守ってあげたい 12話
あれから跡部との関係が変わったかというとそうでも無いけど、あからさまな無視は止める事にして都合の悪い事は聞き流す事にした。
今日も今日とて。
「携帯の番号とメルアド教えろよ」
としつこい。
「んー。ゴメン携帯持ってないや」
「嘘も休み休み言え、この間鳳にメール打つときに出していたのは何なんだ?」
「まぼろし?」
と惚けるとゲンコツが振ってきた。
「いったー。」
「つべこべ言わずにとっとと教えろ」
「というか、解約したの」
「……本当に持っていないのか?何故だ?」
「貧乏だから…」
そう言うとあからさまに、不憫そうな眼差しで見詰められてしまって。
「分かった、じゃあ俺が用意してやるから。待ってろ」
そう言うとポケットから携帯を取り出して、何処かに電話をしはじめた。
「あの〜。跡部委員長様が、携帯くれるって落ちはいりませんからー」
全く聞いていませんねこの人……。というか、今の貧乏だからってということさらっと流しましたね。むしろ突っ込んで欲しかったのですがと思っていても、跡部には伝わる訳も無かった。
実は携帯を解約した理由は、勿論貧乏とか言う理由じゃなく。他に原因があった。
あのジローの腕の中で寝こけてしまった夜。家に帰ってメールが受信しているのを発見したのだが、普通のメールなら何の問題も無かったが。その相手が問題だった。
相手は、幸村精市だった。
内容は。
from幸村
sab転校したんだってね
―――――――――――
この日曜にでもこっちに
来れるかな?
皆詳しい話を聞きたがっ
てるんだけど…。
どういうことかな?
という当たり障りの無いものだったが、黒いと噂の彼を騙しきる自信などある訳も無くって…。
当然、メールを無視していると。夜中に再度メールが受信して。
from仁王
sab冷たかね
―――――――――――
どうしたと?
俺との仲やろ?
取り合えず、連絡まちょ
るよ。
というか、俺との仲やろ?っていう所に滅茶苦茶ひっかかりを感じるのですが…。
こっちの私は一体何をした??って一瞬パニックになりましたよー。
落ち着いて、日記を読み返したけどテニス部での日常はとても普通で真面目にマネジャーしてたんだなっとそう思った。
と、ここまでなら普通の話だろうと思うけど。
一つだけ気づいた事があった。
多分15歳の私なら気付かなかった事に25歳の私は気が付いた。
よくよく日記の内容を読み返してみると、一緒に帰ったりするのはきっちりローテーションで誰とも恋愛の話をした事が無く。
誰の事が好きだと、よく聞かれることはあっても相手に問い返すと、口ごもって真っ赤になるって…。
個人的にメールのやり取りをするのは、幸村のみで(仁王とは内緒でやり取りしているらしい)
日記からとてもテニス部員に大切に扱われているのが良く分かった。他校への遠征やらには、絶対連れて行かないことや過剰に気遣われているその様子から。
「もしかして、立海では完全に逆ハー状態だった?」
と思わず口に出して声が漏れた。
個人的にメールのやり取りするのが、幸村だけっていうのが不可侵条約とか結んでいそうよね。
一緒に帰るのもきっちりローテーションってのも怪しいし…。まぁ、憶測の域を出ないけど…。
んーちょっと美味しいかなぁっとは思うけど。この子達が好きになった私と中身が別物だからなぁ…。
何だか、何もしないで好かれるなんで今までの私に悪いような気持ちになった。
そして、今まで居た私って何処へ行ったんだろうと思った。
自分で自分に遠慮って可笑しい話だけど、ともかくそんな気分。
その夜から、何処からメルアドが漏れたのか赤也やジャッカル、柳、丸井とジャンジャンメールが入るようになった。
その中から、女の子のアドレスも混じっていたので向こうの友達からアドレスが漏れたのかなぁっと思いつつ。
適当に友達らしい、ミヨには返事を返しつつ2、3日そのままほおって置いたけど。
一向に減らないメールにしまいには、友達に詰め寄って事情を聞きだそうとしている様子をメールで聞いて。
私の悪い癖が出て、面倒くさくなって携帯の解約という暴挙に出た。
当然、新しい携帯は契約しましたわさ。
だから、跡部に携帯が無いと言ったのは全くのウソな訳で…。
携帯解約の暴挙にあっちはパニックになっているらしく。ミヨからこんなメールが来た。
fromミヨ
sab大パニックよ!
