『美神・ザ・バンパイア・スレイヤー』
第1話 サニーデールへようこそ(part 1)
第2話 サニーデールへようこそ(part 2)
第3話 現代版フランケンシュタインの花嫁(part 1)
第4話 現代版フランケンシュタインの花嫁(part 2)
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『美神・ザ・バンパイア・スレイヤー』 第1話 

 In every generation, there is a Chosen One. She alone will stand against the vampires, the demons, and the forces of darkness. She is the Slayer.


「交換留学生の美神令子よ。
 『ミカミサン』と呼んでね」

 挨拶をして、教室を見渡した美神。
 顔ではニコニコしつつも、心の中では、嘆息をもらしていた。

(はあ......。
 横島クンとおキヌちゃんも
 今頃……ため息ついてるのかしら?)

 横島とおキヌは、一学年下に入り込んでいる。しかし、状況は同じようなものだろう。
 今、美神の目の前に、日本人は一人もいないのだ。
 それもそのはず。ここはアメリカ、カリフォルニア州の高校なのだから。




    第1話 サニーデールへようこそ(part 1)




 話は一週間ほど遡る。
 その日。美神・横島・おキヌの三人は、仕事もなく事務所で手持ち無沙汰だった。
 アシュタロスとの戦い以降、ずっとこんな感じである。台風一過のような感じで、霊たちの動きがスッカリおとなしくなってしまったからだ。仕事がなくても金銭的には困らない美神であるが、精神的にはイライラしてしまう。
 そんな美神除霊事務所を訪れたのは、ピートであった。小竜姫とヒャクメを連れている。

「めずらしい組み合わせだな、ピート?」
「それに......
 どうしたんですか、その格好!?」

 横島とおキヌが少し奇異に感じたとしても、不思議ではないかもしれない。
 ピートは、黒いスーツの上に、黒い帽子とマントを着用している。初めて美神たちの前に現れたときと同じ服装であった。

「ははは……。
 今日は、仕事を頼みにきたんです。
 それで正装を......」
「仕事!?
 あ......でも......」

 仕事と聞いて目の色が変わる美神だったが、すぐに気が付く。
 ピートは、唐巣神父のところで住み込みの弟子をしていた。そんな彼が持ち込んできた話なのだから、内容はともかく、依頼料は乏しいはず……。
 だが、美神の心中を察したヒャクメが、口を開いた。

『安心していいのねー!
 お金は私たちが払うから』
『厳密には……
 ピートさんじゃなくて
 私たちが依頼主なんです。
 ......ピートさん、説明お願いします』

 小竜姫は、美神の対面のソファに腰を下ろしながら、ピートを促す。
 ちょうど、中座していたおキヌが、お茶を運んできた。横島は、興味があるのか無いのか分からないような表情で、美神の後ろに立っている。
 全員をチラッと見渡してから、ピートは語り始めた。

「美神さんたちは知らないと思いますが......
 この世界には、僕たちのような一族とは
 全く別のバンパイアも存在しているのです」

 ピートの一族とは完全に異なるバンパイアたち。彼らは、外見からして、大きく違う。牙も露骨に大きく、目の色も不気味であり、顔の肉もところどころ盛り上がったり引きつったりしている。一見してモンスターと分かる顔つきなのだ。
 彼らは、本当に邪悪な存在であり、ある意味、生者ではなく既に死者であった。生前の記憶はあるものの理性は失っており、ただ、本能のままに暴れ回る。
 しかも、もはや味覚を失っているために通常の食欲はない。また、生殖行為で子孫を作ることも不可能なので、性欲も歪んでいる。すべてが破壊衝動へとつながる一族なのだ。
 ただし、そうした衝動を抑えることで、バンパイア・フェイスから人間顔に切り替えることも可能。人間社会に紛れこみながら獲物を狙う、狡猾な者もいるらしい。

「......おい、待てよ!?
 『子孫を作ることも不可能』って……。
 じゃ、どうやって仲間を増やすんだ!?」

 横島が口を挟んだ。生殖行為云々という部分が、気になったのだろう。

「さすが横島さん、
 いいところに気が付きましたね。
 彼らは......」

 ピートが話を続ける。
 この特殊なバンパイアは、生者の血を吸うことで、自分たちのエネルギーを得ている。『血』こそが、彼らにとって何よりも大切なのだ。
 すでに死者であるために心臓は動いていないのだが、それでも血液は循環しているくらいである。そして、自分たちの血を一定量飲ませることで、生者をバンパイアに変えてしまうのだ。

「ちょっと待って!?
 それって......
 人間をもとにして、いくらでも
 仲間を増やせるってことじゃない!?」
「はい、美神さん。
 理論的には、その通りです。
 しかし……人間は
 彼らにとってのエサでもあります。
 ……仲間を増やしすぎたら
 エサが足りなくなるだけですから。
 そんな馬鹿なことはしないようです」

 彼らバンパイアは、既に死者であるがゆえに、不死の一族なのだ。寿命をもつ人間でさえ人口過多は問題となる。不死の一族が増え続ければトラブルが生じることは、火を見るより明らかだった。
 ただし『不死』とはいえ、彼らを滅ぼす方法もゼロではない。
 木製の鋭器――クイのようなもの――で心臓を貫く。あるいは、首を斬り落とす。そうすれば、彼らはチリになってしまうのだ。
 また、火をつけて燃やせば消滅してしまうし、聖水と呼ばれる特殊な液体や、十字架にも弱いらしい。もちろん、太陽にさらしても、燃えてしまう。

「なにそれ......。
 弱点だらけじゃないの!?」
「いや、美神さん。
 口で言うほど、簡単じゃないみたいです」

 彼らの運動能力は、バンパイアとなった時点で、生前よりも大きくアップしている。まともに正面から格闘したら、普通の人間では、太刀打ちできない。しかも、彼らバンパイアは、多少の傷を受けても、驚異的なスピードで自己治癒するそうだ。

「でも、ピートさん!?
 そんなすごい存在なら......
 なんで今まで私たちの耳に
 入ってこなかったんです?」
「彼らは......もともと
 この世界の存在ではないのです」

 おキヌの素朴な疑問に、ピートが答える。
 この特殊なバンパイアの祖先は、昔々に、異世界からやってきたらしい。そして、ヨーロッパを中心に広がった。本来はそれぞれ勝手気ままに行動するはずのバンパイアたちだが、その地には『マスター』と呼ばれる求心的なバンパイアもおり、それで一大勢力を築いたそうだ。

「マスター?」
「はい。
 なんだか特殊能力も持つそうですが......。
 でも、そのマスターも、
 長い間、行方不明になっていました。
 どこかに封印されたんじゃないか……。
 そんな噂でしたが......」

 最近、アメリカで復活したという情報が流れた。ただし、すぐに倒されてしまったらしい。

「すぐに倒された!?
 それって......
 強力なGSがアメリカにいるってこと?」

 真剣な口調になる美神。
 彼女にしてみれば、今までの話の中で、これが一番気になる点だった。
 近年、重要な霊障事件は、なぜか日本で多発している。だから自然に、GSは日本に集中するし、アシュタロス事件の際にも、外国から助っ人を呼ぶ必要はなかったのである。
 日本に有力なGSが集まっているということは、商売敵になりえるGSも日本に勢揃いしているということだ。仕事の奪い合いにもなりかねないが、お互いに目を光らせることが出来るという利点もあった。
 だから、無名の凄腕GSがアメリカにいるというのであれば、美神としては、ぜひ情報を入手しておきたいのである。

「GSじゃありません。
 バンパイア・スレイヤーです」
「......は!?
 バンパイア・スレイヤー……!?」

 ピートは、選ばれしものの伝説を語り始めた。
 いつの時代にも、常に一人、『選ばれしもの』がいる。彼女だけが、バンパイアや悪魔や闇の力に対抗できるであろう。彼女こそ、ザ・スレイヤーなのだ。
 スレイヤーは、霊力や超能力こそ持たぬものの、悪と戦うに十分なスーパーパワーを与えられている。彼女は、ウオッチャーと呼ばれる後見人のもと、人知れず悪と戦い続けるのだ。

『現在の「スレイヤー」は
 高校生の女の子です……』

 ここで、それまで黙っていた小竜姫が、口を挟む。ヒャクメに目配せし、持参した写真を提示させた。
 そこに写っているのは、ブロンドのアメリカ娘。名前は、バフィー・サマーズ。主人公特権で、当然のように美少女である。服装も、スポーティーでアメリカンだが、それでいてお洒落だ。

「行きましょう!
 なんだか知らんが……
 今すぐ行きましょう!」

 横島が身を乗り出すが、美神やおキヌが止めるより早く、小竜姫が別の写真を出した。

『......彼氏いますよ?』

 アメリカ系というよりもヨーロッパ系の、ハンサムな青年。ただし、彼には秘密があった。

「彼の名はエンジェル。
 さきほどから説明している
 バンパイア……その一人です」
「......はあ!?
 それって......
 おかしいんじゃない!?」

 ピートの言葉に、美神が疑問を投げかける。
 ここまでの説明とその名前から考えて、バンパイア・スレイヤーは、バンパイアの天敵のはず。一方、バンパイアは、理性など無くした存在だと定義された。そんな二人が、恋人同士......!?

「……そうなんです。
 彼らバンパイアに何か異変が
 生じているとしか思えません。
 だから......
 調べてもらいたいんです」

 どうやら、それがピートの頼みらしい。
 ここで話が一区切りついたと見えて、今度は、小竜姫が語り役となる。

『このスレイヤー......
 バフィーという少女の高校の真下に、
 ヘルマウスと呼ばれる穴があります』
「『地獄ネズミ』?」
「『地獄の口』じゃないですか?」

 横島とおキヌは、横でコソコソ言葉を交わしていた。
 一応、話の流れを邪魔しないよう、気を遣っているようだ。

『......ヘルマウスこそが、
 異世界との通路らしいのです。
 この穴を通って私たちの世界へ
 来ようとしている悪魔がいます』

 それは、『はじまりの邪悪』と呼ばれる存在。

『その名の通り……
 諸悪の根源のような魔物です。
 私たちが考える「魔族」とは
 全く別の存在なのです。
 こちら側へそんなものが来るなんて、
 今までなら起こらないことだったのに』

 嘆くように首を振る小竜姫を見て、美神が、一つの可能性に思い当たる。

「......まさか
 神魔のバランスが崩れたから?
 神魔最高幹部をも超えた『復元力』が、
 二つの世界をつなげようとしている?」

 美神たちの世界では、神と悪魔は、うまくバランスを取りつつ、争いを続けてきた。強力過ぎる神魔は、たとえ滅んでも、強制的に同じ存在として復活するようになっていたのだ。
 しかし、このシステムを『魂の牢獄』だと言い出す大物魔族が現れた。魔神アシュタロスである。彼は、いっそ完全に滅亡したほうがいいと望み、それに値するだけの混乱を世に引き起こす。そして、ついに『魂の牢獄』から解放されたのだった。
 アシュタロスの事件には、美神たちも深く関わっている。もしも、バランス崩壊が『はじまりの邪悪』を呼びよせたのだとしたら、無関係だと言い張ることは出来ないだろう。

『そこまでは分かりません。
 「はじまりの邪悪」が来たら、
 たしかにバランス補正にはプラスでしょう。
 ただし「はじまりの邪悪」自体は、
 この世界のものに触れることは出来ません』

 『はじまりの邪悪』に関して判明していることは、現時点では多くはない。それでも、『死者の姿を借りて言葉巧みに生者を操る』という能力だけは、すでに分かっていた。だが、そんな力よりも、むしろ、異世界出身のザコ悪魔たちを影から支援することのほうが、問題らしい。

「......で、依頼そのものは何!?」

 一通りの説明が終わり、小竜姫が口を閉ざしたところで、美神が要点を尋ねた。
 応じて、小竜姫が、再び口を開く。

『まず……。
 スレイヤーのバフィーと接触して、
 彼女を取り巻く情報を入手してください。
 出来れば協力した上で......
 「はじまりの邪悪」が
 私たちの世界に与える影響を、
 出来るかぎり小さくしてください。
 ただし......」

 ここで、少し複雑そうな表情を見せる小竜姫。

『「はじまりの邪悪」そのものと
 戦う必要はありません。
 すでに神魔族上層部は
 「始まりの邪悪」を反主流派の
 大物魔族としてカウントしています』
「......バランス補正のためね?」
『はい』
「そんな大物なの?」
『......おそらく』

 小竜姫と美神が厳しい表情で会話する隣で、横島は混乱していた。

「......よくわからないんスけど。
 その『はじまり』とやらの
 影響を小さくする……!?
 でも『はじまり』と戦う必要はない!?
 ......じゃあ
 いったい何をすればいいんスか!?」
「ようするに『はじまり』を
 倒す必要はないけど……
 そいつがバックアップしてる
 ザコ悪魔たちは倒せってこと。
 ......そうでしょう?」
『はい。
 小物悪魔たちは、神魔上層部では、
 この世界の魔族としてカウントしていません。
 どんどん滅ぼしちゃってください』

 横島がトンマな人形のように質問すれば、美神が進行役のお姉サンのように、話をまとめる。しかも、今回は小竜姫まで補足してくれたのだ。
 だが、横島は、まだ完全には理解していなかった。

「うーん......。
 なんだかわかったような、
 わからんような……。
 なにしろ、全く違う世界観を
 いきなり、ぎゅうぎゅう
 詰め込まれた感じっスからねえ」
「大丈夫よ、横島クン。
 後でわからなくなったら、
 この部分だけ読み返せばいいのよ」
「うわっ、美神さん!?
 そんなメタなことを......
 って、私またこんな役ですかぁ!?」

 と、それぞれの発言をする横島・美神・おキヌ。
 そんな三人を見て、小竜姫は微笑む。

(この三人にまかせておけば
 今回も大丈夫でしょう......!)

 そんな安堵を見透かしたかのように、美神が、再び小竜姫に視線を向けた。

「長い仕事になりそうね!?」
『はい。
 でも、こんな時代ですから......』
「......そうね。
 そのぶん依頼料も
 たくさんくれるっていうなら、
 この仕事......引き受けるわ!!」


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 話が決まったところで、ピートは帰っていった。
 あとは、美神たち三人と神さま二人で、細部を煮詰めるだけだ。

『三人には「交換留学生」という形で、
 スレイヤー・バフィーのいる高校に
 潜入してもらいます……』
「......はあ!?」
「まさか......
 美神さんも高校生ですか!?」
「は......犯罪だ……」

 計画の最初の段階で、すでに驚く三人。特に横島などは、二十歳の美神がセーラー服を着ている姿を思い浮かべ、失言のために美神から殴られている。

『カン違いなのねー!
 あっちのハイスクールは私服なのねー!』

 しっかり横島の心を覗いたヒャクメが、情報を訂正した。さっきまでセリフがなくて空気と化していただけに、会話に参加できて嬉しそうだ。

「でも......年齢は......!?」

 恐る恐る口を開く横島だったが、女性に年の話はタブーである。再び血の海に沈められた。

『それも大丈夫なのねー!
 アメリカのテレビドラマなら、
 二十代半ばで高校生役を
 演じることもあるくらいだから!』
『それは理由になってませんよ!?
 ......でも、大丈夫でしょう。
 日本人は若く見られるそうですから』

 ヒャクメの言葉を、小竜姫がフォローする。
 こうして、横島とおキヌがバフィーのいる学年に、美神がその一つ上の学年に、それぞれ交換留学生として、潜入することになった。

「でも......アメリカってことは
 すべて英語なんスよね!?」

 横島が心配そうな顔をする。
 おキヌも、同じ表情で頷いていた。英語の成績は悪くはないが、英会話には自信が無いのだ。「発音はぜんぜんダメですが、よくがんばってますね」と教師に言われたこともあるくらいだ。

『それも大丈夫です』
『じゃーん!!
 神族特製......こんにゃくユビワ〜〜!!』

 ポケットならぬトランクから、三つの指輪を取り出すヒャクメ。『こんにゃくユビワ』という名称なのに、外観は貴金属である。

『これで自動翻訳されます』
『もう
 「俺たちって今、
  何語で会話してるんでしょうね?」
 なんて言わなくていいのねー!』
「それはいいとして......
 なんで名前が
 『こんにゃくユビワ』なの!?」

 ヒャクメ曰く。
 婚約指輪だということにすれば、ずっと指にはめていても不審がられることはない。なお『こんやく』ではなく『こんにゃく』なのは、そうすれば『翻訳』のニュアンスが......。

「はいはい。
 わかったから、話を先に進めましょう」

 話を遮る美神。
 差し出された指輪を、言われたとおり左手の薬指にはめる。すると、指輪が透明になった。

「......え?
 婚約指輪を偽装してるんじゃないの!?」

 美神は、顔をしかめた。たった今ヒャクメがした説明と矛盾しているのだ。たしかに見えない方が、よけい怪しまれないだろうが、じゃあ何故『婚約指輪』......?

(あっ!!
 もしかして......!?)

 彼女が、横島とおキヌに目を向けると......。
 二人は、おそろいの指輪を左手の薬指に装備していた。
 横島は意味が分かっていないようだが、おキヌは、少し赤くなっている。

「......どういうことなの!?」

 すでに推測はついているのだが、美神は、神さま二人に詰問した。
 その迫力は、二神が冷や汗を流すほどである。当事者のはずの横島・おキヌも、思わず距離をとっている。

『あの......
 「婚約指輪」ですから......
 三人お揃いではおかしいでしょうし......』
『……一つだけ、
 透明化の技術が導入できたのねー!』
『ですから......
 美神さんの分は問題がなく......
 そして......他の二人は......』
『恋人同士......
 フィアンセという設定なのねー!
 お揃いの指輪を常にはめていても
 これで、みんな納得するのねー!』

 返ってきた答は、美神の予想どおり。
 そして。

「えーっ!?
 おキヌちゃんと......恋人ーッ!?」

 ようやく状況を理解した横島が、盛大に驚いていた。


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(なんかイライラするわね)

 今、美神は、自己紹介を終えて席に着いたところだ。
 日本での会話を思い出してしまい、気持ちがモヤモヤするのだった。

(横島クン......!
 なぐりたいときに
 ……そこにいないなんて!)

 と思っているが、実際には、自分でも気付かぬヤキモチなのだろう。
 そして、そんな美神に、近くの席の生徒が声をかけてくる。

「ねえ、ミカミサン!?
 ......『サン』ってどういう意味!?」
「ああ、日本ではね、愛称には
 そういうのが付くのが普通なの。
 ......こっちの国とは逆ね。
 こっちだと略称が愛称になのよね?」

 もちろん日本でも、名前の一部があだ名になることは多い。しかし美神は、敢えてそれを説明しなかった。
 『ミカミサン』で通しておいたほうが、横島やおキヌとの会話を聞かれても、怪しまれないで済む。そう考えていたのだった。


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 そして、同じ頃。
 横島とおキヌは、バフィーとのファーストコンタクトに成功............していなかった。

「イテテ......」
「大丈夫ですか、横島さん!?」

 いつものクセで、ついバフィーにセクハラをした横島は、その場で殴り倒されたのである。
 バフィーは、何も言わずに教室から出ていってしまった。
 横島にも、彼を介抱するおキヌにも、好奇な目を向けるクラスメートたち。その中で、二組の視線だけは、他とは少し違っていた。

「やっぱり変だわ、最近のバフィー。
 今だって......
 いくら体を触られたからって、
 一般人を思いっきり叩くなんて......」
「......いや、あれは仕方ないだろ?
 あのヨコシマってやつ、
 いきなり抱きつこうとしたんだぜ!?
 それも、フィアンセがいる横でだぜ!?
 しかも、それを見ても
 怒りもしないフィアンセ......。
 なんてうらやましい......
 いや、ふてえ野郎だ!!」

 この二人、幼なじみの男女である。
 女の方は、秘かに男のことを想っているのだが、男は気付いていない。

(『うらやましい』……?
 そう言うくらいなら、私と......)

