おキヌちゃんを主人公とした短編(その1)
『お酒飲んだら......』
原作「グレート・マザー襲来!!」より分岐
『緋色の短冊』
原作「もし星が神ならば!!」より分岐
『心と心がつながって......』
原作 最終話 より分岐
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『お酒飲んだら......』

「行かないッ!!
 俺は絶対行かないぞーッ!!」
「しつっこいね!!
 しょーがないのよ、あきらめなさいっ!!」

 今、横島のアパートでは、彼の人生を大きく左右する攻防が繰り広げられていた。
 彼は、突然帰国した母親百合子によって、ニューヨークへ連れ去られることになったのだ。

「母さん独りで行ってくれ!!
 もー仕送りもいらんっ!!
 誰があんな地球の裏側なんかに......」
「......。
 よーするに......どっちなの?」

 百合子は、急にトーンを落として、冷静に問いただす。

「おキヌちゃんってコ?
 それとも美神さんの方!?」
「え」

 ドキッとする横島。
 彼の頭の中に、上皿天秤の絵が浮かぶ。

 左の皿に座っているのは、ボディコン姿の美神さん。いつもどおりの露出度です。そんな姿勢では......スカートの中身が見えちゃいますよ?
 右の皿に上にいるのは、学生服を着たおキヌちゃん。おしとやかな座りかただから、胸もお尻も太腿も全く見えてません。でも、いいんです。おキヌちゃんは、それでいいんです。

 そして、そのバランスは......。
 完全に釣り合っていた。

「ど......どっちって......。
 あえて言うなら両......」
「両方なんてチャランポランな答え許さないわよ!?
 父さんじゃあるまいし!」

 百合子が凄む。その手には、引越荷造りのためのカッターナイフが握られていた。

「ま、あんたの年なら
 家族より女のコが大事ってのはわかるけど......。
 母さんの見るところじゃ......」

 いったん区切った百合子は、慎重に言葉を選びながら続ける。

「おキヌちゃんは
 誰にでも優しいとこあるし、
 美神さんは
 あんたのこと全然相手にしてないじゃない?」

 グサアァッ!!

 横島が動揺している。
 彼としては、母親の言葉は『図星』だったのだろう。
 しかし......。
 実は、百合子はカマをかけただけだった。百合子にだって、ちゃんと分かっていたのだ。
 確かにおキヌは『誰にでも優しい』が、横島に向けている優しさは、他とは別である。また、美神は横島に対して『全然相手にしてない』素振りを見せているものの、本心では気にしているようだ。
 そんなこと、女性から見たら明白であった。いや、ひょっとしたら、周囲の男性にもバレバレなくらいかもしれない。知らぬは当人ばかりなり。
 ともかく、今の反応で、横島は気付いていないのだと確認できた。だから、百合子は、素知らぬ顔で語りかけるのだった。

「母さんだって鬼じゃないんだから、
 あんたのこと泣いて止めるコがいるなら、
 考えないでもないけど......」




    お酒飲んだら......




「こーんな宴会自分で企画して......
 フンイキ盛り上げる作戦も失敗みたいね」

 百合子は、隣に座る横島をからかう。
 魔鈴のレストランで開かれている『横島クン送別会』。多くの友人知人が集まってくれたのだが、皆、各自の飲み食いに忙しくて、横島のところへ挨拶にすら来ない。こうして母子が会話できるほどだった。

「言っとくけど、
 おキヌちゃんと美神さんに
 芝居を頼むなんてチョンボは厳禁よ!」

(......うむ。
 もうそれしかないと思ってたとこだ!
 おキヌちゃんならやさしーからのってくれるかも......。
 おふくろの目盗んで......)

 おキヌは、百合子の向こう側に座っていた。
 横島は、おキヌを見てハッとする。彼女は、何か思い詰めたような表情をしているのだ。

「あの......お母さん、私......!」

 意を決して口を開くおキヌ。しかし、

なーに、おキヌちゃん?
 私に何か意見でも?
「い......いえ......」

 そびえ立つ壁は大きかった。

(こわい......でも......
 でもやっぱり......
 ニューヨークって遠すぎるもん......!
 負けちゃダメ......!!)

 何か良い方法はないかと考えつつ、おキヌは、視線を泳がせてしまう。
 その目が、テーブルの上のカクテルに止まる。

(......! そうだ!
 お酒飲んだら言えるかも......!

 酒を飲む習慣など、おキヌにはない。前回アルコールを摂取したのは、おキヌの帰還を祝うパーティーの席だった。

「えいっ」

 コップの中身をグイッと飲み干し、百合子へと向き直る。

「お母さんっ!!」

 キッとした表情で話し始めたが、早くも限界だった。

 ゴトンッ!!

