『It takes two to tango.』05▼ |
「服、脱ごう?」 これから始まる行為を思うと興奮しているからだろう。暖房を入れたわけでもないのに、 妙な暑苦しさを覚えて王は渡瀬にそう言った。 「う、うんっ、そうしよ!」 同じ思いなのか、早くも渡瀬がパジャマのボタンに指をかけるとひとつひとつ外し始め た。だが、彼女も緊張しているせいで、うまく指が動かせずに手間取っていた。 「あ、あたしが手伝おうか?」 「いいよ! 自分でやれるから、利ちゃんも早く脱いで!」 ことの始まりは渡瀬が言い出したことだが、背を向けた彼女の顔が真っ赤になっていた のを見て、つられるように王もまた赤面した。 そのまま押し黙って脱衣に専念すると、しばらく衣摺れの音だけが続いた。 王はこっそり耳を立てると、ブラのホックを外れる音やショーツを脚から抜き取る音が はっきりと聞こえて、渡瀬がひとつひとつ衣服を脱いでいく様子を鮮明に思い描かせた。 「利ちゃん、こっち向いてもいいよ」 こちらが聞き耳を立てているうちに渡瀬は脱ぎ終わったようで、急いで王もパジャマと 下着を脱いでベッドの端に畳んで置くと、隣を振り向いた。 「あ……」 しかし、そこに渡瀬の姿はなく、代わりに彼女はベッドの上にあお向けになって、恥ず かしそうに胸と股間を腕や手で覆って隠していた。 「光、もっとよく見せて」 明かりがついたままの部屋の中で、生まれたままの姿を見られて照れるのは王も同じだ ったが、今日という日を忘れないためにもすべてを目に焼きつけておきたかった。 そんな思いが通じたのか、羞恥に身悶えしつつも、渡瀬が両手を横に広げて健康美に満 ちた身体を見せてくれた。 渡瀬の裸体は同性の目から見ても羨ましいほどに熟していて、ベッドに寝転んだままの 姿勢からたわわに実った乳房が横にこぼれ落ちそうだった。だが、張りつめた肉球は重力 に逆らうように綺麗な曲線を描き、その頂点に桜色の蕾を咲かせていた。 思わずため息をついて見とれていると、渡瀬が困った顔をして頬を掻いた。 「り、利ちゃん? ボクの胸、どこか変かなあ」 「変っていうか、大きくてすごい……」 そんな陳腐な表現しかできなかった。 改めて渡瀬の豊かな胸と自分のものを見比べると、年相応に大きくなったはずの乳房が 貧相なものに思えて、今度は違った意味で王はため息を漏らした。 渡瀬もその意味を悟ったのか、慰めるように言ってくれた。 「利ちゃんのもかわいいと思うよ」 逆にとどめを刺された気がする。 悔しまぎれに王は渡瀬の胸に手を触れた。 「やっ、ん」 かすかな声を上げて、渡瀬が体を硬直させたが拒んでいるわけではないようだった。 王は彼女の呼吸に合わせて、緩急をつけながら両の乳房を揉みたてると、左胸から心臓 の鼓動が速まるのを感じた。 さらに親指と人差し指で乳首をつまみ、指の間で転がすようにこすると、切なげに渡瀬 が身じろいだ。朱色が差した肌の上にうっすらと汗が浮かぶ姿が悩ましく、王の息を荒く させる。 興奮のあまり、王はさらなる責めにとりかかるつもりで渡瀬の上に覆いかぶさろうとし たが、肩を押されて止められてしまった。 「利ちゃんっ」 「ご、ごめん」 どうやら焦りすぎて不安にさせてしまったらしい。怒らないまでも涙を溜めて眉を吊り 上げた渡瀬の表情を以前に見たことを思い出した。 謝りながら王は渡瀬を安心させるようにキスをすると、初めての時とは違って変化を加 えてみた。 「んっ、む……んっ、んっ」 ただ重ねるだけでなく、唇を突き合わせては離すことを何度も繰り返し、下唇を挟みあ げてその弾力を楽しむように引っ張った。 すぐにお互いの唇が水気を帯びてくると、そのぬめりに滑るようにして王は舌先を渡瀬 の唇の間に潜り込ませた。 