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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜 − 旧・小説投稿所A

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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜
− 襲来と出逢い −
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「や、やめろよ……!! お前、自分が何をやってるのか分か
ってんのか!!?」

タンクトップ一枚というラフな格好のまま、ロンギヌスは
薄暗い鉄の回廊を疾走していた。顔を舐める空気はまるで
氷のようだったが、それ以上に顔は真っ赤に火照り、心臓
はドクドクと薄気味悪いほどに脈打っている。
とにかく後方に迫っている恐怖から逃れること以外、何も
頭が回らなかった。

「はぁっ……ハァ……っ……!!」

やがて、走っている最中は無限に思えた道が終わりを迎
える。目の前にそびえ立つ鉄骨製の壁に、ロンギヌスは
痙攣を帯びた手をついた。息を整える暇もなく、とうと
う「彼」がすぐ背後にまで追い付いてくる。決死の思い
で廊下を逆走しようかとも考えたが、身体が言うことを
聞いてくれない。体力が底を尽きた証拠だった。

「あ……ぁぁふざけるな……!! 冗談もいい加減にしろ!!」

「これが冗談じゃない事ぐらい、もうとっくに分かって
るんでしょ? マスター」

幼児のように甘ったるい声の響きと、鮮血を染め入れた
ような赤い両眼。5年前、イルミアと呼ばれる島で出逢っ
たときと何ら変わっていない。

そう……普段と何も変わっていない、筈だった。


「レムリアとバビロンをあんな惨いやり方で殺した挙げ
句、ギラティナとラティオスまで裏切って……そして締
めくくりは俺だってか!!? 狂ってる!!」

「自分が普通じゃない、っていう自覚は持ってるよ。そ
れはマスターも同じでしょ?」

「お……大馬鹿野郎……」

ロンギヌスが言った直後、「彼」は血の臭いが満ちた口
を再び開いた。しかし当然、それはもう言葉を発するた
めの行為ではない。日常の終末を告げる合図だった。



==============



「うっ……うわああああああああッ!!!!!!!」

断末魔のような絶叫を轟かせ、ロンギヌスはカッと瞳孔
を見開いた。数秒の沈黙を経て、自分が畳の上に横にな
っていること、目の前の光景が薄暗い回廊ではなく、蛍
光灯に照らされた明るい天井であることに気付く。
首を横に向けてみると、部屋の隅でラティオスとギラテ
ィナが壁に寄りそって寝ているのが見えた。

「ゆ、夢か……今の……」

しかしそれでも、不規則な呼吸はそう簡単には収まらな
かった。いざ胸に手を当ててみると、心臓が恐怖に縮み
上がっているのが分かる。夢だと気づいた後でこの有り
様なら、寝ているときは一体どんな拍動をしていたのだ
ろうか。いや、そもそもちゃんとポンプとしての役目を
果たしていたのか。


「あ、今起きたんだねマスター。おっはよ♪」

「……ひっ!!」

突如として声を掛けられ、ロンギヌスは全身の鳥肌が瞬
時に立ち上がるのを感じた。振り返ってみると、カイオ
ーガが部屋の入り口で無邪気に手を振っていた。どうや
ら散歩を終えてちょうど戻ってきたらしい。

当然と言われればそれまでだが、容姿や大きさが夢に登
場した「彼」と全く同じだ。唯一異なっているのは、
「この」カイオーガが浮かべている笑顔からは、邪な雰
囲気が伝わってこないという点だ。


「いや〜、実は聞いてよマスター♪ さっき、レムリア達と
一緒に事件に巻き込まれちゃってさぁ……」

「カッ……オーガ……」

「えっ、ちょ……ちょっと、どしたの急に!!」

気が付けばロンギヌスは我を忘れ、カイオーガの恰幅の良
い胴に身を預けていた。ちょうど胃袋の辺りが若干膨らん
でいるようにも思えたが、今は彼の肌に涙を擦りつけるこ
と以外、何も考えられなかった。


「えっと……お、お腹空いたの!!? それとも起きた弾みでテ
ーブルに頭ぶつけちゃったとか……」

「…………黙れ…」

「あ……うん」

彼の主人としては何とも情けない状況だったが、構わずロ
ンギヌスはすすり泣き続けた。その心情を大まかに察知し
てくれたのか、涙が引くまでの間、カイオーガは喋らず動
かずの姿勢を保ってくれた。今まで抱き締められたことは
無数にあったが、今日ほどそれを温かい感じた日は無かっ
た。