 酒が回ったために、テーブルに突っ伏してしまう。おキヌは、すでに爆睡していた。

「ダメだっ!!
 おキヌちゃんでは
 うちのババアに勝てんっ!!」

 『おキヌは何を言おうとしていたのか?』という疑問が浮かぶ余裕など、泣き叫ぶ横島には全く無かった。


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 真夜中と呼ぶには遅すぎる時刻。
 それでも、夜が明けるまでは、かなりの時間がある。
 まだまだ暗い町中を、一人の少年が歩いていた。

「この横島忠夫......
 事態をなりゆきにまかせるほど消極的ではないのだっ!!」

 彼は、コッソリとアパートを抜け出し、美神のマンションへ向かっているところだった。
 誰にも芝居を頼めなかった横島の、最後の秘策。
 それは、自分自身で美神に化けて、涙の引き留め劇を演じることだ。

    空港のロビー。
    最後の最後というタイミングで、
    美神が駆けつける。

   「お母さん......!!」
   「美神さん!?」
   「お願いです、お母さん!!
    横島クンを......
    横島クンを連れて行かないで!!」
   「えっ......」
   「好きなんです、彼が......。
    離ればなれなんて
    耐えられません......」
   「み......美神さん。
    あなた、息子に......」

    ぽろぽろと涙をこぼす美神を見て、
    百合子も、ついに陥落する......。

「いける! いけるぞ!
 これならば、おふくろだってグウの音も出まい」

 そのために、友達全員に見送りを断ったのだ。
 だが、念には念を入れる必要がある。誰かが......例えばピートや雪之丞あたりが来たところで誤摩化せる自信はあるが、もしも美神本人が来てしまえば、計画は丸潰れになるのだ。
 だから横島は、今から、美神の寝室に侵入するつもりだった。

「美神さんは朝弱いから......
 目覚ましさえオフにしてしまえば、
 空港へ来ることは100%不可能。
 くっくっく......完璧なプランだ!」


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「あれ!?」

 事務所のシャワーを覗くのと同じ要領で、横島は、窓から部屋に忍び込んだ。
 しかし、美神は帰ってきていなかったのだ。
 寝室だけでなく、色々見て回ったのだが、どこにもいない。

「どこ行っちゃったんだ、美神さんは?
 まさか......西条のヤローと夜を過ごしている!?」

 一瞬イヤな可能性を考えてしまったが、横島は、頭を振って否定する。

「いや、そんなはずはない。
 えーっと、あのパーティーの後、美神さんは......」

 思い出した。
 美神は、酔いつぶれたおキヌを介抱していたのだ。

「そうか......!
 おキヌちゃんを世話するために、
 そのまま事務所に泊まったのか!」

 その可能性を検討する横島。
 今度は、不快ではない妄想になっていく。

    おキヌの寝室。
    運んでくれた美神に、
    おキヌがすがりつく。

   「美神さん!
    横島さんが......
    横島さんがいなくなっちゃう!」
   「大丈夫よ、おキヌちゃん。
    私だって寂しいけど......
    でも二人で乗り越えていきましょう?」
   「......えっ!?」
   「私がいるから......ね?
    だから......二人で......」
   「美神さん......」
   「おキヌちゃん......」

    ヒシッと抱き合ったまま、
    二人はベッドになだれ込む......。

「いかん! いかんぞ!
 美神さんはともかく、おキヌちゃんを
 ピンクなネタにしちゃダメじゃないか!?
 ......そういうキャラじゃないだろ」

 と、反省する横島であったが......。


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(現実になってるやんけーッ!?)

 おキヌの部屋に入り込んだ横島は、思わず絶叫しそうになった。
 美神とおキヌがベッドを共にしていたからである。
 ただし、さすがに二人抱き合っているわけではなかった。背中合わせの向きではあったが、それでもインパクトは大きい。
 下半身は隠れているから不明なのだが、かなり掛け布団がまくれていたため、上半身はよく見えていたのだ。
 おキヌは、裸ではないものの、薄めのシャツ一枚。
 そして、美神にいたっては......ブラジャーだけである。

(なんちゅー格好で寝とるんだ......)

 露出度では美神が勝っているが、おキヌは、ほかのところでポイントを上げていた。
 美神はスッキリとした穏やかな表情で眠っているが、おキヌは、なんだか悩ましげな表情をしているのだ。色っぽく汗ばんでおり、顔色も赤い。

(わかってる、わかってるんだ。
 おキヌちゃんのこれは、お酒のせい。
 でも、見ようによっては......)

 ついつい、エッチな連想をしてしまう。

 ゴクリ。

 横島の喉が鳴った。
 美女と美少女がセクシーに絡み合っている。そんな妄想が頭の中でリフレインするのだ。

(わかってる、わかってるんだ。
 おキヌちゃんはそんなことはしないーっ!)

 しかし妄想は止まらなかった。
 アパートに母親が泊まっているため、最近の横島は、少年の日課をキチンとこなせていなかったからだ。だから、体の一部も硬直してしまう。

(いかん! いかんぞ!
 それにしても......)

