守ってあげたい 9話











忍足侑士との例の1件から別れて、やることもないのでまっすぐ教室に向かうと数人のクラスメイトが既に登校してきていた。


「おはよう」


誰に言うでもなく、挨拶をするとてっきりシカトでもされるだろうと思っていたが。


「おはよう、さん」


そう言って数人の子達が挨拶してくれた。

よくよく見ると昨日気の毒げにこちらを見ていた子達だったと思う。


「もしかして、反跡部派の皆様ですか?」

「!?」


私の唐突な問いに、顔を見合わせている。
あー聞き方失敗したかな…。

その中の一人がクスクスと肩を震わせて笑っている。
最初は抑えて笑っていたのが、だんだん堪えられなくなったのか笑い声が大きくなってしまう。


「ク…フッ…ハはは…あははははは…ごめん。もう我慢出来ないわ、私。あの跡部をバッサリ切って捨てて痛快だったのに、あたし等を見て開口一番反跡部派ですか?って……もー。たまらん」


と机をバンバン叩きながら爆笑している。
あまりの笑いぶりに、周囲も引き気味だ。


「……。あのー。そこの、お姉さん?」

「ああ。ゴメン馬鹿受けしちゃって、だってあの跡部にあんなにはっきり物を言う子って珍しくって。
 自己紹介まだだったわよね?私、佐倉って言うのって呼んで」


そう言って、珍しく右手を差し出してきた。
握手でいいんだよね?


「うん、ありがとう。昨日自己紹介したけど、改めてです。女の子は特別だから、下の名前のって呼んで」

「じゃあ、って呼ぶね。何だか面白いわねって。特別ってどういう意味?」

「特別?うん。男には名前で呼ばせないんだ。だから、女の子の”友達”だけ特別」


友達のイントネーションだけ少し変えて言ってみる。
正直ちょっとドキドキ。拒絶されたら、痛い。


「よろしく」


そう言ってギュっと手を握り返してくれた。

嬉しい。

こうやって、ここで友達が出来た事が何より嬉しい。
跡部様ファンクラブのお嬢様方に、苛められる覚悟をしていただけにこうやって友達が出来たのが何よりも嬉しい。


それから、色んな話に花が咲いてこの学校の内情というか、色んな事を聞いた。

やはりというか、あの跡部はこの氷帝学園でも異色の存在で学園の理事として名を連ねているらしく、跡部グループ次期総帥とうこともあって逆らうものは皆無らしい。

跡部の機嫌を損ねると、首の飛びそうな親達の教育で生徒の中でも跡部に逆らうものはいないそうだ。


「つーか。やな学校よね」


思わず本音が漏れた。


「まぁ、否定できないわね。私も出来るなら、氷帝以外の学校に行きたかったけど、将来の顔つなぎの為って無理矢理ここに押し込まれちゃって正直うんざりしているの。一方的に跡部が悪いって言ってる訳じゃないの、現に彼の逆鱗に触れて何処かの親が飛ばされたって話聞かないもの。
 そんなんじゃなくて、そんないろんな制約のある学園生活を考えるのがしんどいのよ」

