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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜 − 旧・小説投稿所A

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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜
− 溶けたロジック −
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青年の合図で、お互いの画面に大きく"START"の文字が映し
出される。数独よりも魅力的なゲームがごまんとあるためか、
幸いにも彼らの周囲にはレムリアとカイオーガ、そしてその
二匹に槍を突き付けているシュバルゴしかいなかった。青年
にしてもバビロンにしても、余計なギャラリーは思考回路を
妨げる邪魔者でしかない。

そんな沈黙の中で始まった一回戦だったが、なんとおよそ2分
で決着がついてしまった。バビロンは薄い笑みを浮かべ、自
分のモニターに映る"WINNER"の文字を見つめる。見透かし
たように当然の勝利だった。何しろ青年が空欄の1/4を埋めよ
うとしていた時にはもう、彼は全てのマスを完成させていた
のだ。もはやバビロンにとってはこのゲーム、既に頭の中で
出来上がっている解答を、ただパネルを叩いて打ち込んでい
くだけの単純なものだった。


「バビロン、頑張れ〜♪」

ふと名前を呼ばれ、バビロンは首から上だけで振り返った。
カイオーガが、背中に槍を突き付けられているのが嘘のよう
な笑顔で声援を送ってきている。その隣では、レムリアが安
堵とエールの微笑みを浮かべていた。余裕らしく見える表情
を作りながら再び画面に視線を戻すと、"WINNER"の文字は
とっくに消えていた。


「…………余裕、か……」

確かにそうだった。今の勝負の内容を見ると、バビロンはま
すます青年が己の数才を過信していた線が濃くなったように
思えた。もしそうならば青年は今、バビロンの尋常ではない
実力に圧倒されている違いない。

「(ならば、奴が私に提案してくることは……)」




「いやぁ参ったねぇ、完敗だよ。君の頭には大鋸屑ぐらいし
か詰まってないのかと思ったら……お見事だね」

「……昔から計算一筋の生活だったんでね。この手の問題は
疲労に値しない」

「へぇ……そうかい。じゃあひとつ頼んでもいいかな?」

「……何だ」

この時点で青年の口から飛び出す内容が、バビロンにはおお
よそ見当が付いた。


「今の戦いから見ても、僕と君との間にはれっきとした実力
の差がある。人間部門の大会で優勝はしたけれど……やっぱ
り、竜が相手じゃ難しいかもしれないね」

竜相手でも余裕で勝てると思ったからこそ、執拗にこのギャ
ンブルに誘い込んだんだろうが。
バビロンは心中でそう毒づいた。

「だから少しハンデが欲しい。僕のスタートから30秒間、君
はタッチパネルに触れずに画面を記憶する。そして30秒が過
ぎたら、今度は目を閉じた状態で君もゲームをスタートする。
これでどうだい?」

「…………」

決して出来ないことではなかった。先ほどの勝負でも、バビ
ロンは10秒程度しか問題の表示されているモニターを見てい
ない。スタートと同時に30秒も見せてくれるのであれば、目
を瞑っていようが息を止めていようが、完璧な解答をパネル
に叩き込めるだろう。しかし……


「フフ……悪いが論外だ。私の勝つ可能性を、ミリパーセン
ト単位で減らすことになる。是が非でも勝たなきゃならない
博打なんでね」

「ふぅん……じゃあ回れ右をしてごらんよ。きっと気が変わ
るからさ」

青年に言われるまでもない。レムリアの呻きが耳に入ってき
た時点でバビロンは振り返っていた。見るとシュバルゴが重
厚感のある槍の先端を、彼女のこめかみに食い込ませている。
唇を噛みしめ、目を閉じて痛みと恐怖に震えている彼女の姿
は、一瞬にしてバビロンの脳から理性を取っ払った。

「……急いでやめさせろ。ハンデは背負う」

「フフ……そう言ってくれると嬉しいよ」

青年が頷いたのを確認すると、シュバルゴはあっさりレムリ
アを解放した。解放といっても、まだ背中に槍は突き付けて
はいるようだが。つまり勝負が決着するまで、彼女はずっと
腹に風穴を開けられる恐怖に脅かされることになる。どうし
てやることも出来ない自分に対して、バビロンは際限のない
怒りを覚えた。