 横島は、ベッドの横に回った。そして、吸い寄せられるようにして、おキヌに近づく。

(苦しんでるのはわかるんだが、
 女のコのこういう表情って......やっぱり色っぽいな)

 『セクシー美神さん』というのは珍しくないが、なにしろ、今、目にしているのは『妖艶おキヌちゃん』なのだ。
 つい見とれてしまったのだが......。

「うーん、横島さん......」

 おキヌの口からこぼれた言葉を耳にして、横島の体が......今度は全身が硬直した。


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(おキヌちゃん......。
 お酒で苦しいだけじゃなくて、
 もしかして色っぽい夢でも見てる?
 しかも、相手は......俺!?)

 破壊力抜群。
 メガトン級だ。
 だが、まだ終わりではない。

(あっ!!)

 おキヌが、うっすらと目を開けたのだ。
 彼女は、

「あ、横島さん......」

 と言いながらスーッと手を伸ばし......。
 横島をベッドに引きずり込んだのだった。


___________


(う、動けん......)

 横島は、おキヌの抱き枕と化していた。
 おキヌが横島を引っ張り込んだのは、夢うつつな状態での行動だ。それも、ほんの一瞬の出来事であり、おキヌは、再び眠りに落ちている。
 しっかり瞼は閉じられているが、彼女の寝顔は、満足げなものに変わっていた。

(おキヌちゃんは幸せな夢を見てるんだろうが......)

 彼女は、無邪気な笑顔を浮かべていた。
 『色っぽい夢』を見ている少女の顔ではない。
 さきほどの邪推を恥じる横島だったが、だからといって、気持ちを落ち着けることは出来なかった。

(俺は......辛抱たまらんぞ!?)

 ほっそりとして、それでいて柔らかいおキヌの肢体。それが横島に絡み付いているのだ。興奮するなと言うほうが無理であろう。
 しかも、視覚的にも刺激的だった。
 頬を紅潮させた、幸せそうなおキヌの寝顔。それだけでも、もうお腹いっぱいなのだが、おキヌの向こう側には、ブラジャーのみの美神も寝ているのだ。

(おキヌちゃん......。
 俺はヌイグルミやないんやで?
 俺は......俺は......男なんやーッ!!

 気持ちいい。
 しかし、気持ちいいからこそ、男としては辛いのだ。
 指をくわえて見ているどころか、指一本動かせない状態である。

(ううっ。
 でも、おキヌちゃんに手を出したら
 俺は完全に悪者や......)

 それに、今、おキヌは眠っているのだ。
 横島だって分かっている。
 眠っている女のコを襲ったら、犯罪なのだ。こうして部屋に忍び込むのも厳密に言えば犯罪なのだが、それとこれとはレベルが違う。
 眠っている女のコに手を出してはいけない。たとえ、相手が受け入れる気持ちだとしても......。

(ん?
 『受け入れる』?
 ............!!)

 横島の頭の中で、何かが閃いた。

 そうなのだ。
 おキヌは横島を好きなのだ。
 彼女から『大好き!』と言われたことだってあるではないか。

 ただし、その『好き』は、あくまでも家族や友人に対する『好き』であって、それ以上ではないと思ってきた。
 だが、こうして体と体を密着させて、しかもジッとしていると、これまで伝わらなかったものが伝わってくるような気がする。

(俺......もしかして今まで
 おキヌちゃんの気持ち、誤解してた!?)

 家族や友人のように、ではない。
 幽霊だった頃も、蘇った後も。
 恋人のように尽くしてくれて。
 恋人のようにヤキモチも示して。
 恋人のように......一緒に幸せな時間を過ごして。

(おキヌちゃん......ありがとう)

 おキヌは、横島にとっては大切な存在だった。
 でも、だからこそ、迂闊なことが出来ないばかりか、迂闊に恋愛対象にも出来なかったのだ。

(今まで......
 自分でも気付かないように
 どっかにしまい込んでたんだな)

 心の奥にあった秘密の小箱。
 一度それを開けてしまえば、もう明白だった。
 おキヌの気持ちも、それに対する自分の気持ちも。

 そして、おキヌとの思い出を色々と回想していくだけで、満たされた気分になってくる。
 ......というのは、女性心理である。男であっても経験豊富な大人ならば有り得る話かもしれないが、童貞少年には、とても無理だった。

(もう我慢できん!
 わりぃ、おキヌちゃん。
 軽いキスくらいだったら......いいよね?)

 横島の唇が、おキヌの口元へと引き寄せられていく。
 しかし。

 パチッ。

 二人の唇が触れ合う前に、おキヌが目を開けた。
 それも、今度は寝ぼけマナコではなく、ハッキリと見開いている。

(うわっ、起きちゃった!
 ......ということは、ここで終了?
 どーせそんなこったろーと思ったよチクショー!

 心の中で血の涙を流す横島。
 一方、おキヌは......。

「あれ?
 横島さん......なんでここに?」

 視界いっぱいに迫っていた、横島の顔。
 自分の全身で抱きついていた、横島の体。
 そうした現状が、おキヌの頭にジワジワと伝わってきたらしい。

きゃーっ!!