「そうかぁ……。まぁ、確かに親にそうやってプレッシャーかけられながら学園生活送るより普通に楽しみたいわよねぇ」

「なのよ。だから、が面とむかって跡部をバッサリやったのを見て痛快でたまらなかっわ」

「あー。うちの親は新聞記者だし、跡部財閥の一員でもないからそういうしがらみ無いし、あの時は何も考えてなかったから」

「で、あの後どうなったの?」


身長165センチくらいはあって、茶色っぽいセミロングの髪をしてて流行の化粧をさりげなくしている。もそういう意味では、噂好きの女の子のようで興味深々で聞いてくる。


「色っぽい話には勿論成んなかったわよ」


あまり気は進まないけど、昨日のあれからを掻い摘んで話すと案の定爆笑された。


「プ・・・くる・・・しい…ッはは・・・今時空腹で、目眩なんていつの時代の人間なのよ。それで、あのテニス部のメンバーでファミレス行ったの?」

「うん。あ、でも全員じゃなかったと思う」


正確には、宍戸と長太郎と樺地が居なかったのだけどそんなの知っているなんて不自然極まりないので適当に話をぼやかしてみる。


「誰と誰が居たの?」

「勿論、跡部でしょ?芥川と、向日と、あと忍足が居たわ」

「そう・・・忍足君いたんだ・・・・・・」

?」

「う、ううん。そうだね、あと宍戸君と2年生の鳳君と樺地くんが後レギュラーなの。だから、3人は昨日は居なかったみたいね」


瞬間沈んでしまっただったけど、次の瞬間には立ち直って明るい笑顔を見せてくれた。


んー。忍足と何かあったっぽいね。昔付き合ってたとかかな?今日、会ったばっかりだから突っ込んだ話が聞きにくいやまぁまた、そういう雰囲気になったら聞いてみよう。


ロクな話じゃなかったら、後から忍足を沈めるつもりだったのは言うまでも無い。














跡部が、相変わらず横の席でこちらを睨んでくる。
(※正確には、情熱的に見詰めているだけ)

その視線を強制的に、意識から締め出して午前中の授業をやり過ごした。

既に、お昼休みの段取りを相談済みなので一緒について来てくれる事になったいたと交友棟にある食堂という言葉は相応しくない内装の食堂で場所でとりあえず、昼食を取る事になった。

メニューを見ると。よく分からない高級そうなのもあるけど普通のメニューもあって少しほっとした。

その中でこれまた普通にうどんを頼んで、食べていると背後がざわざわと騒がしくなってくる。


「ねぇ、?あまり嬉しくない予感がするんだけど。もしかして、背後に跡部が近づいているとかって有り?」

「ありよ。というか跡部というよりホスト部全体が近づいてるわよ、あ、というかこっち滅茶苦茶見られてるんだけど・・・あ、来た」

「よう、。こんな所で、何食ってるんだ?何だ、うどんかよ・・・しけたもの食ってるな」

「ねぇ、ここのうどんって結構美味しいね。、私気に入っちゃった。あ、それよりもチョタにメール打たなきゃ」


話しかけてくる、跡部を丸無視して携帯を取り出して既に打ち込んである長太郎のアドレスに。


toチョタ
sab今何処?
―――――――――――
今食堂にいるの、そっち
は今何処?


背後に、ホスト部もといテニス部の面々がいるのを知りつつ送信すると案の定背後でメールの着信音がする。
わざとらしくならないように、振り向いて長太郎を見るとあっちは、跡部が持っていた入学の書類で顔を確認していたせいかこっちを凝視していた。


つーかこわ。感動の初対面とは程遠いほどにじーっと見られているのですが…。


2、3歩近づいて。


「もしかして、チョタ?」


おそるおそるそう問いかけると、それこそぱぁっと笑顔が広がってにっこりと私の想像上のものでしかなかったお犬様スマイルを見せてくれた。


「はい、さん」


そう言って、はにかんだように笑う笑顔がまた堪りません。
それこそ大型犬が、懐いて撫でて撫でてっとパタパタと尻尾を振るような感じで、もう犬好きの私にはダブルでノックアウト状態になってしまい。

氷帝でもお気に入りの彼に、初めは警戒もあらわにされていたのが名前を呼ぶだけでご機嫌が直って、にっこり微笑まれて私はある意味切れて。


ここが何処で、今誰が見ているとかの計算を忘れて自分より30センチは背が高いはずの”チョタ”に勢いよく飛びついて抱きしめた。





ギューっと抱きついたあとに、食堂内がどよめきそこでようやく自分のした所業に気がついた。





天国のお母様、どうやら私今回の人生も失敗しそうです。







 




2005.10.16UP

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