請求し
てきたんです…」

「お、お前が傷つけたんだから、払うのは当然だろうが!!! いいからさっさと金を…」


竜を前にしてパニックになったのか、男はカアッと頭に
血を上らせた。短気まる出しの形相で、ロンギヌスに拳を
振り上げた。しかし次の瞬間・・竜は右手に着けた手袋を
放り投げると、ロンギヌスを庇うように前へと飛び出した。
そして皮肉の込もった言葉を、男の耳元で吐き捨てる。


「…そんなにお金が好きなら….お金になってみますか?」





・・・・チャリーン・・!!














「……え…?」


目の前で起こった事を理解するのに、ざっと五秒ほど要した。
男の肉体は、忽然として消えていた。まるでシャボン玉
が割れたかのように。背伸びをして周囲を見回しても、あ
の欲望にゆがんだ顔はどこにも見当たらない。




「マ、マスター….これ…見てよ…」


カイオーガが呆気に取られた顔で見ていた先。そこには
煤で汚れた金貨が一枚、アスファルトの上に虚しく転がって
いた。こんな硬貨、生まれて一度も見た事がない・・・



「こ、これ….お前がやったのか…?」

「あ、うん…..ボク、右手で触れた人を金貨に変えられるんだ」


使い古した金貨一枚。これがあの男の価値ということなのか。
竜は何食わぬ顔のまま、車のボンネットに落ちていた革の
手袋を再びはめた。そして顔をダイレクトに見せようとは
しないロンギヌスに向き直り、ペコッと一礼をする。


「申し遅れました。ボク、財務省特派員の財竜っていいます。よろしくね」

「あっ…そりゃ、ご丁寧にどうも」



「…にしてもこの街も物騒になりましたよねぇ….知ってま
すか? 凶悪犯罪者がウロウロしてるんです」

「あ、ああ…うん、一応噂ぐらいは耳にしたかな…」


目の前にいるのが、まさか警察に関わる竜だったとは。ロン
ギヌスは冷や汗を滝のように流しながら、落ち着きを取り戻
すのに必死だった。


「あ、そうそう。上司から言われてるんで、これ配っとき
ますね。指名手配のポスターです」

「(ゲッ….ヤバい…!!)」


ロンギヌスは「用事があるから」とお茶を濁すと、全力疾走
でパチンコ屋から離れていった。こんな目の前で「この顔見
たら110番」のポスターなんて手渡されたら、自分が犯人だ
と訴えるようなものだ。

財竜はしばらく不審そうに彼の背中を見つめていたが、
結局やれやれと帰っていった。指名手配された3名の手配
書を、パチンコ屋の「新台入替」のポスターの上に貼りつけて。




〜 財竜(MONEY DRAGON)〜

DETA:
財務省からの派遣員。貨幣や流通に関する並外れた知識と
計算能力は、バビロンに勝るとも劣らない。

体色:
滑らかなシアンで、右腕だけは輝かしい金色。
腹部はルギアのような、ちょっと薄めの水色になっている。

能力:
右手で触れた者を金貨に、左手で触れた者を宝石(触れ
た者の誕生石)に変えてしまう。24時間が経過すると
効果は消える。そのため生活するときには、常に黒い手
袋をはめている。

例:
財竜がロンギヌスに右手で触れると、ロンギヌス
は金貨になってしまう。(枚数はその人の価値によって決まる)

例:
財竜がロンギヌスに左手で触れた→ロンギヌスは
3月生まれなので、アクアマリンと化す。

補足:
ムゲン竜(レムリア)に負けず劣らずの貴重種で、
世界に五匹も生息していないという。

<2011/08/24 23:22 ロンギヌス>
消しゴム
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