 そう思ってしまうが、それを口にできる彼女ではなかった。代わりに、本来の用件で話を続ける。

「でも......今のバフィー、
 全力で殴ったっぽいわよ!?
 普通の人に対して
 スレイヤーの力を使うなんて......」
「しーッ!!」

 この二人こそ、バフィーの親友、ウイローとザンダーであった。
 二人がバフィーと知り合ったのは、この高校にバフィーが転校してきた時。だから、まだ一年も経っていない。
 しかし、バフィーがスレイヤーであるという秘密を早々に知ってしまった二人は、バフィーの仲間として、マスターとの戦いにも協力してきた。
 ときには、彼ら自身がメインで事件に巻きこまれる場合もあった。例えば、ザンダーがカマキリ女に捕まったり、封印された悪魔をウイローがウッカリ蘇らせて文通相手になったり。
 だが、ともかくも、彼らはバフィーの仲間なのだ。

「やっぱり......
 ミスター・ジャイルズが言うとおり、
 トラウマなんじゃないかしら?」

 ウイローは、小声で話を続けた。
 ミスター・ジャイルズとは、この高校の図書館司書である。イギリス出身の冴えない中年男性であり、額の広さは年相応、いつも眼鏡をかけている。しかし、それは表の顔であり、その実態は、バフィーを導くウオッチャーであった。
 バフィーがマスターを倒したのは、すでに昨学期のこと。その際、一時的にバフィーは死んでいる。それくらいの強敵だったのだから、トラウマが残ったとしても、おかしくはない。
 それがミスター・ジャイルズの意見であり、今朝もウイロー・ザンダー・ジャイルズの三人でその話をしたばかりだ。朝の話の場にはバフィーも通りかかってしまい、

「トラウト......そう、トラウトは魚だね」

 などと誤摩化したものだが、バフィーには通じていない。信頼する三人がコソコソと自分を話題にしていると知るだけでも、機嫌は悪くなるだろう。だが、今朝の出来事は、それだけではなかった。
 バフィーは、マスターの墓が荒らされて骨が盗まれたことを発見していた。だから、それをジャイルズに告げ、マスター復活の可能性まで示唆したのである。あくまでも可能性の一つとして考えていたバフィーだったが、これに対するジャイルズの発言が、彼女の感情を逆撫でする。

「バフィー、私は......
 『蘇生の儀式』が成功したなんて話、
 ……聞いたことないよ!?」
「えっ!?
 そんな儀式、ホントにあるのね!?
 しかもジャイルズは知っていた……。
 ふーん、そう。
 あらかじめ警告してくれてありがとう」

 彼女はジャイルズには皮肉で返し、フォローしようとしたウイローにも言い返してしまう。

「これは『スレイヤー』の問題!
 一般人は黙ってて!!」

 バフィーにとって、今日という日は、そうやって始まった一日だったのだ。そんな日に、知らずにファーストコンタクトを試みたのだから......横島とおキヌが失敗するのも無理はなかった。


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 その夜。
 美神・おキヌ・横島の三人は、モーテルの一室にいた。
 なんだか、横島の目が血走っている。

「横島さん......?
 勘違いしちゃダメですよ!?
 アメリカの『モーテル』は
 日本で言うところの『安ホテル』や
 『ビジネスホテル』ですからね?」

 おキヌが注意するが、横島の耳には入っていないようだ。
 三人が訪れたサニーデールという地は、カリフォルニア州の小さな町である。『カリフォルニア』という言葉には華やかなイメージがあるが、アメリカでは、都心部と田舎町では生活環境が全く違う。
 ここサニーデールには、攻撃空母が飛び出すような基地もなければ、名曲に歌われるような豪華ホテルもない。仕方がなく、三人は、モーテルを当座の宿泊地としているのだ。もちろん部屋は三人別々だが、作戦会議ともなれば、美神の部屋に集まることになる。
 部屋に一つしかない椅子は美神が占領しているので、今、横島とおキヌは、ベッドに腰をおろしていた。

(三人は、今……
 モーテルの一室にいる!
 そして......このベッドは
 昨夜美神さんが眠ったベッドで......
 そこに俺が座っていて......
 隣にはおキヌちゃんがいて......。
 しかも、おキヌちゃんは恋人役......
 二人並んでベッドに座っている......!!
 おまけに……このベッドは昨夜......)

 妄想に突入する以前に、すでに興奮が堂々巡りする横島。

「もう......!!
 話が進まないじゃないの!!」

 見かねた美神が、スリッパで思いっきり横島の頭をしばき、現実へ引き戻した。
 さらに、元凶に気付いたおキヌの提案で、三人は、部屋を移動。
 横島部屋に入り、今度は女性二人がベッドをソファ代わりとし、ようやく作戦会議が始まった。


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「それじゃ......
 悪印象与えただけじゃないの!?」
「そう言われれば......そうっスね」
「美神さん……
 あんまり怒らないでくださいね?
 仕方なかったんですよ、
 横島さんは横島さんですから」

 バフィーとの接触失敗。
 横島とおキヌの報告は、その一言につきた。おキヌのフォローもフォローになっていない。

「もう......。
 小竜姫も、何を考えて
 こんな割り振りにしたのかしら?」

 横島とおキヌではなく、横島と美神がバフィーのクラスに潜入したならば、まだ、横島のセクハラ暴走を止めることも出来たはず。おキヌでは荷が重いのだ。
 美神は、そう考えてしまう。そこにヤキモチが混じっていることなど、自覚していない。

「仕方ないわね......。
 バフィーには私が直接
 会ってみるわ……。
 横島クンとおキヌちゃんは、
 彼女の交友関係を調べてみて!」

 アメリカの高校のシステムならば、学年が違っても、同じ授業になる可能性がある。同じ教室に入れば、話をするのも簡単だろう。ここはアメリカ、面識がなく突然話しかけても、怪しまれることはない。毎朝知らない人にもオハヨウって言える国なのだ。

「じゃあ、それはそれとして......。
 ヘルマウスの様子、
 これから見に行きましょうか!」
「えっ、今からっスか!?」
「そうよ!?
 ......何か問題あるの!?」

 ヘルマウスは、高校の図書室の真下に位置しているらしい。そんな場所、とても昼間に調査できるとは思えない。だから美神としては、ごく当然の提案をしたつもりだった。
 しかし、これは横島の計画を打ち砕いていた。横島のベッドに美神とおキヌが座っている以上、解散後には、そのベッドを有効利用するつもりだったのだ。もちろん、そんなこと口には出来ないので、横島は、美神に従う。
 こうして三人は、モーテルを出て、図書室へと向かった。


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 同じ頃。
 その図書室には、バフィー・ジャイルズ・ウイロー・ザンダーの四人が集まっていた。ラテン語の本を手にしたジャイルズが、『マスター蘇生の儀式』について読み上げている。

「マスターを復活させるためには......
 彼の骨と......最も
 近い者の血が必要......」
「最も近い者......?
 それって私のことかしら」

 バフィーのつぶやきに、ジャイルズが書物から顔を上げる。

「そうかもしれない......」
「私に決まってるわ。
 お互いに殺し合ったのよ!?
 ......これ以上
 近い関係なんてないでしょう!?」

 最後にはマスターを倒したバフィーだったが、一度はマスターに破れて命を落としているのだ。やはり、それは彼女の心に大きく響いているらしい。
 下を向いてしまったバフィーを見て、

「他には何も書かれてないのかい?」

 ザンダーが、ジャイルズに質問する。話を先に進めて、わずかでも話題を変えることで、落ち込んだバフィーを何とかしたいのだ。この面々の中で場の雰囲気を変えるのは、いつもザンダーの役割である。
 しかし、ジャイルズが答えるよりも早く。

 ガシャン!

 ガラス窓を突き破って、何かが飛び込んできた。
 バフィー、これをナイスキャッチ。
 それは、石に巻き付けられた、アクセサリーと手紙だった。

「コーデリアのものだわ」

 バフィーは、その装飾品に見覚えがあった。
 コーデリアも、この高校の学生である。彼女は、常に高級品で身を固め、取り巻きを引き連れて行動する女性だ。いつも図書館に集まっているバフィーたちを、『人生の負け犬』呼ばわりしていた。しかし、そんな高慢ちきな態度が災いしてか、コーデリアは、何度も怪奇な事件に巻き込まれてきた。その関係から、バフィーがスレイヤーであることも知っている。
 実は、コーデリアの他にも、バフィーの正体を知る女性が、もう一人、学内にいる。それは、コンピューターを担当する女性教師、ミス・カレンダー。大学生と言っても通じそうな若い外見であり、ミステリアスな美人である。
 なお、バフィーとマスターの対決の際には、コーデリアもミス・カレンダーも、ジャイルズやウイローとともに、図書室にいた。屋上で戦っていたバフィーは、天窓を突き破ってマスターを図書室へと投げ落とし、壊れた木製器具の上に突き刺す形で、彼を倒したのだ。
 だから、コーデリア、ミス・カレンダー、ジャイルズ、ウイローの四人は、マスターの死を間近で見た四人でもある。それには重要な意味があるのだが……。まだ誰も気づいていなかった。


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「『ブロンズ』まで来い。
 さもなくば彼女は食べちゃうぞ」

 投げ込まれた手紙には、そう書かれていた。
 ブロンズとは、ここサニーデールの若者が集うナイトクラブである。この小さな町の数少ない娯楽施設であるが、学生がメインの客層であるため、長期休暇中は閉店していた。新学期が始まったばかりの今も、まだ営業しておらず、そこをバンパイアに利用されているらしい。
 なお、手紙の送り主がバンパイアであることを考慮すれば、『彼女は食べちゃうぞ』の意味も明白だ。吸血されて殺されるのだ。

「やつら、コーデリアに
 食事を用意すんのかい……!?」

 一人、『彼女は』という言葉を主語と勘違いした男もいるが。

「......あ。
 聞かなかったことにしてくれよ」

 友人二女性の冷たい視線で、ようやく理解したようだ。

「どうしよう?」
「ブロンズ行って、助けてくるわ。
 ......これが毎日のお仕事よ」

 ウイローの質問に軽く答えて、バフィーは歩き出した。同行しようとした三人には、冷たく言い放つ。

「行くのは私だけだからね?
 あんたたち三人がいても
 ……足手まといだから!」

 だが、ウイローが追いすがる。

「手紙の残りの部分は?」
「......残りの部分?」
「『追伸、これは罠です』って。
 ......そう読み取れるでしょう?」
「私だったら大丈夫よ。
 ......これは私の戦いだから!」

 ウイローの心配も却下したバフィーは、ツンケンしたまま、図書室を出ていった。
 残された三人は、仕方なく、書物による調査に戻る。
 やがて......。

「ああっ!?
 ああっ、ああ......」

 ジャイルズが奇声を発し始めた。ウイローとザンダーの注目を集めてから、彼は語り出す。

「さきほどのラテン語は
 シュメール語からの翻訳なんだが......
 どうも翻訳のニュアンスが
 悪かったようなんだ……。
 『最も近い者』というのは......
 物理的な距離のことらしい。
 ほら、原文では、こう書いてある。
 『マスターが死んだ際に、
  彼と最も近い位置にいた者......』」

 ジャイルズは、衝撃の事実に気が付いた。
 マスターの死を最も近い位置で見届けたのは、コーデリア、ミス・カレンダー、ジャイルズ、ウイローの四人なのだから......。

「こっちが罠だったのか......!
 バフィーを遠ざけておいて、
 その間に......!!」

 ジャイルズが、ゆっくりと顔を上げる。
 すると。
 図書室の入り口から、そして、本棚の間から。
 彼ら三人を取り囲むように、大量のバンパイアが姿を現した。


___________


 バンパイアたちは、三人を取り囲みながら、ゆっくりと歩み寄る。

「おいおいおい。
 抵抗は無意味だって感じかい!?」

 SFオタクっぷりを発揮して冗談を言うザンダーだが、それで場の雰囲気が変わるわけでもない。
 三人を囲む輪がドンドン小さくなって。

「きゃあっ!?」
「......いっしょに来てもらおう」

 一人のバンパイアが、ウイローの右腕をつかんだ時。

 ザザーッ!!

 突然、そのバンパイアがチリとなって、崩れ落ちた。
 木製武器で背後から心臓を突かれたのだ!

「ふーん。
 ほんとにチリになるのねえ......」

 その犯人は......。
 特製の神通棍――先端が木製――を構える、美神令子であった。


___________


「なんだ、こいつ!?」

 戸惑いながらも、美神に遅いかかるバンパイアたち。
 しかし、バンパイアの敵は、美神一人ではなかった。

 ザーッ!! ザザーッ!!

 美神から最も離れていた二人のバンパイアの首が飛び、彼らもチリと化す。

「もう一人いる!?」

 伏兵に気が付き、振り返るバンパイアたち。その視線の先に立つは、光る剣を手にした一人の男。

「GS横島忠夫、見参!」
「あっ、あなたは......!」
「昼間のセクハラ男!!」

 カッコ良く見栄を切った横島に、ウイローとザンダーの言葉が飛ぶ。
 ややズッコケる横島を見て、近くのバンパイアたちが襲いかかった。隙が出来たと思ったのだろう。
 その時。

 ピュリリリリッ......!

 遠く耳を澄まさなくとも聞こえる、ハッキリとした笛の音。

「......今度は何だ!?」

 バンパイアたちは混乱した。笛の音を聞くと、体の動きが鈍るのだ。まるで水中を歩くような、重い感覚だ。

「じょ、冗談じゃねーぞ!?」

 出口近くのバンパイアの中には、逃走し始める者も出てきた。もちろん、まだ、勇敢にも美神や横島に立ち向かう者もいる。しかし、ネクロマンサーの笛で弱ったバンパイアなど、あうんの呼吸で連携をとる美神・横島コンビの敵ではなかった。
 わずかな時間の後。

「......ま、こんなもんね。
 たしかに弱くなかったけど、
 奇襲が効いたみたいね!」
「逃げちゃったやつもいますが
 ......いいんスかね!?」
「美神さん、横島さん!
 ......ごくろうさま!!」

 歯向かうバンパイアを全滅させた二人に、物陰で隠れて笛を吹いていたおキヌが駆け寄る。
 一方、三人並んだ姿を見て、ジャイルズがポツリと口を開いた。

「ありがとう。
 おかげで助かったよ。
 君たちは......いったい......!?」
「ゴーストスイーパー美神令子よ!!」


___________


「ゴーストスイーパー......!?
 そう言えば聞いたことがある!!」

 ジャイルズは、書架へとバタバタ走り、一冊の本を取り出した。

「現代社会の利益と安全、
 経済活動を脅かす妖怪・悪霊たち......。
 それらと戦うプロ、現代のエクソシスト。
 それがゴーストスイーパーである......」
「あら......!?
 良く知ってるじゃないの!?」

 書物の文面を読み上げたジャイルズに、美神が反応する。

「いや......
 知識として知っていただけでね。
 本物を見るのは初めてだ。
 しかし......
 強力なゴーストスイーパーは
 日本人ばかりと聞いていたが......?」
「ジャイルズ......!
 この人たちは日本人よ!?」

 ジャイルズの小さな勘違いを、ウイローが訂正した。
 彼が間違えたのも無理はない。英米人から見たら、日本人も中国人も韓国人も同じような顔立ちなのだ。そして、その三か国からアメリカに来ている人数を比べたら、中国人が圧倒的多数。だから、アメリカで日本人が中国人と誤解されるのは、ごくありふれた出来事だった。

「あれ......!?
 どこかで会ったっけ?」

 美神は気づいた。自分たちを知っているらしい。
 昼間のクラスの一員かとも思ったが、全員の顔など覚えていないので、何とも言えない。
 アメリカに来たばかりの美神たちには、アメリカ人は皆同じに見えてしまうのだ。横島がウイローをクラスメートと認識できなかったのも、仕方がない。

「はじめまして、お嬢さん。
 俺は......」

 キリッとした顔を作り、一歩前へ出た横島。
 彼にしてみれば、ウイローは十分、美少女であった。金髪ではなく赤気であることも、なんだか親近感がある。少し鼻にかかったような話し声も、甘い感じがして、魅力的だ。服装のセンスはモッサリしているが、それも、このウイローには似合っているので、可愛らしいと言えるかもしれない。
 そんな第一印象で、横島は、握手のために手を伸ばす。しかし、ウイローをかばうかのように、ザンダーが立ちはだかった。

「おいおいおい!
 バフィーに続いて、
 今度はウイローかい!?
 ......みさかいないな!?」

 ザンダーの言葉で、おキヌが状況を理解する。

「......もしかして。
 昼間、あの場にいました?」
「そうよ!
 あなたはオキヌチャン。
 そして......」
「こっちのセクハラ男が
 ……ヨコシマだよな!?」

 ウイローとザンダーの言葉を聞きながら、横島は、内心で後悔する。

(おキヌちゃんのように、
 俺も自己紹介で
 「横島クンと呼んでください」
 って言っておくべきだったかな?)

 横島としては、不特定多数から『ヨコシマ』と呼ばれるのは、なんだか嫌な気分。
 一方、この会話の横で、美神は微笑んでいる。

「なるほど、二人は
 横島クンと同じクラスなわけね。
 そして、バフィーの友人であり、
 こんな時間にヘルマウスの上で
 バンパイアに襲撃された。
 ということは......
 あんたたち、スレイヤーの関係者ね!?
 バフィーの協力者なのね?」

 言い放つ美神。

「......!!」

 ジャイルズが絶句する。
 バフィーの正体は、原則として、誰も知らない知られちゃいけないことなのだ。

「......隠すつもりなら、
 それはそれでいいけど。
 でも......
 そんな表情したら、モロバレよ?」
「いや、隠すつもりはないんだ。
 君たちには
 危ないところを助けられたし......
 信用できる面々のようだしね」

 これまでも、なし崩し的にウイローやザンダーを仲間にしている。美神たち三人の実力を目にした以上、彼らを引き入れることに異存はなかった。

「今、ちょっと
 トラブルに関わってるんだ。
 助勢してもらえるのであれば、
 私たちとしても、ありがたい」

 と、ジャイルズが言った時。

「みんなーッ!?
 無事なのーッ!?」

 バフィーが、図書室に駆け戻ってきた。

「ああ、バフィー。
 この人たちのおかげで......」

 ジャイルズが美神たちを目で示し、バフィーも、そちらを見る。

「誰なの......!?
 このコーデリアみたいに
 デーハーな女は……!?」
「あら......!?
 お友だちを無料で
 助けてあげたのに……。
 ずいぶんな御挨拶ね!?」

 バフィーと美神。
 これが、二人の初対面だった。


(第2話に続く)

 改稿時付記;
 私自身の文章のクセが初出時とは変わってきており、このままでは続きを書くのが困難なため、全面的に改稿することにしました。
 手を加える部分はなるべく最低限に留めるつもりですが、第二話以降では、いくつかの記載をバッサリ削るかもしれません。初出時は、途中から読み始めた読者のことも考慮して重複する説明も多くしていたのですが、自サイト掲載ならば前話までを読み返すことも容易なはずですから。
 さて、(改稿前にも描写していましたが)ウイローの「声」に関して敢えて記したのは、理由があります。英語版DVDシーズン5の SPECIAL FEATURES に "Buffy Abroad" として日本語版の映像が一部含まれているのですが、そこで聞いたウイローの吹き替えがあまりに英語版の声と違っており驚いたのです。バフィーも結構違うのですが(笑)、ウイローの場合、あの声も彼女の魅力だと思ったので……。まあ、日本語版は二つあるはずなので、あれがどちらなのか、もう片方はどうなのか、私にはわかりませんが。

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____
『美神・ザ・バンパイア・スレイヤー』 第2話 

「誰なの......!?
 このコーデリアみたいに
 デーハーな女は……!?」
「あら......!?
 お友だちを無料で
 助けてあげたのに……。
 ずいぶんな御挨拶ね!?」

 地下にあるヘルマウスを調査しようと思って、夜間にサニーデール高校の図書室を訪れた美神たち三人。彼らは、ちょうどバフィーの仲間たち――ウイロー・ザンダー・ジャイルズ――がバンパイアに襲われる現場に出くわし、これを撃退した。
 そして、バフィーの正体を知っていることもほのめかし、協力体制を提案されたところで、バフィー当人が現れたのだった。




    第2話 サニーデールへようこそ(part 2)




「バフィー。
 私たちはバンパイアに襲撃されたんだ。
 それをこの人たちが助けてくれたのだよ」
「......この派手オンナと、
 セクハラ男と、トロそうな女の子が?」

 ジャイルズの言葉に対し、顔をしかめながら、三人を見やるバフィー。
 バフィーはバンパイア・スレイヤーであり、ジャイルズは彼女を導くウオッチャーである。その関係から考えれば、彼の言葉には素直に従うのが筋なのだが、もともと、バフィーは、そんなタイプではない。
 しかも、最近のバフィーは、友人からも知り合いからも『バフィーはイヤなヤツ!?』と呼ばれるような態度をとっていたくらいである。美神たち三人を口汚く評するのも、自然な流れだった。

「バフィー!!
 なんてこと言うの!?」

 ウイローがバフィーを諌める。
 一方。

「美神さん......!
 ここは、こらえてください」
「そうです!
 仕事なんスから!!」

 おキヌと横島も、制止を試みている。美神は、こめかみをピクつかせており、暴発しそうに見えるのだ。

「......そうね、仕事だからね」

 『仕事』の一言で、グッと我慢する美神。
 三人がアメリカまで来たのは、小竜姫から依頼された仕事のためだった。
 昔々に異世界からやってきたといわれるバンパイアたち。そうしたバンパイア退治を宿命づけられたバンパイア・スレイヤー。彼女が秘かに活躍する地サニーデールに存在するという、異世界とこの世界をつなぐ穴ヘルマウス。そして、ヘルマウスを通して、『はじまりの邪悪』と呼ばれる魔物が、こちらの世界へ来るらしい……。
 事情は複雑であり、小竜姫の頼み事も単純ではないのだが、まずはスレイヤーであるバフィーと接触し協力することが第一であった。
 今夜の美神たちは、バフィーとのコンタクトは容易ではないと考え、次善の策としてヘルマウス調査に来ただけである。だが、そこで偶然バフィーやその仲間たちと出会えたのだから、いきなりケンカするわけにもいかない。
 一方、バフィーの側でも、今は余所者と争っている場合ではなかった。

