6.


 視線が交錯しても、それぞれ微動だにしない。相手の存在を知覚し、どの程度の警戒が必要か、踏み込める範囲はどこまでか、禁句は何か、視覚のみで判断できる材料を探り合っている様子だった。
 肌が焼け付くような緊張感の中、悪魔然とした女性が口を開く。
「初めまして。わたくしは彼の高名な七曜の魔女、パチュリー・ノーレッじぇっ!?」
 喋っている途中、何処かから投擲された辞書が寸分の狂いもなく彼女の顔面に突き刺さり、けたたましい音を響かせて書架から転げ落ちて行った。
 誰もいない書架を照らすライトが、ただ虚しい。
「……阿求、説明よろしく」
「簡単に言えば、彼女はパチュリー・ノーレッジという人物ではなかったのに、その名を騙ろうとしたので武の制裁を受けたみたいですね。ちなみに私はパチュリー嬢のことを見聞きしているので、今の女性が七曜の魔女でないことは初めから解っていましたが」
「……魔女って、辞書投げるの?」
「鈍器の方が一般的ですかね」
 真剣に悩まれても困る。
 どうも、この世界は緊張感が張り詰めすぎると割れる性質があるようで、蓮子は自分の調子が狂う理由がそこにあるのではないかと思い始めていた。かといって、何事も適当にあしらうのは趣味じゃない。どのあたりに境界線を引くかが鍵か。
「ふぎゅぅ……聞こえてないと思ったのにぃ……」
 これからの身の振り方を考えているうちに、制裁を受けた彼女が書架をよじのぼり、赤くなった鼻を押さえながら定位置に復帰していた。よほど痛かったのか、瞳に溜めた涙が憐憫を誘う。
「ふふふ……ちょっとお見苦しいところをお見せしましたが、私をただの出オチ要因だと思っていると後々痛い目を見ることになりますよ」
「あんたが真っ先に痛い目見てた気がするけど……」
「気のせいです」
 言い切った。その図太さには感服する。
「さて、私にハッキリとした名はありません。名も無き淫魔、さしずめ小悪魔といったところでしょうか。サキュバスと呼んで頂いても構いませんが」
「要するにドスケベってことね」
「そのドスケベな破廉恥露出狂さんに、ひとつお聞きしたいところがあるのですが」
「ちゃんと呼んでくださいよ。――で、何ですか。質問なら随時受け付けますよ」
 軽い調子で答え、小悪魔は阿求の問い掛けに寛大な姿勢を取る。彼我の距離は離れているはずなのに、お互いの声は不思議とよく通る。何か細工がしてあるのか、蓮子の瞳ではその仕掛けを見抜くことはできない。
「では、単刀直入に。――貴女が」
「あなたが、この事件の犯人なの?」
 阿求の言葉を継いで、蓮子は小悪魔に問う。
 小悪魔は、ふたりの真っすぐな瞳に気押されることなく、唇の端をわずかに歪ませて笑う。
「えぇ。この私が、里の人間を快楽の渦に沈めんとしている張本人です」
 豊満な胸に手を当て、声も高らかに誇らしく宣言する。
 悪びれる様子も無く、己の所業をおもむろに語り始める。
「感染性の種子を人間の性器に植えつけることで、その人物の性欲が大幅に高められる――魔界には珍妙な植物が数多く生えていましてね、これもその一種ですよ」
「どうして、そんなことを……」
 半ば予想が付くけれど、犯人を追い詰めた記念として一応訊いておく。
 小悪魔は、知れたことだと嘲笑うように、人差し指の第二関節を舐めて挑発する。
「私の種族を聞いていませんでしたか? 淫魔、サキュバスと呼ばれている以上、私はえろいこと大好きです。するのも見るのも大好きです。どうせなら、この世に生きているものがみな全裸であればいいと結構本気で思っています」
 言いながら、ベストのボタンを上からひとつずつ外していく。蓮子は颯爽と逃げ出したくなったが、メリーが美鈴に捕らわれている手前それも叶わない。淫乱の星の下に生まれたとしか思えない生き物を前に、蓮子は動揺を抑え切れなかった。
「あきゅうー……」
「泣きそうな顔しないでください。蓮子さんが初心なのは知ってますから」
「別に初心でもないけど……ドスケベでもないし……」
「はいはいそうですね」
 蓮子より遥かに背の低い阿求に頭を撫でられ、蓮子はくすぐったいやら恥ずかしいやらで動くに動けない。その間に、阿求は小悪魔の舐めるような視線から蓮子を守るように、一歩前に出る。
「貴女の目的は解りました」
 小さくとも、凛と通る声。
「ですが、その目論見が割れた以上、いずれ計画は破綻するでしょう。実際、紅魔館の上層部は貴女の暴走を不安視しています。里に迎合するわけではないにしろ、無闇に敵対するのも得策ではありませんからね。そして、民間人に被害が及んでいる現状を黙って見過ごすほど、稗田阿求の目は曇ってはいないのですよ」
 普段は斜に構えた態度を取っているわりに、いざ敵を前にするとその佇まいは可憐な少女の雰囲気を逸脱している。一種の老獪ささえ滲ませて、小悪魔を見据える瞳には一点の曇りもない。惚れそう。
「ふ、惚れちゃいけませんよ」
「だからその一言が余計なんだってば……」
 皮肉げに笑む阿求と、肩を落とす蓮子を見下ろして、小悪魔は可笑しそうに微笑む。既にベストのボタンは最後のひとつを残すばかりだ。
「見過ごせないのなら……どうするんですか?」
 最後のボタンを親指で弾き、小悪魔は書架の縁に足を掛ける。明らかな挑発にも、阿求は腰を据えて構えていた。手札を切るのはまだ早い。相手にしろ、一体どんな隠し玉を持っているのか解らないのだ。
「事前に確認しておきますが、里の人間に手を出すことはできない。ご存知ですね」
「えぇ。十二分に」
「ならば、もう諦めてください。植えつけた種を取り払って、何も無かった状態に戻して頂ければ、こちらも悪いようには致しません」
 交渉というよりは、崖っぷちに追い込まれている犯人を諭すような口調だった。ただ、進退が窮まっているはずの小悪魔は、淫靡な微笑を浮かべたまま余裕のある態度を崩さない。
 そんな淫魔の立ち振る舞いに不審なものを覚え、待機しているはずの護衛に合図をすべく右手を挙げようとする。が。
「無駄ですよ」
 余裕綽々と、小悪魔は告げる。嫌な予感がして、攻撃の意図を持って右手を挙げても、護衛の攻撃は小悪魔に届かない。そも、護衛が存在している気配すらない。
「――迂闊」
「え、何、どういうこと?」
 歯噛みする阿求の肩を掴み、蓮子はうろたえる。
