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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜 − 旧・小説投稿所A

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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜
− 謝罪 −
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「あ、ありがとうございました!! ご親切に助けて頂きまして……何とお礼を言ったらいいのか……」

「えへへ……別にいいよ、趣味だから♪」

カイオーガは目の前で深々と頭を下げる女性に対し、照れ臭そうに後頭部にヒレを回した。その際に僅かに背筋を伸ばしたことによって、彼の腹に浮かぶ二つの巨大な膨らみがより強調される。女性の目はそれとカイオーガの顔を交互に行き来していたが、彼自身は毛ほども気には留めていないようだ。時たま腹の底から響いてくる、断末魔のような唸り声にさえ耳を傾けない。

「本当にありがとうございました。貴方が来なかったら……私、今頃……」

「いいっていいって。女の人には優しくしなさいってパパが言ってたんだ」

何故この女性が安堵の溜め息をつき、カイオーガを感謝の対象として見ているのか。実は5分前、彼女はこの場で、男2人組からむしろ誘拐に近いナンパを受けていたのだ。それをたまたまこの遊戯室に訪れていたカイオーガに助けられた、という訳だ。カイオーガは慈悲も酌量もないまま男たちを丸呑みにし、今に至っている。

お礼の口を休めない女性をヒレを振って見送った後、カイオーガはふと自分の腹に目を落とした。二つの膨らみのうち一つは完全に沈黙していたが、もう一方はまだ頑固に抵抗を続けている。カイオーガは幾何学模様が美しいヒレをそこに押しつけ、ギュウッと身体の内側に押し込んだ。するとどうだろう。まるでゴム毬から空気が抜けていくかのように、徐々に膨らみが小さくなっていく。

ほんの数十秒後には、カイオーガはまるで元の大きさに戻った腹をスリスリと撫でていた。

「へへへ……男っておバカさんだよね〜、よく考えもしないで女の子に手を出すなんてさ♪」

カイオーガは自分に性別が無いことを改めて実感しながら、シャチホコのように背を大きく反らして伸びをする。そのとき上下が反転した彼の視界の中に、見慣れた黒い竜の姿が飛び込んできた。


「あっ、バビロン見っけた♪」



=============


バビロンが青年とのギャンブルを承諾してからというもの、レムリアの自責の念は増幅するばかりだった。「惚れ薬」と銘打った得体の知れない薬に惑わされ、彼をこんな事態に巻き込んでしまった。青年と手を繋ぐことを強要されている右手が、ぷるぷると悔しさに震える。

「それじゃあ行こうか。闘いの場に」

バビロンはしかめっ面のまま青年の言葉に従った。先頭に手を握り合ったレムリアと青年が並んで歩き、その後ろにバビロンと、青年の手持ちであるシュバルゴが続く。シュバルゴの両手から生えている太い槍の先端は、両方ともバビロンの背中に当てられている。恐らく彼らは、バビロンがレムリアの強奪に走ることを警戒しているのだろう。

しかしその時、その場の誰もが予想外の出来事が起こった。聞き慣れた明るい声の響きに、レムリアとバビロンは同時に振り返る。寝室でラティオスとチェスを楽しんでいた筈のカイオーガが、ヒレを振りながら駆け寄ってくるところだった。二匹は赤の他人を装おうとしたが、彼は無邪気な大声でバビロンの名前を呼んだ。

「バービーロン♪ やっぱりここに居たんだね。また何か賭けようとしてたんでしょ〜!!」

「……馬鹿、部屋に戻れ!!」

「ほえっ……ど、どうして?」

強引に出口まで吹き飛ばそうと拳を固めたバビロンだったが、時すでに遅し、青年がレムリアの手を引いたまま近づいてきた。不審そうな目でカイオーガを見やった後、サラッと顎に触れながら問いかける。


「へぇ……もしかして君、この黒い竜の友達かい?」

「いや……単に相手を間違えただけだろう。私はこいつを知らない」

当然バビロンは嘘を盾にしてカイオーガを逃がそうとしたが、彼がそんな事に気づくはずも無かった。そして完膚なまでにバビロンの嘘を踏みつぶす。

「うん。イッシュリーグっは知ってるよね? 僕ら、一緒にそこに住んでる仲間なんだ♪」

溜め息とともに項垂れるバビロンに対して、青年はその言葉を待っていたかのように口の端を吊り上げた。やがて彼が頷いたのを見て、シュバルゴはカイオーガの背にも巨大な槍を押し付ける。

「なっ……何? どういうこと?」

「……動くなシャチ坊主。抵抗しない方が良い」

バビロンが言わずとも、ゼロ距離で武器を突き付けられては流石のカイオーガも抗い様がない。青年は彼とバビロンについて来るよう指示し、再びレムリアの隣へと舞い戻った。


レムリア、バビロン、カイオーガの三者を連れた青年は、壁際に設置されたゲーム台の前で足を止めた。途中、バビロンは無関係なカイオーガを解放するよう青年に求めたが、あっさり却下された。今回のことを知られた以上、勝負の決着がつくまでは居座ってもらう、というのが彼の意見らしい。


「フフ……ここまで来れば、今回の種目が何か分かるかい?」

青年の指定したゲーム台は、いかにもゲームセンターに置いてありそうな雰囲気を漂わせていた。しかしその画面に表示されているのは、巨大な方眼と"STAND BY"の文字。操作用のパネルと思わしき場所には、十字キーとテンキーが備え付けられている。