 おキヌの叫び声が、夜明けの事務所に響き渡った。


___________


「だから......夜這いなんかじゃないんスよ......」

 ベッドのわきに転がった血だらけの男が、必死に抗弁を試みる。

「おキヌちゃんに引きずり込まれた?
 ......そんな話、信じられるわけないでしょ!」
「あの......美神さん!?
 私......
 『横島さん行かないで!』って夢見てたから、
 寝ぼけて、そんなことしちゃったのかも......。
 ごめんなさい!」

 男の横で正座した少女が、深く頭を下げながら、男にヒーリングをする。
 今、二人を見下ろしているのは、美神だけではない。美神に呼び出されて、百合子まで来ていた。

「あーら、おキヌちゃん。
 口で私に意見できないから、
 実力行使に出たってわけ?」
「そ、そんなつもりじゃありません、お母さん!」

 百合子が圧力をかけてきたが、おキヌとしても、ここは正念場だった。
 昨日は、お酒の力を借りようとしたから、失敗したのだ。横島の夜這い疑惑だって、自分に責任の一端があると感じていた。
 すでに酔いは醒めているが、まだ少し気持ちが悪い。実は『酒の勢い』も残っていたのだが、それがプラスに働いた。おキヌは、百合子に屈することもなく、真剣なまなざしで発言できたのだ。

「私......横島さんのことが好きです!
 女として......どーとか、
 う......うばってやるとか......
 だ、抱いてとか......
 自由にしてとか......
 忘れさせてとか......
 メチャクチャにしてとか、
 そーゆーんじゃないですけど......。
 でも......好きなんです!」

 途中の言葉のインパクトは大きかった。
 美神は、それを『はしたない!』と感じ、顔を赤くしている。
 横島は、それを『刺激的!』と思い、ちょっと興奮している。
 一方、百合子は......。その前後の『好き』という気持ちを、キチンと受け取っていた。

「......で?
 おキヌちゃんが忠夫に惚れてるのはわかったけど
 ......それで、どうしたいわけ?」

 『惚れてる』というストレートな言葉を使われて、おキヌはビクッとする。しかし、ここで負けるわけにはいかなかった。

「だから......行かないで欲しいんです!
 でも、どうしても行くというなら......
 私も一緒にニューヨークへ行きます!


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「はっはっはっは......!」

 百合子が、豪快に笑い出した。

「美神さんじゃなくて、
 おキヌちゃんのほうがそこまで言うとはね!」
「えっ!?」

 素直になれない美神。
 積極的になれないおキヌ。
 女心に鈍感な横島。
 そういう三人だからこそバランスがとれている。百合子は、そう感じていたのだ。
 そして、その均衡を一番最初に破るのは美神だと思っていたのだ。

(どうやら私の見込み違いだったようだね。
 今回は......おキヌちゃんの勝ちだわ)

 チラッと美神を見た後、百合子は、おキヌに向き直った。

「でもね、おキヌちゃん。
 おキヌちゃんの心意気は買うけど
 ......それは無理でしょう?」

 そう、おキヌが美神のところに居候しているのは、美神や横島と遊ぶためではない。GSになるという目標があるからなのだ。
 おキヌまでニューヨークへ行くというのは、現実的ではなかった。

「それに......
 私たちの便だって、もう間に合わないからね」
「......あっ!」

 このドタバタ劇の間に、すでに朝になっていた。
 空港までの時間を考えると、今さらここを出発しても手遅れである。

「......ナルニア行きなら、まだ間に合うけどね」

 百合子は、いたずらっぽく笑った。


___________


 結局、百合子は、大樹と一緒にナルニアへ帰ることになった。
 まるで誰かが謀ったかのように、『浮気じゃない証拠』を携えた大樹が、ちょうど日本へやってきたからだ。

 別れ際。
 百合子は、それぞれの耳元でささやいた。

「美神さん、
 まだ逆転のチャンスはあるかもしれないよ?
 それも含めて......息子をお願いしますね」
「いっ!?」

「おキヌちゃん、
 忠夫は大樹の息子だから、舵取りは難しいわよ?
 これからが大変だろうけど......息子をよろしく」
「はっ、はい!」

 そして......。

「なんだったんだ、いったい......?」

 飛行機が離陸するのを見送りながら、横島がつぶやく。
 しかし、これは愚問であった。美神は、口にするのはヤボだと知りながらも、ついツッコミを入れてしまった。

「あんたがそんなこと言っちゃダメでしょ?
 横島クンは......手に入れたもんがあるんだから」
「......!!」

 横島は絶句しているが......。

「へへへ......」

 おキヌは、横島と腕を組んだまま、幸せいっぱいの笑顔を浮かべるのであった。




(お酒飲んだら......・完)

(初出;「Night Talker」様のコンテンツ「GS・絶チル小ネタ掲示板」[2008年6月])

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『緋色の短冊』

「あっ!!
 そーいえば『天の川』って英語で......」
「たしかに『ミルクの道』って言うわね」

 私がポンと手を叩くと、それに美神さんが反応してくれました。
 私たちの横では、タマモちゃんとシロちゃんが、

「......これのどこがロマンチックなの?」
「さあ......?」

 と不思議がっています。

(あら......!?)