「護衛の方が引き離されました。おそらく、咲夜さんの仕業でしょう」
「え、それは、もしかしてまずい状況なんじゃないの」
「あまり好ましくないことは事実です」
 視線は小悪魔に合わせたまま、決して気持ちを折らさぬよう顔を伏せることもない。だが小悪魔は、その気丈さすら見越したように、淡い微笑みを浮かべている。
「ご安心ください。悪いようには致しませんよ」
 くすくすと、悪魔じみた声で揶揄する。阿求は唇を噛み、蓮子は不安げに書架を見上げる。
「な、何をする気よ……」
「いいですねぇ、その初々しい態度。そそります」
「何なのよもう……別にあんたを喜ばせるためにやってるんじゃないっての……」
「では、そろそろ本番と致しましょう」
 小悪魔は、仰々しく指を鳴らす。鬼が出るか蛇が出るか、何にしてもろくなことにはならないだろうと覚悟を決めて、蓮子は次なる事態に備える。
 が、そんな健気な心構えすら、怒涛の展開の前にはことごとく瓦解する。
「――な、っ……」
 薄暗い床に浮かび上がったのは、五個の魔法陣。赤い六芒星が眩く音も無く光り輝き、何事かと目を見開く蓮子の前に現れたのは、何を隠そう、何も隠していないすっぽんぽんの男たちだった。
 しかも、どこかで見たことがある面子だと思ったら、蓮子とメリーを犯した面々に、阿求の父親を加えた五人であった。それぞれに共通するのは、腹部に浮かび上がる六芒星の魔法陣。図書館の床に描かれたそれと、男たちのお腹にあるそれはほぼ同一のものであり、彼らが召喚されたのも魔法陣の効果によるものだと推測できた。
 かつ、以前より遥かに大きく、硬く脈動している勃起。荒い吐息。
 蓮子は、過去の経験から反射的に身を竦ませる。
「ひゃん……!」
「落ち着いてください。まだ大丈夫です」
「そんなこと言われたって……」
 堪えようにも、振り絞る声はどうしても震えてしまう。完全に苦手意識が出来てしまった。
 小悪魔は告げる。
「約束通り、私はおふたりに危害を加えることはありません。ただ、同じ里の住民が相手ならば、約束を違えることにはなりませんよね?」
「それは詭弁というものですよ」
「まして、強姦ではなく和姦であるならば、訴える余地などありはしない。――きっと、ご満足して頂けますよ。八雲には到底及びませんが、私にも式を打つ程度の能力はあります。彼らの基礎体力を増進させ、際限なく精を放つことも、壊れるほど腰を振らせることも容易」
 男たちの瞳は、ぎらついているわりにどこか焦点が朧だ。筆下ろしを終えた少年などは、みずからの怒張を制御し切れず、早くもピンク色の胴に手を伸ばして自慰を始めている。
「みなさん、えろくていらっしゃいますから。私の命令にも素直に従って頂けると思います」
「……ちくしょう、やっぱりこういう展開かよー!」
 目尻にうっすらと涙を溜めながら、蓮子はやり場のない怒りを小悪魔にぶつける。決して届かないと知りながら、たとえ届いたとしても聞き入れられることはない清純な咆哮は、案の定、底の知れない性欲にあっさりと押し潰された。
「そのうち、何も考えられないようになります。ただ、気持ちいいとしか感じられなくなる――それは、幸せなことだと思いませんか?」
「思わねー!」
「残念です」
 阿求が先程してみせたように、小悪魔は軽やかに右手を挙げる。それが号令となり、全ての魔法陣が掻き消え、男たちの瞳に明確な意志が宿る。
「おぉ、ねーちゃんだ……」
「阿求さま! 阿求さまじゃないか!」
「はぁ、はぁ、おねーちゃん……うぅ」
「いかん、身体が勝手に……すまない阿求……」
 各々、欲望に忠実な発言を行い、現時点で最も求めているものに手を伸ばす。真っ先に阿求に近付いたのが阿求の父親というあたり、彼の業の深さが窺える。
「やだもう、こっち来ないでよ! 私はメリーじゃないんだから!」
「えっ……だめなの……?」
「えぇ……なんでそこで泣きそうな顔するの……」
「ひゃあ! もう我慢できねえ!」
「ぎゃー!」
 既視感である。
 純朴な少年に気を取られている隙に、背後から思い切り抱き着かれる。ぎゃーぎゃー言いながら抵抗を続ける蓮子だったが、並みいる肉棒に囲まれ、雄くさい臭いに包まれて、身体が前回の経験を呼び起こし、不意に力が抜ける。
「おねーちゃん、い、いいよね……?」
 咥えてくれと言わんばかりにずいっと押し出される桃色の男根。使い込まれていないがゆえに、色合いも形も若干の可愛さが見て取れる。が、太さは大人のそれに及ばなくとも、天を突く肉棒はたとえ皮を被っていてさえ立派に女を貫く力を秘めているのだ。安心など出来ようはずもない。
「や、やだ……何を言われたって、絶対に嫌なんだから……」
「うぅ……そんなぁ……」
「じゃ、無理やり行くしかねーな」
 少年の父は、強引には迫れない少年の背中を押し、ペニスから顔を離そうとする蓮子の頭を引き寄せる。お互いに距離が縮まり、どちらも勢いを殺し切れずに亀頭が唇の縁に触れる。
 つん、と鼻に付くきつい臭いが蓮子を苛む。
「んゅ……!」
「あっ……!」
 蓮子にキスをされたペニスは、元々張り詰めていたことも、盛んに扱いていたことも影響し、今にも精を吐き出さんと脈打っている。開始早々、射精が近い。
 必死に口を引き離そうと首を逸らす蓮子だが、我慢の限界に達した少年が蓮子の頭を抱え込み、みずからも腰を突き出したためにフェラチオから逃れることは出来なかった。
「んぷぅ、むごぉ……!」
「あ、あっ、だめ、もう射精ちゃう……!」
「むぁ、あむ……!」
 ――むりゅぅ、くちゅ……!
 唾もろくに絡んでいないというのに、咥内の温かさ、舌の滑らかい感触に呑まれ、少年は蓮子の頭を強引に揺さぶる。相手の呼吸などお構いなし、溢れ出る唾も興奮を増長させる要因にしかならず、急速に高みに上り詰めていく。
 唇がカリ首に引っかかるくらいまで引き寄せ、喉奥に突き刺さるくらい深く亀頭を押しこむ。押し出そうともがく舌はかえって逆効果となり、少年の声にますます余裕が無くなる。
 ――ぶちゅる、ぶぽぉ、ぬぽっ!
「ん、むぶぅ、ぬちゅ……!」
「う、あぁぁっ! おねーちゃん!」
 少年の手が止まり、一際強く突き出されたペニスが蓮子の舌を押し返す。舌の先端が期せずして鈴口にねじ込まれ、それがとどめとなった。
 ――びゅるるるっ! どぷっ!