「それじゃあ始めようか、二回戦」

「……あぁ」

吐き捨てるようにそう呟き、バビロンは問題を作成中のモニ
ターに面と向かって対峙した。ここからは青年に言われたと
おり、30秒で問題の内容を記憶し、さらに目を閉じてプレイ
するというハンデを負わなければならないが、それでレムリ
アの安全が保証されるのなら安い代償だった。

やがて1回戦同様、画面にゲームスタートの文字が浮かび上
がる。青年が高速でタッチパネルを操作するのを横目に、バ
ビロンは表示されている問題を一瞬で頭に叩き込んだ。もう
解答は出来ているが、青年とのルール上、スタートから30秒
は不動を保っていなければならない。

バビロンは細い溜め息をつき、まるでナンプレのマス目のよ
うなタイル張りの天井を見上げる。たったそれだけで、周囲
の喧騒から離れた場所にいるような気がした。周りから音が
消え、様々な考えが頭蓋骨の中を飛び回る。



……

……もしかしたらこの青年は、レムリアを強奪しようとして
いたのかもしれない。私がゲームに意識を向けている隙に、
あのシュバルゴにレムリアを他の場所へ連れていかせる。そ
して私が彼女がいないことに気付く前に、自分も人混みの中
に飛び込んで逃走を図る。最後にシュバルゴと合流し、レム
リアを連れてこの旅館を去る……

バビロンは自分がこの青年ならば、きっとこういった卑劣な
手段でも躊躇なく実行するだろうと思った。青年にせよバビ
ロンにせよ、勝つためには手段は選ばない、発覚しなければ
何事も罪にはならない、というのが共通した意見だ。

……ならば……偶然カイオーガが来たことで、青年のその計
画は水泡となったのだろうか。カイオーガが隣にいる状態で
は、シュバルゴも迂闊にはレムリアを連行出来ない。せいぜ
い、槍を突き付けて二人の動きを封じるのが関の山だ。

だとすれば、カイオーガの登場はなかなか有益だったと言えr……

「バビロン!!!!」

背中に突き刺さったカイオーガの声に、バビロンはハッと目
を見開く。しばらく硬直した後慌ててモニターのタイマーを
見ると、既にスタートから1分が経過していた。ゲームを始め
るべき本来の予定を30秒もオーバーしている。慌てて目を閉
じ、頭に焼き付けた正答をモニター打ち込んでいく。タッチ
パネルの数字の位置も完全に把握しているため、打ち間違い
などはまずありえない。おまけに手違いで1分のハンデを生ん
でしまったとはいえ、バビロンが青年に追い付くのも時間の
問題だった。

そして……





"GAME SET"

バビロンが「完了」のボタンを押した直後、モニターにはこ
う表示された。この台では片方が先に全てのマスを埋めて「
完了」を宣言すると、もう片方は必然的に負けが確定するシ
ステムになっている。よってこの場合、先に全マスを埋める
ことの出来なかった青年は敗北………





……の、筈だった。
しかし誰もの予想とは裏腹に、大きな"YOU LOSE"の文字が
マイナー調のメロディとともに彼のモニターを占拠する。
一方、青年の画面には赤と金の鮮やかな色文字……"WINNE
R"が光っていた。

「…………馬鹿な……」

「あれ〜、お兄さん。焦って調子が狂っちゃったのかい?」

まるで100点のテストを当然のように見る子供のように、青
年の顔は皮肉の色で満ちていた。バビロンはそんな彼の言葉
に耳を傾ける余裕もないまま、ただモニターが解答解説の画
面に切り替わるのを目を凝らして待っていた。そしてそれが
映し出された瞬間、彼は愕然とした。

……9×9のマス目のほぼ中央部分……バビロンがそこに打ち
込んだ解答は、滑稽なまでに見当違いの数字だった。自分が
犯したとんでもないミスに、バビロンは開いた口が塞がらな
い。ただその画面を見据え、呆然と突っ立っている。





「…………違う…」

ありえない事実に脳細胞が混乱する中、バビロンは誰の耳に
も届かない声で呟いた。自分がこんな情けない凡ミスをする
訳がない。例え、どんなに目を瞑っていたとしてもだ。数字
の入力パネルには寸分の狂いもなく触れていたし、何より、
こんな誤った数字を入力した記憶はない。


だとすると、この敗北の原因として考えられるのは…………




<2012/05/15 00:18 ロンギヌス>消しゴム
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