 二人には分からないのかもしれませんが、今、目の前で繰り広げられている光景は、とってもロマンチックなんですよ?
 だって、織姫さまと彦星さまが抱き合っているんです。それも、バキバキと音を立てるほどの強い力で。
 実は織姫さまは、牛乳をドッサリかぶってしまい、誰も近寄りたくないような臭い状態です。だけど、彦星さまは全く気にしていません。

(これが本当の愛......!
 匂いや外見なんて
 どうでもいいんですね)

 彦星さまとは違って、世の中には、外見に騙されてしまう男の人もいます。
 私は、ふと後ろを振り返りました。
 シェルビー・コブラでガードレールに激突した横島さん。彼は、まだハンドルを握ったまま、頭からドクドクと血を流していました。

(横島さん......)

 織姫さまの今夜の浮気相手に選ばれてしまって。
 織姫さまの変身能力に惑わされてしまって。
 なんとか『浮気』を未然に防ぐことは出来たので、喜ぶべきなのですが......。
 私の気持ちは、ちょっと複雑です。幸せ一色ではありません。
 だって、織姫さまが『横島さんの好きなおなご』として化けていたのは、ずっと美神さんだったんですから。




    緋色の短冊




 美神さん、シロちゃん、タマモちゃんの三人は、美神さんが運転する車で帰りました。
 私ひとりが、横島さんをヒーリングするため、事故現場に残りました。
 事務所の面々にとって、横島さんの流血は既に見慣れた光景です。でも、これは交通事故なんですから、キチンと癒してあげる必要があると思ったんです。

「やっぱり......
 横島さんが一番好きな女の人は
 ......美神さんなんでしょうか」

 膝の上にのせた彼の頭に対して、私は問いかけます。
 えへへ。
 もちろん、今、横島さんに意識はありません。だから、ふだんは恥ずかしくて口に出せないことも、今なら言ったり聞いたり出来ちゃうんです。

「私のことは......どう思ってるんですか?」

 美神さんは、女の私から見てもステキな女性です。だから横島さんが心惹かれるのも理解できます。
 でも......。

「少しは私のことも気にしてください」

 それが女心です。
 私自身の気持ちだって、どの程度『好き』なのかハッキリしてないんだけど、それでも、横島さんには望んでしまいます。

「たまには私にも......目を向けてください」

 例えば、今夜だって。
 美神さんたちは普通の服装でしたが、私は七夕らしい格好をしてたんです。
 天の川と笹竹と短冊を模様としてあしらった浴衣。
 自分では気に入ってたんだけどなあ。
 横島さんに対しては、まったくアピールにならなかったみたいです。

「私のセンスって......ちょっと古くさいんでしょうか?」

 と、私がつぶやいた時。
 横島さんが、パチッと目を開けました。


___________


「横島さん......?」

 もう迂闊なことは言えません。
 とりあえず名前を呼びかけてみたのですが、返事をしてくれませんでした。
 よく見ると、まだ目の焦点が定まっていない感じです。
 それじゃあ、横島さんの意識がハッキリするまで、もう少し今の姿勢を維持しましょうか。

「うふふ......」

 こうして横島さんを膝枕しているのも、なんだか幸せです。
 私は、膝と右手で彼の頭を抱きかかえながら、左の手でヒーリングを続けました。
 しばらくの間、そうしていると......。


___________


「今度はおキヌちゃんに化けたのか!?
 卑怯者ーッ!!」

 そう言いながら、突然、横島さんが飛び退きました。
 どうやら、回復はしたものの、私のことを織姫さまだとカン違いしているようです。
 でも、これって酷いですよね?
 『美神さん』に化けた織姫さまにはメロメロだったくせに、『私』からは逃げるなんて!

(もう......!)

 ちょっとムッとしたので、少しイタズラしちゃいます。
 織姫さまのフリをしてみるんです。

「このおなごは......イヤか?」

 そう言いながら、私は横島さんに歩み寄りました。
 横島さん、ジリジリと後退していきます。

「どうした?
 逃げることはなかろう?」

 不敵に笑う織姫さま......を演じているのですが、心の中では、私ちょっと傷ついてます。

(......そんなに魅力ないのかな)

 と思ってしまったのです。
 すると。

「イヤとかそんなんじゃねーよ!」

 横島さんが叫びました。


___________


「おキヌちゃんに手を出したら
 ......完全に悪者じゃねーか!」

 え?