「んぶうぅぅ!」
 亀頭が膨れ上がり、我慢に我慢を重ねただけの膨大な精液が放出される。咥内を泳ぎ回る精子は瞬く間に蓮子の口を満たし、しかし吐き出そうにも頭を押さえられているから飲み下すしか術はない。仕方なく嚥下した精液は粘っこく、喉に引っ掛かり、お腹の中に落ちていく過程で涙がとめどなく落ちてくる。
 ――ごぽぉ、びゅくっ、ぶぴゅぅ……
「んぁ、はぁ、お、おねーちゃん……おねーちゃん……」
 二度、三度と脈動するペニスを、白濁液で滑りがよくなった蓮子の咥内でねっとりと掻き回す。擦るたびに痺れが走るような快感を覚え、少年も、雄の臭いに蹂躙されている蓮子も、ぴくぴくと身体を震わせる。
 萎れて元気の無くなったペニスを引き抜き、抜き際の唇にカリ首が引っ掛かって少年が呻く。飲み込み切れなかった精液が蓮子の口から零れ、薄暗い床にぽたぽたと音を立てて落下する。
「あ、ふあぁ……すごく、気持ちよかった……」
「……こっちは、最悪な気分よ……うぷぅ」
「あ、ぅ、ごめんなさい……」
「謝るくらいなら――ひぁん!」
 一息付く間もなく、おっぱいを揉みしだかれる。こちらも優しさなど微塵も感じさせない傲慢さで、ただ乳房の温かさと柔らかさを堪能していた。
「や、やめてよぉ……! いたっ、いたいわよ! もっと、こっちのこと考えて――んあぁっ!」
「相変わらず、お肌すべすべしてるねー」
 即座にスカートをめくり、パンツをずらしてお尻を撫で回す背後の男。バストから瞬時にヒップへと攻撃対象を切り替える回転の速さには、全く恐れ入る。
「いくぜー、ねーちゃんのあそこに突っ込むぜー」
「ちょぉ、まだ準備も何も……! ていうか、準備うんぬんじゃなくて、初めから挿れるなー!」
「くぅ、その勝気な態度、興奮するねー」
 ひくついている蓮子の局部に、いきり立った肉棒の先端をぴたりと当てる。先走り液に濡れ、男は完全に臨戦態勢を整えているが、蓮子はというと急展開に過ぎて愛液の分泌も中途半端である。
 この状態で、以前よりも硬く大きく勃起している肉棒を受け止め切れるはずもない。膣痙攣でも起こしたら泣くに泣けない。
「いや、やめろばかー!」
「うーん、でもだめー」
「ひゃう……!」
 徐々に押し込まれる亀頭に、身体全体が貫かれるような錯覚を得。
「――、――待て」
 小悪魔の制止に、男全員の行動が中断される。無論、挿入しかかっていた肉棒の進行も止まり、羽交い絞めにされながら父親の剛直を頑強に拒み続けていた阿求も、父親の息子へ加え続けていた蹴撃も一旦収められた。
「……どなたか、いらっしゃったようですね。綺麗な髪をした――プロポーションも抜群な」
「ま、さか……」
 拘束の解けた蓮子が、小悪魔の視線を追って闖入者の存在を探る。その居場所を最も早く察知したのは、混沌とした暗闇に細い眼差しを送っている阿求だった。
「あ」
「う?」
 目線の先を辿れば、頼りない足取りで、胸を押さえて息を荒げながら乱交パーティに近付いてくる人影があった。やや波打っている金色の髪、小悪魔に匹敵する我がままなおっぱい、うっすらと朱に染まった頬は興奮の極みに達しているように見える。
 蓮子は叫ぶ。
「メリー!」
「れ、蓮子……」
 美鈴にお姫様抱っこされ、お持ち帰りされたはずのメリーがいつの間にやら図書館に迷い込んでいた。唇や頬に吸いあとが残っているため、行為を終えた後であるのは理解できるが、ならば何故ここにいるのか。
 否。
「何故、ここに来れたのですか」
 小悪魔が疑問を紡ぐと、メリーは途切れ途切れの息遣いで、苦しげに言う。
「美鈴さんに、いっぱい可愛がってもらったんだけど、何回かしてベッドに入ったら、そのまま眠っちゃって……」
「あのおっぱい……」
 蓮子が忌々しく呟いたのは、この状況ならメリーを隔離しておいた方が得策だからである。美鈴に捕えられている状況は、人質という点では不利、保護という点では有利といえる。現状は、最悪の事態に転がりつつあった。
 ましてや、種を植え付けられているメリーが登場する展開ならば。
「それで、蓮子の匂いを辿ってたら、こんなところに」
「匂いかよ」
 出来ればもっと綺麗なもので追って来て欲しかった。勘とか第六感とか。
「……あなたが、ラスボスさん?」
「そうですよ。お久しぶりです」
 種付けされた時の記憶がないのか、メリーは不思議そうに首を傾げる。小悪魔が指を鳴らすと、メリーの下腹部にも赤く光る魔法陣が浮かび上がる。けれど、男たちのように瞳が虚ろに染まることもなく、急に表れた六芒星を他人事のように見下ろしている。魔法に対する耐性が強いのかもしれない。
「では、趣向を変えて参りましょうか」
 小悪魔は、空気の上に文字を描く。滑らかに動く唇は、短い呪文を紡ぎ出す。
 混沌の世界より魔性の大地に淫らに生った種子を撒く。
 生み、生え、孕み、絡み合う凹凸に恵みの雨を降らせたまえ。
「テンタクル」
 緑の六芒星。空気に描かれた図形が、メリーの周囲にも同等の存在が四つ現出する。蓮子は紡がれた言葉の意味を悟り、呪文がなぞる通り混沌とした展開に唇を引き攣らせる。
「え、蓮子、おちんちん咥えてた?」
「今更そこに突っ込まれても……あんたはまず、自分の心配を――」
 続けようとして、息が詰まる。男たちも、突如として現れた異様な物体に息を呑む。
「何、これ……」
 ――触手、である。
 好意的に見れば、果てしなく巨大な木の蔦と考えられなくもない。ただ、ぬめり気を帯びた幹に、伸縮自在、一本一本が男性器を彷彿とされる太さを持ち、その先端はおあつらえ向きに亀頭の形に張り出ている。無論、射精口も健在だ。
 ひとつの魔法陣から数本、四つ合わせれば二十本に届く。その全てがメリーの姿態に照準を合わせ、得体の知れない粘液を床に垂らしている。
「おちんちんはいっぱい咥え込まれたと思いますが……流石に、こういうのは初めてでしょう?」
 小悪魔もまた、空中の魔法陣から生えた触手に唇を這わせる。メリーは困惑の極みにあるのか、胸に手を当てたまま触手の群れを凝視している。
「ぬちゅ……これは、魔界に実在する植物でして。植えつけさせて頂いた種も、こちらの植物から採取されたものなんです。ん、くちゅ……」
 触手が矛先をメリーに向けた状態で停止し、みずから女を犯す意志を持った魔界の植物は、小悪魔の号令を待たずにメリーへと襲いかかる。
「きゃっ……!」
「メリー!」
 手足を絡め取られ、宙に持ち上げられるメリー。これから卑猥なプレイを実践される友人を黙って見ていることしかできず、蓮子はやるせなさで下唇を噛む。でも何とはなしに、当人は悦んでいそうな気もする。微妙なところだ。
「それではみなさん、お待たせ致しました」
 奴隷と化した男衆に向けて、早くも唇を粘液で濡らした小悪魔が号令を放つ。
「――思う存分、交わってください」
 小悪魔の口付けを合図に、乱交が再開される。

「いくぜー!」
「や、ぁん!」
 ――ずぷぷぅ……!
 真っ先に貫かれたのは蓮子だった。待機中にも男の股間は猛々しく漲り、蓮子の膣もまた、雄の臭いに同調して分泌液を生み出していた。先っぽは先走り液が潤滑油の役割を果たし、その後はぬるぬるの愛液が男根を奥に導いていく。
「やだ、もう、なんで濡れてるのよぅ……!」
「好き者のくせに、強情っ張りだなーねーちゃんは。そぉれっ」
「んひゃあっ!?」
 浅く抜き差しが繰り返されていたペニスだったが、掛け声と共に根元まで蓮子の膣に埋没する。前回より太く、長くなったペニスは蓮子の膣内を圧迫し、下手をすれば亀頭が子宮口にまで達し、キスをしてしまいそうな勢いだ。
 カリ首が入り口の襞に引っ掛かるくらいまで引き抜くと、また一気に根元まで差し込む。ぱちんぱちんと男の下腹部が蓮子の尻を叩き、それが次第に体液まみれになってぬちゃぬちゃと湿った音を立てる。
「うおぉ、早速一発目いくからなぁ……!」
「いぃっ!? は、はやすぎるわよ……! やめてよ、もー!」
「いーやだめだ、ねーちゃんの膣が気持ちよすぎるのが悪い……!」
「なによ、それぇ……!」
 ――ぶちゅっ、ぱぁん、ぷちゅん!
 腰の動きは加速度を増し、大きく前後していた腰も今や子宮に到達するか否かという付近で小刻みに前後させるのみ。揺さぶられ、奥の奥まで貫かれた蓮子は息をすることもできず、ただ与えられる衝動の波に押し潰れていた。
 そして。
「うぅっ、射精るっ……!」
 男の腰が深く押し出され、蓮子の膣をペニスで満たす。
 同時、鈴口から精が吐き出される。
 ――ごぷっ! どぽぽぉ、ぶびゅうぅっ!
 子宮に最も近い位置で、音が聞こえるくらいの激しい射精。何度か脈打ち、そのたびに胎内へと精子が叩き付けられる。絶望と喪失感と、それを超越する充足感。蓮子は自分が何を考えているのか解らなくなっていた。小悪魔の言うように、何も考えず、感じるままに身を任せた方が楽なのかもしれない。が、それを安易に許す蓮子ではなかった。
 ちゅぽん、と萎えた肉棒が引き抜かれ、役目は終えたとばかりに蓮子の正面にやって来る。
「ふー……、ほら、ちゃんときれいに舐めてくれよ。ねーちゃんの中に入ってたものなんだし」
「だ、だれが――あぶぅっ!?」
「はぁー、つくづくあったかいなぁーねーちゃんの身体は」
「もぎゅ、んぷぉ……!」
 有無を言わさず、様々な体液に濡れた肉棒を蓮子の口の中に押し込む。咥内で再び勃起を取り戻した肉棒は、次なる射精に向けて彼女の口を凌辱する。少年もまた、物欲しそうに勃起ちんぽを蓮子の頬に擦りつけ、舐めてほしいと訴える。
 その間に、少年の父親が蓮子の背後に回り、逆流した精液が溢れ返っている蓮子のクレヴァスを指で開き、みずからの剛直を添えて狙いを定めていた。
「よい、しょっ……!」
 ――ぶちゅっ、ぐぷぷぷぅ……!