「ジャイルズ!
 コーデリアはいなかったわ。
 バンパイアが一人いただけ」

 罠が用意されているのを覚悟した上で、コーデリア救出に向かったバフィー。ところが、待っていたのは、偽コーデリア――バンパイアが化けたもの――のみ。
 もしかするとバンパイアたちがバフィーを誘い出したのはジャイルズたちから引き離すためだったのでは……と心配になり、こちらへ戻ってきたのだ。

「ああ、バフィー。
 その通りだよ。
 彼らが欲しいのは......」

 ジャイルズも、バフィーが出かけたあとのことを説明する。
 『マスター蘇生の儀式』に関して調べ直した結果、バンパイアたちが必要としているのはコーデリア、ミス・カレンダー、ジャイルズ、ウイローの四人だと理解。そのタイミングでバンパイアたちに襲われて、美神たち三人に助けられたのである。

「だから儀式が行われるまでは、
 コーデリアも無事ってわけだ。
 殺しちゃったら意味ないからな」

 ザンダーが明るい口調で補足する。
 その横では、ウイローがミス・カレンダーに電話しているのだが、どうやら留守電らしい。

「きっと彼女もつかまってるんだわ!
 バフィー、早く助けにいかなきゃ!!」
「......今度は
 『足手まといだから来るな』
 とは言わないよな!?」

 ウイローとザンダーの言葉に、バフィーが頷く。
 ジャイルズやウイローが狙われている以上、行動を共にしたほうが安全なのだ。ザンダーの『バフィーの判断ミス故にピンチだった』という含意も、ちゃんと理解している。

「しかし……。
 どこに二人がつかまっているのか、
 それがわからないことには......」
「大丈夫よ。
 ......こっちには情報源があるから!」

 ジャイルズの心配を、バフィーは軽く浮け流した。


___________


 一行は、今、ナイトクラブ・ブロンズへと向かっている。一時休業中のそこが、バフィーがおびき出された場所であり、偽コーデリアを捕獲しているところでもあった。
 そこでは今頃、バフィーのボーイフレンドであるエンジェルが、偽コーデリアを見張っているはずである。

「......なんで、あいつらまで来るわけ?」
「彼らには彼らの事情があるんだろう」

 バフィーは、美神たち三人が同行していることを快く思っていないようだ。
 ジャイルズがフォローを試みるが、実はジャイルズだって、美神たちの目的は分かっていない。それでも、信用できる人物だと思ったのだ。また、詳細を聞くのは、この件が片付いてからでもいいと考えている。
 一方。
 美神は、今のうちに出来る限りの情報を入手しようとしていた。

「さっきの会話で、
 だいたいの状況はわかったけど......。
 ミス・カレンダーとか
 コーデリアとかって……誰?
 その二人もバフィーの仲間なの?」

 現状では、バフィーとジャイルズの後ろをウイローとザンダーが歩き、美神たち三人が、さらに後ろから追う形になっている。だから、美神の質問に答えるのも、バフィーではなくウイローたちである。

「ミス・カレンダーは、
 コンピューター教師よ。
 時々、私たちのこと助けてくれるの。
 でもコーデリアは......
 仲間......なのかな?
 友達なのはたしかだけど......」
「おいおい。
 あんなやつ……
 単なるクラスメートだろ」

 高級そうな衣服を自慢げに着こなし、取り巻きを連れ歩く、気取った女性。バフィーたちを『人生の負け犬』と見下しているが、性格の悪さに天罰が下って何度も怪奇な事件に巻き込まれてしまい、その度に、バフィーに助けられている……。
 ザンダーは、そんなふうに彼女のことを表現した。

「......まあ、どこにでも
 一人はいそうなタイプの女のコね」
「うーん......。
 俺たちの身近には、いませんよね?
 いや......そこから
 更生したキャラならいるかな?」
「そういう女のコに限って、
 仲間になっちゃえば
 むしろ親友になるんですよね」

 美神たち三人は苦笑している。
 こうして会話のとっかかりが出来たことで、ウイローとザンダーも、気になっていたことを聞いてみる。

「ところで......
 あなたたちは、どうやって
 バフィーのことを知ったの?」
「そうだぜ?
 スレイヤーって、正体どころか、
 その存在すら秘密なのにさ!?」

 美神たちは、顔を見合わせた。
 隠す必要はないが、全て説明したら長くなる。もっと落ち着いた場で話すべきだろう。
 横島とおキヌは、美神に判断を委ねている。そして美神は、今は聞かれたことだけ答えようと決心した。

「......神さまが教えてくれたのよ」
「神さまが......!?」
「おいおいおい。
 ジャパニーズジョークかい!?」

 ウイローは半信半疑だが、ザンダーは、まるで信じていないようだ。

「美神さん......
 そんな言い方では
 誤解されちゃいますよ!?」
「いくらなんでも
 説明省きすぎっスよ!?」
「......そんなこと言うなら
 あんたたちが答えてあげなさい!」

 美神は、おキヌと横島に、説明役をトス。

「えーっと......。
 俺たちの友達の中には、
 神さまもいるんスよ」

 常人には信じがたい説明を始める横島。

「......で、その神さまが
 スレイヤーのこと教えてくれて。
 しかも、スレイヤーと
 協力するよう頼んできたわけっス」
「......ほら!
 さっきジャイルズさんが言ってたように、
 『ゴーストスイーパー』っていうのは
 とっても特別な仕事なんです……。
 ......その関係で、神さまとも
 知り合いになっちゃったんです」

 おキヌの真摯な補足が、なんとか役に立ったようだ。彼女の口調には、真実の響きがシッカリ含まれていたのだろう。

「......マジ!?」
「スケールが大きな話ね......」

 ザンダーもウイローも、目を丸くしながら顔を見合わせた。驚きつつも、ようやく納得してくれたらしい。
 そして、そうやって後ろでゴチャゴチャ話しているうちに、一同は、すでにブロンズが見えるところまで来ていた。


___________


「バフィー!
 それに、みんな!
 ......後ろの三人は誰だい!?」

 ポツンと待っていたエンジェルが、椅子から立ち上がった。その足下では、縛り上げられた偽コーデリアが転がされている。

「......私もよく知らないんだけど」
「襲ってきたバンパイアたちを
 倒してくれた人たちだよ」
「新しい仲間……。
 そう思っていいみたいよ!?」

 ぶっきらぼうに答えるバフィーとは対照的に、ジャイルズとウイローが、最低限の情報を伝える。

「GS美神令子よ!
 『ミカミサン』って呼んでね」
「同じく横島忠夫!
 『ヨコシマクン』って呼んでくれ」
「氷室キヌです。
 みんなには……
 『おキヌちゃん』と言われてます!」

 簡単な自己紹介の後で、面白そうにエンジェルを眺める美神。

「ふーん。
 写真で見るより、
 少しふっくらしてるみたいだけど
 ......あんたがエンジェルね?
 バンパイアのくせに......
 スレイヤーの彼氏なんだって?」

 何気ない美神の発言に、ウイローとザンダーは、また驚かされた。

「エンジェルのことも知ってるの!?」
「おいおい!?
 さすが神さまの友人だな!」

 恋人扱いされた当人二人は、ちょっと微妙な表情で見つめ合っている。
 バフィーとエンジェルは、マスターとの戦いを通して、たしかに心を通わせ合った仲だ。しかし、最近親友にも冷たい態度をとり続けるバフィーである。エンジェルに対しても、ついさっき、暴言を吐いたばかりだ。

「あんたの助けなんかいらないわ。
 あんたはバンパイア、私はスレイヤー。
 ......お互い敵同士でしょ!?
 むしろ殺し合いましょうよ、さあ!?」

 そう言った直後に、火急の時だからということで、エンジェルの協力を許容したバフィーであった。
 そんな現状の二人だが、バフィーだって、自分の態度が良くないことは理解している。また、ウイローたちが危ない目にあったのも自分のせいだとわかっている。だから、今、少しだけ気持ちを軟化させるのであった。

「......そうよ。
 エンジェルは......
 私のボーイフレンド!」
「バフィー......」

 二人の間に甘い空気が......流れる余裕はなかった。

「でも、今は……
 そんなことどうでもいいでしょ!?
 こいつらのアジトを聞き出さなきゃ!」

 バフィーは、偽コーデリアを睨みつける。
 ちなみに、『偽コーデリア』といっても、別に目がつりあがったり手袋の色が違ったりしているわけではない。コーデリアっぽい服を着ているだけで、正面から見ればニセモノであることがバレバレな、ただの女バンパイアである。

「ふん!
 聞かれたって答えるもんですか!
 ......どうせ今頃、
 すでに儀式のイケニエさ!!」
「あの......」

 ウイローが、質問がありますという表情で、ゆっくり挙手した。

「私もジャイルズもここにいるけど......。
 それでも『儀式』は始まってるの!?」
「......。
 ふん!
 そのうち、おまえたちも捕まって......
 その後、あの二人とともにイケニエさ!」
「......語るに落ちたわね」

 ポソッとつぶやく美神。横島とザンダー以外の面々も、首を縦に振っている。
 女バンパイアの言葉は、コーデリアだけでなくミス・カレンダーも既に捕えられたことを裏付けているのだ。

「......。
 ふん!
 それがわかったからって、
 場所がわからなきゃ
 ……どうしようもないだろ?
 あたしゃ……
 殺されたってしゃべらないよ!」
「あんたが殺されるのは確定よ!?
 ただし、苦しまずに死ねるかどうか。
 それが……問題よね......!」

 まだまだ強気な女バンパイアに向かって、完全に悪役なセリフをはくバフィー。首からぶら下げている十字架ネックレスを外し、それを女バンパイアの口に放り込んだ。しかも、吐き出したり出来ないように、その口を両手で押さえつけている。

「うっ、ぐっ......」

 女バンパイアが呻き始めた。十字架の影響で、口の中が焼けただれたようだ。バフィーの手の隙間から、白い煙が立ち上っている。

「バ、バフィーさん!?」
「うわっ、エグイっス!」
「ちょっ、ちょっと......!
 やめなさい、
 あんた美少女主人公でしょ!?
 ......そんな拷問よりも
 確実な尋問方法があるから!」

 引いてしまう美神たち三人だが、美神は、ちゃんと代替策を提案した。

「横島クン!
 わかってるわね......!?」
「......文珠で模倣っスね!?」


___________


 エンジェルも加えて八人となった面々は、今度は、町外れの廃工場へと向かっていた。そこが、バンパイアたちのアジトであり、コーデリアたちが捕まっている場所なのだ。
 やはりバフィーが先頭だが、その横に並んでいるのは、今回はエンジェル。ジャイルズは、ウイローやザンダーとともにバフィーの少し後ろを歩き、最後尾を美神たち三人が陣取っている。

「さっきのあれも......GSの超能力!?」
「まるで魔法使いだな。
 ……驚いたぜ!」

 ウイローとザンダーが、美神たちに質問する。
 もちろん、『さっきのあれ』とは、横島の文珠のことだろう。横島は、女バンパイアをコピーして、その頭の中を読んだのだ。初めて見た人間が驚くのも無理はなかった。

「超能力じゃなくて……
 霊能力なんだけどね」
「横島さんの文珠、
 もっと色々出来るんですよ!」

 横島本人ではなく美神とおキヌが、誇らしげに語る。
 文珠とは、玉に凝縮した霊力を使って、文字としてこめたイメージを引き起こす技のこと。さきほどは模倣をイメージして『模』という字を入れたから相手をコピーしたわけだが、例えば『炎』や『氷』で燃やしたり凍らせたりすることも出来るし、『防』で結界をはることも可能だ。

「漢字一文字でイメージできるなら
 なんだって可能なのよ......!
 ......凄いでしょ!?」
「もちろん俺の霊力次第なんで
 『なんだって可能』は言い過ぎ。
 無理なことも出てきます。
 ......で、
 なんで美神さんがそんなに
 自慢げなんスか!?」
「まーまー。
 横島さんって
 自分を過小評価しちゃいますから
 かわりに誇ってくれてるんですよ。
 ......ね!?」

 三人は、なるべく簡潔に説明したつもりだが、ウイローもザンダーも、まだ分からないという顔をしている。

(もっと具体例を見せてあげないと
 ……理解できないかしら?)

 と美神は考えたが。
 実は、ポイントはそこではなかった。

「あの......『漢字』って何!?」


___________


 美神たちは、自動翻訳装置『こんにゃくユビワ』をはめている。だから失念していたのだが、ウイローやザンダーの耳では、英語で会話していることになっているのだ。日本語会話のつもりで説明していては、通じない部分も出てきてしまう。

「もう......!
 めんどくさいわねえ......。
 こういう説明は……
 おキヌちゃんに任せるわ!!」
「......えっ!?
 私ですか!?」
「そうよ!
 社会人より現役の高校生のほうが、
 英語と日本語の違いも詳しいでしょ?」

 適当に理屈づけて、おキヌに説明役を押しつけてしまった。

「どう説明したらいいのかな?
 えーっと......。
 日本語には、三種類の文字があります。
 二つはアルファベットみたいなもので
 丸っこいのが『ひらがな』、
 角ばってるのが『カタカナ』です」
「そうそう、その調子よ、おキヌちゃん!」
「それで......残りの一つが『漢字』。
 でも『漢字』は……
 アルファベットとは違って、
 一文字一文字に意味があります」

 懸命に説明するおキヌだったが、歩きながら突然開講された日本語講座は、ウイローやザンダーには難しかった。ただし、語学に堪能なジャイルズだけは、どうやら理解してくれたらしい。

「なるほど、それで
 『漢字一文字でイメージ』か。
 さっき玉に書いてあった記号、
 あれが漢字なんだね?」
「そうです!
 あれは『まねる』って意味の字だから
 相手をコピーすることができたんです!」

 ようやく分かってもらえて、ホッとするおキヌ。
 実はウイローとザンダーは、まだ分かっていないのだが、二人とも『あとでジャイルズに教えてもらおう』と考えていた。
 一方、自分の技能の説明を他人任せにしていた横島は、この会話を、ちゃんと聞いていなかった。さきほどのバンパイア模倣の件を思い出すと、気分が悪くなるのだ。

(ピートの言うとおりだ......。
 あのバンパイアの頭の中、
 狂った衝動しかなかった......!
 性欲とか生存本能とか、
 そんなチャチなもんじゃない、
 恐ろしいものの片鱗を味わった気分だぜ。
 あんなもんコピーするのは
 ……二度とゴメンだ!!)

 あまりの不快感に、横島は、文珠の効果をサッサとキャンセルしてしまうくらいだった。
 しかし実は、横島が意図的に短く切ったのではなく、ちょうど自然に終わるタイミングだったのである。
 いつもより持続時間が短かった文珠。
 だが、横島は、そんな異常には気づいていなかった......。


___________


 廃工場に辿り着いた八人は、裏口からコッソリ中に忍び込む。
 物陰から様子を見てみると、悪者のアジトらしい雰囲気がプンプンしていた。
 薄暗いランプの明かりに加えて、一本の燃え盛るたいまつが、室内を赤々と照らしている。中央のテーブルには、理科室の骨格模型のようなシロモノが寝かされているが、これがマスターの骨に違いない。

「ねえ......?
 バンパイアって、
 チリになって消えるんでしょ!?
 なんでマスターは骨が残ってるの!?」

 今さらな疑問を美神が口にしたが。

(そこは突っ込んじゃダメよ)

 そんな視線が、たくさん返ってきた。一人エンジェルのみが、まっとうな返事をしてくれた。

「あれは『マスター』だから特別なのさ」

 そして、一同は、再び室内を観察する。
 中でも、目線を上げた者たちは、鉄骨や鉄板で組まれた中二階があることに気が付いた。そこに、二人の女性が鎖でしばられて寝かされている。コーデリアとミス・カレンダーだ。二人とも意識を失っているようだった。
 一方、一階を見続けていた者は、敵戦力を冷静に把握していた。
 褐色の肌をしてチョッキを着たバンパイア――このグループのボスなのだろう――が、数人のバンパイアを前にして、何か偉そうに説教している。配下の大多数を図書館に差し向け、そのほとんどを倒されてしまったため、もはや小集団になってしまったようだ。なぜかボスの横には子供が一人座っているが、これもバンパイアに違いない。

「あの人数のバンパイアなら、
 私たち三人で十分だわ。
 ……バフィーたちは
 お友だちの救出に専念できそうね?」

 美神としては、もっともなプランを提案したつもりだ。
 しかし、バフィーは顔をしかめるし、ジャイルズまでもが首を横に振った。

「いや......ここは
 バフィーに任せてくれないかな?」
「......えっ!?」

 驚く美神たち三人とは対照的に、ウイローもザンダーもエンジェルも、納得の顔をしている。
 そして、美神が返事する前に、すでにバフィーは動き出していた。工場内に潜り込み、バンパイアたちの背後に回りこんでいる。

「そういうことね......」

 一同の表情を見て、美神も理解し始めた。
 バフィーはギスギスした雰囲気をもつ少女だが、友人たちの反応を見るかぎり、それも一時的なものなのであろう。自分たちは、どうやらバフィーが不機嫌な時に来てしまったのだ。
 美神としても、それくらい薄々勘づいていた。だから、敢えてバフィー一人を敵陣に送りこむ意味も、なんとなく推測できたのだ。

「じゃあ......バフィーが
 バンパイアたちを相手にしている間に
 ......みんなで救出劇ね!?」

 美神の言葉に、今度は全員が頷いた。


___________


「マスター様を蘇らせるためには
 どうしても奴らが必要なのだぞ!?
 ......わざわざ
 スレイヤーを遠ざけたというのに!」
「しかし......!!
 スレイヤーより強い二人組が
 ひそかに奴らを守ってたんです!
 しかも......」
「言いわけは、もう十分だ!
 スレイヤーより強い二人組!?
 ......そんなもんいるわけないだろッ!!」
「しかし本当に......」

 ボスに怒られていた敗走バンパイアたち。代表格の一人が必死に答弁していたのだが、突然、彼はチリになって崩れ落ちた。

「そうね、いるわけないわね。
 だって私が最強だから......!!」

 その背後に隠れていたバフィーの姿が明らかになる。木製のクイを手に、すでに戦闘体勢だ。

「うわあああぁぁあッ!!」

 頭悪そうな叫び声を上げるボス。それを合図に、バンパイアたちがバフィーに襲いかかった。
 まず、バンパイアその一がバフィーに殴り掛かるが、バフィーは、これを左手でガード。背後からやってきたバンパイアその二の拳は、身をかがめることでかわした。バンパイアその二は、パンチが空を切った勢いで、バランスを崩してしまう。
 その間に、バフィーは、右ストレートでその一を吹っ飛ばし、反転してその二を蹴り倒す。そして、再び反転、新たに向かってきたバンパイアその三に、カウンターのキックを入れる......。
 このようにバフィーが孤軍奮闘している間に、打ち合わせどおり、他の七人は中二階へ向かった。しかし、この別働隊の存在に、ボスバンパイアが気付いてしまう。

「いけにえが......!?
 あいらを止めろッ!
 うわあああぁぁあッ!!」

 バフィーと乱闘していたバンパイアたちの二人――その四とその五――が、ボスの命令を聞きつけて、中二階へと走り出した。だが鉄階段を上る途中で、前を進むその四が転んでしまい、二人の動きが止まる。

「おい!?
 こんなとこでドジふむなよ!?」
「ドジじゃねえんだ!
 だって......見ろよ、これ!?」

 バンパイアその五の文句に反論する、バンパイアその四。いつのまにか、彼の右足首がなくなっていた。

「......こういう卑怯な戦法こそ
 うちの戦いかたっスね!」
「よくやったわ、横島クン!」

 バンパイアが追って来ることも考えた美神は、横島を伏兵として鉄階段の裏に配しておいたのだ。そして、段と段の隙間から霊波刀を突き出した横島は、見事、バンパイアの足首を斬り落としたのである。
 いくら驚異的な回復をもつバンパイアでも、足首を生やすことなど出来なかった。文字通り足止めされたのである。

「お、おい......!?」
「ちょ、おまえらっ!?」

 動きの止まったバンパイアその四は、上から降りてきた美神に、アッサリ心臓を貫かれてしまう。
 バンパイアその五も、階段裏からサッと出てきた横島の霊波刀で、首を斬り飛ばされていた。

 ザーッ! ザザーッ! 