唇とは違う感触に驚いた渡瀬に歯を閉じた。王は整った歯並びの隙間をノックするよう に突くと、舌先が口の中に入ることを渡瀬が戸惑いながらも許してくれた。 限界まで舌を伸ばすのに合わせて、重なった唇同士の密着感がさらに深まった。 「うん、ん、んくっ、んむぅ、んんっ」 王が渡瀬の口内を蹂躙すると、彼女はまともな言葉を話すことができず、くぐもった声 を出すだけだった。 熟れた房のような舌の裏から歯茎まで、王があますことなく粘膜を刺激すれば、戸惑い がちだった渡瀬も次第に積極的に舌を絡ませるようになってきた。 口の端からこぼれるほどに唾液が溢れ、王は渡瀬のものを舌ですくって飲み込むと、気 分が盛り上がっているせいか、ほのかな旨味さえ覚えた。 「ん……」 舌が痺れるほどに深いキスを堪能してから顔を離すと、お互いの唇に唾液の細い糸が橋 をかけて部屋の明かりに光っていた。 「……キスってこんなに気持ちよかったんだ」 「うん」 すっかり機嫌をよくして、満足そうな息を吐きながら渡瀬が頷いた。 真夏の暑い日にも一度だけキスをしたことがあるが、その時と比べてさらに情感に溢れ ているせいだろうか、王は渡瀬の唇が愛おしくてたまらなかった。 「もっと早く、もっといっぱいしてればよかったね」 「うん。でも、これから毎日できるよ」 王も渡瀬もうっとりとした表情で見つめ合うと、相手の瞳に映る自分の顔がすでに欲情 に染まっているのがわかった。 「光、いい……?」 返事の代わりに渡瀬が胸の前で腕を組み、下から乳房を押し上げた。すると、はちきれ んばかりに左右の肉球が腕の中に敷き詰められて、双丘の頂きにある乳首が王の視線を受 けて震えている。 触ってもいいよ、と渡瀬に目で訴えかけられた。さっそく王は彼女の腹の上をまたぐよ うにしてベッドに膝を立てると、両手を伸ばして左右の乳房をつかみ、思うさまに乳肉の 形を変えさせて、その感触を楽しんだ。 指が丘全体にくい込むたびに、渡瀬が刺激に悶えて喘いでいる。 「んっ、ふ……ぁっ」 声を漏らさないように口元を手で隠そうとして、渡瀬が組んでいた両腕を離すと、王の 手の中で乳房が弾け、さらに揉みやすい形で柔肉をたわませた。 刺激が強すぎて渡瀬の声がうわ擦ってくると、王は顔を近づけて勃起した右の乳首を口 に含んだ。 「ひゃぁあっ、やぁっ、利ちゃぁん!」 「ひかりぃ……んっ、んっ」 王が硬くなった突起を唇で挟み上げ、舌先で細かく突くと、渡瀬が首を横に振って快感 に耐えかねていた。茶色の髪の毛が振り乱れて、汗に濡れた額や頬に張りつき、しどけな い姿を見せる渡瀬に、王は頬をすぼめて彼女の乳首を何度もしごき立てる。 「ああっ、あっ、あっ、そんなっ……いじわるなのっ、やあぁっ」 「我慢しなくていいから、もっと光のエッチな声を聞かせて?」 王は乳輪から乳頭にかけて強く吸い立て、舌先で撫でつけるように舐めては大きな水音 を立てた。 「利ちゃん、そんな音させちゃだめだよぉ……っ」 嫌がるような口ぶりながらも渡瀬は王の頭を抱きかかえ、その黒髪に指を絡ませた。 王は髪の毛を梳かれて気持ち良さそうに目を細めると、もう片方の乳首にも同じように 吸いつき、母乳を求める赤子のようにむしゃぶりついた。 待ちかねていたように尖りきった先端を吸って、揉んで、舐め上げて、最後には歯を立 てて軽く噛みつくと、渡瀬の体が浮き上がった。 「やんっ、あぁあああっ」 今まで以上に大きな嬌声を上げて、渡瀬が官能に打ち震えるのを見た王がようやく口を 離すと、両方の乳房が唾液で汚れて淫靡に濡れ光っていた。 「いやっ、こんなのいやらしいよっ……」 それだけ言うと、渡瀬は紅潮した顔を手で隠して荒く息をつき始めた。 そんな彼女をもっと悦ばせたくて、王は体ごと顔を下方向にずらした。