 情け容赦なく、腰砕けになっている蓮子を犯す。落ちることも堕ちることも出来ず、堂々巡りの苦行は続く。
 蓮子から少し離れた場所では、阿求に執拗に迫る阿求の父親が、第三者の力を借りてようやく阿求の自由を奪ったところだった。メリーを凌辱している触手の数本が、空気を読んで阿求の両手両足を縛り上げたのだ。物言わぬ触手に会心の笑みを浮かべ、阿求父は親指を立てる。
 股を開かれた状態で着物を剥かれ、晒し者になった阿求はキッと実の父を睨む。
「この、外道……!」
「罵倒を受ける覚悟はできている……嗚呼、肉欲に逆らえぬこの身が憎い……!」
「絶対嘘でしょ。ただ実の娘を犯したいだけなんでしょ、お父様は」
「そんなことはないよ」
 この期に及んで、目が泳ぐことも声がぶれることもないのは逆に感心する。
 晒し上げられれば、気丈な阿求とて無力な少女でしかない。未成熟な胸の蕾を摘まみ、唇を噛んで恥辱に耐えるその表情をも嗜む。
「どうせなら――言い訳なんて使わずに、犯したいなら犯したいのだと。言ってしまえば、気も楽でしょうに……」
「うむ」
 否定も肯定もせず、父は黙って阿求の花びらに亀頭を宛がう。それぞれ潤滑油は万全だが、阿求父の男根は淫乱五人衆の中でも最も太い。それを阿求の矮躯に突っ込むのだから、壊れはしないかという不安もよぎる。
 だが。
「いくぞ」
「うぅ、ふぅ、ぎゅぅ……!」
 ――ぐぷぅ、ぬじゅうぅ……!
 ゆっくりと、相手を労わるように、子どもの腕に匹敵する男根を膣に送り込む。途中、処女膜の抵抗はなく、ただ幼いがゆえの過度な締め付けが際立つ。
「ぐぅ、流石にきつい……!」
「あぐぅ、ふぎぃ……!」
 亀頭を挿入し、太幹を膣に突き入れられると、ぎちぎちに詰め込まれた阿求の下腹部がぽっこりと膨らむ。まだ竿の半分程度しか呑み込んでいないのに、阿求の器は既にその許容量を超越していた。
「はぁ、ふぅ、お父様の、お腹の奥まで……」
「痛かったり、辛かったりはしないか」
「だ、だいじょうぶ……では、ないですけど……」
 阿求はペニスの形に張り出た下腹部を擦り、不自然な感触に頬を綻ばせる。
「ご覚悟を。……絶対に、ただじゃおきませんから」
「なるほど。その調子なら、動いても大丈夫そうだ」
 阿求を想い、肉棒を膣内に留めていた父だったが、娘の気丈な物言いに安堵して、おもむろに腰を振り始めた。おおよそ需要と供給が釣り合わない性交であったが、泣き叫びも喚き散らしもせず、犯す方も下卑た言葉遣いはしない。
 近親相姦であることを実感しているから、下手に言葉を交わして、取り返しのつかない領域にまで堕ちるのは避けたかった。
 既に手遅れである、という感覚は、とうに失せていた。
 ――じゅぷ、ぐぷっ、ごりゅっ、ずにゅう……!
「う、おぉ……こんなに締め付けられたら、もう射精してしまうよ」
「あぁ、が、ぐぇ、お、お父さま……! それ、それだけは……やぁ、ふぎゅ!」
「もし、射精して、阿求が孕んでしまえば……阿求に妹ができるね。それとも、娘になるのかな」
 楽しみだ、と意地の悪い笑みをこぼし、更に腰を深く送り出す。初めは膣の粘膜を傷つけまいと控えめだった前後運動も、愛液が程良く分泌され、潤滑油が十分に行き届いてからは、その速度も、奥行きも次第に増していった。
 阿求父の吐息も徐々に荒く短くなり、全く余裕のない阿求の耳元にとどめの一言を囁く。
「あぁ、阿求は可愛いなぁ……! 頼む、私の子種を受け止めてくれ……!」
「ふぇ!? んぁ、だ、だめです! そんなことしたら、お母さま、だって、うぎゅぅ!」
 必死の抵抗も、言葉だけでは父の興奮を抑え切れない。射精の予感は高まり、腰を送り出す間隔も狭まる。
「うおおぉ! いく、おまえの子宮にたっぷり射精すぞぉ阿求ぅ……!」
「あ、ひぐっ、んうぅぅっ!」
 溢れ出す涙を堪えられず、阿求は、子宮口に亀頭をぴたりと当てられる瞬間を、確かに実感した。
 ――びゅくっ! どぷっ、びゅるるっ、ぶぴゅうぅっ!
「ひぁっ――!」
 父の精子を、余すところなく子宮に受ける。限界を知らず、留まることなく精液を吐き出し続けるペニスは、いくら脈打っても萎えることを知らなかった。それどころか、いつまで経っても阿求の膣内に留まり、硬く勃起し続けている。
 ペニスで栓をされているから、精液は逆流せずにずっと阿求の子宮と膣の中を泳ぎ回っている。まるで妊娠しているかのように膨らんだお腹を陶然と見下ろし、阿求は呆然自失としていた。
「は、あぁ……お父さまの、子どもが……」
「ふぅ……すまんが、まだまだ収まりそうに無い……。ちゃんと責任は取るからな、私の子を孕むまで阿求の中にぶちまけるぞ……!」
「え、ひぁ、そんな、ぁ……!」
 ぐちゅぐちゅと卑猥な音を響かせて、阿求父は繰り返し阿求を犯し続ける。射精の間隔は短く、しかしその放出量は減る気配が感じられない。時折、肉棒を引き抜いて阿求にフェラチオを求め、娘も渋々それに応じる。みずから首を振るのも疲れるのか、阿求はもう諦めて阿求父の腰使いとイラマチオに任せていた。
 ――ずびゅうっ! ごぽぉっ!
 絶え間なく射精を受けているのは、メリーも同様だった。両手両足を拘束されているのは阿求と同じだが、こちらは触手の先端をあちこちに擦り付けられている。手のひら、足の指、ふくらはぎ、太もも、へそ、脇腹、腋に二の腕、乳房に鎖骨、ほっぺたや額、果ては髪の毛まで、使える触手を全て使ってメリーを味わい尽くしている。
「むぐぅっ! んぶぅ、ぬちゅ……!」
 勿論、咥内や膣内には荒ぶる触手が嵌められており、そのうち腔内にも突き刺さりそうな勢いである。吐き出される液体は、雄のそれと同じように白く濁った粘液で、臭いもきつく、味も酷い。だが人体に害はなく、いくら飲んでも子宮に射精されても、種が成長して胎を突き破ったり、ということはない。
 問題は、この植物の種を予め性器に植えつけられていると、触手から射精された時に得る性感が倍増することである。
 実際、メリーは胎内に射精を受けた当初からほぼ意識がなく、触手のされるがままに舌を絡め、腰を振り、白濁液に汚されている。
「ぷぁ、あは、ひゃう……あぁんっ!」
 ――ぶしゃあぁ! ぴゅぅ、ぶぴゅるるっ!
