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無知 − 旧・小説投稿所A

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無知

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警告:強めの消化表現があります





 「うぅ・・・」

 全身を肉の壁に挟まれて全然動けないよ。僕はゆっくりゆっくりと暗い穴を降りて行った。



 そして床が感じられる場所までやってきた。

 すごく熱い。そして酸っぱいにおいが立ち込めている。思わず息をとめたけど、すぐに苦しくなって僕は思いっきり酸っぱい空気を吸っちゃった。

 「うわあ! げほっごほっ」

 一気に体の中に酷い臭いが流れ込んで、僕はせき込んだ。喉がとても痛いよ。

 「ああ、本当に食べられちゃったんだ」

 それを実感して僕はとても怖くなった。また涙が出てくる。誰か助けてよぅ。



 「うん?」

 その時、左後脚で何かをふんずけた。

 「何? 今度は何なの?」

 僕が振りかえると、そこには見慣れた尻尾があった。妹の尻尾だ!

 びっくりしたけど、ちょっと救われたような気分になって僕は声をかけた。

 「ねぇ、大丈夫?」

 あれ? 返事がないや。

 「ねえってば」

 僕が尻尾を引っ張ると、そこには尻尾しかなかった。妹の姿は見当たらない。



 尻尾だけ・・・尻尾だけ・・・・・・

 「う・・・うわああああああああああ! ごふっ」

 妹が・・・妹が・・・僕はあわてて尻尾を手放して悲鳴をあげたけど、また酸っぱい空気が入ってきてすぐに声は出なくなった。

 「ほ、他のみんなは?」

 僕は必死に肉の壁の奥に前脚を突っ込んでみた。すると、ぼとぼとととろみのある水が流れ落ちてきた。その中には毛玉がいくつか入っていた。

 「ああ・・・」

 僕は目を見開いてがたがたと震える。

 「これは兄ちゃんの・・・それにこれはママのだ・・・・・・」

 毛だけでも匂いで分かる。色で分かる。間違えようがない。



 嘘だ。

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

 「ママ」

 呼びかけても、返事はなかった。

 「そんなぁ・・・ぐすん・・・」

 僕はその場でうずくまってずっと泣いているだけだった。





ポタリ

ポタリ





 泣き疲れた僕の背中に水が落ちてくる。なんだか背中がかゆくなってきたや。どうしたんだろう? そういえば、なんだか全身の毛皮がおかしいよ。

 体に目をやってみると、毛皮の形が崩れてべとべとになっていた。

 「ふえぇ僕どうしちゃったの」

 びっくりして触ってみると、毛がはがれおちて肌がむき出しになった。その肌も赤くなっている。

 「さっきの水のせいだ・・・」

 周りを見ると上下左右から水があふれてきている。

 「いやだ・・・いやだ・・・」

 このままじゃ毛が無くなっちゃう! いや、もしかしたらその下の体まで。そうしたら僕は・・・

 僕は恐怖に押しつぶされそうになった。

 「出なきゃ、ここから出なきゃ」

 僕はまだ短い爪で必死に引っ掻いて、前歯で肉の壁をがじがじと噛んでみた。



でも・・・



 「ひゃうっ」

 ジュワアァァァァァァァァと音がなって、僕の爪と自慢の前歯が溶けていった。

 やだよ。助けて。

 溶かされた場所にまたボタリと水が落ちてくる。

 「わっ、痛いよ!」

 ドジな僕は今まで何度も怪我した事あるけど、そのどれよりも痛かった。

 もうわけがわからなくなってきたよ。逃げたい逃げたい逃げたい。

 その気持ちだけで出口も分からないのに僕は走り出した。





 ビギィ

 「いやあああ」

 脚が急に痛くなったから見てみたら、変な形になって血が出てた。

 「助けて! ママ助けて!」

 必死に叫んだけど、助かるはずがなかった。

 その間にも僕は酸っぱい水の中に沈んでいく。

 泳げない僕は水をたくさん飲み込んじゃった。

 「あうぅ・・・」

 喉が痛いよ。お腹が痛いよ。きつねさんはどうしてこんな酷い事するの? ごめんなさいするから許してよ。痛いのやだよぉ。

 痛くなったお腹をさすったら、ぷにぷにになって前脚と一緒になった。

 「や・・・だ・・・」



 僕はママの毛玉に前脚を伸ばそうとした。

 あれ? 前脚がないよ? それになんだか目の前が真っ暗になってきたよ?

 僕はいったいどうなっちゃったの?

 ねぇ、教えてよ?





救われない話。

もうちっとだけ続くんじゃ(本当にもう少しだけ)
<2012/12/07 12:07 ぶちマーブル模様>
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