―――――――――――
あんた、テニス部に黙っ
て携帯解約したでしょ?
大問題になってかなり、
詰め寄られてるんだけど
…。
教えたら駄目なんでしょ
うどうせ…。
まったく、面倒くさがり
なの直しなさい!
あらー。こっちの私も面倒くさがりでしたか…。所詮、年代は変わっても私は私か…。
んー。でもミヨには悪いけど、惚けてもらいましょ。
問題先送りにしかなっていないのは、気付いていたけど。
あのある意味濃い、立海軍団を相手にするには経験値が足らないと思うので無理だと思うけどフェイドアウトの自然消滅を狙ってみた。
しかし、こっちに来てからモテモテですな。
んーでも年下はあまり好みじゃないんですがねぇ。
本当にこっちにどれだけ居られるか分からないし、出来るだけ情が移らないようにしようと思っていた。
こっちで私が余計な事すると、15歳の私が困るような気がしたからいつ戻ってきてもいいように……。っと其処まで考えて挫折した。
氷帝での自分の所業は、笑えないの一言に尽きる。
とりあえず、失恋したばっかの私は恋愛なんて当分休業でもいいと思っているので青少年には気の毒だけど。
色恋はスルーで行くことにした。
そうは思っても、うまく行かないのが人生なのか俺様な跡部様があの翌日から必死に私を口説いているのが良く分かる。
バラの花束を渡されたり、オレンジ色のバカ高いブランドの箱を渡されたりと手を変え品を変えプレゼントをくれた。
勿論きっちり返しましたけど。
自分が送ったプレゼントを付き返されたのが気にいらないらしくてここ屋上でも機嫌が悪い。
貢物を突き返すべく、おおきな紙袋を提げて夕暮れの屋上で沈みゆく夕日を見ながら話をしていた。
流石に教室でするには、ギャラリーが多すぎてどうにもならないから緊急避難措置だった。
丁度逆光になって、跡部の表情までは見えない。
「何が気に入らない?」
「んー。全部?」
「何が欲しい?欲しいものがあったら、何でも買ってやる。だから」
「だから、俺の女になれ…ですか?品物でしか女の機嫌をとる方法を知らないの?」
「今までの女は、これで喜んだ」
呆れてモノが言え無いとはこのことだろう。
「私が欲しいのは、プレゼントを買ってくれる彼氏じゃないわ。欲しいものを何でも買い与えるのが、跡部委員長の愛情なの?」
「…………。それが愛情なんじゃねぇのか?」
瞬間胸を突いた。その言葉で、彼が育った環境が分かる気がした。
「お金や、品物ばかりを与える事が愛情じゃないのよ…。もっと大切なモノがあるのよ」
「…………。なら、それを俺に教えてくれよ」
少し間が空いて、紡がれたその言葉はとても切なく聞こえた。
「そんなのは、人を本当に愛すれば自然に分かる事よ。誰かに教えてもらう事じゃあないの」
可愛そうな15歳の貴方。
母性本能で、抱きしめてあげたいとふとそう思ったけど。そんな事をしたらどうなるか、容易に想像出来そうだから止めた。
雰囲気が段々おかしくなりそうなので、さっさと跡部を置き去りにしてその場を離れた。
で、冒頭の話にもどる感じなのですよ。
そんな押し問答の中、メールが着信した音がして。
跡部が見ているのを知りつつ。
メールを開いて、お気に入りの長太郎にメールを打ち返した。
その様子を見ていた跡部が。
「お前、俺の目に写っているのは携帯電話じゃねぇのか?」
と頭に怒りマークで聞いてくるので。
「んー。そうかも、最近物忘れが酷くなったので携帯また契約したの忘れてた」
そう言って、あははと笑ってやった。
どうやら、私に気があるらしい彼―――跡部景吾は最近の私のオモチャだった。
まぁ、こんな日常もありなのかもと最近思うようになりました。
2005.10.27UP