 一斉にぶちまけられた精液が、メリーの全身に降り注ぐ。服は全てどろどろに汚され、脱がされていない上着からも肌の色が透けて見える。精液を飲み下し過ぎて、吐き出す息も、げっぷも全てイカくさい。その醜悪な臭いを自分の鼻から感じ、メリーは一瞬顔をしかめて、またすぐににやけた。
「あひゅ……はぁん……」
「ふふ、悦んで頂いてるみたいですねぇ……はむっ」
 あらん限りの凌辱を受けている彼女たちを遠巻きに眺め、小悪魔は書架の上で男の肉棒を頬張っていた。下の三人に覆い被さる機会を逸した男が哀れで、加えて小悪魔自身も欲情してきたせいもあり、こちらも触手を用いて男と交わっている。
 下の口は触手に任せて、上の口は見ていて男の反応が面白い女の舌で。
「ぷちゅ、ぬりゅぅ……ふあぁ、ほんとに大きい……逞しいですわ、素敵」
 寡黙だが、熱く滾る肉棒を備えた男に、小悪魔は艶めかしい視線を送る。気持ちがいいはずなのに、あまり表情が変わらないのが悔しくて、小悪魔は左手の薬指を男のお尻に差し向ける。
「えいっ」
「……ぅ!?」
 ほんのわずかだが、肛門の内側に入ってくる女の指を感じ、男は衝撃に目を白黒させた。小悪魔は、困惑の極みにある男の表情にことのほか満足して、前立腺を刺激するなら第一関節で済むところを、調子に乗って第二関節まで深く捻じ込んでいた。
「どう、ですか?」
「ぐぅ、んおぉ……!」
「んぶうぅっ!?」
 意味のある言葉は紡がず、男は小悪魔の頭を抱えこみ、己の怒張を無理やり咥えさせる。小悪魔もその行動は予測済みであり、喉奥に突き刺さるほど激しいイラマチオにも舌を絡めて対応する。丹念に唾をまぶし、唇はすぼめ、カリ首に舌と唇を引っ掛けるよう、舌先はなるべく尿道口に触れるように。
「くちゅ、じゅるぅ……、ん、んっ、ちゅるる」
「ふぅ、はぁ、んうぅ……! で、射精る……!」
「むぅ、んんんっ!」
 がくがくと頭を揺さぶられ、小悪魔も一瞬呼吸が困難になる。
 そして亀頭が喉の奥に突き刺さり、尿道口がぱっくりと開き。
 ――びゅっ、どぷうぅっ!
「んぉ、おぼぉっ!?」
 濃厚な、それこそ一年は溜めたかのような膨大な精液が、咽喉を叩いて直接小悪魔の胃に向けて吐き出される。彼は、昨日も小悪魔にこってり絞られたはずなのに、わずか一日でこの量である。お腹がいっぱいになる、という比喩はよく使われるが、小悪魔はまさか自分がそれを味わうことになるとは思ってもみなかった。
 ――びゅるる、ごぽぉ、ずびゅうぅ……!
「あぶぅ、んはぁ……! す、すごい、飲み切れない……!」
 量はむしろ溜め込んだ尿のそれに近い。小悪魔に吐き出しても飽き足らず、みずから幹を擦って絞り出した精液がびちゃびちゃと彼女の身体を汚す。
「ん、ひゃ……なんて、臭くて濃いのかしら……信じられない。度を超えた獣ですね」
 胸に垂れた精液を舐め、侮蔑とも賞賛とも取れる言葉を吐く。男は、気恥ずかしそうに目を逸らす。
 膣を犯す触手の動きは比較的淡白で、物足りなさを感じていた小悪魔は触手の幹を握り締めて「もっと強く」と脅しを掛ける。それに応じて、触手も抜き差しの動きを加速させる。
「あはぁ、そう、それでいいんですよ……」
 萎えることを知らない男の逸物を擦りながら、触手の精液を胎内に浴び、小悪魔は恍惚とした表情を晒しながら下界の乱交を見渡す。
 盛り上がっているのは相変わらずだが、やはりメリーの乱れようが最も映える。彼女は淫らに生きてこそ人生を謳歌できるのではないかと思えるほど、白濁液に染まった姿はとても生き生きしている。
「んはぁ、にゃぅ……!」
 今までアナルの入口をなぞり続けていた一本の触手が、ついに最後の一線を越える。精液と、表面の粘液を鑑みれば、括約筋を痛めずに侵入できる。だが触手は万一のことを考え、まず射精口をメリーのお尻の穴に押しつけ、あらん限りの精液を注ぎ込む。
「ぐぅ、おほぉ……!」
 予想外の角度から砲撃を受け、メリーの顔色が変わる。だがそれも一瞬のこと、触手の意図を察したメリーは、おのずからお尻を突き出し、その穴を開いて見せる。拘束されてはいるものの、淫行を望むのなら触手は例外なくそれに応える。
 メリーは淫靡な笑みを浮かべ、欲望を乞う。
「……ね。きて」
 触手は、更に滑りが良くなった肛門に狙いを定め、じっくりと狭い穴を分け入っていく。ずぶり、と肉がせめぎ合い、メリーの腔内に触手が内没する。
「ん、んうぅ……!」
 けれど、触手は思いのほか柔らかく、肛門の付近は適度に収縮し、境界を越えてからは腸を満たすほどに膨らむ。これなら括約筋に負担を掛けることはない。
 それゆえ、激しい抜き差しはできないが、メリーが絶頂に達するには十分すぎた。
「あ、はぁ、い、いっちゃうぅ……!」
 きゅっ、と肛門が締まり、それに応じて触手もまた白濁液を吐き出す。今度はより深いところで、より奥にまで達するよう、精いっぱいの精を放出する。
 ――ぶびゅうぅっ!
「ひゃ、んあぁ――っ!」
 びくびくと身体を震わせ、メリーは潮を噴いて絶頂を迎えた。完全に腰が砕け、身体を支えることもできず床にうつ伏せるが、触手はメリーの精神などお構いなしにピストン運動を続ける。
「ぁ、ぅ……」
 呻くような喘ぎ声が低くこぼれ、輪姦は休む間もなく続く。
 制限を加えなければ、終わりなど来ようはずもない。小悪魔は初めからゴールラインなど引いておらず、成り行きのまま、包み隠さずいえば気持ちよくなれたら他はどうでもよかった。
 だから。
「あは、みなさん、幸せそうですねぇ……やっぱり、こういう世界がいちばん解放的なんですって――ば」
 唖然、とする。
 メリーから目を離したのは、ほんの数秒もなかったはず。その間に何があったのか、理解しているのはメリーしかいないだろう。蓮子も阿求も、激しく犯されていて周りを気にしている余裕などない。
 だが、状況は一変した。
「……なん、で?」
 メリーを責め続けていた触手は、その全てが活動を停止し、陸に打ち上げられたウツボのように脈打ちながら床に横たわっていた。それらを鼻息交じりに睥睨して、白濁にまみれた金髪の美女は、小悪魔が居座っている書架をビシッと指差す。
「小悪魔、さん。で良かったわよね」
「え、あ、はい。その通りですけど」
 訳が解らず、とりあえず素直に応答する。メリーは胸を撫で下ろした様子で、この場にそぐわぬ慈悲深い笑みを浮かべて、静かに話し始めた。
「今すぐ、蓮子と阿求を解放して。申し訳ないけど、逆らっても無駄みたいよ。もう、この子たちと仲よくなっちゃったから、私」
「……仲よく?」
 意味が解らない。小悪魔は首を傾げ、試しに膣から触手を引き抜いてみる。こちらは、特に活動を停止させることもなく元気に蠢いているのだが。
「……え、まさか、植えつけられていた種が、植物の精子に呼応した……? とすると、ふたりは親子みたいな関係になって、でもそんなことが……」
「うぅん、よくわからないけど、通じ合っちゃったんだから仕方ないじゃない。この子たちも、あなたのこといっぱい犯したいって蠢いてるし」
「蠢いて……いや確かに蠢いてはいますけど、いやいや」
「交渉は決裂、と解釈していいのかしら?」
「え、ぅ……」
 立場が完全に逆転し、小悪魔は言葉に詰まる。が、すぐに精液混じりの髪をくしゃくしゃに掻き乱して、ヤケクソ気味に書架の縁を蹴って啖呵を切る。