「何があったか知らないけど……まあ、気が落ちついたら
教えてね」

「……………ああ……」



その後、ロンギヌスは夢の記憶が薄れてくるまで、頑なに
彼の胸に顔を埋めたままだった。やがて悪夢の内容がほと
んど思い出せなくなったのを境に、ゆっくりと彼から離れ
る。
あまりに密着していたためか、顔面はムッチリと肌に貼り
ついていた。

「……大丈夫?」

「ああ……ゴメン。ちょっと気が動転してたみたいd……」

『……羨ましいッス……』

「「……え?」」

急遽耳に飛び込んできたのは、妙に聞き覚えのある声だった。
ロンギヌスもカイオーガも、急いで周囲を簡単に調べるが誰
もいない。ところがカイオーガが「お化けかもね」と言った
途端、それを否定するかのようにその者は正体を現した。


「"運命的"にまた会っちゃったッスね……カイオーガ先輩……」

「うげッ……な、何で君がここに……」

誰であろう、ダークライだった。クルーズを最後に別れたは
ずの彼が、影をドロドロに溶かしたような姿で床下から出現
する。その影が集まって黒いボディを構成したかと思いきや、
ダークライは驚異的な速さでカイオーガに飛び付いた。電光
石火の勢いだったため、堪らず彼も仰向けに押し倒される。
変態という種族の頂に立つダークライの前で、最も晒しては
いけない体勢だ。

「酷いッスよ先輩……オレだって先輩を死ぬほど愛してるの
に、どうしてまだハグの一回もしてくれないんスか!!!?」

「そ、それはいいからまずは降りt……」

「嫌ッス嫌ッス!!! 先輩が俺を全力でハグしてくれるまで、
何が起ころうと絶対に降りないッス!!」

ここまでの執着心と無恥があれば新世界を開拓できる……
とっさにロンギヌスはそう思った。
結局、ダークライは業を煮やしたカイオーガに鳩尾を殴られ
るまで、サナギの如く彼と密着したままだった。

ドゴッ……!!!

「はぅッ……ぁ……♪」

そうして吹き飛ばされる瞬間も、世界最高のプレゼントを
貰ったときのように笑みを絶やさない。ある意味で尊敬に
値する心意気だと、ロンギヌスは本気で拍手を贈った。(心で)


「……ったくもう……あ、そうだマスター、そろそろ帰る
準備しないといけないんだよね?」

壁に頭から激突したダークライの身を案じる素振りもなく、
カイオーガは言った。

「……え!? あ、ああ……6時までにはここを出ないといけな
いからな……」

慌てて左腕のG-SHOCKに目をやる。悲しいかな、既に5時
を回っていた。そもそもあんな身も蓋もない悪夢に時間を費
やしてしまったこと自体、不幸の沙汰だ。


「え…………悪夢……?」

やけに心に引っ掛かる単語だったが、その原因を探ろうとす
る必要はなかった。なぜなら鳩尾のダメージをも乗り越えた
彼が、今まさにフラフラとこちらに近づいて来ているからだ。


「おっ……お前かァ!!! お前が原因かァ!!!」

「な、何スか急に……あ、ちょっと止めt……」

「お前のせいで、俺がいったいどんな悲劇を見たと思ってん
だァッ!!!」

あんこくポケモン、ダークライ。
いくら悪夢を見せるのが本能とはいえ、能天気にやられっ放
しではいられない。ロンギヌスは自分が涙目になるのを感じ
ながら、全身全霊でダークライに肘鉄を喰らわせた。壁にめ
り込む彼の無残な姿が、先ほどのカイオーガに匹敵する威力
を物語っていた。


「あ、悪夢を見て泣いてたの? マスター」

「ああそうだよ……悪いか!!!?」

「ププッ……う、ううん全然。でも泣いちゃうほど辛い悪夢
なんて、一体どんなだったの?」

「……もう忘れた。やいコラ、この黒糖パン!!!」

なぜ黒糖パンが脳裏に浮かんだのかは説明できない。ただ単
に、腹を押さえてうずくまるダークライを見てそう思っただ
けだ。カイオーガに殴られたときとは違い、顔が素直に痛み
に歪んでいる。それに関しても多少イライラが募った。


「どうしてあんな悪夢を見せた!! もう殴ったりしないから言
ってみろ!!」

「た、退屈だったから……」

ドゴッ……!!!!