青年がギャンブルの内容を発表しようと口を開いた瞬間、それを遮るようにバビロンは呟いた。


「……数独か」

バビロンの推理にカイオーガはえっと驚き、青年は歯を見せて笑った。"数独"というゲーム自体を知らないレムリアは、困り顔で全員の顔を見回している。



数独とは、数学的な考え方がものを言うパズルゲームだ。ナンプレと言う場合もある。
ルールは至って簡単で、3×3のブロックに区切られた9×9の正方形の枠内に、1〜9までの数字を当てはめていくだけだ。ただし、縦・横の各列と、太線で囲まれた3×3のブロック内に同じ数字が入ることは許されない。これが足枷だ。

またこのゲームは、プレイヤーの熟練度によって難易度を変えることも出来る。一般的には24個の数字が最初からヒントとして配置されているが、この数を増やすか減らすかによってゲームの難しさは変動する。もちろんヒントの数字が少ない方が上級者向けだが、それが16個以下だと解答が不可能なため、ヒントを17個でプレイするのが最も難しいと言えるだろう。


「あーーッ!!!!」

突然、カイオーガが甲高い叫びを上げた。シュバルゴが槍を突き付けてすぐに黙らせたが、何かに気付いたようだ。バビロンが訳を尋ねると、彼は不安そうな口調で話し始めた。

「今思い出したんだけどさ……ボク、こいつ知ってるよ。確か数学グランプリの人間の部で、あっさり優勝しちゃった奴だ」

「数学グランプリ? お前が旅行券を手に入れたやつか」

「ボ、ボクが出場したのは別の部門だけどさ。どの部でも3位までは全員に発表されるから……」

その中で最も権威ある人間部門で、金メダルを掻っ攫ったのがこの青年なのだという。これを耳にして、バビロンは改めて青年の「異常さ」に気圧された。狂気としか言いようのない性癖を持ちながらも、天才的な能力を兼ね備えている。

……しかし、同時にほくそ笑んでもいた。
外見こそ他の竜と変わりないが、自分は人工竜。己のコンピュータを装備した頭脳は、計算することを業にして生きてきたのだ。バイオリックに籍を置いていた頃から、ゼロが幾つあっても足りない程の計算をこなしてきている。

さらに、バビロンは青年への警戒心が僅かに薄くなるのを感じた。向こうから勝負を持ち掛けてきたからには、何かとんでもない罠が用意されていると踏んでいたのだ。しかしこれで確信した。青年が数独でのギャンブルを提示してきたのは、きっと自らの数才に自信があったからに違いない。グランプリで余裕の1位を取れる自分が、まさかこんな平凡な竜ごときに敗れる訳がない……彼はそう考えたのだろう。

だがどんなに卓越した才能であろうと、計算において人間がコンピュータに勝ることは無いのだ。バビロンは勝利を予感した。


「勝負は5回だ。つまり先に3勝した方が、お姉さんを賞品として持ち帰ることができる。いいね?」

「……金輪際、こいつを賞品と呼ぶのは止めてもらおうか。癪に障る」

「そんなのどうだっていいじゃないか。まずは僕の質問に答えてくれないかい?」

「……勝負の件は受ける。だが今後こいつを小馬鹿にしたような口調を取るなら、私は死んでもこいつらを連れて帰るぞ」

バビロンの言葉からは、有無を言わせぬ気迫が溢れていた。それを受けてか、流石の青年も溜め息まじりに顎を引く。


「……じゃあ始めようか、早速」

「……ああ」

青年がゲーム台に手を置いたのを見て、バビロンもそれとの距離を詰める。背後でレムリアが息を呑むのを感じた。すかさず振り返り、今出来るだけの笑顔を見せる。


「……随分と不安そうな面じゃないか。似合わないぞ」

「む、無茶言わないで……負けたら私……私は……」

どんな悲惨な末路を思い描いたのか、レムリアは言葉を切って目を擦る。バビロンはマスカットのような彼女の瞳が、蛍光灯を受けて艶っぽく光った気がした。安心感を与えることさえ出来ず、また無駄に彼女を泣かせてしまったのだ。


「ご、ごめんなさい。自分が撒いた種なのに……何言ってるのかしらね……」

「……分かってるじゃないか。何に釣られたのか詮索する気は無いが、最終的にはお前のミスが原因だ。泣こうと喚こうと、もし私が負けたら素直に奴に従うんだな」

レムリアが涙を抑えようと噛み締めた歯の隙間から、弱々しい嗚咽が漏れてくるのをバビロンは聞き逃さなかった。きっともう一度何か叱責を飛ばせば、彼女の我慢の糸はプツンと切れてしまうだろう。レムリアを余計に泣かせたい訳では無いが、自分の台詞ぐらいは自己流で決めたかった。


「……だがもし私が勝って……お前が自由の身になれた場合には……」

「え……?」

「……言わせろ、さっきの返事」

たったこれだけの事なのに気恥ずかしさが充満し、バビロンはゲーム台へと近づいた。隣には既に準備の整っている青年が、早くも「対戦スタート」のボタンに触れようとしている。

レムリアがどんな表情を浮かべているのか、考えたくもなかった。





更新おっそww(というか4000字以上を書いたの久しぶりww
トロくさくて本当に申し訳ない……!!
<2012/05/08 22:54 ロンギヌス>
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