「……あーもう! ただ犯されるだけの人間が何を喚いているのです、性欲において淫魔は人間の上位存在であることを自覚なさい!」
「ただ犯されるだけならオナホールかバイヴレーターで十分よ。人間は、みずから考えて、相手を感じられるからこそ人間なのよ」
 真面目に言おうと思えば何でもそれっぽく言えるものである。
 小悪魔はまず威嚇の意味を込めて弾丸を形勢し、メリーの周囲に着弾させるべく腕を振り上げる。当たったらごめん、と心の中で謝っておいて、勢いよく弾を打ちだそうと手を振り下ろす。が。
「――ぶにゃっ!?」
 手首に強い抵抗を覚え、弾が勢いを失い書架の真下に落下する。見れば、空中から生えていた触手が小悪魔の手首を絡め取り、彼女の自由を奪っていた。
 触手は召喚主に反逆する。
「あぅ、全然離れない……!」
「ね、ふたりを解放してくれない?」
「くぅ、詰めが甘いですね……! 私は淫魔ですよ、どんなに触手で責められようと、一方的に気持ちよくなるだけで拷問になどなりはしないのです!」
 自慢げに語ることでもないが、それがメリーに対する切り札であることも事実。
 けれど、メリーは全く動じない。
「いいえ、逆よ」
「……逆?」
 メリーの指示に従い、鎌首をもたげる触手はしかし、一向に小悪魔を犯そうとしない。底無しの性欲を秘める淫魔を承伏させる手段は、おおまかに分けてふたつ。
 ひとつは、完全に肉欲を満たし、快楽を越える責め苦を味わわせる。
 そして、もうひとつは。
「私は、何もしない」
「……あ、え?」
「今はまだいいけれど、そのうち触手が欲しくて堪らなくなる。でも私は絶対に入れてあげない。それはあなたにとって苦しいこと。でしょ?」
 底意地の悪い微笑に、小悪魔はぐうの音も出ない。
「……べ、別に、嵌めてもらわなくなって、なんてことないですよ。それに、私には下僕だっているんですか、ら――あれぇっ!?」
 小悪魔の隣にいたはずの男は、既に触手によって抱え上げられ、図書館の床に放り投げられていた。万事休す、空を飛んで逃げ出そうにも、メリーが操る触手によって四肢を縛り上げられ、完全に進退が窮まる。
「うぅ……私ともあろう者が……」
「さぁ――泣き喚いて、涎も愛液も垂れ流して肉棒を欲しがるようになるまで、一体何分掛かるかしら……?」
 ほっぺたに付着した新鮮な精液を拭い、口に含んで舌で転がす。
 咥内に広がるどろりとした舌触りに、メリーは指先が軽く痺れるのを感じた。

 蓮子は頭が沸騰しそうだった。メリーが解放されたことには安堵している。半分悪役じみているがそれも些細な問題だ。一番重要なのは、触手が操れるのなら男どもを引っぱたいて放り出すことくらいできるだろ、という点である。
 結局、メリーがその事実に気付いたのは小悪魔を拘束して数分ほど経ってからで、その間に一度蓮子は中出しされ、口の中にも一度精液を受けていた。すっかり皮が剥けてしまった少年の恥垢を、舌で舐め取らされるという恥辱も先程味わった。
「このぉ、ばかぁー! 早くこっちに回しなさいよー!」
 蓮子の叫びを受けてようやく、メリーは触手の優位性を悟る。小悪魔を威嚇していた数本を蓮子の周りの男たちに差し向け、射精続きで疲労が溜まっていた男たちをいとも簡単に縛り上げる。
 うぎゃー、ぐわぁー、と典型的なやられ台詞を吐きながら、高々と持ち上げられた男たち。一方、阿求を犯し続けている阿求の父親は、たとえ触手に腕を絡め取られようとも、阿求の膣に少しでも多く発射することが先決だと言わんばかりに、触手の力に負けじと腰を振っていた。
「うおぉぉっ!」
「あぅ、きゅっ……!」
 また、懲りずに精を放つ。痛みか苦しみか、あるいはそれ以外の感情で涙を流す姿さえ厭わずに、阿求父はずっと阿求の膣に挿入し続けている。
 触手も近付くのが怖くなったのか、するすると親子から離れていく。メリーも強引にふたりの間を引き裂こうとはしない。蓮子も止めない。
「さ、て……」
 久方ぶりの自由を手に入れた蓮子は、全身に浴びせかけられた精液をどうしたものかと嘆息する。メリーも阿求も白濁液まみれなのは大差ないが、メリーの姿は輪を掛けて酷い。確かに酷いのだが、それを苦ともしないメリーの無駄な器の大きさは何なのだろう。
「メリー。ありがと」
「んー? 別にいいわよ、まだ終わりじゃないんだから」
「ん、まぁ、それもそうだけどね。ひと区切り付いたんだから、ちょっと気を抜いてもいいじゃない」
 やっと、長く苦しい変態的な旅が終わると思うと、安堵のせいか腰が抜ける。ぺたんと尻もちを付き、苦笑混じりにメリーを見る。当のメリーはきょとんと目を丸くしていて、蓮子はそのどんぐり眼を不思議そうに見詰め返していた。
「……メリー?」
「んー、何か勘違いしてるみたいだけど、蓮子」
「なんで触手をこっちに向けるの」
「だから、まだ終わりじゃないんだってば」
 小悪魔に向けられていた触手の半数、五本程度が宇佐見蓮子を射程範囲に収める。次なる展開にびくっと震える蓮子に嗜虐心をそそられたのか、メリーは愉悦の笑みをこぼす。
「あは……蓮子、こういうときのあなたって、本当に良い顔するわね」
「え、やめてよ、触手とかさ……ファンタジーじゃん。架空の存在じゃん。やだなあ」
 あはは、と現実逃避気味に笑い飛ばす蓮子。メリーは、往生際の悪い友人を嘲笑い、へたりこむ蓮子の口に触手を突っ込む。
「んぶうぅ!?」
「ほら。これが、現実になった夢の世界の産物よ。目を逸らしても何も変わらない。いい加減に、受け入れなさい――そうすれば、もっと気持ちよくなれるから」
 結局のところ、それが本音である。犯される蓮子が見たい、涙を流して恥辱に耐える姿がたまらないというのだ、このマエリベリー・ハーンは。
「うぶぅ、んぐぅ……」
「ごめんなさい、悪いとは思うんだけど。でも、姦されてるときの蓮子が可愛いんだから仕方ないじゃない」
「もごぉぉっ!」
 ばかぁー! という罵倒は触手に邪魔されて上手く発音できず、メリーは頬に手を当ててうっとりと蓮子を眺めるばかり。話にならない。
 抵抗する気力も体力も残されておらず、また好き勝手に犯される。敵は本能寺にあり、獅子身中の虫、敵を欺くにはまず味方から。意味が多少違うものも混ざっているが、いちいち分類している余裕などない。
 咥内を満たす触手の他に、二本目の触手が、未だに精液が逆流している蓮子のクレヴァスに接近していた。うねうね、ぐねぐね、うねりながらも確実に狙いを定め、腰が抜けて立ち上がれない蓮子を情け容赦なく貫く。
「むぅ、ぐうぅぅ……!」
 三本目と四本目の触手は、蓮子の股を大きく広げるために足首を捕えている。最後の五本目はというと、次の挿入地点を探して前に後ろに忙しなく動き回っていた。
 やがて目星を付けたのは、今は床に接しているお尻の穴。
 流石の蓮子も、執拗にお尻を撫で回されていれば、触手の狙いも透けて見える。
「んううぅ! ぐぷっ、んぁ、ばっ、ばか! そんなとこに挿れて、使いものにならなくなったら、どうするのよ! ばかぁ!」
「そんなにばかばか言わなくたって……私が大丈夫だったんだから、蓮子だって問題ないわよ。ねぇ?」
 傍らで蠢いている触手に同意を求めると、彼らはその通りだと言いたげに激しく揺れる。ただ女を犯したいだけにも見えるが。
