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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜 − 旧・小説投稿所A

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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜
− 嘘と直感 −
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我ながら異常現象としか言いようのないミスだった。バイオ
リック社から生を受けてから数年、こんな単純な凡ミスを犯
したことは一度もない。

従って、今回のミスには何か具体的な原因がある……バビロ
ンはそう踏んでいた。自らの経験と照らし合わせてみても、
自分の失態は、敵の手によって仕組まれていた場合がほとん
どだった。そして今現在の「敵」である青年を、バビロンは
横目に窺った。

「(私が目を閉じている間に……こいつが隣から私のパネル
をいじった可能性もゼロではないが……)」

しかしそれは、本当に限りなくゼロに近い。なぜなら青年の
背後には、槍を突き付けられているとはいえ、カイオーガと
レムリアの監視の目が光っているからだ。特にカイオーガに
関しては、思ったことがすぐさま口に出るような性格だ。青
年の不正行為など見逃すはずがない。

ならばどうして彼もレムリアも、青年が姑息な手を使ってい
たことをバビロンに教えようとはしないのか。彼らの目には、
勝負は至ってフェアに進行しているように映っているのか。


「(何が、どうなってる……?)」


結局バビロンのミスの根拠は謎に包まれたまま、3回戦目の
"START"の文字がディスプレイに映し出された。自分のミス
の原因を探り当てられなかった事に苛立ち、バビロンは牙が
折れるほど歯を唸らせる。無性に、柔らかい生肉を噛みちぎ
りたい衝動に駆られた。

青年のスタートから30秒後、約束通り、バビロンは目を閉じ
てマス目を埋める作業に入る。万が一先ほどのミスが単なる
自分の不注意だった場合を考え、今度はひとつひとつの数字
を着実に打ち込んでいくよう心掛けた。それによって1回戦
のスピードには劣ったが、それでも問題を計算しながらマス
目を埋めている青年とは雲泥の差だった。

そして1、2回戦同様、圧倒的なスピードで「完了」のボタン
を押すところまで登り詰める。
しかし…………



「フフ……残念だったねぇ。先に3回勝った方が勝ちだから
……おやおや、もう僕はリーチじゃないか。そんなので愛し
い彼女を守れるのかい?」

「だ、黙れ……!!」

結果は惨憺たるものだった。まるで2回戦をそっくり再現した
かのように、バビロンの誤答による青年の勝利。バビロンに
は青年の吐く息吸う息までもが、自分への嘲笑に聴こえてな
らなかった。


「……ふざけるな……」

モニターに表示された「次はがんばろう!!」という応援文句
が、バビロンの鬱憤をより増幅させた。設計通りにしか動け
ない機械のくせに……画面に問題を表示するしか能がないく
せに……





「…………同じか……私も……」

「確率」という、数独において何の役にも立たないものを求
めるしか能がない上に、臨機応変のカケラもない。そんな自
分に、ゲーム機をバカにする資格がどこにあるのだろう。


「バ、バビロン………?」

「煩い……先に帰ってろ!!!」

帰れるならとっくの昔に帰っているに決まっている。無茶苦
茶な暴言だという自覚はあったが、言ったことを後悔する余
裕などとっくに掻き消えていた。きっと背後では、カイオー
ガが自分に怯みきった顔で固まっているに違いない。そう思
いながらバビロンは、レムリアの浮かべているであろう悲し
げな表情を脳裏に浮かべた。胃がずんと重くなった。


==============


2連敗というプレッシャーを背負ったまま、バビロンはとう
とう3回戦を迎えた。ここで負けようものなら、レムリアは
今度は「誘拐」ではなく、正当な勝負の結果として青年に連
れていかれることとなる。そうなってしまえば後はどうしよ
うもない。

つまり、是が非でもこの正念場は勝たなければならない。
それはバビロンも重々分かっているつもりだった。しかし裏
腹に、"勝とう"という強い意気込みを奮い起こすことが出来
ない。偶然にせよ必然にせよ、2回もミスが続いたのだから
3回目もそうなるに決まっている……そういった負の感情が、
バビロンの今の感情の大部分を占めていた。


「……ククッ………情けないな全く……」

深い溜め息をつき、「用意が出来たらタッチしてね♪」の画
面に指先を置く。もはやゲーム機のいちいち癪に障るような
セリフにも、バビロンは怒りを感じる気力も萎えていた。
そして否応なしに3回戦がスタートする。


「・・・・・・・」

画面に映し出された問題は、始まってから1秒弱で答えを作り
終わり、マス目のどこにどんな数字を打つかも既に決めたので、
バビロンは暇つぶしに首をコキンと鳴らした。その拍子に収納
した翼の隙間に収めていたロンギヌスの財布が、ストッとゲー
ム台のすぐ左に落ちた。タッチパネルに触れるようになるまで
まだ20秒近くあり、落ちたのは左隣の青年から見て死角となる
場所だったため、バビロンはすぐにそれを拾おうと身を屈めた。


「……?」

ところが財布を指先で摘まんだ瞬間、同時にバビロンの好奇
心をそそる物が目に留まった。ゲーム台の下の隙間からわず
かに顔を出している、プリント用紙の角と思わしき部分だ。
別にそれの一枚や二枚がゲーム台の下に隠れていても何らお
かしくは無いが、バビロンはそのプリントから禍々しい何か
を感じ取っていた。勘で物事を判断したことなど、これまで
はほとんど無いが。

台の下からプリントを引き出して見るのに数秒とかからない
ため、バビロンはすぐさまそれを実行した。竜である自分の
巨大な指を多少不便に感じながら、引き出したプリントを裏
返して見る。



「……な…………っ……」


そこに記されていた三文字に、バビロンは稲妻に撃たれるに
等しい衝撃を受けた。いや、前人未到の財宝を見つけたとき
のような、と言った方が正しいかもしれない。

まずそこに書き殴られている言葉から、バビロンは自分のミ
スが誰かによって仕組まれたものであることを確信した。そ
してその「誰か」というのが、ほぼ間違いなく青年であるこ
とも。


「……なるほどな…………」



ーーーー故障中ーー


A4の用紙には、黒のマジックでそう書き殴られていた。






金環日食見れなかった……(T ^ T)(雲なんてキライだぁぁぁww
<2012/05/20 23:33 ロンギヌス>
消しゴム
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