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無知 − 旧・小説投稿所A

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無知

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 突然目の前が真っ暗になった。鼻をつんざくようなにおいが漂ってくる。

 「何? どうしちゃったの?」

 僕はパニックになる。けど、すぐに理解した。ここはきつねさんの口の中だ。

 「きつねさん、どうしたの? ここを開けてよ」

 きつねさんからの返事はない。

 「ねえってば」

 きつねさんは、返事を返す代わりに生ぬるい舌を僕に巻き付けてきた。表面はざらざらとしていて、湿っている。とっても気持ち悪いよ。

 「や、やめてよ」

 よだれが僕の頭のてっぺんからふりかかる。これじゃあ体中がべとべとになっちゃう。目によだれが入ってとても痛い。

 「い、いた・・・や、やめてー」





 声が聞こえたのかな? 本当にやめてくれた。ここぞとばかりに僕はきつねさんに文句を言うことにした。

 「ひどいよきつねさん! 出して、ここから出してよ!」

 「出さない・・・・・逃がさない」

 きつねさんが喋ると、喉の奥から風が吹いてくる。とっても熱くて匂いの強い風。うん、あれえ?

 今出さないって言ったよね。

 「ど、どういうことなの?」

 僕は恐る恐る聞いてみた。

 「鼠は餌」

 きつねさんはとっても冷たい声でぴしゃりと言い放った。





 ねずみ・・・ねずみといえば僕だ。僕が餌? どうして、どうしてなの?

 「どうして僕が餌なの? 僕はキイチゴじゃないのに」

 僕は木の実が大好きだけど、僕は木の実じゃないよ。ねずみだよ。

 「ねずみ美味い」

 きつねさんが言った。僕に話しかけたんじゃなく、独り言をつぶやくみたいに。

 「どうして? 僕なんて全然美味しくないよ」

 また上からよだれの雨がふってくる。ねばねばしてて気持ち悪いよ。

 「僕を・・・食べるの?」

 僕は泣きそうになりながらきつねさんに聞いてみた。





 「もちろん」

 きつねさんはそう言うと、僕の体を口の中で転がし始めた。

 「わっ・・・いや・・・!」

 右へ左へ、奥へ手前へ。僕はただただ舌でごろごろと押されるしかできなかった。よだれが僕の毛皮に染み込んで、体が重くなっていく。

 「お願いだよ、きつねさん止めてよ」

 食べられるなんてやだよ。怖いよ。僕は必死にお願いしたけど、無駄だった。きつねさんは僕の声なんて聞こえちゃいないんだ。

 どうしてこんなことするの? 僕良い子にしてたのに。それともきつねさんが悪い子なの? 悪い子はママに怒られちゃうんだよ。

 きつねさんの苦いよだれが僕の口の中に入って、僕はけほっけほっと噎せた。

 「苦しい! 出して!」

 目から涙があふれてきた。それでも、きつねさんは止めてくれない。

 「ママに会わせてくれるって言ったじゃないか!」

 僕は泣きながら怒った。



 あれ? 急に動きが止まったよ。

 「そんなに会いたいか」

 「うん」

 僕は素直に答えた。

 「そう」

 またきつねさんが舌を動かす。

 また舐めまわされちゃう。僕はそう思って身がまえた。

 けど、そうはならなかった。



 舌が斜めを向いていく。よだれでぬめぬめになった場所を僕はすべり落ちていった。目の前に真っ暗なきつねさんの喉がある。それを見て僕は背筋が凍った。

 「やだ、怖いよ僕」

 必死で首をふるけど、きつねさんはそんな事おかまいなしに僕を喉へ送り込む。





 ゴクリ・・・・・





 僕は静かに落ちていった。


<2012/12/06 16:29 ぶちマーブル模様>消しゴム
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