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稲光と氷雪 − 旧・小説投稿所A

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稲光と氷雪

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「ただいま……」

一人の少年が扉を開く。
一枚の簡素な木板の中心に縦に長い長方形の曇り硝子が挟み込んであり、ドアノブがあるだけ。
その動作に緊張など無く、日常の一つの動作である事を感じさせる。
言葉と良い、彼の開けたドアは自宅のようだった。

「おっ、早かったな!」

彼が疲労困憊なのを気にもしない声。
疲労困憊な理由。それは依頼後であったからである。
彼は現代で言う高校生ぐらいの年齢で、ハンターであった。
それも新米ではなく、凄腕の大人達と肩を並べられる程の。
声の主は人間ではない。
黄の体毛に身を包み、その項より電線のような触手が二本生え、紅の瞳を持つ狼。
名はカヅチ。雷属性の狼精霊。

「うぅ……寝かせて……」

少年の名はユーリィ。
ユーリィはカヅチの言葉に耳も貸さずベッドへと倒れ込んだ。
鉛のような体に果てしない倦怠感が彼を襲い、別の世界へと誘おうとする。

「腹が減った。電気寄越せよ、ユーリィ」

電気を寄越せ。意味はそのままである。
彼は雷の精霊。当然、食事も雷を秘めた物でなければならない。
だからこそ、彼は生物の”生体電気”を餌としているのだ。
それに対し、ユーリィは無言で右腕を差し出した。

「ククッ、悪いな」

カヅチはさっそくその右腕に項の触手を伸ばした。
その触手は電気の搬入、排出を行っている。
そこから生体電気を捕食、または自らの電子を放出する事が出来る。
触手の先端に付いている三条の鉤爪が右腕をー

「後にしてあげたら? ユーリィ疲れてるでしょう?」

と、その寸前に背面から高い声が飛ぶ。
蒼と水の繊細なグラデーションが描く、大海の体毛に紫の眼光が光る。
彼女も狼精霊。
氷属性を司る高位の精霊である。

「じゃあ、俺の空腹はどうするんだ?」
「我慢しなさい」
「……ユーリィ、後でちゃんと喰うからな?」

やや不満そうな表情を浮べ、カヅチが電気捕食を諦めた。
項に触手がしまわれ、ベッドから離れていく。

「ありがと、リオート」
「ゆっくりお休み……ユーリィ」

彼女はリオート。
今のやり取りを見る限り、カヅチよりリオートの方が権限が強いようだった。

「貴方の枕にでもなってあげたいけれど、凍えさせちゃうのもね……」

カヅチが生体電気を喰らうように、彼女も生体熱を補食する。
対象は触れている生体熱を発するモノ全て。

「ふふ……可愛い顔で寝ちゃって」

そう、ユーリィがこの若さでハンターを務められる理由。
この2体の精霊と契約、もとい気に入られてしまったからである。
本人の実力もさながら、精霊という力は恐ろしくプラスであったからだ。


そして、この光景は日常の一部なのである。







<2012/09/30 16:22 セイル>消しゴム
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