部活をやめてか らも運動を欠かさないおかげで均整の取れた渡瀬の肉体に惚れ惚れしながら、下腹部まで 頭が降りると、恥毛がうっすらと生え揃った秘所が目に飛び込んできた。 そこにはすでに露を絡ませ、綺麗に形の整った茂みの奥に蜜液の源泉があった。 「光、こんなに感じてくれてたんだ」 「やっ!?」 股間に王の鼻息を感じた渡瀬が慌てて脚を閉じた。 王は残念そうな表情を浮かべると、両膝の上を乗り上げるようにして、渡瀬の顔を覗き 込んだ。 「ちゃんと光の大事なところが見たいな」 「で、でも……」 さすがに間近で見られるのは抵抗があるらしく、王の視線を避けるようにして渡瀬が股 を閉じたままお尻を振った。 だが、太腿のつけ根から見え隠れする恥丘とかわいらしい菊門が左右に振られて、よけ い扇情的に王の気分を高めるだけだった。 「じゃあ、あたしのも見せてあげるからいいでしょ? それでおあいこだし」 辛抱できなくなった王は理屈にもなっていないことを口走った。渡瀬の返事を待たずに 王はお尻を彼女の方に向けると、以前見られただけあって恥じらいも少ないのか、惜しげ もなく局部をさらした。 逆さまになっているせいで、渡瀬がどんな顔をして目の前に現れた性器を見ているのか わからなかったが、王には彼女の息を飲む気配だけで様子を察することができた。 「光、あたしの……どうなってる?」 本当は聞かなくてもわかっている。それでもあえて渡瀬の口から言わせることで偏執的 な悦びに浸ろうとしていた。さらに押しつけるように王はお尻を近づけると、その雰囲気 に圧倒された渡瀬がたどだどしくも口を開いた。 「利ちゃん……のも、いっぱい濡れてて、ん……ボクの顔に垂れてきてるよ……」 渡瀬に痴態を説明されると、王は下腹部の奥が疼きを覚えてさらに股間を熱く潤わせた。 不満があるとすれば、手入れの行き届いていない陰毛と弄くりすぎてはみ出し気味の陰 唇も渡瀬に見られていることだろう。 大好きな人に淫らな自分を知られるのは怖くもあった。だが、熱病めいた欲情に頭がお かしくなったのか、普段は口に出せないような台詞が口をついて出てくるのを王は止めら れなかった。 「あたしのエッチなところ、触ってもいいから……光の好きなようにしていいから」 まずは自分からすべてをさらけ出さなければ、渡瀬も心を開いてくれないだろうという 思いがあった。だから、王は後ろ手に股間に指をあてがい、愛液に濡れそぼる縦裂を自ら 割り開いた。 「ぁ……」 ほとんど吐息に近い声を漏らしながら、渡瀬が性的に興奮している時の王の性器を初め て見て、その淫猥さに心を奪われているようだった。さらに王は大陰唇を押し広げると、 濃いピンク色に彩られた膣の中身を見せつけた。 「はぁ……利ちゃん、大人だね。色も形もボクのと全然違う」 それは憧れている女の子に初めて勝ったと言えるのだろうか。こんなことで褒められて も王は素直に喜べなかったが、渡瀬に見られていると思うともっと大胆になれそうだった。 「ほら、光……触って」 王に誘われるようにして、恐る恐るではあったが渡瀬が秘所に指を伸ばした。ふっくら とした指先が膣の前庭に触れて薄い粘膜をこすりたてる。膣口から垂れた愛液が指に絡ん で滑りをよくすると、自然と愛撫の動きが早まってきた。 「あんんっ!」 不意打ち気味に膣口を浅く抉られ、王の体が跳ね上がった。 「だいじょうぶ!? ボク、痛くしちゃったかな!?」 「ち、違うの。すごく気持ちよかっただけだから安心して」 続けて欲しいとばかりに再び腰を下ろすと、今度は王が自分で割れ目を広げなくても、 渡瀬が両手を使って敏感な部分を弄くってくれた。 「利ちゃん、こんな感じでどう……?」 