 こうして、二人のバンパイアが、チリとなって消えた。


___________


「ふーん。
 結構やるじゃないの......!」

 三人のバンパイアを同時に相手にしながらも、視界の隅でチラッと美神たちの戦果を確認したバフィー。
 彼女は、内心で賞賛する。二人が正面から立ち向かわなかったからだ。
 バンパイアを相手にするには、素直に戦ってはいけない。心臓を木製器具で刺せば倒せる相手であるが、的確に心臓を狙う必要がある。相手が人間なら、他の部分にも重要臓器があるから少しずれてもダメージを与えることが出来るが、バンパイアは違う。心臓以外を木製武器で貫いても、何の意味も無い。
 今、バフィーが敢えて乱闘をしているのも、バンパイアたちを弱らせるため。弱らせておけば、心臓を正確に突くことも容易い。これが、バンパイア・スレイヤーであるバフィーの好む戦法だった。

「つかまえたぞ、スレイヤー!
 ......あれ!?」

 バンパイアその一が、バフィーを羽交い締めにすることに成功した。勝ち誇る彼だが、これが致命的な隙となる。この姿勢で動きが止まっているのはバフィーだけでなく、バンパイアその一も同様だからだ。

 ザーッ!

 彼はチリとなって崩れ落ちる。バフィーが腕を後ろに回して、彼の心臓をクイで貫いたのだ。しかし、この間に、バンパイアその二が突撃してきた。

「しまった......!」

 バフィーにしても、やや無理な姿勢で一人倒したばかり。このタックルはかわせなかった。弾き飛ばされて壁に叩き付けられたバフィーは、その痛みよりも、この攻防でクイを落としてしまったことのほうを悔やむ。

「へへへ......。
 クイを持たぬスレイヤーなど
 もう恐くないぜ......!!」

 バンパイアその二が、ニタニタ笑いながら歩み寄る。しかし、スレイヤー相手に慢心するバンパイアなど、馬鹿の見本のようなものだ。バフィーは、手近にあった木箱を、バンパイアその二の頭に叩き付ける!

 バキンッ!!

「あれ......何も見えないぞ!?」

 木箱の底をぶち破って、バンパイアその二の頭が、スッポリ収まってしまった。そうやって視界を奪っておいて、バフィーは、バンパイアその二の頭を箱ごと蹴り飛ばす。クルッと回りながら、面白いように吹っ飛ぶバンパイアその二。
 同じタイミングで、再度バンパイアその三が向かってきたが、バフィーは、しゃがみながら足払いをかけた。そして、しゃがんだ際に拾った木箱の破片で、バンパイアその三の心臓を突き刺す。

 ザーッ!

「ん......!?
 ......とうとう俺ひとりか!?」

 頭から木箱を抜き捨て、バンパイアその二がポツリとつぶやいた時。

「......もう十分だ!!」

 ボスバンパイアの声が響き渡った。


___________


 手下に戦いを任せていたボスだが、別に一人で逃げてしまったわけではない。彼らにとって大切な『メシア』と呼ばれる子供バンパイアを、安全な場所まで逃していたのだ。
 そして、彼の安全を確保した上で、戻ってきたのだった。途中で、愛用のハンマーも取ってきている。

「スレイヤー!
 俺様が来たからには、
 もう終わりだ......!
 貴様なぞグシャグシャに潰して
 ベトベトの糊にしてくれるわ!!」

 そう言いながら、ボスは、一歩ずつバフィーに近づく。

「貴様の顔を叩き潰す前に......
 言い残すことがあれば聞いてやる!」

 彼の言葉は、その場にいる面々の動きを止めていた。

(ふふふ......。
 俺様の言葉に恐怖しているのだな!)

 そんなボスに対して、バフィーが、ゆっくり口を開く。

「あの......
 あんた私を殺したいの?
 それとも......
 小洒落た会話を楽しみたいだけ?
 ......ま、あんたの発言、
 全然『小洒落』てないけどね」

 バフィーの口調も表情も、呆れたような馬鹿にしたような感じだ。

「うわあああぁぁあッ!!」

 怒ってしまったボスは、ハンマーを振りかざしながらバフィーに突撃する。
 呼応して、せっかく乱闘を生き延びたバンパイアその二も、バフィーに向かって走り出した。

「うおーっ!!」

 二人は、バフィーを挟み撃ちにする形である。しかし、バフィーは全く慌てていなかった。ちょうど身近にたいまつがあることに気付いていた彼女は、その根元に強烈な蹴りを入れて、たいまつを折る。そして、両手でクルッと回して、それを武器とした。
 同時攻撃をするバンパイアたちに、バフィーは、同時にカウンターをお見舞いする。根元側の尖った木の部分でバンパイアその二を貫き、たいまつの火のほうをボスに突き当てたのだ。

「ああっ!!」
「うわっ!?
 うわーっ!?」

 ザーッ!! ボウーッ!!

 一人はチリとなって消え、もう一人は燃え尽きる。
 ただボスが手にしていたハンマーだけが、持ち主を失って、その場にゴトンと落ちるのだった。


___________


 バフィーが戦っている間に、中二階では、すでにコーデリアとミス・カレンダーの救出も終わっていた。
 意識を取り戻した二人も含めて、全員で決着を見届けていたのだ。

「......終わりっスね!?」
「いいえ、まだよ」

 バフィーの状況を理解しつつある美神が、横島の言葉を否定する。
 そして、彼らが見守る中。
 敵を全滅させたはずのバフィーが、足下に転がるハンマーを手にした。

 ガシャン! ガシャン!

 ハンマーが振り下ろされる先は、マスターの全身骨格だ。
 バフィーは、強固な意志をこめて、動かぬ骨を叩き壊していく。まるで、もっと大きな何かを壊すかのように。

 ガシャン! ガシャン!

 その音に紛れて聞こえないが、バフィーは、すすり泣いていた。
 そして、ようやく骨が粉々になった頃。

「大丈夫だから。
 もう大丈夫だから......」

 いつのまにか階下へおりていたエンジェルが、後ろから、バフィーの肩に優しく手をかけた。
 両手で顔を覆ったバフィーは、そのまま反転、エンジェルの胸に顔を埋めるのだった。

「うっ......ううっ......」

 彼女の泣き声は、中二階の皆にもハッキリ聞こえてくる。

「えーっと......
 どういうことなんスか!?」
「今そこで泣いてるのが本物のバフィーだぜ。
 ようやくマスターの呪縛が消えたってことさ」
「そう、トラウマという名の呪縛がね......」

 この場面の意味が分からぬ横島に、ザンダーとジャイルズが、一応の解説をするのだった。


___________


「そうよ、ママ。
 新しく来た留学生の歓迎会なの。
 ......うん、ジャイルズのところよ。
 ちょっと遅くなるかもしれないけど
 心配しないで......」

 ジャイルズの家から自宅に電話するバフィー。
 コーデリアとミス・カレンダーは帰っていき、エンジェルも二人を送り届ける形で別れたが、他の面々は、今、ジャイルズ邸に集まっていたのだ。
 途中、スナック菓子とジュースを買ってきており、簡単なウエルカム・パーティーである。

「これって......私たちの歓迎会?
 それとも……
 『バフィーおかえりなさい』パーティー?」

 美神は、隣に座るジャイルズに軽く尋ねる。二人の視線は、まだ電話しているバフィーに向けられていた。
 そこにいるバフィーは、一人の明るい少女だった。少し前までの『イヤなヤツ』オーラは、全く消えている。

「まあ......色々な意味があるだろうねえ」

 ジャイルズは、口元に笑みを浮かべた。
 美神の言うことは正しい。それに、美神たちの歓迎会としても、『サニーデールへようこそ』だけではなく、『スレイヤーの仲間に、ようこそ』の意味もあるのだ。

「そう......?
 まあ、いいわ。
 それより......」

 『スレイヤー』であるバフィーが、わざわざ帰宅が遅れることを母親に告げている。美神は、そのことに小さな疑問を感じた。
 美神は、スレイヤーも魔物退治屋でありGSのようなものだと思っている。だから、スレイヤーの存在が秘密であることなど、まだ理解していない。
 実は、バフィーの正体は母親にも内緒であり、バフィーの母は、バフィーを普通の高校生だと思っているのだ。しかも、バフィーの両親は離婚しているので、今のサマーズ家は、母一人子一人の生活。帰りが遅くなれば母親が心配するのは明らかだった。
 ジャイルズは、そうした要点を、美神に説明した。

「へえ......。
 そんな環境なんだ......」

 美神自身、父親とは疎遠である。美神の場合は母親も長い間死んだことになっていたので事情はもっと複雑だが、これは、比較の問題ではない。ただ、バフィーの家庭も大変なのだろうと少し共感を持つのだった。

(バフィーは......そんな状態で、
 マスターとの死闘をくぐり抜けて、
 しかも一度は命まで落とした......。
 そりゃあキツかったわけだ)

 そして美神は、思考の対象を切り替える意味で、視線の向きを変える。
 部屋の中央では、横島・おキヌ・ウイロー・ザンダーの四人がテーブルを囲んでいた。若者同士の会話を楽しんでいるようだ。

「......というわけで、俺たち、
 ここへ送り込まれたんだ」
「へえ......!!」
「そうか......
 なんだか安心したぜ!!」

 ウイローとザンダーに聞かれて、アメリカへ来た事情――小竜姫からの依頼内容――を語る横島。
 話を聞いて素直に感心しているウイローとは対照的に、ザンダーは、なんだかニヤニヤしている。

「安心した......?
 どういう意味です......?」
「だってさ......!!」

 小首を傾げるおキヌに、ザンダーが心境を述べ始めた。

「ヨコシマはセクハラ男だろ?
 そんな奴が、オキヌチャンみたいな
 ステキな女のコをフィアンセにしてるって
 ......おかしいだろ?
 ヨコシマが独り者とわかって安心したのさ!」
「こらっ、ザンダー!
 『ヨコシマ』じゃなくて
 『ヨコシマクン』と呼べって言っただろ!?
 それに......!!
 『ステキな女のコ』とか言って
 おキヌちゃんを口説くな!!」
「おいおいおい......!!
 そんなつもりじゃないぜ、俺は!?」
「言っとくが、
 フィアンセじゃなくても、
 おキヌちゃんはオレのじゃーっ!!
 この世の女は全部オレのじゃーっ!!」
「ほら、そこだ!
 そういう態度のヤツがモテてたまるかよ!?
 だからヨコシマは独り者なんだぜ......!?」

 男二人の会話を少し呆れた表情で見ながら、ウイローとおキヌは少し移動。女の子同士の会話が始まる。
 クッキーをつまみながら質問するが、横島やザンダーには聞こえないよう、小声である。

「......で、ホントのところはどうなの?
 オキヌチャンは......
 ヨコシマクンのこと好きなの!?」
「......!!
 それより、ウイローさんは!?
 ザンダーさんとは……
 どんな関係なんです!?」

 ウイローもおキヌも、良い友達になれそうだとは思うものの、淡い片想いについて語り合うには、まだ早いと考えてしまう。
 だから。

「......幼なじみよ」

 アッサリかわすウイロー。
 一方、おキヌはおキヌで。

「えーっと......。
 横島さんと私って、
 かなり特殊な出会いだったんです。
 そもそも私......実は
 生まれたのは三百年前で……」
「えーっ!?」

 身の上話に話題をシフトし、ウイローの好奇心の矛先を変えた。
 そうやって、おキヌが幽霊になった事情を話しているところへ。

「どうしたのよ、ウイロー!
 目がまん丸よ!?」
「......だって驚きっぱなしなんだもの!
 凄いのよ、オキヌチャンの話!」
「えへへ......」

 バフィーが、ポテトチップスを一袋抱えて、やってきた。ウイローとおキヌの隣に腰を下ろす。

「聞いてよ、バフィー!
 オキヌチャン、なんと
 エンジェルより昔に生まれたのよ!」
「えっ!?
 じゃあオキヌチャンも二百歳以上!?
 ......オキヌチャンもバンパイアなの!?」
「......違いますよう!
 バフィーさんのためにも、
 また最初から説明しますね......」

 目を白黒させるバフィーを見て、苦笑しながら、おキヌが話を振り出しに戻した。


___________


「君は......
 彼らのところに行かなくていいのかい?」

 談笑する高校生たちを見て、ジャイルズが美神に尋ねる。

「......若い者は若い者同士、
 そっとしておくのがいいのよ」
「君も十分若い者だろう」

 予想外の答に、ジャイルズは笑ってしまう。

「あら......!?
 そりゃあジャイルズさんから見たら
 ……私もあのコたちも
 同じかもしれないでしょう。
 でもね、高校生にとっては、
 十代とハタチは大きく違うんじゃない?」
「......そんなものかな」

 バフィーたちを眺めながら、ジャイルズは、コーヒーを口にした。
 そんなジャイルズを見ながら、軽くからかう美神。

「ジャイルズさんって、
 コーヒー飲む姿が似合うのね。
 まるでCMみたいにサマになってるわ」
「......お世辞かい、
 それとも何かのネタかな?
 ネタだとしても、
 誰も分からないと思うよ......!?」
「まあ、冗談はともかく......」

 美神も、視線の向きをジャイルズと同じにする。

「なまじ会話の中に入るより、
 こうして外から見ていた方が、
 全体が把握できていいじゃない?」
「まあ、そうかもしれないね」

 苦笑するジャイルズだったが、美神の言葉には一理ある。
 特に、ここからでも横島の事情説明は十分よく聞こえたので、美神たちの状況をかなり理解できたのだ。
 ただし、ジャイルズのほうでは、現時点で『はじまりの邪悪』という魔物に心あたりはない。これまで遭遇した事件の背後にいるとも思えなかった。美神たちに協力する意味で、書物を調べるつもりではあったが、どこまで判明するか保証はない。
 ここサニーデールは、ヘルマウスを擁する地。今後も、次から次へと怪奇な出来事が起こるだろう。その中で、いつかは『はじまりの邪悪』が動き出すに違いない。それまで、事件が発生するたびに、美神たちにも関わってもらうべきだろう。
 そうしたジャイルズの意見には、美神も賛成だった。スレイヤーと協力することは、依頼内容の一つでもある。しばらくは『スレイヤーの仲間』として行動し、『はじまりの邪悪』が関与する事件を待つしかないのだ。

「......というわけで、よろしくね」
「こちらこそ」
「で。
 そういうことなら、かなりの
 長期戦になりそうなんだけど......。
 このサニーデールには、
 一流のホテルがないのよね……」
「......どういう意味かな!?」

 建物全体を評価するような目線で、室内を見渡す美神。そんな彼女を見て、ジャイルズは、少し嫌な予感がし始める。

「ほら......この家って、
 一人には広過ぎるじゃない?
 私たち三人をホームステイさせる
 スペースくらいあるでしょ?」
「いや......
 スペースの問題じゃなくて......」
「それに......
 私たちがここに寝泊まりしたほうが
 一緒に行動するには便利でしょ?」
「うーん......」
「それに......」

 ジャイルズが美神に丸め込まれるのも、時間の問題であった。


(第3話に続く)

 改稿時付記;
 この機会に少し、日本人には馴染みが薄いネタに関して説明を。
 ジャイルズに関してのコーヒー云々の発言は、演じている俳優の関連です。Anthony Stewart Head はイギリスの俳優で、「Buffy」が放映されていたアメリカでは、コーヒーのCMで知られていたそうです。私もCMそのものは見たことがないのですが、そのCM映像の一部は、英語版DVDシーズン6の SPECIAL FEATURES "Buffy the Vampire Slayer: Television With a Bite" の中で見ることが出来ました。

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『美神・ザ・バンパイア・スレイヤー』 第3話 

 In every generation, there is a Chosen One. She alone will stand against the vampires, the demons, and the forces of darkness. She is the Slayer.


「あの......その......
 私が提案したいのは......
 社交的な付き合いというか何というか......
 まあ......デートのことなんだよ」

 と言っているのは、茶色の背広を着た中年男性。まだ頭は薄くないが、額は年齢相応の広さとなっており、眼鏡もかかせない。
 サニーデール高校の図書館司書、ミスター・ジャイルズである。
 ここは図書室なので、ここの主ともいえる人物だ。

「......こんなんじゃ駄目だな。
 ああ......もう......
 おまえは......なんて馬鹿なんだ!」

 自嘲気味につぶやくジャイルズ。
 彼は、無人の椅子を前にして、必死にデートのお誘いをしていたのだ。誰もいないのを幸いに、リハーサルをしているだけだが……。

「私たち、知らなかったわ......
 ジャイルズがその椅子を
 そこまで愛していたなんて!」
「愛の形は人それぞれってことだな!!」

 入り口に背を向けて座っていたのが彼の不幸だった。いつのまにか、一組の男女が入ってきていたのである。
 バフィーとザンダーだ。
 バフィーは、ちょっと美人なブロンド娘。表向きは普通の高校生なのだが、その実体は、バンパイア・スレイヤーであった。
 いつの時代にも、常に一人、『選ばれしもの』がいる。彼女だけが、バンパイアや悪魔や闇の力に対抗できるであろう。彼女こそ、ザ・スレイヤーなのだ。
 スレイヤーは正体だけでなく存在も秘密であり、彼女をしっかり導くためにウオッチャーと呼ばれる後見人まで用意されている。ここにいるジャイルズこそ、当代のウオッチャーを務める人物だった。しかし、バフィーは従順な少女というわけではなく、『スレイヤーは秘密』というルールも、あまり守られていない。この高校には既に、バフィーの正体を知る人物が数名いるくらいだ。

「こういう練習は……
 家でやったほうがいいぜ!?」

 まだニヤニヤ笑っている男、ザンダー。バフィーの級友である彼は、バフィーの正体を知る仲間の一人だ。仲間内での彼の役割は、おもにムードメーカーである。
 彼の言葉に対し、嘆きの声で答えるジャイルズ。

「......もはや我が家には
 プライベートはないのだよ」

 トホホという擬態語が似合いそうだ。
 最近、このサニーデール高校には、日本から三人の交換留学生が来ていた。美神令子・横島忠夫・氷室キヌと名乗る三人だが、彼らも、実はただの高校生ではない。
 秘密の任務を帯びて神々から送り込まれた、ゴーストスイーパーと呼ばれる凄い三人なのだ。
 このサニーデールに現れるという大悪魔『はじまりの邪悪』がこの世に与える悪影響を抑えること。それを遠大な目標とし、かつ、スレイヤーと協力することを近いゴールとしていた三人だ。少し前の事件でバフィーたちと知り合い、協力体制も整った。それ以降、美神たち三人は、ホームステイという形で、ジャイルズ邸を寝所にしているのだった。

「ミカミサンたち三人ね......?
 まあ、にぎやかでいいじゃない。
 それより、今の口説き文句だけど......」

 バフィーが、若い女性視点でアドバイスする。

「『おまえはなんて馬鹿なんだ』は
 口にしちゃダメよ……!?
 『馬鹿』は雰囲気を壊す言葉だから!」
「おいおいおい!?
 『あんたバカァ!?』って言われたら、
 俺は......むしろ萌えちゃうけどな!?」

 若い男性の感覚でコメントするザンダー。彼は、不思議なものでも見るかのような視線を、バフィーから向けられていた。




    第3話 現代版フランケンシュタインの花嫁(part 1)




「ジャイルズは英国紳士だけど、
 でもイギリス式はだめよ。
 アメリカ式で軽く陽気に口説くの!」
「......ありがとう」

 バフィーの助言は続いていた。もう十分という表情をジャイルズが見せても、まだ終わらない。

「それから、こう言うのよ!
 『メキシカンはどう?』って!」
「......?
 メキシコ人について語るのかね?」
「バカね、メキシカン料理よ!
 ......食事に誘うのよ!!」
「......ああ、そういうことか」

 バフィーのデート講座も、一区切り。ここでザンダーが口を挟む。

「ところで、この『椅子のひと』......。
 ミス・カレンダーだよな!?」

 ザンダーが口にしたミス・カレンダー。彼女は、二十代にも三十代にも見える外見で、少しだけミステリアスな雰囲気もある美人。この高校のコンピューター教師だが、その正体は科学的魔術師である。
 かつて、バフィーの親友ウイローが、悪魔の封印された本をスキャナーでパソコンに取り込んでしまい、その結果、悪魔がネットワークを乗っ取るという事件があった。その際に協力してくれたのがミス・カレンダーであり、それ以来、彼女もスレイヤーの正体を知る一人となっていた。
 実はミス・カレンダーには、単なる『科学的魔術師』以上の秘密があるのだが、この時点のバフィーたちは、想像すらしていない。

「なんで......そう思うのかな?」

 立ち上がってウロウロするジャイルズ。

「簡単な推理だぜ!」
「ジャイルズが話をする女性、
 ミス・カレンダーだけじゃないの!!」

 椅子へ座った二人が、彼の質問に答えたが。

「もういい。
 考えてみれば……
 これは君たちには関わりがないことだ」

 ジャイルズは、書架へ向かって歩き始めた。まるで会話から逃げるような感じだが、突然、クルリと反転して、バフィーに尋ねる。

「ところで......昨夜はどうだった?」
「バンパイアを一匹、倒したわ。
 墓場から蘇ってきたやつよ。
 それと......別の墓で、
 空っぽのカンオケ発見」

 スレイヤーとしての夜の活動を報告。バフィーとジャイルズのお仕事だ。
 なお、彼らが相手にしているバンパイアは、美神たちGSが関わってきたバンパイアとは少し種類が違う。生者の血を吸い、犠牲者にみずからの血を与えることで、新たな仲間を作る存在。だから、埋葬された死者がバンパイアになり得るのだ。