「おキヌちゃんは......おキヌちゃんは、
 そういう存在じゃないんだよーッ!!」

 トクン。

 横島さんの絶叫を受けて、私の胸が鳴りました。


___________


 えーっと。
 『そういう存在じゃない』という言葉は、色々な意味に受け取れます。

「色気も何も感じないんだ!」

 というニュアンスで使われたのなら、私は悲しむべきです。
 でも......。

「手を出したいけど、出しちゃいけないんだ!」

 と神聖視されているなら、ちょっと嬉しいです。

(えへへ......)

 そうなんですよね?
 そう思っていいんですよね?
 私の自惚れじゃないですよね?
 確認のために、もう一歩だけ、踏み込んでみることにしました。


___________


「ふふふ......。
 本物に手を付けるには罪の意識があるのだな。
 では偽物のわらわだったらどうじゃ?
 『おキヌ』をモノにするチャンスだぞ」

 そう言いながら、私は、横島さんに顔を近づけました。
 きゃーっ!
 我ながら大胆です。
 織姫さまのフリしてると、ここまで出来ちゃうんですね。
 でも......。
 これくらい大胆に迫らないと、なかなか横島さんの本音は聞けません。
 以前の『大好き』発言だって、なんだか有耶無耶にされてしまったんですから。


___________


 そんなことを私が考えていたら、

「うぎゃーッ!?
 誰か止めてーッ!!」

 と叫びながら、横島さんが飛びかかってきたんです。
 心の準備もなかった私は、その場に押し倒されてしまいました。

(いゃん!)

 横島さんの手が、私の背中を撫で回しています。
 男のコなんだから――しかもスケベな横島さんなんだから――本当は別のところを触りたいのでしょうが、まだまだ遠慮してるのでしょうか。
 ......なんて分析してる余裕、私にはありませんでした。
 彼の腕の動きがだんだん大胆になってきましたし、それに、好きな人に体を触られていたら、私だって......!


___________


「もう......。
 そういう気持ちがあったのなら、
 ちゃんと私に言ってください」

 目を閉じて、横島さんの手に身を委ねたまま。
 私は小声でつぶやきました。

「......え?」

 横島さんの動きが止まります。
 どうやら、織姫さまではなく本物の私だということに、ようやく気付いたようです。

「でも......そうなんですよね。
 私が怒っちゃったから流れちゃいましたけど、
 前に『大好き』って言った時、横島さんは
 『おキヌちゃんでいこう』って言ったんですよね」

 ここで私は目を開けて、横島さんの顔を見つめました。
 横島さんの頭は私の胸の辺りに埋もれていたのですが、今は彼も顔を上げて、こちらを見ています。
 そうやって二人の視線が絡み合っている間に、私は質問をぶつけてみました。

「今でも......まだ......
 『おキヌちゃんでいこう』って思ってくれてますか?」


___________


 横島さんは、何も言わずに、ガバッと体を離しました。

「そうやって逃げちゃうのが
 ......横島さんなんですよね」
「いや......その......」

 しどろもどろな横島さん。
 視線もキョロキョロと動いていましたが、それが突然、ハッとしたように一点で止まりました。
 横島さんが見つめているのは、私の浴衣です。少し遅れて、私も、その意味に気付きました。

「あっ」

 いつのまにか、私の浴衣は汚れていたんです。
 でも、頭から血を流していた横島さんを膝枕したり、彼に抱きつかれたりしたんですから、考えてみれば、これも当然の結果ですね。
 ちょうど短冊のいくつかに、血が付いていました。
 短冊全体が赤く染まったものもありますし、血文字で何か書きこんだように見えるものもあります。

「ごめん、おキヌちゃん。
 せっかくの浴衣が......」
「ほら、また......
 そうやって話をそらすんですから」

 謝ろうとする横島さんを、私は止めました。
 これはこれで......。横島さんの色に染められたみたいで、なんだか嬉しかったんです。

「いいんですよ、気にしないでください。
 だって......」

 微笑みながら、私は、スーッと近寄りました。
 また逃げられちゃうかなとも思いましたが、今度は大丈夫でした。
 逃さないようにキュッと抱きついて、彼の耳元で囁きます。

「この短冊に私が書きたかった願いは......」




(緋色の短冊・完)

(初出;「Night Talker」様のコンテンツ「GS・絶チル小ネタ掲示板」[2008年7月])

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『心と心がつながって......』

『美神さん......!!
 シロちゃんたちが予定どおり
 悪霊をひっぱってきました!!』

 それは、除霊中の出来事でした。
 シロちゃんとタマモちゃんが囮になり、美神さんが悪霊を倒す。横島さんは美神さんのバックアップ。
 そういう手はずになっていました。
 私は『目』の役割でしたが、以前のようにヒャクメ様の心眼を持っているわけでもなく、手にしているのは普通の双眼鏡です。高いところのほうが見やすいので、街灯のてっぺんに座っていました。
 今にして思えば、上から俯瞰するのですから、幽体離脱して飛んでたほうが安全だったんですよね。でも、その時はそこまで気がつかなかったんです。

