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狼と狐のち日常 − 旧・小説投稿所A

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狼と狐のち日常
− 一番風呂だ! −
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「はぁ……疲れた」

暖かい湯船に浸かり、溜息を一つ。
突然な雨にバタバタし、獣達の世話での疲労が癒されていく。
湯気の上げる湯船にゆっくりと波紋が広がって
返ってくる……え、返ってくる?

「主が入っておったのか」
「あ、菫」

僅かに口角を弛ませ、菫が隣に入浴する。
喰われるのは勘弁なので、密かに距離をとった。

「東雲……」

ほらきた。前肢を伸ばし僕を捕らえてようとしている。
先手で距離をとった為に逃走できそうだった。

「逃げないでくれぬか……今宵は主を喰うつもりは無い」

冗談でも、嘘でもない。
抑えられた消え入りそうな菫らしくない声。
それに動揺し、足を止めるとすぐに菫の前肢に捕まる。
そのまま絡められる様に抱き寄せられ、ぎゅっと柔らかいお腹に背中を押さえつけられる。
顔の側に菫の顔が下ろされた。

「東雲……」

いつもの菫らしくない。
何事にも流されにくく、自分らしさを大切にしている。
その菫がこんなにも弱々しく、苦しそうな表情を浮かべているのだ。

「どうしたの?」

そう尋ねてみても、菫は僕の名前を呼ぶだけで何も答えない。
代わりに返事として強く抱き締めるだけ。

「菫、話してくれないと分かんないよ」
「東雲っ……」

いくら催促しても、菫は話そうとしなかった。
抱き締める力は次第に強くなり、苦しさを覚える程。
プロレスでギブアップの旨を伝える様に、菫の前肢にそうする。
と、菫はそれに気付いたようで慌てて僕を解放し
再度、優しく抱き締めてくる。

「すまぬ、東雲」

申し訳なさそうな表情を浮かべ、すぐに僕から目線を切った。
それ以降も決して視線を合わせようとはしなかった。
酷く思い詰めたようで、疲れ果てている。
昼間では想像できない程の感情の変化だった。
何があったのかは、菫自身が話してくれない限り理解はできない。
しかし、菫は話そうとはせず言葉も必要以上にない。
これまでに自分を語ろうとはしない菫は非常に珍しかった。

「んんっ!?」

何を思ったのか突然、菫は唇を重ねてきた。
風呂場の湿気を吸った体毛に包まれた唇が僕の唇と重なる。
そのままニュルリと口腔内に菫の舌が滑り込んでくる。
唇も離す事もできずに居ると、勝手に滑り込んだ舌に僕の舌が絡めとられる。
そうして、互いの唾液を交換してしまう。
僅か数十秒の接吻。互いの唇に長い銀線が伸び、僕らは自然と見つめ合っていた。

「す、菫っ!?」
「東雲……」

菫の目尻は下がり、気分が浮かないのは悟れる。
でも、この接吻が嫌とは思えなかった。

「暫く……このままで良いか……」
「うん……菫が望むなら……」

菫は僕の肩に顎を預け、より抱き寄せ、寄り添う。
僕はその口吻に手を添える。
その短い時間はとても充実していたような気がした。




<2012/04/25 22:13 セイル>消しゴム
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