「私はメリーとは違うし! そんなにがばがばじゃないし!」
「失礼ね。どんなサイズだってきゅんきゅん締めつけるわよ私は」
「うわあん! もうやだー!」
 口調だけは真面目なメリーに辟易し、逃げ場を失った蓮子はわんわんと泣き叫ぶ。けれども触手がその矛を収めることはなく、四つんばいに吊り上げられて蓮子は比較的小さなお尻を露にする。ひくひくと震えているそれぞれの穴が、あたかも男根を誘っているかのよう。正式な女性器の方は触手が埋まっているから、後は代替の穴しか残されていない。
 ――ぶぴゅる、と男のそれを越える勢いで、触手の先端から精液が放出される。掻き出された雄の精子の代わりに、他種族の精を子宮に送り込まれる。
 背中を逸らして、快楽か何か知れない感覚に打ち震える蓮子。触手が引き抜かれ、膣から白濁液を垂れ流してさえも、獣じみた本能に堕落する気配はない。
「ひゃぅ、んはあぁ……もう、勘弁してよぉ……」
 蓮子の声にも、疲労の色が濃く滲んでいる。遠く聞こえる阿求の声も開始当初より弱々しくなっており、潮時といえば、潮時に近付いている雰囲気であった。
 触手に縛られておきながら、何もされずに放置されているただひとりを除けば。
「あ、あの!」
「……んー?」
 蓮子の痴態をうっとりと眺めていたメリーは、何処からか聞こえる切羽詰まった声に振り向く。そこには、明らかに様子のおかしい小悪魔がいた。
 辛そうに呼吸を繰り返し、顔も火照って熱があるようだ。もじもじと太ももを擦り合わせようとして、触手に無理やり股を開かされる。そのくせ、物欲しそうに愛液を垂れ流す恥部に触手が挿入されることはない。
 小悪魔にとって、それは想像を遥かに超える地獄だった。
「わ、わたしにも、お願いできませんか……?」
「え、どうして」
「その、ほら、お仕置きの意味を込めて、敵をねちょねちょにして、みんなねちょねちょになるのが古来の王道じゃないですか。えぇ」
「でも、あなたを虐める理由が無くなっちゃったし……虐めても悦ぶだけだし。阿求のお父さんは、式を解いてもしばらく止まりそうにないし。ちょっと今蓮子がいいところだから、また後でね」
「あ、ちょっと待ってくださいよぉー!」
 一世一代の悲痛な叫びは、多少メリーの顔をしかめさせながらも、再び振り向かせることに成功した。
「男のひとたち、余ってるじゃないですか。もったいないじゃないですか。私にその太いのをくれればいいじゃないですか」
「……それが、人にものを頼む態度?」
 メリーの挑発にも、小悪魔は揺るぎない眼差しを送る。それが淫行を求めるものでなければ、きっと見る者の心を打ったに違いない。
「だって、ずるいです。みなさんがえっちなことしてるのに、私だけ放置プレイとか、正気の沙汰じゃないですよ……放置されて、五分くらいはびくんびくんしてましたけど、誰もこっちを見ていないんじゃ盛り上がりも何も……」
 だから、と言葉を溜めて、振り絞るように懇願する。
「わたしの……小悪魔のからだ全部、白くて、どろどろしたのでいっぱいにしてください……!」
 渾身の、嘘偽りない本音が吐き出され、メリーは会心の笑みを浮かべる。
「よくできました」
 小悪魔に倣い、冗談めかして指を弾く。ぱちん、と軽快な音が鳴り響き、小悪魔と男たちを拘束していた触手が一斉に解き放たれ、男たちの中心に小悪魔がぽすんと落下する。
「むきゅん!」
 顔面から落ち、鼻を押さえて起き上がる小悪魔が見たものは、絡み合いの途中で触手に邪魔をされ、辛抱堪らなくなったケダモノの姿だった。
 瞬間、小悪魔の表情が期待に満ちる。
 メリーは呟く。堕ちた、と。
「ま、何は無くとも」
 フィナーレは、やはり秘封倶楽部の代表に締めてもらわなくては。
 蓮子の菊門に先端を押しつけている触手は、メリーの号令を待ちわびている。メリーは触手の忍耐力に感嘆し、手近な触手を丹念に愛撫した。
「め、めりー……? え、冗談だよね、ほんとはそんなことしないわよね……?」
「うふふ」
 やる気だ。マエリベリー・ハーンは、犯る気と書いてやる気である。
「だ、だめ! そんなに太いの入らないってば! 裂けちゃうわよ!」
「意外と……」
「あ、ふぎぅ、ね、ねじこまないでよぉ……! 変な気持ちになっちゃうからぁ!」
 ぐりぐりと、蓮子の抵抗などお構いなしに、お尻の穴より遥かに大きい触手の先端が蓮子の中に入り込もうとする。けれども無理やり貫いたりこじ開けたりという乱暴さではなく、相手がおのずから括約筋を緩めるのを待っているような仕草だった。
「んんー、もうちょっと細かったら入るかしら。どう?」
「知らないわよ……! いい加減にしないと、怒るから、ねっ……!?」
 一瞬の油断。怒りにかまけて、穴を閉じる力が緩んでいた隙に、本来の太さより一回り細くなった触手が、上手い具合に蓮子のお尻に侵入する。
 ひく、と蓮子の唇が戦慄く。
「あ、うぁ……!」
「すごい、どんどん入っていってる……私のときより、いっぱい飲み込んで……やらしい、やらしすぎるわよ蓮子……」
「うぐぅ、め、めりぃ……!」
 お尻の穴を開発されながら、それでも嚇怒の眼差しを触手の操り手に向ける蓮子。その気丈さにメリーは惚れ惚れとし、活きの良い触手を一本、蓮子の正式な女性器に送り込む。
 ――ずぷぅ、とこちらはすんなりと膣に嵌まり、さんざん放出された精液の海を泳ぎ切り、勢い余って蓮子の子宮口にキスをするほどだった。
「ぉ……!」
 蓮子の身体が、再び仰け反る。瞬間的に絶頂に達したのか、瞳も虚ろに、腕を突っ張らせて口をぱくぱくと開閉させるばかりである。
「うぅん、蓮子には少し刺激が強すぎたかしら。ウブだもんねぇ、蓮子」
「ぅ……だ、だれがウブよぉ……」
 頂天から復帰し、蓮子は恨みがましい視線をメリーに送り続ける。ふたつの穴を同時に責められているのに、憎まれ口を叩く余裕はあるようだ。
 蓮子に過失があったとすれば、その余裕を多少なりともメリーに悟らせてしまったことである。真に疲労困憊して口も利けない状態ならば、流石のメリーもこれ以上無理はさせられないと踏んだだろうに。
「あら。まだ余裕があるみたいねぇ、蓮子……」
「い、いや、そんなこと、ない、けど」
 若干の慣れがあることは否定できない。が、余裕などあるはずもなかった。ただ、メリーが自分の痴態を見て悦んでいるのが悔しくて、彼女に対する文句だけはどんなに辛くても絞り出すことができるのだ。
 ぐちゅぐちゅと下半身を掻き回すふたつの生き物によって、未知の感覚が引き起こされる。座薬を差した経験のない蓮子には、これがどういう類の感覚なのか判然としない。けれど、されるがままに犯されている屈辱は、たとえこの感情の意味するものが類稀なる快感だとしても、絶対に認めてはならないと断言できる。
「ん、はぁ……ほんと、蓮子は犯されてる姿がいちばん可愛いわ……私におちんちんがあれば、孕むまで犯してあげたいくらい」
「そんなの、ぜったい、んぁ、お断りだから、ね……! んひゃぁ!」
 二本の触手が、異なるリズムで抜き差しを繰り返すものだから、蓮子も心の休まる暇がない。おまけに他の触手が胸のあたりに巻き付いて、おっぱいを搾ろうとするもののそれほどでもない大きさゆえににゅるにゅる滑っては掴み損なうのを繰り返すから、思考が散り散りに飛び散ってしまう。