「よーし、もっとついてくるでござる!!」
「ここまでおいでっ......!!」

 下では、シロちゃんたちが上手く悪霊を誘っています。

「よし、行くわよッ!!」

 美神さんも、神通棍を伸ばしました。

「美神さん〜〜!!」

 横島さんは、ちょっと情けない声を上げていますが、大丈夫。三枚目っぽくてもホントは凄いのが、横島さんです。

『ギ......ィィイイッ!!』
「バッカねー横島クン!!
 死んだあとのこと心配してちゃ、
 人生楽しめないじゃん!!」

 もう理性も何もかもなくした悪霊に向かって、美神さんが突撃します。さっきまで横島さんと何かを語りあっていた続きで、言葉だけは、後ろにいる横島さんへ投げかけていました。

「私の信条は......」

 と言いながら神通棍を振るう美神さんでしたが......。
 残念ながら、私には、最後まで聞きとることは出来ませんでした。

「きゃあっ!?」

 激突した霊力の余波が飛び散って。
 私のほうにもやって来て。
 不安定なところに座っていた私は、バランスを崩してしまい......。
 高い街灯の上から落ちてしまったのです。




    心と心がつながって......




(あれ......この光景は!?)

 ふと気がつくと、私は、少し高いところから、氷室の家の縁側を見ていました。
 そこには、『私』と早苗おねえちゃんが座っています。

「おキヌちゃん明日帰っちゃうんだって?
 せっかくの里帰りなんだから
 もっとゆっくりしてけばいいのに......。
 ここはおキヌちゃんの家なんだから
 遠慮はいらねえべ!」
「ありがと、早苗おねえちゃん」

 スイカを食べながら会話する二人。
 早苗おねえちゃんはTシャツに短パンというラフな格好で、一方『私』は、しっとりとした模様のワンピースを着ています。ちょっと可愛らしい服、と思っていたのですが、こうして上から見ると、肩が少し露出しているから、ちょっと恥ずかしいです。

「でも事務所、同居人もふえたし......
 あんまりあけると心配だから」
「......そっか。
 楽しいんだ、あっちの暮らし」

 二人は、私の記憶どおりの会話を交わしています。
 もう間違いありません。これは、私が帰省した時の一場面。つい昨日の出来事です。
 だから、次に『私』が発する言葉は......。

「うん」

 シャリッとスイカをかじりながら、小さく頷く『私』。
 それはいいんですけど......。なんなんでしょう、この背景は!?
 『私』の向こう側に見えるのは田舎の青空のはずなのに、なんだかポワポワした感じの、シャボン玉のようなバックが見えてしまうのは、私の気のせいでしょうか?
 でも仕方ないですね。この時『私』は......横島さんのことを思い浮かべていたのですから。


___________


「あった......!
 前のまんまだ、道路標識......!!」

 義父さんの車で近くまで送ってもらい、少し歩いた『私』は、そこに辿りつきました。
 山道の途中にある、落石注意の標識。私の思い出の場所です。

「ここで私......
 最初に横島さんと会ったんだ......!」

 また『私』の背景が変わりました。清々しい山の景色がフッと消えて、さっきと同じような、ちょっとメルヘンな雰囲気のバックになっています。
 これって、横島さんのことを考えているときの、恋する乙女オーラなのでしょうね。
 う〜〜ん、それならば......。私が今まで横島さんのことを話すたびに、弓さんや一文字さんにからかわれていたのも、なんだか納得です。


___________


 今度は、その夜の場面になりました。

「......!!
 成仏してく......!?
 悪霊を説得しちゃった......!」
「このひとも本当はわかってたのよ。
 ただ、独りで消えてしまうのがさびしくて......」

 早苗おねえちゃんの目の前で、『私』が幽体離脱します。

『私、送ってくるね』

 悪霊だった魂が天へと昇っていき、『私』も一緒に空へ上がります。そして、それがフッと消えるのを見届けました。

『さよなら......!
 またいつか......
 命になって戻ってきてね......!』

 小さく手を振った『私』は、すぐには地上へ戻りません。夜空に留まったまま、自分の一生を振り返っています。

『私がいつかそこへ行くときは......
 ちゃんと思えるよね』

 これまでに出会った人々・神族・魔族、そして彼らとの思い出......。
 それらが、たくさんの絵になって、私と『私』の頭の中を流れていきます。

『本当に楽しかった。
 みんなありがとうーって、 』

 残念ながら私は、江戸時代のことは、あまり覚えていません。確かに、道士さまに記録映像を見せていただいたおかげで、ある程度のことは思い出しました。それでも、私の人生の記憶の大部分は、横島さんや美神さんとの出会い以降の思い出になってしまいます。
 だから......。

『みんなにもらった命......
 その日まで精一杯生きたよって』

 最後に『私』の頭に浮かんだのは、美神さんや横島さんと出会ってここを離れたときのことでした。


___________


 しばらくの間、『私』は空に浮かんでいました。そして、スーッと地上へ戻っていきます。
 でも......。
 私は戻れません。
 ええ、もうわかってるんです。
 今この瞬間が、『そこへ行くとき』なんです。
 これは、街灯から落ちちゃって死んでしまう私が、死の間際に見ている回想なんです。
 走馬灯......っていうんでしたっけ?
 ふふふ。神さまも面白いことをしますね。よりによって、昨日の様子を見せるだなんて。だけど、これまでの人生を振り返った時なのだから、それを『走馬灯』として見せられたら、ある意味、効率的なのかもしれません。

