守ってあげたい 11話
跡部side
目の前で、鳳に抱きついたの姿を見てはじめて嫉妬という感情の意味を知った。
昨日会ったばかりとか、自分の女でも無いにどうしてここまで苛立ち感情を波立たせる事が出来るのかとそう思うと自分自身不思議だったが……。
俺を無視して。
何処か、おどおどと「チョタ?」と呼びかけた後に、鳳と二人微笑み合ってその後が満面の笑顔で飛びついた時、自分の中のどす黒い感情に気が付いた。
人を羨んだ事など一度も無い俺が、を満面の笑みにすることに出来た鳳を憎んだ。
――――――それは、俺のモノだ。
の笑顔を俺だけのものにしたい。この女を自分のものにしたい。
自分の中にこんな原始的な感情が眠っていたのかと思うほど、激しい感情が俺を支配する。
今まで俺を熱くしていたのはテニスだけだったが、こんなにも一人の女に対して熱くなれるなんて思わなかった。
だから、考えるよりも先に鳳からを奪い取り背後のざわめきや自身の抗議を無視して部室まで連れ込んだ。
俺がこんなにもお前を求めているのも知らずに。
それも知らずには。
「跡部委員長様のキスだけは欲しくない」
とはっきり言い放った。
ズキン。
胸の何処かが激しく痛む。
何だこの感情は?
悲しみと共に、受け入れてもらえない悲しみから憎しみが湧き出てきて、力加減も忘れての細い顎を掴み上げて感情のままに口付けようとしたが、邪魔が入りそれは未遂に終わった。
いつもの俺なら、思い通りにならなかったことで苛立っているところだが。
正直な所、何処かホっとしたんだ。
何処か人を食ったような微笑を浮かべていたが、踵を返して逃げ出す前に俺を見たその瞳が泣きそうに歪んでいたのを見て傷つけなくてよかったと、そう思えたんだ。
激しく、抱きしめて己のものにしてしまいたい気持ちと大切にしてやりたいと思う相反する気持ちが鬩ぎあっていた。
「なんや、何があったんや?」
「うるせぇ……。そんな事より、鳳どういうことだ?」
だから問いかける忍足を無視して、鳳を問い詰めていた。
鳳から語られる真相は、単なるメル友だったというたわいも無いものだった。
「はお前の彼女でもなんでも無いんだな?」
「……。はい」
「なら、から手を引け。アレは俺のモノだ」
明確なる威嚇。帝王と呼ばれる俺の本気を向けられた鳳は、ビクリと反応したが。
「それは、テニス部部長としての命令ですか?」
「…何?てめぇ、俺の命令が聞けないのか?」
普段大人しい、鳳が挑戦的な瞳をして俺を見る。それに男の本気を感じ取って尚更引けない気分になった。
理不尽な事を言っている自覚ならある。だけど、どうしようもない感情が俺を支配して目の前の邪魔な存在を排除したいとそう言っている。
「まぁまぁ、落ち着きぃな二人とも……。跡部も少し頭冷やせや、3年生のお前が権力つかって後輩から女取り上げるやなんて笑い話にもなれへんで」
「ッ……。」
ぐうの音も出ないとはこの事だと思う。普段から、似たタイプの俺たちは表面上はうまく言っているがお互い内心は反目しあう事が多い。
「テニスに関係あることならまだしも、恋愛は自由やろ」
何処か人を小バカにしたような顔をして、俺を見て忍足はこう言いやがった。
「今回ばかりは、俺も忍足の意見に賛成だぜ?」
それまで、黙っていた宍戸までそう言い出す始末で。
「勝手にしろ!」
と突き放すのが精一杯だった。欲しいものは、欲しいと言う前に全て手に入った。テニスの才能も、女も金も当たり前のように手に入った。
だから、誰かと争う事も初めてだったが。
お前が欲しいと思うこの気持ちだけは、本物だから。
絶対にお前を手に入れてみせる。
そう心に誓った。
side
何だか少し肌寒くなって目が覚めた。
目の前には視界一杯に金色の固まりが目に入る。
んー?なんだこれ?
ふわふわの金髪を見て、がっちり自分を抱きし締めてくる存在を認識して。
「ジローだよねぇ」
と独り言が漏れた。
少しして、自分が見せた醜態を思い出して赤面してしまった。
10歳も年下の男の子に頭を撫でてもらって安心して眠り込んでしまった。
今日は朝から濃い展開だなぁ〜。忍足とキスして、長太郎に抱きついて、跡部を傷つけて、ジローに慰められてって普通のドリーマーなら垂涎の展開だなぁっと思いつつ。
実際やってしまったこっちとしては、笑えないどころか明日から登校拒否でもするかと本気で悩んでしまった。
時間を確認すべく携帯を取り出すと、メールが入っていて。
メルアドを教えたばかりのからだった。
from
sab大丈夫?
―――――――――――
大丈夫?今何処にいるの?
というようなメッセージが5件も入っていた。
その中に長太郎からのメッセージも混じっていたけど、そっちは今読む気にはなれなかった。
心配してくれている友達がいる。
そう思うと心強かった。
大丈夫と返信を打ち返して、こんな事で挫折してはなるものかと思いなおした。
立ち上がろうとして気が付いたのだが、ジローががっちりと抱きついているので身動きが取れないので。
「おーい。芥川ー。起きろー」
と声を掛けても一ミリも起きないので、思い切って頭を叩いても。
「うーん」
と唸って起きる気配も無い。
しばらくジローの拘束と戦ってみたけど、例え眠っているといえどもテニス部で鍛えた筋力で抱きつかれているので振り解くのは難しかった。
途方にくれていると、遠くから樺地がこっちに来るのが目に入った。
さっき時計を確認した時に、17時だったから丁度部活の時間だと思うから。
おーこれはもしかして、ジローを探しに来たとか?
近くまで来た樺地は、無言のままこちらを見ていて…つかのま居心地の悪い沈黙が続く。
「………。えーっと、芥川を探しに来たの?」
「ウス」
「なら、連れて行ってくれて構わないから。これ剥がしてくれるかな?」
自分の後から覆いかぶさるようにがっちりと、お腹の前で組まれた手をさしてそう言うと。
無言のまま、グっと芥川を引っ張って拘束を解いてくれた。そのまま芥川を肩に担ぎ上げると、一礼をして樺地は去っていった。
小動物のような純真な目をした樺地をこき使う跡部を想像して、やっぱり好きになれないなぁとそう思った。
でも大人気ない態度は改めようとそう心に誓っただった。
2005.10.23UP