守ってあげたい 10話
己のしでかしてしまった事態に、周囲もどよめきながら固まってしまっている。
私自身と言えば冷や汗を掻きながら脱力してしまっているので、その窮地を救ってくれたのは。
何と跡部だった。
長太郎に抱きついたままの私をバリっと引き剥がして、いつぞやのように肩の上に抱きかかえられた。
でもその行為で、周囲のどよめきは大きくなる一方で。
だらだらと冷や汗を流しながら、私は。
「あ、跡部委員長様?降ろしていただけると嬉しいのですが……」
と、先程無視しまくっていたので敬語で話しかけてもムッツリとご機嫌麗しくない跡部は私の問いかけにも無視でどこかへとズンズン歩いていってしまった。
跡部に抱え上げられた肩越しに心配そうなの姿が目に入ったので、大丈夫だというふうにニッコリ笑って手を振ると何故か爆笑するの姿が目に入った。
?変ネェ。そんなに笑われるような事したかしら?
しばし考え込んでいると、ガチャリとドアが開いてこれまた高級そうな革張りのソフォに降ろされた。
見覚えのある場所に、昨日も連れ込まれた部室と分かってちょっと安心。
「あからさまにホっとするには、少し早いぜ?」
真横に腰掛けられて、息がかかるほど近くで話しかけられて少しドッキリ。
綺麗なお顔ですね〜。この顔なら、女も入れ食いだろうなぁ…。自分が男だったら、滅茶苦茶タラシになってそう。
とか全然関係ない事を考えていると。
グイっと顎をすくい上げられた。
ってもしかして、この展開は本日2度目だから。
右手の手のひらを顔と顔の間に入れて、ガード成功。
「ふがっ」
という俺様には相応しくない擬音を聞いたような気がするけど。
まぁねぇ。えへへとお愛想笑いを返してみる。
あーこの人は、フリだけじゃなくて本当にキスする気だったよ〜。
ふにっと、ブロックした手のひらに男の人にしては柔らかい唇の感覚に跡部のセレブぶりが感じられて、金持ちは何処にお手入れもかかさないのかなーと余計な事を思った。
「何故、邪魔をする?」
「……。って、何のことだかさっぱり」
「俺様が、キスしてやってるんだ有り難く受けろ」
無茶苦茶ですな、このお人。忍足もそうだったけど、世の中の女は皆自分のモノ思考ですか?
正直俺様な男も嫌いじゃないけど、身勝手で勘違いな俺様はキライ。
「跡部委員長様のキスだけは欲しくない」
だから、はっきり瞳を見てそう言ってやった。
「何を!」
カっと来たのか、テニスをする握力で顎を掴み上げられ固定され口付けられそうになった途端。
ドンドンドンドン。
と大きくドアを叩く音が聞こえて。
「跡部〜。何してんのー。ちゃんこんな所に連れ込んで、鍵まで閉めて独り占めはずるいCー」
という芥川の声が聞こえて、瞬間力の抜けたスキを見計らって跡部から逃げ出した。
小走りにドアまで走って内鍵をあけると、芥川だけではなくテニス部レギュラーの面々が居た。
その中にさっきまで、自分が抱きついていた長太郎の姿もあったけど今は普通に話しの出来る状態じゃなかったので顔を伏せたまま走り抜けた。
あまり構内に詳しくないので、この間見つけた裏庭の穴場で一息ついて座り込むと自己嫌悪の嵐だった。
今までの自分の行動で傷つく人か居るなんて思っても見なかった。
さっき、跡部に顎を掴み上げられてその瞳をまともに見たときに分かった。
あまりにもその瞳が苦しげで、きっとこんな風に拒絶されたのが、初めてで私の言葉に傷ついている唐突にそう思った。
「25年の人生経験があっても、全然ダメじゃん」
やっぱり自分は自分のままで、変われないなと思うとため息が出た。
昔言われた事があった。
『は、変なところに聡いけど。時々人の心に鈍感な時もあるよな…』
そう言ったのは、私を捨てた健司だったけど。同じ間違いをまたしようとしてた?
生き直すなんておこがましい事を考えていたけど、10歳も年下の少年を傷つけていい気になっていたなんで笑えなさ過ぎて涙が出そうになる。
「あー。やっぱりここに居た!って又、泣いてるCー」
この場所を知っている占有者の芥川が来て、隣に座って何故だか泣いている私を見てヨシヨシと頭を撫でてくれた。
「もー。見るたんびに泣いているじゃん」
「ゴメ…ン。大丈夫だから…」
そんな風に優しくされると、今まで考えないようにしてきたいきなり過去に飛ばされた不安やらテニスの王子様の世界に来ただなんて誰にも言えなくて心細かった思いとかが噴出して号泣してしまった。
泣くばかりの私に理由も聞かずに、ただ慰めるように背中をポンポンと叩いて頭を撫でてくれてハグまでしてくれた。
そんな芥川の優しさに、ジンワリと心が温まったような気がしてハグしてくれるジローの暖かさにいつしか二人して眠りこけてしまった。
2005.10.21UP