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稲光と氷雪 − 旧・小説投稿所A

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稲光と氷雪

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強盗を捕食するカヅチ。
その体躯はユーリィ宅時の比ではない。
人間など容易に喰らってしまえそうな程に巨大化した精霊。
体躯はゆうに5mは越えているだろう。

「五月蝿ぇな。少し黙ってろ」

カヅチは口内に収めている強盗にやや強めに牙を押し当てた。
自らの体を容易に貫くかのようなカヅチの鋭牙。
体を震わせて、戦慄を覚えるほどのその恐怖に押し黙るしか無かった。
いや、喋ることも出来なくなったのだと言った方が正しいか。

「!? ぁ……」

唾液でべたべたに濡れ、強盗は困惑の呻き声を漏らした。
そう、生体電気だ。
カヅチは項の触手だけでなく口腔内、体内での生体電気を捕食することも出来た。
肉厚な舌を巻き付け、唾液を執拗に塗り付け体力を、生体電気を奪い取る。
ものの数十秒で強盗は抵抗一つ出来ない程疲弊しきっていた。

「カヅチ! ダメだよ!」

人間が喰われる。
余りにも現実離れしたその光景には他者を引き付ける魔性を秘めていた。
強盗の呻きに遅れること数秒。
ようやく現実に帰ってきたユーリィがカヅチに走り寄り制止を求めた。

「あ? 別に良いじゃねぇかよ。動けなくすればいいんだろ?」
「そ、そうだけど……」

確かに、カヅチの生体電気の捕食は他者の生命を奪う手段としては心許ない。
完全に殺害するには、別の手段が必要となる。
確保……観点をそれだけにするのならば、何も問題はない。

ズルッ……ゴクン

「あっ! カヅチ!」

面倒臭さそうな表情でユーリィに横目を遣ると、強盗を喉奥に滑り込ませ
一瞬にして飲み下してしまう。

「安心しろ。電気貰うだけだ。溶かしはしねぇよ」

狼精霊であるカヅチだが、もちろん生物のように消化器も存在する。
自身の糧になる物は何一つないが、獲物を消化する事も出来た。
しかし、カヅチはユーリィの事を思案して ”拘束” の意味で丸呑みにした。

「ほら、もう一体も寄越せ。運んでやるよ」
「とか言ってただ、食べたいだけでしょ?」

カヅチの下心は透かされていた。
今度はユーリィが不満一杯の表情を浮べて、反論する。

「ん? お前も”拘束”して欲しいのか?」
「……分かったよ、もう……」

どうも、リオートが居ない状況になると、カヅチの横暴さが曝け出る様だ。
流石に自分も”拘束”されてしまっては依頼の状況に影響が出てしまうため
渋々、ユーリィはカヅチに従う事にする。
交戦場所はそう遠くない距離。
5mまで巨大化した貪欲な狼を案内する。

「俺が運んでやるから感謝しろよ?」

ハクッ、ゴクッ……

地に伏したままの強盗の片割れを咥え込み、持ち上げる際に口内に引き込んでいく。
一回、二回とすぐに矮小な人間の体は狼に捕われていく。
ものの数秒で、2人の人間がカヅチの胃袋に収められる。

「わっ!?」

溜息を漏らすユーリィを尻目に、ご機嫌なカヅチがユーリィの襟を咥え上げた。
いとも簡単にユーリィの体は宙に舞う。

「ちょ、ちょっと! 約束がー」
「そんな騒ぐな。俺は約束は守るほうだぞ?」

ユーリィが重力に捕われ、落下した先はカヅチの口内ではなかった。
極上の滑らかさと、モフモフ感の獣毛に溢れた逞しく強靭な背中であった。

「疲れてんだろ? 姉さんも待ってる」
「カヅチ……ありがと」
「その代わり、電気貰うからな!」

グンッ、と体が後方への抵抗を受ける。
カヅチの強靭な足腰による急激な加速に重心を攫われてしまったからだ。
行きには2人で会話しながら歩んだ道を瞬く間に還っていく。
あれだけ長い道が嘘のようだ。
出発際に紡がれた言葉が冗談である事を、ユーリィは理解していた。



<2012/10/16 20:14 セイル>消しゴム
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