JANIE'S GOT A GUN

5

煌々と照りつける月の光。草の中では、秋の虫たちが小さな音色を奏でている。

しんとした静寂を、悲鳴が切り裂く。それに混じって聞こえるのは、男の怒声―。



レイプだ―!



次元は直感した。

そのまま次元は、声のする方向に走り出した。

坂を登りきったところで、もみ合っている男女の姿が目に入った。

男は3人。月明かりだけではよく見えないが、既に女の衣服はびりびりに引き裂かれているようだった。

次元は、迷わずマグナムを抜いた。

重く低い銃声が、3発、虚空に木霊する。


「…女を離しな。」


銃を腰にしまうと、次元はよろめいている男たちに向かって静かに言った。

次元の放った弾は、男たちの腕をかすっただけだが、脅しには十分過ぎるだろう。

腕を押さえて、なおもじりじりと食い下がろうとする男たちを、次元は一喝した。


「行け!!」


男たちは、口汚く罵りの言葉を吐きながら散っていった。


次元はジャケットを脱ぐと、地面に倒れて上体だけを起こしてこちらを見ている女に歩み寄った。

その時、月明かりが、女の顔を照らした。


「…ジェイニー!?」


次元は驚いて目を見張った。
泥にまみれて、髪を振り乱した女は、紛う事ない、ジェイニーだった。

「大丈夫か!!」

次元が駆け寄ってジャケットをかけてやると、ジェイニーは次元を見上げた。

その瞳は、まるで獲物を見つけたときの猫のように、爛々と妖しい光を湛えていた。

「…銃を持ってたの!?」

語気も荒く、ジェイニーは問いただした。

「…ああ…。」

厭な予感がして、次元はジェイニーから一旦目を逸らした。

「…珍しかないだろう。それより、大丈夫か?」

「…見ての通りよ。あなたが来てくれなけりゃ、やられてたわ。」

吐き捨てる様にジェイニーは言った。

立とうとするのを手伝ってやると、ジェイニーは乱暴にその手を振り払った。

「…よしてよ。同情なんて。」

「…同情じゃないさ」

次元が言うと、ジェイニーは自嘲的な微笑を浮かべて次元に向き直った。

「へえ。…じゃあ、何?」

次元は、目の前の少女を見つめた。
こんなにも真正面からしっかりと、ジェイニーという少女と向き合ったのは、初めての気がした。



「…君は、俺に似ている。」



ジェイニーの瞳が見開かれた。

「何が似ているのかは分からない。だが、似ているんだ…。」

「…自分に似てるから、助けたくなった、ってわけ。」

強い風が吹いて、ジェイニーの乱れた亜麻色の髪を巻き上げた。

「ジェイニー。自棄になるのはよせ。」

次元がなだめると、ジェイニーは更に語気荒く言い捨てた。


「自棄になるな、ですって?こんな町で、こんな暮らしをしてて、こんな目に遭って、自棄になるな?はっ!笑っちゃうわ。」


次元は黙ってペルメルを銜えた。

沈黙の中を、風が吹きぬけて、周囲の草むらをさわさわと揺らした。

煙草に火を点けると、深く吸いこんで、次元は言った。


「…君は、何故この町を出ない?」


背を向けたままのジェイニーの肩が、ぴくりと動いた。

「…君はまだ若い。近在でなくとも、何処へなりと行って、やり直せるだろう?」

月明かりが、煩いほど照りつけてくる。先ほどまで聞こえていた虫の音も、今は聞こえなかった。

ジェイニーが、重い沈黙を破った。


「…あたしには、やらなきゃいけない事があるのよ。それが終わるまでは…」


「ジェイニー、悪い事ぁ言わねえ。妙な事を考えるのはよせ。」

そう言った次元に、ジェイニーは、獰猛な野良猫のような瞳を向けたが、何も言わなかった。



「…ジャケットは、明日返すわ」

それだけ言い残して、ジェイニーは身を翻して次元の脇を駈け抜けていった。




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