「さらに別のバンパイアかい!?」
「違うわ、誰かが……
 死体を持ってっちゃったみたい!」
「墓荒らしかな?
 新しいパターンだな。
 ふむ......興味深い」
「その『興味深い』は......
 気持ち悪いって意味よね?」

 そんなジャイルズとバフィーの会話に、一般人代表としてザンダーが参加する。

「おいおいおい。
 誰が死体なんて欲しがるのさ!?」
「色々と考えられるが......
 もう少し情報を得てからだね。
 例えば、死体の主とか......」

 慎重なジャイルズに対し、バフィーが墓石からの情報を伝える。

「名前はメレディス・トッド。
 私たちくらいの年頃ね。
 最近死んだみたいよ。
 ......誰か知ってる?」

 アメリカなので、墓石には、名前だけでなく、生誕年も死亡年も刻まれていた。
 しかしザンダーもジャイルズも、メレディスなんて、名前すら聞いたことがない。

「では......
 この機械で調べたらいいだろう。
 ウイローに頼めば......」

 そう言いながら、パソコンを指さすジャイルズ。彼自身はコンピューターには詳しくないので、ネットでの情報収集は若者まかせだ。
 しかし、一口に若者といっても、皆が同じようにパソコンを使いこなせるわけではない。バフィーの仲間内では、ウイローが一番だった。赤毛のウイローは垢抜けない女の子であるが、勉強は得意である。コンピューターも授業の一環で使われているせいか、誰よりも熟達していたのだ。

「......おや?
 そういえば、今日は、
 ウイローは一緒ではないのかい?」


___________


 今、ウイローは、横島やおキヌと共に廊下を歩いていた。談笑しながらである。

「それじゃあ
 ミカミサンは、今日は休みなの?
 ......いつもみたいな遅刻じゃなくて?」
「そうなんですよ。
 今日は用事があって出かけるそうです。
 ......あっ、ウイローさんの言い方じゃ
 毎日遅刻してるみたいじゃないですか!」
「ウイローの言葉も否定できないだろ。
 美神さんは......朝弱いからなあ」

 ウイローの発言に苦笑する二人。
 美神たち三人は交換留学生という形でサニーデール高校に潜り込んだわけだが、横島とおキヌは、本当に『交換留学生』している。こちらでの授業や出席状況、成績などが日本の高校に送られ、振り替えられることになっていた。だから二人は、アメリカのハイスクール生活を真面目に楽しんでいるのだ。
 一方、美神の『交換留学生』は、単なる偽装である。そして、スレイヤーとの接触も済み、協力体制も整った以上、キチンと通う必要などないと言い出したのだ。
 ただし、サニーデール高校との接点をゼロには出来ない。バフィーたちは、この高校の図書室によく集まるからだ。カレー屋を基地にする秘密のレンジャー部隊や、喫茶店を基地にする秘密のオートバイ乗りのように、図書室がスレイヤーの秘密基地というわけだ。それに、異界への穴ヘルマウスも、その真下にある。
 そんなわけで、美神は、遅刻常習犯な不真面目高校生と化していた。

「朝といえば......
 毎日オキヌチャンが
 朝食の支度してるって聞いたけど、
 それ本当?」
「ええ。
 ......変ですか?」

 ウイローの質問に、おキヌが小首を傾げる。横島も同じ表情だ。
 毎朝ジャイルズ邸では、おキヌが一番に起床して朝食の支度をし、出来上がった頃に横島が起きてくる。ジャイルズも同じ頃にやってくるが、彼はすでに背広に着替えており、英国紳士らしく挨拶する。

「オキヌチャン、ありがとう。
 ......いつもすまないね」
「いえ、こちらが
 泊めてもらってるんですから」

 これが、彼らの朝の日常だった。ちなみに、美神がベッドから起き出してくるのは、日によってバラバラ。おキヌより早いことはないが、三人が食事を終わらせた頃に来ることもある。
 そんな光景を思い返していた二人に、ウイローが質問を畳み掛けた。

「......それじゃ、いつも朝から寿司なの?」

 横島もおキヌも、ウイローのポイントを理解した。最初、ジャイルズにも同様の誤解をされたからだ。

「ああ、そういうことか……」
「ウイローさん......。
 私たち、みなさんが思ってるほど
 お寿司ばかり食べるわけじゃないんですよ」

 アメリカ人の考えでは、日本食イコール寿司となっているようだ。寿司を日本の家庭料理だと思う者もいるらしい。

「寿司はさ、日本でも高級品なんだ。
 お客さんが来たときとか、
 お祝いとかパーティーとか......。
 そんな時だけだよ、寿司を食べるのは。
 俺なんて、貧乏だったから......」
「ほら、ウイローさん。
 アメリカ人のみなさんだって、
 朝からステーキばかり
 食べるわけじゃないですよね?」

 横島の説明がおかしな方向に進みそうになり、おキヌが口を挟んだ。
 ともかくも、二人の話でウイローは少し納得したらしい。

「へえ......そういうもんなんだ。
 ......あ、ここよ!」

 こうして会話しているうちに、目的地に辿り着いたのだった。


___________


 校舎に入ってすぐのエリアは、廊下というには広い空間となっている。ホールとかロビーとか称したほうが相応しいくらいだ。
 そこは、今、いつもより多くの学生で賑わっていた。いくつかのテーブルが仮設され、『科学祭』という看板も立っている。

「......どう?
 日本の高校でも、
 こういうイベントってある?」

 笑顔を浮かべたウイローは、横島とおキヌに、この場の様子に関するコメントを求めた。
 『科学祭』という名前からして、文化祭のようなものだと理解する二人。しかし、文化祭にしては、なんだか規模が小さい。そもそも、日本なら文化祭中は授業も休みになるものだが、今日、授業は普通に行われている。
 そんなことを二人が考えていたら、近くでカメラのフラッシュの音がした。

「やあ、ウイロー!
 もっとニッコリ笑ってよ!」

 カメラを構える、一人の少年。小柄なために子供っぽく見えるが、顎の下には短くヒゲを生やしている。

「......あ!
 こっちは……
 日本から来たゲイシャさんだね!」

 彼は、今度はおキヌにカメラを向ける。芸者呼ばわりも、おそらく日本女性への褒め言葉のつもりだろう。
 そして、何枚か写真を撮ったあとで。

「......おお!
 きれいな脚のひと!」

 と、次の被写体のために、どこかへ歩き去った。

「なんだったんだ、今のは......!?」
「彼はエリックよ。
 いつもカメラを持ってるの。
 卒業アルバムに使うためよ......たぶん」
「エリックさんも、
 バフィーさんたちの仲間ですか?」
「......違うわ!
 スレイヤーのことなんて知らない、
 ただの友達よ……」

 横島とおキヌが質問し、ウイローが律儀に答える。
 カメラ云々はともかく、スレイヤーの仲間かどうかは重要なことだ。特に、横島とおキヌは、まだアメリカ人の個体認識に難があり、なかなか学生たちを覚えられない。まずはスレイヤーの仲間だけでも把握していこうと考える二人であった。
 そこに、また別のアメリカ人学生が来て、ウイローに話しかける。

「ウイロー!」
「あら、クリス!
 ......今年は、どんなテーマ?」
「気になるかい!?」
「......もちろん!
 クリスがいるから、
 私トップになれないんだもん」
「よし、それじゃ良い成績を
 とるための秘訣を教えてあげよう。
 クラーク先生が理解できないような、
 そんな内容にしてしまえばいい。
 先生は『わからん』と認めたくないから、
 いい点くれるんだぜ……!?」

 テーブルの上のリストのような紙を手に取り、話し込む二人。
 どうやら、この『科学祭』で競い合う仲らしい。外見的には、クリスはガッシリした体格であり、文科系ではなく体育系の男なのだが。
 さて、ウイローとクリスが彼ら独自の世界に入ってしまったので。

「クリスって……
 なんだか女性っぽい名前だな!?」
「クリストファーとか……
 そんな名前の略じゃないですか?」
「......あいつもバフィーの仲間かな?」
「うーん......。
 違うんじゃないですか?」

 横島とおキヌは、少し距離をとって、二人で会話する。ウイローには聞こえない程度の小声だったが、彼女は、横島とおキヌが何か話していることに気付いたらしい。

「あっ、放っておいてゴメン。
 紹介するわね......」

 と、ウイローが二人をクリスに引き合わせようとしたところで、邪魔が入った。一人の女性が、何かブツブツつぶやきながら、彼らの輪の中を通り抜けたのだ。

「まったく、断固抗議してやるわ!
 私を強制参加させるなんて、
 ひどいったらありゃしない!」

 コーデリアである。
 どうやら、先生か誰かに命じられて、課題を提出することになったようだ。彼女は、今、名前とテーマをリストに記しにきたのだった。

「望んでもいない教育なんて、
 意味がないのよね……」

 リストに記名後も、まだ文句を言うコーデリア。
 いきなりやってきて一方的に愚痴を吐き続ける態度は感心しないものの、彼女の発言には一理ある。そんなコーデリアが一体どんなレポートを書くのか気になって、横島は、リストを覗き込んでみた。

「『トマト:果物か野菜か?』......。
 なんじゃそりゃ!?」
「......そんなんでいいんですか!?」

 おキヌも彼の横からヒョイと顔をのぞかせ、リストに目を落とす。コーデリアと比較する意味で、ウイローのテーマを読んでみた。

「亜紫外線の低下が
 小バエの発達に及ぼす影響......。
 ウイローさん、なんだか本格的ですね!?」
「それにくらべて......」
「何が言いたいの!?
 一日か二日で終わるように
 課題設定しただけなのよ!?
 私は忙しいんだから!
 ......アンタたちみたいな
 人生の負け犬とは違うのよ!」

 コーデリアは、取り巻きを連れて歩くことが大好きな、お高くとまった女性である。そんな彼女が、バフィーの仲間たちを負け犬呼ばわりするのは、いつものことだ。
 ウイローはクスッと笑うだけだったが、横島は、ふと気になった。コーデリアの視線が、ウイローだけではなく、横島とおキヌにも向けられていたからだ。

「あれ......!?
 いつのまにか、俺たちまで……!?」
「まーまー。
 いいじゃないですか、横島さん。
 私たちもバフィーさんの
 仲間だと認めてもらえたんですよ」

 とおキヌが取りなす間に、もう歩き去ろうとしていたコーデリア。だが、少し離れたところで、戻ってきたカメラ小僧エリックにつかまってしまった。

「やあ、コーデリア!
 カメラが君を愛してるよ〜〜!」
「ちょっと、やめてよ!
 こんなところじゃ照明不十分でしょ!!
 まったく……
 卒業アルバムなんて作る間抜けどもは、
 春になるまで冬眠してると思ったのに......」

 アメリカでは、五月が卒業式で、夏休み明けに新学年が始まる。だから、今は、まだ新しい一年が始まったばかりだった。

「卒業アルバムじゃないよ!
 この写真は全部、
 俺のプライベートコレクションさ!」
「何ッ!?
 じゃあ、おまえ個人で
 アメリカンな美少女の
 写真集作れるじゃないか!?」

 いつのまにかエリックの前まで移動している横島。

「......俺、横島!
 よろしく!!」
「ダメですよ、横島さん!
 日本の恥さらすの、やめてください!」

 慌てて横島の後を追って、耳をつかんで彼を止めるおキヌ。
 そんな二人を微笑ましく眺めるウイローの横で。

「そろそろ止めとけよ、エリック」

 クリスが、やんわりと制止の声を投げかけていた。
 こうした状況のところに、今度は、バフィーが駆けてきた。エリックはバフィーにもカメラを向けて撮影するが、バフィーは意に介さない。

「ウイロー、ジャマしてゴメンね!
 ......でも、バットシグナルよ!」
「あら、じゃあ行かなくちゃ。
 またね、クリス、コーデリア!
 ......行きましょう、
 ヨコシマクン、オキヌチャン!」

 歩き出した二人の後ろから、横島とおキヌもついていく。ただし、彼らは、小声で会話していた。

「なあ、おキヌちゃん。
 バットシグナルってどういう意味!?」
「うーん......。
 バフィーさんの言ってること、
 時々わからないんですよねえ」

 二人は小竜姫からもらった『こんにゃくユビワ』をはめているので、会話は全て自動翻訳されている。だから基本的に英語には困らない。だが、さすがにサブカルチャー的な部分までは、アイテムは解説してくれないのであった。


___________


 四人がいなくなり、さらにコーデリアも立ち去った後で。
 学生たちが行き来する喧噪に紛れて、エリックは、クリスと内緒話をしている。

「コーデリアって、イカス〜〜!
 ......俺たちにピッタリだな!!」
「エリック!
 バカなこと言うなよ!?
 ......彼女は生きてるだろ!」

 顔をしかめて歩き去るクリスとは対照的に。
 エリックは、不気味な笑いを浮かべたまま、そこに立ち尽くしていた。


___________


 歩きながらバフィーから用件を聞いていたウイローは、図書館に入ると同時に、コンピューター席へと向かう。
 バフィー・ザンダー・横島・おキヌが見守る中、パソコンのキーを叩き始めた。

「この学校で私だけだわ、
 検死官事務所のPCに入り込めるのは。
 もうブックマークにも
 加えちゃったんだから……!」
「さすが自由の国アメリカ!
 ......そんな情報まで
 公開されてるんだ!?」
「違うと思いますけど......」

 勘違いする横島と、正しく理解するおキヌ。
 ウイローは基本的には優等生なのだが、彼女に『ハッキングは犯罪』という意識は皆無だった。
 こうして、バフィーたちが『スレイヤーとその仲間たち』として活動する図書室だが、しょせん、ここはオープンな場所。一般の学生も入ってくる。

「ああ……!!
 また『アンデッドと遊ぼう』クラブ!?
 悪いけどジャマするわよ。
 私、ウイローの助けが必要なの。
 ......レポートのためにね」

 やってきたのは、コーデリアだった。
 バフィーの秘密を知るけれど仲間ではない、そんな微妙なポジションの彼女である。

「......トマトは果物よ」

 作業を続けながら、即答するウイロー。
 しかし。

「ホントはクリスに
 頼むべきだったんだけど......」

 コーデリアは聞き漏らしていた。自分の世界に入ってしまったからだ。

「......でも、そうすると
 ダリルとの思い出が
 ……蘇ってきちゃうんだわ!」

 涙を堪えるかのように、顔に手をあてるコーデリア。その仕草は、なんだかヘタクソな女優のようだった。
 バフィーたちはキチンと無視するが、慣れていない横島とおキヌは、相手してしまう。

「ダリルって......誰?」
「コーデリアさん......。
 何があったのか知りませんが......」
「ああ、その名前を出さないで!
 ......そう、もちろん、私は、
 この痛みに対処していくすべを
 学ばなきゃいけないんだわ!」 

 コーデリアの言動は、ますます芝居がかっていく。

(......ダメだ、こりゃ)

 と、ようやく横島が気が付いた時。

「見つけたわ!」

 ウイローが叫んだ。

「メレディス・トッドは
 先週、自動車事故で死んだ......」
「彼女の首は......?」

 記事を読むウイローに、バフィーが尋ねる。
 首筋に噛まれたような跡があれば、バンパイアにやられた可能性も出てくるし、バンパイアとして蘇生する可能性まで出てくるからだ。

「大丈夫!
 それらしき傷はないわ。
 ......首の骨が折れてるだけ」
「ちょっと!
 みんな聞いてるの!?
 私の心の痛みを何とかしなきゃ......!!
 これ、みんなで考えるべき問題でしょ!?」

 ウイローの情報に割り込むように、コーデリアが自分勝手に口を挟む。もちろん、もはや誰も構ってくれない。
 今まで書架で調べものをしていたジャイルズだけが、横を通りかかった際に、彼女の肩をポンと叩く程度だ。

「......はいはい。
 ちゃんと聞いてるから、安心しようね」

 そのジャイルズが近くに来たところで、ウイローは、さらに情報を読み上げる。

「メレディスだけじゃないわ。
 同じフォンドレン高校の女のコ、
 他にも二人死んでる……。
 三人でゲームの応援に来る途中、
 事故にあったらしいわ」
「おいおい。
 ......まずは死者の数で
 うちに勝とうってことかい?」

 不謹慎な冗談を言うザンダー。
 一方、横島やおキヌは、話についていけない。

(ゲームの応援......!?
 うちに勝とう......!?
 ……なんのことだろう?)
(......さあ?
 とりあえず会話を
 邪魔してもいけないでしょうし
 あとで聞いたらいいんじゃないですか?)

 お互い同じ点でハテナマークだっただけに、口に出さずとも、目と目で通じ合ってしまう二人。
 そうしている間にも、バフィーたちは、着々と話を進めていた。

「でも......誰が
 死体なんか欲しがるのかしら?」
「ちょっと書物を調べてみたのだが......。
 死者の肉体を喰らうことで
 その魂を吸収する悪魔がいるそうだ。
 ......あるいは、誰かがブードゥーを
 実行しようとしているのかもしれないね」

 スレイヤーであるバフィーの疑問に、きちんと答えるジャイルズ。ウオッチャーとしての役割である。

「ブードゥー?
 死者を蘇生させるという邪教!?」
「そうだよ、ウイロー。
 ブードゥー教の僧侶たちは
 ゾンビ軍団を形成するのが普通だ。
 他の遺体も奪われているかもしれない……」
「うへえ!
 ......なんでアンタたちの話には
 いつもいつも死体とか
 遺体とかって言葉が出てくるわけ?」

 またもや会話に参加するコーデリアだが、もう完全に無視されている。

「......少なくとも
 あとの二人の死体が無事かどうか、
 確認する必要があるわね」
「おいおいおい。
 じゃあ今晩は……
 みんなで墓掘り大会か?」
「私、軽く夜食を
 用意して持っていくわ!
 ......コーデリアは?」

 バフィー・ウイロー・ザンダーが中心となって話を進める。ウイローは、コーデリアにも声をかけるのだが、コーデリアは目を丸くするだけだ。

「冗談言わないで!
 私はアンタたちの仲間じゃないわ!?
 ......そもそも今夜の私、
 チアリーディングの練習で忙しいのよ!」
「それじゃ、
 暗い夜道に気をつけることだな。
 ゾンビに生きたまま食べられちゃうぞ!」

 ザンダーに脅されて、コーデリアは逃げるように図書室から出ていった。

「ザンダー……
 ゾンビはそんなことしないよ?」
「嘘でもいいんだ、ジャイルズ。
 コーデリアの怯えたサマが見れたんだから!」

 その傍らでは。
 ウイローとバフィーが、さらに今夜の予定を煮詰めている。

「バフィーのほうから、
 エンジェルにも声をかけてくれる?」
「エンジェルは......。
 いいえ、そこまで
 人手もいらないんじゃない?
 ヨコシマクンたちもいることだし」

 そう言って横島に笑顔を向けるバフィー。
 どこか乾いた笑いである。ウイローやおキヌといった女性陣は、それにシッカリ気付いていた。


___________


 解散した一同は、それぞれ帰宅の途につく。
 ジャイルズは、書物による調査を続けたいらしく、一人、図書室に残った。そのため、今ジャイルズ邸に向かうのは、横島とおキヌの二人だけだ。
 二人は『婚約者』という設定で、アメリカに来ている。もちろん、バフィーたちには既に真相を告げてあるので、彼らの前では普通に友人として振る舞っていた。しかし、こうして外を歩く際には、『婚約者』という役柄を演じることにしている。
 だから、おキヌは今、横島と腕を組んで歩いていた。ほのかな好意を横島に寄せるおキヌとしては、これは役得である。また、横島としても、おキヌの体が密着するのは、悪い気がしない。

「ねえ、横島さん......!?」
「ん......?
 何......?」

 歩み続けたまま、おキヌは、声だけを横島に向けた。

「さっきのバフィーさん......
 様子が変だった気がしません?」
「へ......?
 そうかな?
 俺には分からんかったけど......!?」

 おキヌが気になるのは、エンジェルの名前が出たときのバフィーの態度だ。
 エンジェルは、二十代の青年に見えるが、その正体はバンパイア。さらに、バンパイア・スレイヤーであるバフィーとは恋仲である。
 それをおキヌたちは事前の情報として知っていたし、また、バフィー自身も初対面の際にハッキリと認めていた。

「普通なら……
 彼氏にも来てもらおうって話で、
 あんな表情はしないと思うんですけど......。
 もしかしてケンカでもしてるのかな?」
「うーん......。
 おキヌちゃんがそう言うなら、そうかな?
 ......女心なんて、俺にはわからないもんな。
 ハハハ......」
「横島さん......」

 笑い飛ばす横島に、やや呆れたようなトーンで応じるおキヌ。

(たしかに......横島さんは
 『女心なんてわからない』人ですね)

