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人を呪わば穴二つ − 旧・小説投稿所A

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人を呪わば穴二つ

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「ヘクシッ! う゛ー……」

イーブイはベッドの中で、唸り声をあげていた。

昨日の騒動の後、家に着くやいなや、あまりのだるさにベッドに倒れ込んだイーブイ。

熱を計ると、目盛りは八度六分を越えていた。
やはり、寒い時期の入水は体に応えるようだ。

「……薬。あったっけ……」

フワフワとした感覚のなか、イーブイはベッドから起き上がり、おもむろに引き出しを開けた。

「……げっ、きれちゃてるよ」

ズキズキと痛む頭を抑えて重いため息を吐き出す。
それもこれも、あいつらのせいだ。

「探しに行かないとなぁ。んー、頭痛い……」

イーブイは、よろよろと今にも倒れそうに歩いている。
重症なのは確かだった。

身支度を整え、ほぼ扉に倒れ込むようしてドアを開けたイーブイの体に、容赦なく冷たい風が吹き付ける。

暑いけど寒い。
風邪独特の症状をグッと堪えながら、イーブイは薬草の生えている森へと向かったのだった。





家からさほど距離はないものの、やはり辛いことは辛かった。
たえず流れ出す鼻水をズルズルと啜りながら、イーブイは薬草を探す。

「えっと、どこにあるんだっけ……」

高熱で頭がうまくまわらない。
視界がぐらぐらと揺れる。
「やばい、早く探して…帰らない……と」

ゴホゴホと咳き込み、地面にゆっくりと伏せていくイーブイ。

もう限界だった。
地面にひれ伏し、ゆっくりと瞼が閉じられる。

ここでイーブイの記憶は、一旦途絶えた。

次に目を覚ましたのは、暗い洞穴の中だった。

「――っ……うむぅ……」

辺り一面真っ暗とまではいかないにしろ、ほとんど何も見えない。

ただ一筋の光だけが穴の入り口らしきところから差し込むだけである。

「こ、ここは?」

「おっ、目が覚めたみたいだな」

突然聞こえてきた自分ではない声。
不意を突かれ、ビクリと体が反応する。

「だ、だれ?」

恐る恐るゆっくりと振り返ると、そこにはオレンジ色の巨大な生き物がそこにいた。

尻尾の先にあたたかい炎を灯し、鋭い爪と体の二倍はあるだろう大きな翼を有している。

昔、たしか本で見たことがある。
でも、実際に見たことはなかった。

「リ……リザードン!」

「へぇ、俺のことを知ってるのか。有名になったもんだな」

クククと笑うリザードンの口には、これまた鋭い牙がぞろりと生えていた。

「あ……あぁ……」

完全に臆してしまい、もはや言葉を発することもできない。

ガタガタと震える体を止めることもできず、ただただその場にまるで縫い付けらてしまったかのように動けなくなってしまっていた。
「……フフフ。お前、なかなか旨そうじゃないか」

ベロリと舌舐めずりをするリザードンの口元から、“ぐちゅり”といやらしい音を立てて唾液が溢れ出す。
「ひっ! いゃ、助け……」

クリクリした可愛らしい目からは、冷たい涙が溢れ出す。

逃げ出そうとして後ろへ身構えたとき、ぐらりと視界が揺れた。
ついていないときは、本当についていないものだ。

自分が風邪だということを思い出す頃には、体に力が入らなくなっていた。

“死ぬ”
頭の中にはっきりとその言葉が浮かんだ。
イーブイはそのまま、倒れ込む。

「おっと、大丈夫か?」

意外にも、彼を受け止めたのはあのリザードンだった。

「ふぇ?」

状況が理解できず、イーブイの喉から情けない声が出でしまった。

「脅かしすぎたな、悪い悪い」

さっきまでの不気味な笑顔とは違った優しい笑顔。

イーブイは、少し顔が熱くなった。

そんなイーブイをゆっくりと横にする。よく見ると、藁が敷いてあったようだ。
「安心するといい。確かに旨そうだが、俺は今お前を喰うつもりはない」

ペロリとイーブイの涙を舌先で拭うと、リザードンは立ち上がり近くの薪に火を吐きつけた。

パチパチと木が燃える音が洞窟内に響く。
イーブイはその音に不思議と落ち着いていた。

「さて、俺は少し用があるからな。しばらく空けるぞ。一応風邪の手当てはしておいたが、まぁゆっくりしていけばいい」

ずしずしと重たい体を揺らしながらリザードンは外へと歩いていった。

「……ありがとう」

聞こえたかはどうかはわからない。
けれどリザードンの尻尾が揺れたのが見えた。

イーブイは、その場で丸まると静かに目を閉じた。
温かいオレンジ色の炎が心地よかった。


<2012/02/11 18:10 ミカ>消しゴム
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