 凌辱に耐え、唇をかみしめている蓮子の健気な姿を見、自慰だけでは飽き足らず、メリーは余った触手をみずからの秘部に導く。
 ――じゅぽぉ、と抵抗も無く滑り込む触手の感触に身震い、その状態のまま宙吊りにされた蓮子に歩み寄る。猛烈に嫌な予感がする蓮子だったが、四肢を拘束されている現状、メリーの欲望を拒絶することは不可能だった。歯噛みする。
「――ひゃっ!」
 ぐるん、とうつ伏せから仰向けに引っ繰り返され、視界が転じて意識が朦朧とする。程無くして、周囲がよく見えるようになると、いつの間にやらメリーが自分の顔を覗き込んでいることに気付き、ぎょっとする。
「蓮子、一緒に気持ちよくなりましょ……?」
「や、やだ、これ以上、変なことしないでよ……あたまが、おかしくなるの……」
「ちょっとくらい、おかしくなったっていいじゃない。ねぇ?」
 同意を求め、ぷるぷると前後に震える触手を掴み、ぴくぴくと小刻みに動いている蓮子の陰核をそっと噛ませる。
 ――がくん、と蓮子の首が後ろに跳ねる。
「っ、かぁ……!」
「やっぱり、ここは弱いのね。だったら、話が早いわ」
 衝撃から復帰できない蓮子をよそに、メリーは蓮子におっぱいを重ねるように覆い被り、みずからの陰核を蓮子のそれに触れされる。
 瞬間、蓮子に数度目の電撃が走る。
「ぅ、ひぎぅ……!」
「あは……蓮子のクリトリス、弄られ慣れてないからとっても敏感……」
 語尾にハートが付属する口調で、メリーは白濁まみれの身体と身体を擦り付ける。ぷちゅ、ぬちゅ、と動くたびに卑猥な水音が木霊し、それに加えて触手が各々の穴を抜き差しする音が重なる。
 遠く、耳を澄ませば稗田一族の近親相姦が佳境を迎え、だいぶお腹を膨らませた阿求が父親の背中を抱いて何事かを囁いていた。
 更に、四人の男たちに囲まれた小悪魔が、淫猥な台詞を連発しながら精を貪っていた。ふたつの手に二本、口に一本、膣に一本を咥え込み、そのうちお尻にも一本くらい挿入しそうな雰囲気だった。
 ようやく顔を起こした蓮子は、目の前にあるメリーの笑みに驚愕する間もなく、その唇に唇で蓋をされる。罵ることも喘ぐことも、全てメリーの咥内に吸い込まれ、隙間から漏れるのはお互いの舌を啜り合う雫の音ばかり。
「ぴちゅ、くちゅ……」
「むぁ、はぅん……ちゅく……」
 メリーの肌は、いやにすべすべしていて、とても温かい。それが、無性に腹立たしかった。
「は、ひぃん……!」
 三度、絶頂が迫っている。短い間隔で、立て続けに快楽を強制され、忍耐に忍耐を重ねてきた蓮子の意識も明後日の方向に飛んで行きそうだった。
「んんぅ、蓮子、蓮子ぉ……!」
 名前を呼んで、豊満な乳房を蓮子のそれに強く押しつける。お互いの乳首の位置がちょうど重なって、勃起した頂上が擦れて痺れが走る。
 声を上げるのも、息をするのも難しい。遠のき始める意識の中、最後に蓮子は、メリーの唇の感触を味わっていた。
 直後、見計らったように触手が一斉に放精する。子宮が、膣が、腔内が精液で満たされ、堪えようのない衝動が蓮子を襲う。
 そして、ぷちん、と、何かが切れる音がした。
「ん、ふぁ、にゃあぁ――っ!」
「くふ、は、んんんぅ――っ!」
 重なり合い、弾け飛ぶ嬌声の果て、蓮子とメリーは、ふたり仲よく意識を失った。メリーは蓮子を強く抱き締めながら、蓮子はその抱擁に締め落とされる形で、下の穴から白濁液を垂れ流し、力無く地面に横たわった。
 操り手を失い、触手もまた床に倒れ込む。秘封倶楽部同様、かすかに呼吸を繰り返すのみで、活動らしき活動を行っていない。
「はぁ、あっ――!」
「う、おっ……!?」
 触手から解放されてもなお、しつこく犯され続けていた阿求も、寄る年並みには勝てなかった父親が射精直後に腹上死のような唐突さで昏倒したと同時、父親の肉棒を蹴り潰す力も無く、眠るように意識を閉ざした。
 唯一、性欲を持て余した小悪魔だけが、一人また一人と離脱する失楽園の中央で股を開き、最後に残った若々しい少年の精を嬉々として搾り取っていた。
「あぁん……まだ、まだいけますよね……? これで終わりだなんて、寂しいこと言っちゃいやですよ……?」
「う、ぐぅ、うあぁっ……!」
 びくびくと背中を突っ張らせて、少年は小悪魔の中で果てた。何度目の射精になるのか、十回目からは数えていない。小悪魔の式となって性欲も内蔵量も増強されているのだが、それら全てを搾り取っても淫魔を満足させることは叶わない。
 少年に跨り、小刻みに射精を繰り返す肉棒をきゅんきゅんと締めつける。声にならない喘ぎを漏らす少年に向けて、淫らな笑みをこぼした後、小悪魔は少年が目を回して気絶していることに気付いた。
 白濁にまみれた空間に、意識を留めていられたのは真の淫魔のみ。すっかり萎えたペニスを抜き放ち、鼻息交じりにそれを踏みつける。うっ、と少年が夢見ごこちに呻き、それでも一向に目覚める気配はない。
「あらら……情けないですねぇ、近頃の人間は」
 大きく背中を伸ばして、両手を天に向ける。図書館の一角は、拭いても洗っても取れないくらい雄の臭いが染み付いてしまったが、小悪魔にはそれがとても馴染み深かった。
 流石の小悪魔も、度重なる絶頂と姦通に足腰が立たなくなっているが、それでも最後に立っていた者が勝者である。右手を高々と天井に突き上げ、快哉を放つ。
「えろくたっていいじゃない、どすけべだものぉ――っ!」
 ――がきょん。
 直後、鈍器が頭蓋骨を陥没させる程度の破壊音が、館内に轟く。
 おおよそ本と頭蓋が激突したとは思えぬ衝撃に、小悪魔の身体は軽々と吹き飛ばされ、受け身も取れずに床へと倒れ込んだ。目にも止まらぬ速度で飛来した魔導書は、小悪魔を撃墜した後も次なる一撃を加えんとふらふらと上空を旋回していたが、やがて目標が沈黙したことを知るや射撃手の元へと帰還していった。
 残されたのは、見るも無残な屍ばかり。
 その中から、最も早く蘇ることができたのは、幻想郷の記憶と名指される稗田阿求であった。のそりと起き上がり、肌のべたつきに顔をしかめ、目の前に倒れている父親の陰茎を力の限り握り潰す。それでも陰茎は負けじと硬く勃起してしまうので、次は踵で思いッ切り踏みつける。飽きるまで、飽きてさえも、何度も何度も踏みつける。でもやっぱり阿求父は顔面蒼白でありながら笑みを絶やさない。何のための拷問なのか。謎は尽きない。
 ふと、くぐもった独り言と共に、引きずるような足音が近付いてくる。
「うるさくしたらブッ飛ばすって、初めに言っておいたでしょうが……」
 肩に分厚い魔導書を抱えて、異臭立ち込める空間を半目で一瞥する。
「……イカ臭い」
 一通り視線を巡らせて、どうやら現時点で質問できる相手は阿求しかいないと判断し、その紫色の人物は投げやりに問いを掛けた。
「……貴女。説明おねがい」
「はぁ……」
 とりあえず、阿求は気の抜けた答えを返した。
 そして、それが宴の閉幕を告げる一言となったのである。

 

 






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2010年3月14日 藤村流


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