 そう思った彼女は、組んでいる腕に少し力をこめ、密着度をさらに高める。
 それでも。

「あれ......!?
 おキヌちゃん、もしかして恐い?
 まだ『夜道』って時間でもないのに?
 ......まあ日本じゃないからな、ここは」

 という反応しか、返ってこなかった。


___________


「あんたたち、何やってたのよ!?」

 ジャイルズ邸に戻った二人を出迎えたのは、部屋でノンビリしている美神である。
 彼女は、ソファに脚を投げ出して、ファッション雑誌をパラパラとめくっていたようだ。

「学校終わったらサッサと
 戻ってくると思ってたのに、
 いつまでたっても
 帰ってこないんだから......!!」

 なんだか美神はイライラしている。
 ひとりで放っておかれて寂しかったのか、あるいは、仲良さそうな二人を妬いているのか。どちらにせよ、自分でも気付いていない感情であろう。

「今まで図書室で相談してたんです」
「ここでヒマしてるくらいなら、
 美神さんも来て下さいよ。
 どうやら怪事件みたいっスよ?」

 と、二人が事情を語る。一通り説明したのだが。

「ふーん......。
 要するに、まだ何もわかってないのね」

 美神の関心は薄いようだ。そこで、おキヌが話題を変えた。

「ところで……美神さんは
  今日一日、何してたんです?」
「......教えてあげましょう!
 私は......車を買いに行ってたのよ!!」

 ニンマリと笑いながら答える美神。
 しかし。

「......って、あれ!?
 あんまり驚いてないわね!?」

 予期していたような反応がなく、少し落胆する。
 横島とおキヌは、『やっぱり』という表情で顔を見合わせているのだ。

「美神さん好みのスポーツカーが
 家の前に停まってましたからね」
「横島さんと二人で
 『もしや......』って話してたんです」

 ただし、二人だって、全く驚いていないわけではない。一時的なアメリカ滞在なのに自動車まで購入してしまう美神を、大胆だと思う気持ちはあった。

「あら、なに言ってんの?
 アメリカに来たら車を買って、
 日本に帰る際には、
 中古車として売りとばす。
 ......これが普通らしいわよ?」

 高校生の二人にはピンとこないが、美神は美神なりに『日本人のアメリカ生活』を調べた上で、常識的な策をとったのだ。
 今回に限っては、美神の方が正しい。アメリカの田舎町での『自動車』は、日本で言えば『自転車』のようなもの。短期滞在であっても、買っておいたほうが便利なのだ。

「だいたい、あんたたちは毎朝
 ジャイルズさんの車に便乗でしょ?
 でも私は、高校まで歩いてるのよ!?
 これじゃ朝から疲れちゃうわ!」
「そりゃ朝遅い美神さんが悪いんスよ!?
 普通の時間に通学するなら、
 美神さんも乗っけてもらえるのに......」

 横島だって、たった今、おキヌと二人で学校から徒歩で帰ってきたのだ。結構な距離があることは理解している。それでも、突っ込んでしまうのだった。
 そして、ここで横島は、美神の発言の意味するところに気が付いた。

「あれ!?
 ......ということは、美神さん、
 明日から車で通学する気っスか!?」
「そうよ!」
「高校生のフリしてるの忘れたんスか!?」
「......ああ、横島クンは知らないのね」

 日本とアメリカとでは、運転免許を取得できる年齢が違う。州によっても違っているのだが、どの州でも、日本より低年齢で免許が得られるのだ。アメリカでは、高校生が自動車通学しても、おかしくないのである。

「あの......横島さん!?
 美神さんの言うとおり、
 自分の運転で高校行くひと、
 結構いるらしいですよ......!?
 たとえばコーデリアさんも、
 そうしてるようです」

 おキヌが、ウイローから聞いていた話を持ち出し、美神をサポートした。

「わかった......?
 だから......明日からは、
 私が乗せてってあげるわ!」
「はあ!?
 ......美神さんの時間に合わせたら、
 俺まで遅刻じゃないっスか!?」
「そうですよ!
 せっかく横島さん、
 遅刻だけはしなくなったんですから!」

 美神が早起きするとは全く思っていない二人。
 この発言に、美神も少し機嫌を悪くしたらしい。

「あら、そう......!?
 まあ、いいわ。
 私......今日は疲れたし、
 夕食も軽く済ませちゃったから、
 ......先に寝るわね」

 美神は、ソファから立ち上がり、ベッドルームへと向かう。

「ちょっと......!?
 さっき言ったように、
 今晩は墓地で調査を......」
「カンオケ掘り出すなんて、
 横島クンの文珠で
 『掘』ってやったら一発でしょ!?
 私まで行く必要もないわ!」

 横島が引き留めるが、美神は、もう決めてしまったようだ。

「『郷に入れば郷に従え』よ!
 バフィーたちが中心なら、
 私まで出しゃばらない方がいいの!」

 そして最後に。

「私が参加するのは......
 事件の全貌が見えてきてからだわ!」

 そう言い残して、二階へ上がっていく。
 トントンという足音を聞きながら、残された二人は、考えてしまった。

(それは……
 『郷に入れば郷に従え』じゃなくて
 『オイシイとこ取り』なのでは......!?)


___________


「俺たちが最後かな!?」

 横島とおキヌは、約束の時間より少し遅れて、墓地までやってきた。
 ジャイルズが家に戻らずに高校から直行したせいである。彼の車を移動手段としてアテにしていた二人は、仕方なく、徒歩で来たのだった。
 ジャイルズだけでなく、バフィーもウイローもザンダーも既に到着している。だが、先に始めるのではなく、二人を待ってくれていた。『横島が文珠でサクッと掘り出せる』と電話でおキヌが事前連絡したからなのだが......。

「あれ......!?
 ......おかしいな!?」
「どうしたんです、横島さん!?」

 横島の文珠にトラブルが発生。文字をこめることが出来ないのだ。

「ええっ〜〜!?」

 おキヌも文字入れを試してみたが、やはり無理だった。いくら霊力が凝縮されていても、それを解放できない文珠など、完全に役立たずである。

「......なんだろう!?
 他には異常はないんだけど......」

 試しにハンズ・オブ・グローリーを出してみた。剣としてだけでなく、形も変えられる。やはり、問題が生じたのは文珠だけのようだ。

「......まあヨコシマには、
 俺は期待してなかったけどな」
「こら、ザンダー!
 何の能力もない男に、
 そんなこと言われたくないぞ!?」
「ああっ、横島さん!!
 危ないから、霊波刀だしたまま
 腕振り回すのは止めてください!」
「......その光る剣、
 形が変えられるなら便利じゃない!
 ......シャベルにも出来る!?」

 冷ややかな目で見ていたバフィーの提案で、横島は、ハンズ・オブ・グローリーをシャベルに変化させた。
 本物のシャベルを振るうザンダーやジャイルズとともに墓を掘り始めたが、ふと気がつく。

「......って、ちょっと待て!?
 これじゃ霊力の無駄遣いじゃないか!!
 ......俺にも、普通に
 シャベル貸してくれよ!?」


___________


「おーい......!
 バフィーたちも手伝ったほうが
 早く終わるはずだぜ......!?」
「ごめんね、私は古風な女なの!
 『男は墓を掘り、女は家庭を守る』
 って、そう躾けられたのよ!」

 ザンダーの提案を却下し、バフィーは、肉体労働を男三人に任せた。
 少し離れたところに座り込む、女子高生三人組。彼女たちは、ウイローが持ってきたドーナッツをつまみながら、女の子同士の会話を楽しんでいる。

「ミカミサンは来ないのね?」
「えーっと......美神さん、
 自分の性格わかってるんで
 遠慮してるみたいです。
 ほら『船頭多くして船山に登る』
 って言いますから......」

 おキヌは、美神の心情を好意的に補足しつつ、バフィーの質問に答えた。

「たしかにミカミサンって
 リーダーシップとりたがる感じ。
 それは、なんとなくわかるけど......」
「でも、いいのかなあ!?
 ヨコシマクンとオキヌチャン、
 二人だけにしちゃって?
 ......今頃ヤキモチ妬いてるんじゃ?」

 バフィーもウイローも、ニヤニヤしている。
 おキヌと仲良くなった二人は、すでに日本での人間関係をそれとなく聞いていたし、また、知った上で美神たち三人を見ていると、色々と分かってしまうのだ。

「......うーん。
 美神さん、素直じゃないですから......。
 横島さんのことも、そんなに
 はっきりと意識してるかどうか......」

 口ごもるおキヌだったが、ここで、軽く逆襲に出た。

「それより……バフィーさんは?
 エンジェルさんと上手くいってます?」
「......そうよ!
 ケンカでもしてるんでしょ!?」

 今度は、バフィーの恋愛が議題である。

「それがね......信じられないことに、
 なんだか嫉妬してるみたいなのよ......」
「二百数十歳の......
 いい年した大人なのに!?」
「へえ......。
 バンパイアさんもヤキモチ妬くんですね!」

 バフィーは、詳細を語り出した。
 ことの発端は、今学期はじめの頃のバフィーの態度である。別居中の父親のもとで夏休みを過ごした彼女は、こちらに戻ってきた直後、誰に対してもギクシャクした態度を示していた。昨学期にマスターという強力なバンパイアと殺し合ったことが、トラウマになっていたからである。
 恋人のエンジェルにも冷たくあたり、見せつけるかのようにザンダーとベタベタしてみせたのだった。
 マスター復活を企むバンパイアたちを倒した後、ジャイルズ邸でパーティーがあり、そこでウイローやザンダーとは仲直りしている。しかし、エンジェルは参加しておらず、バフィーも謝る機会を逸していた。
 それでも、エンジェルは事情を理解し、バフィーの態度の悪さも水に流したかと思いきや......。どうも気持ちにしこりが残っていたらしい。なんとザンダーにヤキモチを妬いているのだ。

「......それはバフィーが悪いわね。
 とってもとっても悪いわね!!」
「もう、ウイローったら......。
 許して、お願い!」

 ウイローがバフィーを責めるのは冗談であるが、バフィーとしては、やはり『正直すまんかった』と思う。ザンダーをダシにしてしまったからだ。
 彼はウイローの幼なじみであり、ウイローがザンダーに好意を寄せているのは、バフィーやおキヌには周知の事実。ただし、ザンダー自身は全く気付いていない。そんなウイローの境遇に、おキヌは強く共感してしまうのだ。
 しかもザンダーは、バフィーが転校してきた当時はバフィーに一目惚れしており、一時は告白までして玉砕している。もちろん今では、普通に『友人』として接しているが、こうした経緯を、誰も忘れたわけではなかった。

「へえ......。
 ザンダーさんって......
 バフィーさんに惚れてたんですか!?」
「......もう!
 オキヌチャン、そこを蒸し返さないで!」

 ザンダーの一目惚れ・告白・玉砕あたりの話は、おキヌにとっては初耳だ。つい声を上げてしまったのだが、バフィーにたしなめられた。

「まあ......どこにでも
 トライアングルは転がってるのよね」

 他人事のようにまとめたウイローは、おキヌに向かって、意味深な表情を見せる。
 バフィーを頂点とすれば、バフィー・エンジェル・ザンダーの三角形。
 ザンダーを頂点とすれば、ザンダー・ウイロー・バフィーの三角形。
 横島を頂点とすれば、横島・おキヌ・美神の三角形。

「はあ......」

 それぞれ別々の三角形を頭に思い浮かべて。
 三少女は、同時にため息をついていた。


___________


「ところで......。
 図書室での会話の中で、
 よくわからなかった部分が
 あるんですけど......」

 おキヌが話題を変える。色恋沙汰の話はいったん終了ということだ。
 横島と二人して理解できなかった『ゲーム云々』のことを質問し始めた。

「ゲームはゲームよ!」
「今は、アメフトシーズンじゃない!
 高校全体で盛り上がってるわ!
 ......日本では、そういうのないの?」

 日本でも、それぞれのスポーツで強豪校と呼ばれる高校がある。学校全体でバックアップしてもらえるケースもあるだろう。
 しかし、こちらでは『それぞれのスポーツ』どころではない。どうやら殆ど全てのスポーツが対象であり、しかも盛り上がりのレベルも凄いらしい。だから、他校との試合の際には、熱狂的に応援するのだ。

「うーん......。
 日本の高校では、
 そこまでみんなで騒ぐのは
 野球くらいでしょうか......!?」
「野球......!?
 こっちでは、野球はあんまり......」
「あれ!?
 野球ってアメリカが本場の
 スポーツなんじゃないですか?」

 また一つ、おキヌは、カルチャーギャップを認識する。
 アメリカ人にとって野球と言えば、メジャーリーグ。しかし、メジャーへの関心が強い分、それ以外の『野球』に対しては反応が薄い。オリンピックがあろうがワールドカップがあろうが、他の競技ほど騒がない国なのだ。

「......ともかく、メレディスたち三人も
 アメフトの試合の応援団だったのよ。
 そして、来る途中で死んじゃったわけ」

 ウイローが、話を戻した。そして、思い出したかのように、コーデリアが言っていた内容にも触れる。

「そういえば、コーデリアが口にした
 『ダリル』もアメフト選手だったのよ!
 いつも大活躍で、女のコにもモテモテ。
 コーデリアとも仲良かったけど
 ......でも彼は死んじゃったの」
「へえ、そんなことがあったんだ!?」

 バフィーもダリルのことは知らなかった。バフィーが転校してくる前の出来事だからである。

「コーデリアさん......今でも
 引きずってるみたいでしたけど......」
「なに言ってんの、オキヌチャン。
 大げさに振る舞ってるだけよ、あれは」
「バフィーの言うとおりだわ。
 コーデリアはコーデリアだもん」

 おキヌは心配するが、二人は切って捨てる。

「本当に大変だったのは、
 ダリルの家族だわ……。
 ......弟のクリスは、
 あれ以来、無口になっちゃったの。
 今では、だいぶマシになったけど......。
 でも、お母さんは立ち直れなくて、
 今でも一日中、家にこもって
 ダリルの試合のビデオばかり見てるんだって」

 そこまでウイローが説明したところで、ジャイルズから声がかかった。

「おーい、ようやく掘り終わったぞ......」

 座り込んでいた女子高生三人は、男たちのもとへ歩み寄る。
 そして、疲れた顔をしている男たちに代わって、バフィーがカンオケの蓋を開けた。


___________


 その頃。

「じゃあね、また明日......!」

 練習を終わらせ、チアリーダー仲間とも別れたコーデリアは、一人、高校の駐車場を歩いていた。ただ自分の車へと向かうだけだったのだが......。

 カシャン。

 夜、誰もいないはずの場所で鳴り響く物音は、人間の恐怖心を煽る。
 コーデリアは、昼間の発言――『ゾンビに生きたまま食べられちゃうぞ』――を思い出していた。

「ザンダーなんでしょ!?
 冗談のつもりかもしれないけど......」

 イタズラをしかけられているのだと信じたいコーデリア。
 なんだか手元が震えて、車の鍵がドアに差し込めない。それどころか、鍵を落としてしまう。
 車体の下に入り込んだ鍵をとるために、彼女は、地面に這いつくばった。手を伸ばすが、届かない。
 しかし、彼女は見てしまった。誰かが、車の反対側を歩いている……!
 今の彼女の姿勢では、相手の全身は車体に隠れる形であり、見えていない。ただ、その足先だけが見えるのだが。

(もう、イヤ......!)

 恐くなった彼女は、車も鍵も諦めて、その場から走り出す。
 どこかに隠れるべきだ。そう考えて、不本意ながら、近くにあったゴミ箱の中に飛び込んだ。

(......そろそろ大丈夫かしら?)

 悪臭に耐えながら、少しの間そこに留まったが、やはり『少しの間』しか待てない。
 恐る恐る蓋を開けて身を乗り出すと……。
 目の前に、一人の男が立っていた。

「やあ、コーデリア。
 こんなところで出会うとはね......」

 エンジェルである。
 彼は、別にコーデリアを追っていたわけではない。バフィーを探しに高校まで来ただけだった。

「バフィーなら墓場で遊んでるわ!」
「おや......!?
 今日は休みって聞いたんだが......」
「バフィーだって嘘くらいつくでしょ。
 従順なペットじゃあるまいし……」

 そう言いながら、コーデリアは、ゴミ箱から出ようとする。しかし、何かが服に引っ掛かってしまう。

「もう......!
 いったい何が......。

 コーデリアのスカートに絡み付くもの。それは……。

「......きゃあーっ!?」

 人間の手首だった。


___________


「二つともカンオケが
 空っぽということは......」
「三人の少女が
 ゾンビ軍団に仲間入りか。
 もったいない......
 生前の美貌は保たれるのかな!?」
「横島さん......。
 ポイントはそこじゃないでしょう!?」

 新しく得た情報を検討するために、バフィーたち六人は、図書室へと向かう。やはり、そこが彼らの活動拠点なのだ。
 そして。

「......戻ってきたね」

 図書室に入ったバフィーたちを出迎えたのは、エンジェルだった。その左腕には、なぜかコーデリアがしがみついている。

「今日は家で休んでると思って
 様子を見に行ったんだが......」
「ええーっと......
 その予定だったんだけど、
 まあ色々あって......」
「いいさ。
 コーデリアが話してくれた」

 ギクシャクした会話をかわす恋人たち。
 その空気を察しつつ、大人なジャイルズが口を挟む。

「ああ……せっかく
 エンジェルもいることだし、
 彼にも事情を説明して……
 助けてもらったらいいんじゃないか?」
「そうね......。
 私たちは事件の調査中なの。
 誰かが死んだ少女たちを
 集めて回ってるみたい」

 ウオッチャーの言葉に従うバフィーだが、エンジェルも、すでに事件に関わり始めていた。

「知っている。
 おれたちも……
 その一部を見つけたから」
「『手』に襲われた私を
 エンジェルが助けてくれたの。
 いま思い出してもゾッとするわ。
 バラバラ死体の断片が……
 いくつも転がってたんだから!」

 コーデリアが補足したように。
 さきほどのゴミ箱に捨てられていたのは、手だけではなかった。彼らは、いくつもの遺体パーツを見つけていたのだ。

「......なんで私ばかり
 恐ろしい目に遭うのかしら!?」
「......天罰」

 コーデリアのつぶやきに、ザンダーが小声で対応する。その傍らでは、バフィーが事態を理解しようとしていた。

「......おかしいわ!?
 わざわざ三人分死体を掘り出して、
 それを捨てちゃうの......!?
 いったい何が目的なわけ!?」
「いや……。
 全部捨てられたわけじゃなさそうだ」

 ゴミ箱にあった断片を集めても、三人分には足りない。それがエンジェルの見立てである。

「......それでもおかしいわ!?
 なんで一部分だけ保管しておくの?」
「それに、なぜ墓場から離れて
 学校に捨てられていたのかな?」

 バフィーに加えて、ジャイルズも新たな疑問を提示した。
 だが、この点に関しては、バフィーは問題視していない。

「犯人は......
 この高校にいるってことよ!」
「しかし、死体の切り口は
 高校生の仕業にしては
 見事なものだったが......!?」
「科学クラブの中には、
 解剖学に詳しそうな学生もいるわ」

 バフィーの結論に賛同できないエンジェルだったが、ウイローの言葉で納得したようだ。
 なお、こうしてバフィーたちが推理を進める横で、横島とおキヌは完全に空気と化していた。ここサニーデールに来てまだ日が浅く、この高校のこともアメリカのことも分かっていない点が多い二人である。とても参加できなかったのだ。

(美神さんが言うとおり、
 出しゃばらないのが正解かも……)

 奇しくも、二人は同じことを考えていた。


___________


「早く帰ってシャワー浴びなくちゃ!
 ......この服も燃やさないと!!」

 そう言って、コーデリアは、サッサと帰っていく。しかも、一人で帰るのは恐いからと言い張って、エンジェルをエスコート役に指名、連れていってしまった。
 だが、残された六人の夜は、まだ終わらない。
 科学クラブの学生を容疑者とみなしたバフィーたちは、誰もいない夜のうちに、彼らのロッカーをコッソリ調べるのだ。

「これがロッカー番号のリストよ!」

 ウイローが作製したリストをもとに、六人で手分けして調べていく。
 そして......。

「......見つけたぞ!」

 ザンダーが開けたのは、クリスのロッカーだ。
 その中には、大学生が使うような医学書が山ほど積まれていた。
 さらに、本と本との間に挟まった古新聞。そこには、メレディスたちの自動車事故の記事が載っている。

「これだけ状況証拠が揃えば......」
「......容疑者第一号だな」
「でも、なんのために......!?」

 すでに一同はクリスのロッカー前に集合している。しかし、ひとり離れていたバフィーこそが、最後の疑問への解答を持っていた。

「私、わかったような気がする......」

 バフィーは、カメラ小僧エリックのロッカーを調べていたのだ。その中には、女性の全身写真が飾られていたのだが、それは普通のシロモノではなかった。
 腕はこちらの女性から、脚はあちらの女性から、胴体は別の女性から。そうやって切り貼りして作られた写真である。これを見れば、もはや彼らの意図は明白だった。