 ......。
 みんなとも、横島さんとも、もうお別れなんですね。寂しいけれど、でも大丈夫です。
 ちょっと......どころか、かなり予想より早かったけど、でも、ちゃんと胸をはって言えます。

「本当に楽しかった。
 みんなありがとう......」


___________
___________


「おキヌちゃん、ダメだーッ!!
 まだ『そこへ行くとき』なんかじゃないぞッ!!」

 その叫び声で、私は目を覚ましました。
 声のした方向に視線を向けると、

「あ......あれ......!?
 病院......!?
 あれ......!?
 じゃ、今のは全部夢だったのか......!?」

 と言いながら、横島さんがキョロキョロと周囲を見渡しています。
 どうやら、横島さんは、自分の絶叫で夢から覚めたようです。

「横島さん......。
 それは私のセリフです......」
「あっ、おキヌちゃん......!?」

 詳しい事情はわかりませんが、私たちは二人とも、病室のベッドに寝かされていました。
 あ、念のためにことわっておきますが、もちろん別々のベッドです。

「横島さんも......夢を見ていたんですか?」

 恐る恐る尋ねる私。
 だって、横島さんの口ぶりでは、横島さんが見ていた夢は......。

「......うん。
 おキヌちゃんの夢を見てた」
「......あっ!!」

 やっぱり!
 そう思って頬が赤くなる私を見て、横島さんは、勘違いしてしまいました。

「ち、違うんだ、おキヌちゃん!
 別にイヤラシイ夢じゃないぞ!?
 おキヌちゃんの昨日までの帰省の様子を、
 もう一人のおキヌちゃんの目から見ているという形で......」

 わかっています!
 横島さんは、私と全く同じ夢を見たんでしょう!?
 だから恥ずかしいんです。
 だって......。

「えーっと......おキヌちゃん!?」

 真っ赤な顔でうつむく私を見て、横島さんは、なんだか困っているようです。
 そんな微妙な空気の中、美神さんが病室に飛び込んできました。シロちゃんとタマモちゃんも続いています。

「横島クン! おキヌちゃん!
 気がついたのね......!?」
「先生!! おキヌどの!!」
「大丈夫!?」


___________


 あの後。
 美神さんが事情を説明してくれました。
 街灯から落ちた私は、地面に激突する前に、横島さんに助けられたそうです。
 ただし、ギリギリだったので横島さんも上手くキャッチできず、頭と頭でゴッツンコ状態。そのまま二人とも意識を失ってしまったのです。
 それでも、特に外傷もなく、数時間眠っただけで、自然に目を覚ましたんですって。
 表面的には、これで一件落着なのですが、問題は、意識不明の間に見ていた夢のことです。

「二人とも同じ夢を見てたの......!?
 それは......
 テレパシーで夢がまじっちゃったのかもね」
「......またっスか!?」

 ニマッと笑う美神さんに対して、横島さんは困ったような顔を返しました。
 横島さんは、美神さんとも『夢がまじっちゃった』経験があったからです。
 それから私のほうを見た横島さんは、

「でも......
 あれがおキヌちゃんの夢だということは
 ......あっ!!」

 そこまで言って固まってしまいました。


___________


 私と横島さんが見た夢の中で、私は、自分の一生を振り返っていました。
 そこで回想した心境は、私の嘘偽りのない本心。それに、例の『恋する乙女オーラ』もありました。
 だから......。
 これまでの私の気持ちを全部、横島さんに知られてしまったんです。

 恋なんてわからなかった幽霊時代も。
 はっきりとした恋心じゃなかったけど、でも横島さんのことが好きでした。

 そして、蘇って、記憶を取り戻してからも。
 やっぱり自分の気持ちがよくわからなかったけど、でも『好き』でした。ずっと一緒にいたい人でした。
 実際、アパートの部屋で二人きりで、ごくごく自然な雰囲気で一晩いっしょにすごしたこともありましたね。そんな幸せな経験を、これからも続けていきたい相手でした。

 そんな微妙な乙女心が......横島さんに全部筒抜けになっちゃったんです。
 はっきりと「大好き」って言ってもわからないほど鈍感な、あの横島さんに。

 恥ずかしいけど、でも、いつまでも恥ずかしがってるわけにはいきません。
 だって......。

「ごめん、おキヌちゃん。
 待たせちゃったかな......?」
「大丈夫ですよ、横島さん」

 今日は、私たちの......恋人としての初デートですから!




(心と心がつながって......・完)

(初出;「Night Talker」様のコンテンツ「GS・絶チル小ネタ掲示板」[2008年6月])

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