自信なさそうに渡瀬が緩やかに膣口の縁を弄くっていたが、王には充分なほどの刺激で、 「うん、いい……っ、光の指、気持ちいいよっ。あっあっ、あぁああんっ!」 艶めいた声を上げてベッドに手を突き、背中をのけぞらすと、長い黒髪が滝のようにこ ぼれ落ちて脇や横腹をくすぐった。 気がつくと、渡瀬も王がいやらしく踊り狂う姿に興奮したのか、内股をすり寄せていた。 そこで王は引き締まった太腿の間に手を割り入れると、すんなりと脚が開いた。 「光……いいの?」 「うん……ボクも利ちゃんみたいに気持ちよくなりたいから触って欲しいな」 その台詞に嘘はないようだった。もうすでに羞恥心が薄らいでいるのか、身じろぎひと つするだけで抵抗する素振りは見せなかった。 「でも、ボクのこと、いやらしい子だって思わないでね。利ちゃんだから、利ちゃんのこ とが好きだから……その……」 それ以上は何も言わなくなった渡瀬を肩越しに見やると、頬を染めて顔を背ける態度が 初々しかった。 「じゃあ、触るよ」 王は渡瀬の性器の周辺に張りついている恥毛をかき分けて、薄い桃色の花びらを左右に 開くと、花弁の中心から粘り気に満ちた蜜がこぼれ落ちた。 「きれい……」 頭の中で思い焦がれてきた花園を前にして、王は目が眩んだ。さらに生々しい性欲の臭 いを嗅げば、いや応にも色情を催した。 「やっ、あ……んっ……」 恥ずかしそうに鼻を鳴らす渡瀬に王は辛抱できず、指先に唾液をまぶし、膣肉に馴染ま せるようにこすりつけた。すると、膣口からすぐに愛液が滲んで唾液と混じり合いながら 粘度を高めて、溶けた飴のように尻穴へ流れ落ちた。 小指すら受け付けなさそうな後ろのすぼまりにも興味はあったが、今はひとつずつ段階 を踏んでいく時だと、王は自制した。その代わりに執拗なまでの愛撫で陰門を責め抜いた。 「ああっ……んぁああっ、そんなっ、激し……すぎるよぉっ! んはぁっ、あぁあああ!」 もはや渡瀬は王の指責めに翻弄されるのみで、きつくベッドのシーツを握り締め、悩ま しげに腰をくねらせていた。 「はぁああぅっ! あっ……利ちゃんっ、ちょっと待って! ああんっ、やっ、だめぇっ、 だめぇええええっ!」 半狂乱といった様子で渡瀬に哀願されて、驚いた王は股間から顔を離した。そして、そ の瞬間、渡瀬の尿道口から透明の飛沫が噴出した。 「きゃっ……!」 突然のことに避けることもできず、王は飛び散った液体をまともに顔面で受け止めた。 「利ちゃん早くどいてぇっ、見ちゃだめだよぉっ! やぁんっ、あっあっ、ふぁああっ!」 なおもよがり声を上げて渡瀬は叫び続けた。その体がひきつけを起こすたび、断続的に 飛沫が放出していた。 王は顔にかかった液体を指ですくって舐めてみたが、味がしなかった。しかも、尿液の ように臭みもなければ、触った感じも愛液とは違って粘り気もなく、ただの水に似て手応 えがない。 これが話に聞いていた潮吹きというものだろう。初めて見る光景に王は目を逸らすこと ができなかった。 「はああぁぁ……」 ようやく潮吹きが収まると、渡瀬が深く息を吐いた後、膀胱に溜まっていたのか少量の 尿を漏らした。潮吹きの液体とは違い、見慣れた黄色い液体がシーツに染みを作って、す えた臭いを漂わせる。そして、その臭いにお漏らしをしたことを気づいた渡瀬は上半身を 起こして、嗚咽を漏らし始めた。 すすり泣く少女のことが心配になった王は姿勢を変えて、渡瀬と真正面から向き合うと、 今にも目尻からこぼれ落ちそうな涙を拭ってあげた。 「利ちゃん、ごめんなさい」 こちらとまともに目を合わせられないのか、渡瀬がまぶたを伏せると、ついに大粒の雫 が頬から落ちて膝を濡らした。 「あのね? ボ、ボク……エッチな気持ちが強くなりすぎると、おしっこが出ちゃうの」 「光……?」 