「三人の死体をツギハギして
 一体のモンスターを作ろうってわけね......」
「合体怪獣タイラントだな、まるで......」
「......はあ!?」
「そんな怪獣、ゴジラに出てきたっけ!?」

 うまく表したつもりの横島の言葉は、その場の誰にも通じない。日本のアニメやSFに比較的詳しいザンダーでも、ウルトラマンまでは対象外だった。


___________


 同じ夜。
 エリックとクリスの二人は、クリスの家の地下室で議論していた。

「もう時間がないぞ!?」
「電流を流しておけば、
 少しは時間稼ぎも出来るはず......」

 部屋の中央の台には、かなり完成した『少女』が寝かされている。しかし、彼女には、まだ首が無かった。

「『頭なんて飾りです』とは言えんだろ!?
 首なし状態ではボディがダメになる......!」
「時間ならある!」
「......いや、ない!」

 時間がないと主張しているのは、カメラ小僧エリックのほうだ。彼には、秘策があるのだった。

「自動車事故はラッキーだったよ。
 でも、俺たち......これ以上
 ラッキーに頼れないだろ〜〜!?」
「おい、何が言いたい......!?」
「へっへっへ......。
 死体が無ければ作っちゃえばいいのさ!
 ......女ひとり殺すくらい簡単だろ!?」

 平気で殺人を提案するエリック。
 クリスは、とてもついていけない。

「......ふざけるな!
 人殺しなんかできるかッ!!
 そんなこと......」

 うつむいて黙り込むクリスだったが、すぐに顔を上げた。
 クルリと反転し、エリックに背中を見せた彼は、部屋の隅へと歩み寄る。そこにあるのは、カーテンで仕切られた小部屋。その中へ言葉を投げかける。

「そんなこと......
 とても俺には出来ないよ。
 わかってくれ......兄さん!」
「だが......
 おまえは約束してくれたじゃないか!
 ......弟よーッ!!」

 低い叫び声の主が、カーテンの奥から姿を見せた。
 腕にも顔にも、いたる所に引きつったようなツギハギ跡がある男。
 フランケンシュタイン状態の彼こそが……。
 弟の技術で蘇った、ダリルであった。


(第4話に続く)

 改稿時付記;
 この機会に少し、あとがきのようなものを。
 この『美神・ザ・バンパイア・スレイヤー』というSSは、私が最も好きな漫画作品と最も好きな映像作品の世界観をクロスオーバーさせた作品です。しかし、好きなもの同士をミックスさせるという意図の他にも、目的がありました。
 この作品を書き始めた頃、私はアメリカで働いており、そろそろ帰国が近づいているという時期でした。日本人がアメリカの田舎町で暮らしてみて、思うこと・感じたこと・言われたこと、そうした実体験を混ぜ込みながら書いているのです。少しでも「へえ」と思って頂ければ、さいわいです。

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____
『美神・ザ・バンパイア・スレイヤー』 第4話 

「こっちの高校って、
 なんだか開放的でいいですね」
「開放的......?」

 歩きながら会話するおキヌと横島。
 彼女は、彼の腕にしがみついているが、これも仕事のうちなのだ。小竜姫からの依頼でアメリカの高校に潜り込んでいる彼らだが、翻訳装置となる指輪の都合上、二人は『婚約者』という設定になっている。だから、公衆の面前では、いつも腕を組んでいる二人であった。
 はじめのうちは少し照れていた横島も、だんだん慣れてきて、恥ずかしいとは思わなくなっていた。しかし、女性の体が密着する心地良さは、シッカリ感じている。

「ほら、日本の校舎とは、
 雰囲気が違うじゃないですか?
 例えば廊下だって......」

 二人が今歩いているのは、サニーデール高校の廊下だ。ただし、壁に囲まれた閉鎖空間ではない。まるでベランダのように、片側は外に面しているのだった。

「......まるで縁側みたいです」
「おキヌちゃんらしい表現だな」
「あれ......!?
 何か変なこと言いました!?」

 朝から微笑み合う二人。
 そんな二人の背に、クラスメートが声をかけてきた。

「おはよう!
 オキヌチャン、ヨコシマクン!」

 二人は振り返る。
 そこに立っていたのは、バフィー・ウイロー・ザンダーの三人。つまり、バンパイア・スレイヤーであるバフィーと、その仲間たちだった。

「ねえ、ジャイルズ知らない!?
 図書室に行ってもいないのよ......」

 バフィーは、ジャイルズを探していたらしい。
 ルパート・ジャイルズは、この高校の図書館司書を務める中年男性。だが、その正体は、スレイヤーの指導役であるウオッチャーであった。
 横島とおキヌは、美神とともに、ジャイルズ邸にホームステイしている。二人は、毎朝、ジャイルズの車に同乗して通っているのだ。だから居場所を聞かれたのだろう。
 ちなみに、美神は今日も、まだ部屋で休んでいた。

「ジャイルズさんなら......
 さっきから、あそこに立ってますけど」

 おキヌが指さす先は、廊下の曲がり角だ。そこに立つジャイルズは、誰かを待っているようにも見える。

「ははーん......なるほどね」
「......昨日の練習の成果だな!?」

 バフィーとザンダーが、昨日の朝の図書室を思い出して、顔を見合わせた。

「......え、なんなの!?」
「見てればわかるわよ、ウイロー!」

 と言いながら、ジャイルズの近くへ歩み寄るバフィー。他の四人もついていく。

「おはよう、ジャイルズ!
 聞きたいことあったんだけど
 ......今は忙しいみたいね!?」

 スイレヤーとウオッチャーの間柄よりも、女子高生らしい野次馬根性を優先させる。ジャイルズの視線の先には、学生と会話するミス・カレンダーがいるのだ。

「......ジャイルズ、
 私が昨日言ったこと、覚えている!?
 重苦しく口説いちゃダメ、軽くいくの!
 そして最後は……
 『メキシカンはどう?』で決まり!!」

 バフィーの後ろで、他の四人も微笑んでいた。
 そして。

「頑張ってね!」
「応援してるぜ!」

 激励してから、学生たちは立ち去った。
 残されたジャイルズは、ミス・カレンダーのもとへ歩み寄るタイミングを見計らっている。そのうちに、彼女の方から、ジャイルズのほうへ近づいてきた。

「おはよう、ルパート!」

 ファーストネームで親しげに挨拶した後、そのまま横を通り過ぎていく。ジャイルズは、慌てて彼女を呼び止めた。

「あの......ミス・カレンダー!?」
「あら......!
 ジェニーって呼んでよ。
 ミス・カレンダーじゃ堅苦しいわ」

 コンピューターを担当する教師ジェニー・カレンダーは、ややミステリアスな雰囲気もある美人。科学的魔術師を自称する彼女は、時々、バフィーたちを助けてくれたこともある。バフィーがスレイヤーであると知る一人でもあった。

「それじゃあ、ジェニー。
 あの......その......」

 並んで歩きながら、ジャイルズは、デートの誘いを試みる。しかし、うまく口にできなかった。モタモタしているうちに、コンピューター室の前まで来てしまう。

「ルパート、私……
 授業の準備しなくちゃいけないの」
「ああ......私が言いたいのは......」

 ジリリリッ!!

「ごめんね!
 もう行かなくちゃ!」

 始業のベルが鳴り、彼女は、部屋に駆け込んでしまう。

「私は......なんて馬鹿なんだ!」

 小声で自嘲するジャイルズだったが、その時、彼女が再びドアを開け、顔だけ外に覗かせた。

「ねえ、ルパート。
 重要な話だったら......。
 今夜のゲームのときでいいかしら?」
「ゲーム......!?
 ああ、君はアメフトの
 ゲームを観に行くのかい!?」
「あら、ルパートは行かないの!?」
「......え?
 ああ、行くよ。
 もちろん行くよ!」

 高校全体が何だか盛り上がっているのは、ジャイルズも知っていた。興味はなかったが、ここは話を合わせることにする。

「それじゃルパート、
 いっしょに行きましょう!
 食事する時間くらいは
 観戦前にもあるだろうから、
 話は、そのときにでも。
 ......夕食はメキシカンでいいかしら?」
「ああ......うん、もちろん」

 話をまとめて、ミス・カレンダーは教室に戻った。
 それを見届けたジャイルズは、一人、頭の中で今の会話を反芻する。

「うまくいったんだよな?
 ......うん、予定どおりだ」




    第4話 現代版フランケンシュタインの花嫁(part 2)




 一日の授業が全て終わった放課後。
 バフィー・ウイロー・ザンダー・横島・おキヌの五人が図書室へ行くと、ジャイルズと美神が一同を待っていた。

「あれ、美神さん......来てたんスか!?
 今日も休みかと思ってましたよ」

 横島とおキヌはバフィーたちと同じ学年に潜り込んでいるが、美神は、その一学年上だ。アメリカのシステムならば、学年が違っても同じ授業になることもあるのだが、少なくとも今日は顔を合わせていない。昼食時の食堂でも会わなかったので、美神は、おそらく午後になってから来たのだろう。

「あんたには言われたくないわね」

 横島はポカッと叩かれ、さらに詰めよられる。

「そんなことより、横島クン!!
 ジャイルズから聞いたんだけど......
 文珠が使えなくなったって本当!?
 ……そんな大事なこと、
 なんで早く言わないのよ!?」
「いつ言えるんスか!?
 俺たちが昨夜帰った頃には、
 美神さん、もう寝てたし......。
 今朝だって、起きるの遅いから
 そんな暇なかったんスよ!?」

 非は美神にあると主張する横島。ここが美神の事務所ならば、血の海に沈められたかもしれないが、幸い、この場にはバフィーたちもいる。

「はいはい。
 そっちの問題は、三人だけの時にね。
 それより今は、死体泥棒の話が先よ。
 ......ジャイルズ、何か新情報ある?」

 今朝ジャイルズに聞こうと思っていた用件を、ようやく尋ねるバフィー。ジャイルズの方でも、朝は上の空だったが、用事が一つ片付いたので今は大丈夫だ。

「ああ、新聞記者にあたってみた。
 最新情報によると、
 頭部は三人分発見されたらしい」
「......おかしいじゃないの!?
 あいつら、色々と寄せ集めて
 一人分の死体人形を
 作るつもりなんでしょう!?
 それなら頭も必要なんじゃない!?」

 すでに犯人の目星もついており、その目的も推測している。だが、この情報は、これまでの推理と合致しなかった。

「ああ、そのことなんだが......。
 君たちが来る前にミカミクンと
 話し合ってみたのだが......」
「頭だけは特別。
 埋葬された死体ではダメだったのよ」

 バフィーたちには『ミカミサン』と呼ばせている美神だが、年長者であるジャイルズには『ミカミクン』と呼ぶように頼んである。
 一見冴えない中年男性の雰囲気とか、年相応の額の広さとか、洒落っ気のない眼鏡とか。そうした特徴が、彼女の恩師を思い出させるからだ。

「......ホルマリンね!」

 美神の言葉に真っ先に反応したのは、ウイローだった。
 事故にあった死体は、検死解剖などもあって、埋葬までは時間がかかっている。だから、ホルマリン処理されたはずだ。しかし、ホルマリンは神経細胞にダメージを与えるから、脳細胞をダメにしてしまう。

「おいおいおい!?
 それじゃ......やつら
 新鮮な死体を欲しいのかい!?」
「おい、ザンダー。
 野菜や果物じゃないんだから
 『新鮮な』死体なんて、
 なかなか手に入らないだろう?
 それともアメリカじゃ、
 そんなものまで入手可能なのか!?」
「横島さん......
 アメリカをなんだと思ってるんです?」

 そんな会話の横で、バフィーと美神が顔を見合わせる。

「......ミカミサン、同じこと考えてる!?」
「......たぶんね」

 二人が想像したこと。
 それは、犯人が死体を作り出す可能性だ。死体を掘り出すのでなく、みずから殺してしまえば、死にたての遺体が手に入るわけだ。

「......ところでバフィー、
 エリックとクリスは......
 今日はどうだったのかな!?」

 バフィーたちの学友でもあるエリックとクリスこそが、この事件の容疑者。だからジャイルズは尋ねたのだが、返ってきた答は、予想外のものだった。

「二人とも今日は休みよ」
「偶然とは思えないわね」
「それって......!?
 ......ヤバいんじゃない!?」

 バフィーとウイローの言葉に、美神が反応する。バフィーも頷く。

「想像どおりだとしたら......
 今頃、殺人の計画中か実行中ね。
 ......ここで話してる場合じゃないわ!」

 二手に分かれて、二人の家を探りに行くことに決まった。バフィー・ウイロー・ザンダーの三人がエリックを、美神・横島・おキヌの三人がクリスを担当する。

「すまん......
 私はゲームを観戦しに
 行くことになっているから......」
「大丈夫!
 私たちにまかせて!
 ......試合会場で待ち合わせね!?」

 ジャイルズの用件が分かっているバフィーたちは、ニヤニヤしながら彼を送り出す。
 続いて、打ち合わせどおり彼らも出発しようとしたが。
 ここで、美神が叫んだ。

「ちょっと待って!
 私たち......
 試合会場がどこなのかわからないわ!?」

 少しだけ予定変更。六人は、調査の後で一度ここへ戻ることにする。
 そこまで話を決めた上で、彼らも、図書室を出るのだった。


___________


「ここ......よね?」
「そうっスけど......」
「なんだか家の中から
 陰気な『気』が漂ってるような……」

 クリスの家の前に車で乗り付けた、美神たち三人。

「......そりゃあ
 女のコの死体集めて
 遊んでるようなやつだからね。
 ......親はどうしてんのかしら?」
「あ、お母さんは……
 クリスさんの兄の
 ダリルさんが死んで以来、
 家にこもって昔の試合の
 ビデオばかり見てるとか......」

 おキヌが、ウイローから聞いた話を告げる。

「......期待の息子が亡くなって
 家庭崩壊ってところかしら。
 クリスとやらが事件起したのも
 その辺と関係ありそうね……」

 トントン。

 ひとり納得した美神が、ドアをノックする。
 中から出てきたのは、だらしない服装をした中年女性だった。これが、クリスとダリルの母親なのだろう。彼女は無表情であり、『誰?』と問いかけることすらしなかった。

「あの......私たち
 クリスさんの友達なんですけど......
 クリスさん、中にいます!?」

 三人を代表して、おキヌが、にこやかな口調で話す。
 黙って三人を招き入れた女性は、一言だけつぶやいた。

「......今日は休日かい?
 平日なら、まだ学校だろ?」

 どうやら、曜日の感覚も時間の感覚もないらしい。彼女は、近くの椅子に座り込み、煙草をふかし始める。目の前のテレビでは、アメフトの試合のビデオが映し出されていた。

「一昨年の11月17日……
 ウエストベリー高校との試合。
 ダリルは185ヤード走ったの。
 タッチダウンも四回。
 MVPにもなったし、
 都市選抜にも選ばれたわ」
「あのう......!?」
「ほら、ここよ、ここ!
 ダリルはキックオフを取って、
 一人、二人、三人とディフェンスをかわす。
 無人となったフィールドを駆け巡り、
 95ヤードのタッチダウン!!」

 独自の世界に入り込んだ彼女には、もう誰の声も聞こえていないようだ。彼女を放置して、美神たち三人は、室内を見渡した。
 『室内』といっても、そこは、玄関を入ったばかりの小スペース。色々と物が散らかっている。その中で目を引いたのは、地下室へ続くらしい一枚のドアだった。『入るな! 危険!』と張り紙がしてある。

「......なんだか露骨ね」
「いかにもって感じっスね」
「まーまー。
 わかりやすくていいじゃないですか」

 三人は、その扉の前までズカズカ歩み寄り、ノブに手をかけた。鍵はかかっていなかったので、ソーッと開けて、地下へと降りていく……。


___________


 今日もダリルは、一人寂しく、地下室でジッとしている。
 事故で死んだ身ではあるが、弟クリスが、天才的な科学力で蘇らせてくれた。ただし、死体のあちこちにメスを入れる必要があったため、痛々しい手術跡だらけの体になってしまった。また、鉄板やボルトで補強した部分もあるし、顔色も死人のものだ。もはや、どう見てもモンスターである以上、ダリルは、ここから一歩も出られないのだった。

「弟よ......」

 クリスは、友人のエリックとともに、最近、ダリルの『花嫁』を作ろうとしている。死体から作り上げた『花嫁』と暮らすことで、ダリルの孤独も解消されるはずだった。
 すでに80%以上出来上がった『花嫁』は、現在、別のところにある第二ラボに移されている。今晩、クリスとエリックが、そこで仕上げをする予定だ。

 ギーッ......。

 ドアの開く音が聞こえてきた。

「......戻ってきたのか?」

 想定よりも早いが、クリスたちが『花嫁』とともに帰ってきたのだろう。そう思ったダリルは、定位置である隅から立ち上がり、地下室の中央へと足を進める。
 そして……。
 階段を下りてきた三人と対面した。


___________


 美神たち三人の目の前に現れたモンスター。

「......何者だ、おまえたち!?」

 モンスターが低い声でつぶやき、

「きゃーっ!?」
「うわ、出たッ!?」
「ちょっと!?
 このバケモノが……クリス!?」

 美神たちが騒々しく対応した。

「そんなわけないっスよ、美神さん!!」
「クリスさんは......
 体格はこんな感じですが、
 顔も雰囲気も全く違います!」

 クリスと面識ない美神に、横島・おキヌが、簡単な説明をする。

「バンパイアの次は……
 フランケンシュタインか!?
 そのうち狼男も出てくるのか!?」
「横島さん......漫画じゃないんですから」
「そんなことどうでもいいから!
 どうせクリスの関係者でしょう!?
 さっさとやっつけて、話を聞き出すわよ!」

 美神が神通棍を伸ばし、横島も霊波刀を発現させる。
 一方、見知らぬ武器を目にしたダリルは。

「グワーッ!!」

 アメフト選手の力と技でタックルして。

「うわっ!?」
「......えっ!?」
「きゃっ!?」

 三人を突き飛ばし、そのまま、ドカドカと階段を駆け上った。

「......!!」

 一階のテレビには、かつての自分の勇姿が映し出されている。画面にかじりつく母親は、本物のダリルが現れても、見向きもしない。フランケンシュタイン状態のダリルなど、ダリルとは認識できないし、目にも入っていないのだ。
 そんな光景を一瞥して。

「......さよなら」

 小さくつぶやいてから、ダリルは、家を飛び出した。
 目的地は、第二ラボ。そこで待っているはずの弟と『花嫁』、それだけが、今のダリルの全てだった。


___________


「大丈夫、おキヌちゃん!?」
「はい......平気です」
「......俺は心配してくれないんスか!?」

 ダリルに弾き飛ばされた三人だったが、せいぜい、かすり傷程度。これまで凶悪な魔族たちと戦ってきたのは、ダテじゃないのだ。

「クリスとエリックが
 死体泥棒なのだとしても
 どう見ても事件の鍵は、
 あのフランケンシュタイン!
 ......さあ、追うわよ!!」

 美神の号令で、三人も一階へ上がり、そして外へと飛び出す。
 アメフト選手だったダリルの脚力は尋常ではなく、すでに姿は見えなかった。
 遠くから悲鳴が聞こえてくる。助けを求める声ではないので、ダリルが暴れているわけではなく、おそらく、あの姿を見た者が騒いでいるのだろう。

「......逃げた方向はバッチリっスね!」
「私と横島クンで追うから、
 おキヌちゃんは、
 バフィーたちへの連絡をお願い!
 ......図書室で待っていれば
 彼女たちも来るはずだから!!」
「......はい!!」

 おキヌは高校へ走り出し、美神は、横島を乗せて車をスタートさせる。

「あのモンスター......
 いったい何者なんスかね!?」
「バカね、横島クン!
 ちょっと考えればわかるじゃない!?
 あれがクリスの兄......ダリルよ!!」
「......いっ!?」

 美神は、運転しながら、自分の推理を語ってみせた。
 死体からモンスターを作り出せるクリスならば、兄の死体だって放ってはおかないだろう。いや、むしろ、家族皆から愛されていた兄を蘇らせるために、フランケンシュタイン作製技術を学んだのではないか。

「でも外見はモンスターだから
 外に出たら、このとおり大パニック。
 だからガールフレンドを作ってあげる
 ......ってことになったんでしょ!?」
「なるほど......。
 途中から参加したわりには、
 美神さん、名推理っすね!?」
「つまり、あいつを倒しちゃえば、
 もう女のコの死体人形も必要ない。
 ......事件解決よ!」

 こうして話をしている間にも、ダリルの背中が見え始めていた。いくらダリルの脚が速くても、さすがに自動車には、かなわないのだ。
 だが、ダリルには地の利もあった。追ってくる車に気付いた彼は、路地裏に逃げ込んだのだ。

 キーッ!!