二度あることは三度ある。見事にクリティカルな一撃だった。



==============



「全くひっどいなぁ2人とも……オレはただ、ちょっと好奇心
が旺盛なだけッスよ?」

「それを決めるのは他人だっつの。お前じゃない」

このダークライに部屋番号さえ知られなければ、平穏な午後
のティータイムを満喫できたのかと思うと、ロンギヌスは思
わず悔しさに歯を唸らせた。何はともあれ、急須を傾けて全
員分の緑茶を注ぎ入れる。流石に和室で大好物のミルクティ
ーを飲むほど、ロンギヌスの感性は曲がっている訳ではなか
った。



・・・・・・・・



「何を地道に近づいてきてるのさっ!!」

「うひゃぁ……!!」

ダークライのあまりの執念に、カイオーガは正拳突き、のし
掛かり、手刀、舌での拘束などいろいろ試したが、どれもこ
れも彼の興奮のための材料でしかなかった。
やがて万策尽きたカイオーガがぐったりとテーブルに突っ伏
すと、ダークライは何を勘違いしたのか、狂喜して彼の背中
に抱き着いた。勝手にしていいよ、の合図だとでも思ったの
だろう。


「んぅぅぅふふふふ……先輩のニホイ……♪」

「マスタぁ……これ引っぺがしてよ……」

カイオーガの「マスター」発言に反応して、ダークライの
鋭い視線が急に飛んでくる。睨まれる道理など微塵も無い
はずだが、彼にその理論は通用しないようだ。

「マスター……ッスか。カイオーガ先輩から聞いたッスよ。
アンタは先輩と2人でゲームしたり、一緒に寝たりしてるそ
うじゃないッスか!!」

「いや、それは誤解であって……っていうかカイオーガ、お
前も勝手なこと言うなよ!!」

「だ、だって……そうでも言わなきゃ諦めてくれない状況だ
ったんだもん……」

「……羨ましいッス。何でアンタだけが先輩を独占できるん
スか!!? たかが同居人の分際で!!」

「(じゃあ同居人ですらないお前は何物なんだよ……)」

本音を言うと漫画のようなカッコいい台詞で返したいところ
だったが、さらに嫉妬されても厄介なため、ロンギヌスは黙
ってお茶を啜った。すかさずカイオーガもそれに倣う。




「さーって、そろそろチェックアウトしてくるか」

午後5時35分。まだ厳密には猶予はあるが、ギリギリになっ
てからあれが無い、これが無いなどと大騒ぎするのは御免だ
った。

カイオーガの体臭で泥酔状態のダークライが、ハッと我に返る。

「え、先輩ってもう帰っちゃうんスか?」

「うん。6時半までには出ていかないと」

「そんな……せっかく三ヶ月振りに巡り会ったっていうのに……!!!」

稲妻に撃たれたような顔で、ダークライはへなへなとショッ
クに崩れ落ちた。しかしすぐに立ち直ると、今度は首の付け
根から四角いメモを取り出す。それが何であるか、ロンギヌ
スには安易に想像できた。


「こ、これ……オレの連絡先ッス。毎日電話くださいね!! 約
束ッスよ!!?」

「あ、は……はぁ……」

「だーいじょうぶッスよ。必ずワンコール以内で受話器を取
りますから」

「………………」

カイオーガは露骨な迷惑顔で返したが、ダークライの目には
それすらも快諾と映ったらしい。ロンギヌスにしてみれば、
メモをどのタイミングで処分すべきか悩んでいるようにしか
見えなかった。


「で、でもセンパァイ……この人がロビーから帰ってくるま
で……オレ達二人っきりッスねぇ……♪」

「ひ……全速力で戻ってきてねマスター!! 5分経っても帰って
来なかったら……の、呑むからね」

「へいへい」

それだけのペナルティなら別に遅れても構わない。とはいえ、
さっき世話になったカイオーガの身の運命を軽んじることは
出来なかった。脱ぎ捨てられていた靴下を急いで履きなおし、
引き戸から勢いよく外へ飛びだした。
が……


「あっ……」

「きゃッ……!!!!」





今日から100円貯金頑張るぞ〜♪(豚さん貯金箱とか幼稚園以来だけどw
<2012/06/12 20:29 ロンギヌス>
消しゴム
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