「こういうの初めてじゃないんだ。今まではひとりでエッチなことしてても、おしっこな んか出なかったのに、あの時から癖になっちゃったみたいで……!」 渡瀬の言う『あの時』とは、真夏の夕暮れ時に学校の体育倉庫に閉じ込められた時のこ とに違いなかった。 尿意を辛抱できず、するべき場所ではないところで排尿してしまったこと。密室の中、 好意を抱いている人の前で淫らな気持ちになったこと。 鮮烈な印象を残す出来事が渡瀬の脳裏に刷り込まれて、ふとしたきっかけで失禁してし まうのだろうか。 「お願い! こんなボクのこと嫌いにならないで!」 強い自己嫌悪に陥っているのか、切羽詰った様子で渡瀬が王に抱きつくと、とめどなく 涙を流してえずき声を漏らした。 誰にでも人に知られたくないものがある。それが好きな相手ならなおさらのこと。渡瀬 の恐れは、王の恐れでもあった。 何しろ潮を吹き、失禁した女の子を心底かわいいと感じたのだから。それどころか、以 前は尿が滴る音に興奮し、今では愛しい人の小水を飲んでみたいとすら思っていた。 渡瀬のものなら匂いだろうと排泄物だろうと何でも好きだった。 だが、今はそんな倒錯めいた気持ちを正直に告白するよりも、不安に揺れる渡瀬を安心 させることが何よりも大事だった。 「落ち着いて。あたしが光のことを嫌いになるなんてありえないから」 少し前まで落ち込んでいた時のように背中を丸くする渡瀬が痛ましくて、王は優しく声 をかけた。いつも自然体で前向きな渡瀬が取り乱すと、王の方が逆に落ち着くことができ るものらしい。 「でも……でも……!」 「言ったでしょ? どんなになっても光のことが好きだって」 それは初めて伝えた時とは状況が違っていたが、台詞に込めた気持ちは同じだった。 王は渡瀬の恐れと怯えをかき消すくらいに強く抱きしめた。 「利ちゃん、大好きぃ……」 渡瀬もまた王の背中に回していた腕に力を込めると、雨上がりの青空のような笑顔を見 せて、子犬のように王の顔を舐め始めた。 「ちょっと、光? くすぐったいってば」 どうやら潮吹きの飛沫がかかったままの顔を綺麗にしてくれているようだったが、代わ りに唾液で汚れてしまう。それが何だかおかしくて、王も渡瀬の頬を濡らす涙を唇で吸い 取ってあげた。 そうしてじゃれ合いながら、王は茶色の頭を撫でてあげると、渡瀬が気持ちのよさそう にも、苦笑いをしているようにも見える表情でもたれかかってきた。 「利ちゃんにいっぱい恥ずかしいところ見られちゃった」 「そうよね」 王としては今まで知らなかった渡瀬の一面を発見して、新鮮な気分を味わうことができ た。人望と才能に恵まれている少女にも悩みはあるのだから、渡瀬を特別、自分は普通など と引け目を感じていたことが間違っていた。 これからはそうやって勝手に線引きをして、渡瀬に臆病がるのを王はやめようと心に決 めた。 その間にも、渡瀬がひとり悶々とただ一度の恥に思い悩んでいた。 「ボク、もうお嫁さんに行けないよ」 「だいじょうぶ。あたしが責任もって、光のことを大事にするから」 それは決して軽々しい気持ちで言ったわけではない。 まだ自分のことすら面倒を見切れない子供であることを王は自覚していたが、それでも 泣いていた渡瀬を慰めることはできたし、年齢を重ねるとともに自分を磨き続ければ、好 きな女の子にできることが増えるはずだ。 本気の気持ちが伝わったのか、 「うん……。ボク、もう利ちゃんなしじゃ生きられないよ」 感極まった渡瀬が王にしなだれかかると、耳元で囁いてきた。 「だから、ボクを利ちゃんだけの女の子にして……」
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