 小道の入り口に停車した美神は、横島を車から押し出す。

「横島クン!!
 あんたは走って追っかけなさい!」
「......無茶言うな!!
 あいつの脚力、美神さんだって
 見たじゃないっスか!?」
「あんたには霊能力があるでしょ!?
 文珠なしでも、うまく頭使いなさい!!
 ......で、適当なところで合図しなさいよ!?
 なんとか私も車で先回りするから!!」
「......わかったっス!」

 横島は、しぶしぶ走り出した。彼だって、人外な体力の持ち主なのだ。
 こうして、ダリルと横島の追いかけっこが始まった。


___________


 そして、横島たちがスピード感溢れる追跡劇を繰り広げていた頃。

「サニーデール高校って
 ......どっちだっけ!?」

 少し迷子になりつつも、おキヌは、自分のペースで高校図書室を目指していた。


___________


「......ミカミサンたちは
 どうだったのかしら?」

 同じ頃、バフィーたち三人も、高校図書室へ向かっていた。
 エリックの家を訪れた結果、家族から言われてしまったのだ。

「エリックなら、
 まだ帰ってきていないよ?
 ......そういえば、
 最近いつも帰りが遅いな」

 エリックの家では、今日も普通に学校へ行っていると思っていたらしい。
 エリックもクリスの家にいるのならば良いが、そうでなければ、二人してどこかで悪さをしている可能性がある。そう思って急ぐバフィーたちは、おキヌよりも遥かに早く、サニーデール高校に到着したのだった。
 しかも......。

「あっ!?
 グッドタイミング!!」
「......なんだか
 話が出来すぎてるぜ!?」
「まるで御都合主義だわ......」

 バフィー・ザンダー・ウイローが驚いたのも無理はない。
 校舎の裏口に停まっている一台のバン。そこでは今、クリスとエリックの二人が、何かの包みを後部座席に運び込むところだった。
 その包みは、人ひとり入るくらいの大きさで、なんだかモゴモゴ動いている。
 どう見ても、死体人形の『頭』候補が誘拐される現場です。ありがとうございました。

「クリス!
 エリック!
 もう全部わかってるのよ!!」

 叫びながら突撃するバフィー。
 エリックに向けてキックしたが。

「ここは......まかせた!」

 器用にクリスを盾にして、エリックは車に乗り込む。そして、慌てて車をスタートさせた。

「あっ! 待ちなさい!!」

 『頭』候補を乗せたまま、エリックの車が走り去る。
 走って追いかけるのではなく、残されたクリスに詰めよるバフィー。

「......全部吐いてもらいましょうか!?
 これから、あの中身の女のコ殺して
 首だけ使うつもりなんでしょう!?」
「......そうだ」

 うなだれたクリスは、観念したかのように、全てを語り始めた。
 最愛の兄ダリルを蘇らせたこと、そして、彼のために『花嫁』を用意しようとしたこと。気が進まぬまま、ついに殺人にまで手を染めようとしていたこと。

「でも......。
 やっぱりダメだ、人殺しなんて。
 エリックは
 『一人殺して、一人蘇る。
  数は合ってるんじゃん!?』
 って言ってたが、そんなの悪魔の理屈だ!」
「そう思うんなら、早く止めなくちゃ!
 エリックは、どこへ向かってるの!?」
「廃校となった施設の理科室だ。
 そこを第二ラボにしてるんだ」

 クリスから正確な場所を聞き出し、バフィーは、ウイローとザンダーを振り返った。

「二人は試合会場へ!
 ジャイルズに事情を連絡して!!」
「わかったわ!
 ......バフィーは!?」
「私はクリスと一緒に
 そのラボへ直行するわ!」

 そして、四人は、その場をあとにする。
 結局、バフィーたち三人は、

「あの包みの中にいた『頭』候補は誰か?」

 という疑問は口にしなかった。なんとなく答がわかっていたからだ。

(こういうのは......
 コーデリアの役割なのよね)

 と。


___________


「ん......んぐ......」

 今、コーデリアは、目隠しの上に猿ぐつわまでされて、手術台のようなところに縛りつけられていた。

(もう......!
 なんで私ばっかり、こんな目に!?)

 校舎に残ってチアリーディングの準備をしていたところを、コーデリアは襲われたのだ。ひとり入念に化粧していたために、チアリーダー仲間も既に試合会場へ行ってしまった後。だから、助けてくれる者もいなかったのである。

「おとなしくしてろよ......。
 新しい体をプレゼントするからさあ」

 そう言いながら、一人の男が彼女の目隠しを外した。エリックである。

(こいつ......!
 ただのカメラ馬鹿だと思ってたのに......。
 いったい何をしようというの!?)

 美人でスタイル抜群の自分が誘拐されたのだ。しかも、誘拐犯は、とてもモテるようには見えないエリック。
 もう何をされるのか想像もつくが、想像するのも嫌だった。今さら貞操云々を口にするような生娘でもないが、コーデリアにだって、相手を選ぶ権利がある。

(助けてーッ!
 誰でもいいから助けてーッ!!)

 彼女の心の叫びは、猿ぐつわのせいで、くもぐったような声にしかならない。
 周囲を見渡しても、よくわからない器具や薬品が目に入るだけだ。
 左側では、エリックが、手に持ったメスをアルコールランプで焼いていた。この状況で刃物や炎を見せられると、恐怖心が増してしまう。
 だから、コーデリアは、反対側に頭を向けた。すると......。

(ギャーッ!!!)

 コーデリアの隣に設置されている、もう一つの手術台。そこには、ツギハギだらけの首なし死体が寝かされているのだった。


___________


 一方、ダリル追跡劇は、まだ続いていた。

「くそう......。
 あいつ……全然
 スピードが落ちないじゃないか!?」

 走る走る横島。流れる汗もそのままだ。
 いくら頑張っても、見失わない程度を保つのが精一杯。

「えーいッ!!」

 時々、サイキック・ソーサーを投げつけ、牽制する。うまく命中すれば足止めとなり、少し距離も縮む。それでも、まだ追いつけなかった。

「どこにいるんだ、美神さん......!?」

 今、横島とダリルの競争は、裏道ではなく再び大通りを舞台としていた。
 車道に戻った時点で、横島は、上空へ向かって霊波を撃ち出している。その光を目印に美神が来てくれると信じているのだが、彼女は、まだ現れていない。

「あっ!?
 ちょっと待て......!」

 突然ダリルが立ち止まり、その場で反転。いったん腰を落として体勢を整えてから、横島にタックルしてきた。
 急に止まれない横島は、自分の走る勢いもカウンターされ、大きく弾き飛ばされてしまう。

「いてて......」

 横島が転がっている間に、ダリルは、近くの建物に入っていく。

「あそこか......!?」

 身を起こした横島が、ダリルの逃げこんだ先を確認した時。

「大丈夫、横島クン!?」

 美神の車が、ようやく、その場に現れた。


___________


 バフィーや美神たちが、こうして事件のクライマックスへ向かっている頃。
 アメフト試合会場では、ノンビリ観戦している男女がいた。
 ジャイルズとミス・カレンダーである。
 飲み物やポップコーン、応援用の小旗なども買い込み、ジャイルズが抱え込んでいる。

「アメフトって......
 バスケみたいに優雅でもないし、
 野球みたいに詩的でもない。
 でも面白いのよねえ!」

 身振り手振りを交えて熱弁する、ミス・カレンダー。

「......たぶん
 飾り気のない攻撃性が魅力なんだわ!
 無骨さを競うスポーツだもの!!」 
「無骨!?
 アメフトが!?」
「ルパート。
 ......何がおかしいの!?」

 苦笑したジャイルズを見て、ミス・カレンダーは、不満げな表情を作ってみせる。

「いや、ただのラグビーに
 40ポンドものプロテクターをつけて、
 その上……
 国家の名前まで冠するなんて......」
「もう、ルパートったら......。
 最初のデートで
 その国の文化を馬鹿にするのが
 あなたのデート戦略なの......!?」
「いや、そんなつもりはないが......。
 ん......!?
 今『デート』って言ったのかい!?」
「あら、気が付いた?
 ふふふ......」

 会話がそこまで進んだところで、その場に、ウイローとザンダーが駆けつけた。

「ジャイルズ!
 大変なの!
 一緒に来て......!!」
「まだ真夜中じゃないが、
 王子様とシンデレラの時間は
 ……もう終わりだぜ!」

 そして、二人は、手短に事情を説明する。
 もちろん、ジャイルズとしても、もはやデートどころではない。
 二人に引きずられ、ジャイルズとミス・カレンダーは、その場をあとにした。


___________


(助けてーッ!
 ほんとに助けてーッ!!
 犯られちゃうんじゃなくて
 ......殺られちゃうわーッ!!)

 コーデリアは、必死に助けを願う。
 隣の物体を目にして以来、命の危機を感じ始めたからだ。エリックがメスを手にしているのもマニアックなプレイのためではない、それをようやく理解したのである。
 その時。

 バタン!!

 大きな音を立てて、ドアが開いた。

(ようやく助けが来たんだわ!

 入り口に目を向けるコーデリア。

(私を救ってくれる王子様は......)

 しかし、彼女の視野に入ったのは......。

(ギャーッ!!)

 フランケンシュタインのようなモンスターだ。

「おお、ダリル!
 ここへ来ちゃダメじゃないか。
 花嫁を先に見ちゃうのは、
 縁起悪いんだぞ……!?」
「......急げ!
 不思議な武器を使う、
 変な奴らが追ってきてるんだ!」
「まあまあ、落ち着けよ。
 この手術は慎重にやらないと......」

 高校ではバフィーたちと鉢合わせしたエリックだったが、この場所までは知られていないと思っている。だから、余裕をかましていた。クリスがバフィーに正直に告白し、さらにダリルが横島につけられたとは、想像もできなかったのだ。
 そして。

「......そこまでよ、悪ガキども!」
「いったん死んだやつは、
 おとなしく極楽へ帰れ!!」

 美神と横島が、ドタドタと駆け込んでくる。

「......ほら!
 もう来たじゃないか!!」
「な、なんなんだ!?」

 事情がわからぬエリックだったが、二人が敵であることくらいは理解できた。咄嗟に、手にしていたメスを投げつける。
 しかし、美神の神通棍で弾かれてしまった。しかも、美神を怒らせてしまったようだ。

「......危ないでしょ、この馬鹿!!」
「そうだぞ、この野郎!!
 美神さんの顔に
 傷でもついたらどうすんだ!?
 美貌とスタイルだけが、
 このひとの取り柄なんだぞ!?」

 鞭と化した美神の神通棍が、エリックを襲う。
 しょせんエリックは一般人、この一撃でノビてしまった。

「いてて......なんで俺まで!?」

 口が滑った横島も叩かれているが、こちらは慣れているだけに、ダメージは微々たるものだ。

「さあ、横島クン!
 ここからが本番よ!?」

 ダリルに対して戦闘体勢をとる二人。
 一方、ダリルも身構えている。
 そんな三人を眺めつつ。

(どうでもいいから......
 早く私を助けてよ!!)

 コーデリアは、なんだか無視されている気になるのだった。


___________


「極楽へ......行かせてやるわっ!!」

 決めゼリフとともに、美神の神通棍がしなる。鞭状のそれは、離れた距離からダリルの体を叩く。
 だが。

「フン、効かんな......」
「......あれ!?
 もしかして......こいつ強い!?」

 どうやら、全くこたえていないようだ。

「どうしたんスか、美神さん!?」
「悪霊や妖怪じゃないから、
 霊力こめても……
 あんまり関係ないみたいね」

 霊力云々を考慮しなければ、鞭の物理的攻撃力など、たいしたレベルではない。横島も、そこに気付いた。

「......俺の霊波刀なら!!」

 ハンズ・オブ・グローリーを剣にして、斬り掛かっていく!

 ザクッ。

「やったわ、横島クン!」
「......いや、ダメっス!!」

 光の刀がダリルの肉体に埋まったが、表層近くの浅いところ。横島としてはスパッと切り裂くつもりだったのに、剣は途中で止まってしまったのだ。

「なんだ、この程度なのか......!?」
「......こりゃあ、ヤバい!」

 ダリルの体が大きいために、横島は、いっそうの威圧感を感じた。慌てて霊波刀を消して、ガサガサと撤退する。そして、距離をとってから、再び攻撃に転じた。

「これなら......どうだ!?」

 霊波刀を幾つかの小さな刃に変形させ、投げナイフのように撃ち出す。
 全てダリルに命中し、体内に深く潜り込んだ。
 今度は効果もあったようで、ダリルは苦痛で顔を歪めている。

「く......。
 この野郎......!!」
「あわわ......。
 もしかして......逆効果だった!?」

 憤怒の表情で、ダリルが横島にタックル。
 かろうじて回避する横島。
 一方、美神は、壁にもたれて腕を組み、二人のやり取りを冷静に眺めていた。

「こういう筋肉馬鹿は
 ……相手しづらいわね。
 肉弾戦となると......」
「美神さん!!
 見てないで何とかしてください!!
 ......せめてコーデリアを助けるとか」

 他人事のようにつぶやく美神に対し、横島が、今さらながらに手術台を目で示す。

「あ、忘れてたわ」

 しかし、コーデリアの存在を思い出したのは、美神だけではなかった。

「......!!
 そいつは俺のだーッ!!」

 ダリルにとって、コーデリアは、大事な『花嫁』の一部。逃げられては困る。彼女を助け出そうとする者がいるなら、まず、そちらを何とかしないといけないのだ。
 今までは横島を追っていたが、ここで、攻撃の矛先を美神に向ける。

「グワーッ!!」
「美神さん、危ない!!」
「きゃあっ!?」

 ダリルのアメフトタックルを、美神はモロに食らってしまった。
 弾き飛ばされる美神。そのまま壁に叩き付けられそうになったが......。

 ガシッ!!

 その場に飛びこんで来た人影が、美神をシッカリとキャッチしてくれた。

「助かったわ、ありがとう。
 ......それにしても、あんた、
 いいタイミングで来たわね!?」
「主役っていうのは、
 そういうものよ!?」
「ま、あんたがそう言うんなら
 ......主役にバトンタッチね!
 この場は、あんたにまかせるわ!!」

 美神を助け、美神から勝負を託された人物。
 それは、バンパイア・スレイヤーのバフィーであった。


___________


「もうやめなさい、ダリル!
 クリスもそれを願ってるわ!!」
「う......うそだーッ!!」

 信頼している弟の名前を出されて、ダリルは、逆上したかのように、バフィーへ突進する。
 的確にポイントを見定めたバフィーは、ダリルの足首に蹴りを入れ、彼を転ばせた。

「ぐっ!」
「もうやめなさいって
 ……言ってるでしょ!!」

 うずくまったダリルの腹にキックを連打するバフィー。さらに、トドメとばかりに、かかと落しを後頭部へ叩き込む。
 しかし、これだけダメージを与えてもまだ足りないようだ。ダリルは、平然と立ち上がってくる。その表情は苦痛も示しているが、それでも、身体機能はまだ万全らしい。

「フン......」
「......あんたホントにバケモノね」

 バフィーは、今度は顔面を狙う。
 ダリルは、上体をそらすことで彼女の左フックを軽快に避けた。だが、その瞬間。バフィーの強烈な蹴りが、みぞおちに決まった。

「うっ!!」

 ガシャン!!

 蹴り飛ばされたダリルは、手術用小道具がのった小テーブルに直撃。そこにあった器具を散乱させる。そして、アルコールランプも落ちて割れ......。

 ボウッ!!

 可燃性の薬品に引火した。


___________


「......もう!
 アンタたち、来るのが遅いわよ!?」

 バフィーが戦っている間に、美神と横島は、コーデリアを救出していた。
 台に縛りつけられていたストラップを横島に切ってもらい、助け起してもらったコーデリア。彼女は、その場にスクッと立ち上がると同時に、文句を言い始めたのだ。

「ちょっと......あんた何様のつもり!?」
「まあまあ。
 コーデリアも美神さんも、
 とりあえず落ち着いてください!」

 仲裁役に最適なはずのおキヌがいないので、仕方なく、横島が間に入る。
 そして......。

 ボウッ!!

 薬品が発火したのは、このタイミングだった。

「うわっ!?」
「こうなったら、逃げるが勝ちね!」

 バフィーにも脱出を目で合図してから、美神たちは、部屋の出口へ殺到する。
 ダリルと対峙していたバフィーも、出口の方へ、ゆっくりと後ずさりしていた。
 だが、出入り口をふさぐかのように、新たな面々が室内に飛び込んでくる。ウイロー・ザンダー・ジャイルズ・クリスの四人だ。
 燃え盛る炎を見て、彼らは現状を把握した。ウイロー・ザンダー・ジャイルズの三人は、床にノビたままのエリックを引きずりながら、出口へとUターンする。
 ただし、クリスひとりは、その場に立ちすくんでいた。

「兄さん!
 ......もうやめよう」

 炎をバックに仁王立ちするダリルには、生前の優しかった兄の面影はない。もはや、一体のモンスターとなっていた。

「ダメだ!!
 俺は......あの『花嫁』と......」

 ダリルは、未完成の『花嫁』に目を向ける。部屋の奥側の台に寝かされていた彼女は、炎に包まれ始めていた。

「うおーッ!?
 俺の『花嫁』がーッ!?」

 火炎をものともせず、彼女のもとへ向かうダリル。

「これは......
 俺の『花嫁』は......
 よいものだーッ!!
 焼かせはせん!
 焼かせはせんぞーッ!!」

 業火からかばうかのように、ダリルは『花嫁』の上にのしかかった。

「兄さんーッ!?」

 そんな兄を止めに行こうとするクリスを、バフィーと横島が、二人がかりで押さえつける。

「ダメよ!!」
「......おまえまで燃えちまうぞ!?」

 こうして、一同が見守る中。
 フランケンシュタイン状態のダリルは、『花嫁』とともに焼け落ちるのだった。


___________


 ウーウー......ウー......。

 外に出た皆の耳に、消防車のサイレンの音が聞こえてくる。
 この火事に気付いた近隣の者が連絡したのだろう。

「色々と聞かれるとややこしいから
 ......早く逃げた方がよさそうね」
「そうっスね、美神さん」

 サッサと逃走を決意する、美神と横島。
 一方、ジャイルズは、外で待っていたミス・カレンダーと言葉を交わしている。

「......大丈夫!?」
「ああ、最後はまさに……
 『フランケンシュタインの花嫁』だったな」
「それにしても......
 最初のデートが波瀾万丈だと
 ……二度目のデートの
 盛り上げかたに困るわよ!?」
「いや……。
 ヘルマウスの上に住んでるんだ。
 今日の事件なんてたいしたことない......。
 ......ん!?
 今『二度目のデート』って
 言ったのかい……!?」
「あら、気が付いた?
 ふふふ......」

 そして、バフィーのところには、エンジェルが駆けつけていた。

「バフィー!!
 火の手が見えたから、
 また何か事件だと思って
 飛んできたんだが......」
「例の死体泥棒の一件よ。
 でも……これで終了!」

 エンジェルの目の中に、真摯な心配の色を読み取るバフィー。ケンカしていた恋人たちの、仲直りの一歩であった。
 こうした三組の男女を、ザンダーとウイローは微笑ましく眺めている。

「季節は秋だけど、雰囲気は春だぜ!」
「バフィーとエンジェルも、
 あの様子なら大丈夫そうね」
「あの二人だけじゃないぜ。
 図書館司書まで美人教師をゲット!
 相手がいないのは……
 俺たちだけだな!!」
「......そうね」

 『相手がいない俺たち』と一括りにされても、ウイローは嫌な気がしない。ウイローが好意を寄せる相手こそ、ザンダーなのだから。
 それに気付かぬザンダーは、ウイローの笑顔の理由も知らぬまま、言葉を続ける。

「そしてヨコシマには、
 もちろんオキヌチャン......。
 ......あれ!?
 なんでヨコシマの隣にいるのが
 ミカミサンなんだ……!?」
「......!!
 そう言えば、オキヌチャン、
 どこ行っちゃったのかしら!?」


___________


 その頃、サニーデール高校の図書室では......。
 おキヌが、一人寂しく、仲間の到着を待っていた。

「いつまで、こうして
 待ってたらいいんですか!?
 美神さんーっ!!
 横島さんーっ!!」


(第5話に続く)

 改稿時付記;
 初出時のあとがきにも書きましたが、せっかくなので、もう少し詳しく。
 アメリカでは一般的に、日本よりも携帯電話事情は少し遅れています。もちろん、現在ではしっかり普及していますが、携帯電話の機能は日本のものより少ないようです。アメリカで暮らしていた頃、何度も携帯ショップに行きましたが(故障やら何やらだけでなく、友人の運転手がわりだったこともあって)、そこで店員から言われたのです、「日本のほうが進んでるでしょ?」と。私はゴチャゴチャ機能が多いよりも、シンプルなのを好むので、言われるまで気づきませんでしたが、なるほど「言われてみれば……」という感じでした。
 さて「GS美神」は九十年代の作品であり、原作でも携帯電話はあまり普及していません。一方「Buffy」でも、この作品の舞台となっている第二シーズンは九十年代の部分であるため、携帯電話は出てきません(最終シーズンになってようやく使われる程度です)。
 そんなわけで、この作品でも、登場人物は携帯電話を持っていないという前提で書いていました。

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