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稲光と氷雪 − 旧・小説投稿所A

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稲光と氷雪

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町から遠く離れた街路。
整備が行き届いておらず、草々が左右の裾に生い茂り
小石に溢れた土の街路。

「カズチ。目標は確保だからね?」
「ちっ、生け捕りは面倒いんだよ」

ユーリィは本部より依頼を受けていた。
この街路で頻繁に民間人が強盗の被害を受けているとの事だ。
その実質の手がかりを掴む為の依頼だ。
関係者が現れた場合には生け捕りせよとの依頼。
ユーリィ一人でも問題はないのだが。
カヅチがついていくと言い張り、仕方なくユーリィが許可を出したに至る。

「ごちゃごちゃと五月蝿いんだよ!」

2人組の武装した獣人。おそらく強盗の一味だと推測できる。
ユーリィらを不快に思ったのかそれとも、獲物だと判断したのか
手にした鉈に類似した刃物を構え、距離を詰めにくる。

「カヅチ、怪我だけはしないでよ?」
「お前もな!」

互いに一瞬のアイコンタクトを交わすと、敵戦力を分散させる為にユーリィ、カヅチともに
正反対側へと散開する。
戦闘経歴も戦術指南も受けていない輩達だ。彼らのそれには気付かない。
陽動に引っ掛かり、ユーリィに強盗の片方が対峙する。

「武器を捨てて、降伏してください……まぁ、そんな気はないと思いますが」

誰でも無駄な争いは避けたいものだろう。
言わないよりは言っておいた方が得策。
可能性がゼロでない限りは。
当然の事ながら、即刻警告は破綻。
確かな殺気を滲ませた強盗が鉈を振り回しながらユーリィに襲いかかる。
ガギャ……と鈍い金属音が周囲に谺する。
鉈に対したユーリィの武器は表紙が鉄で武装された魔導書だった。

「て、てめぇ! ギルドの連中かっ!!」
「てやっ!」

ユーリィが魔導書を手放した。
その直後、魔導書とユーリィの手との間に閃光を放つ魔力の糸が生成される。
魔力糸は魔導書を繋ぎ、鈍重なその本を中空に留めていた。
ユーリィがすかさず腕を振るう。
糸に繋がれた書が強盗を薙ぎにかかる。
ゴッ……とこれまた鈍い音が強盗から零れ落ち、沈黙する。
口から泡を吹き、白目になり地面へと崩れ落ちる。

「……確保だから、いいよね……?」

何か重体になってしまったような気がするユーリィだが、目的に問題はない。
取り敢えず、殺害だけは避ければ良いのだから。

「たっ、助け……!!」

悲痛な強盗の相方の声。
聴覚がそれを捉えてから数瞬。
ユーリィはその声に身を翻す。



<2012/10/08 21:40 セイル>消しゴム
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