遠雷
「ルパン!!」
次元は、ぐったりと自分にもたれかかるルパンの両肩に手をかけて、ルパンを見た。 蒼ざめた顔、今にも眠り込みそうな表情。 いつも不敵な笑みを浮かべるその口端からは、細く一筋の血が流れていた。 ルパンの左胸には、間一髪急所を外れた傷口があった。 そこから、血が溢れるように噴き出している。 次元には、目にしている情景が信じられなかった。 嘘だろ― お前が撃たれるなんて、そんな事が― そのとき、今しがたルパンが飛び出してきた窓から放たれた銃弾がふたりの足元を掠めた。
とにかく、安全なところまで逃げなければ―そしてルパンの傷の手当てをしなければ―
次元は、ルパンを左手に抱えて応戦しながら、時計に仕込んだ発信機で不二子に呼びかけた。
「不二子!聞こえるか、不二子!!」 「次元?!何があったの?!」 「ルパンが撃たれた!すぐこっちにヘリを回せ!それから、五右ェ門にこっちに来るよう言ってくれ!」
先ほどよりも警備員の数が増えている。じりじりと塀際に追い詰められながら、次元はルパンに呼びかけた。
「ルパン!聞こえるか、ルパン!返事してくれ!」
すると、次元の腕の中で、ルパンが僅かに動きを見せた。 次元の肩に伏せていた顔を起こすと、死人のような顔で、ルパンは笑って見せた。
「…俺様としたことが、どじっちまった」
お前の所為ではない、そう言おうとしたが、続いたルパンの言葉に、次元は耳を疑った。
「…次元、俺を置いて逃げろ」
何を―こいつは何を言っているんだ!?
「…この国じゃあ、犯罪者は発見され次第銃殺だ。そうでなくたって、このままじゃふたりとも御陀仏になっちまう」
「ルパン…!何言ってる?!お前を置いて行けるわけがねえじゃねえか!」
次元は必死の形相でルパンに食らいついたが、そのとき、次元の右腕を銃弾が掠めた。 「っ!」 思わず次元が身を竦めると、ルパンは強い口調で言った。
「行けよ!早く!…逃げろ…!」
それだけ言うとルパンは、ごぼ、と血をはいた。 そのルパンの様子に、次元の中に激烈な恐怖が沸き起こった。 それは紛うことない、ルパンを失うかもしれない、という事への恐怖だった。
「ルパン…!ルパン!!」
次元が叫んだのと同時に、青い影がふたりの前に踊り出た。
「五右ェ門!!」
縋るような目で、次元は五右ェ門を見た。
「ここは任せろ!早くルパンを!!」
銃弾の雨を斬鉄剣で振り払いながら、五右ェ門はルパンと次元を庇うように警備兵に向かって行った。
「…すまねえ…!」
次元はルパンの右手を自分の肩にかけると、ぐったりとしたその身体を引きずって、ヘリに向かって歩き出した。
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