守ってあげたい 6話

















肩の上に抱え上げられて行く道すがら、ものすごい好奇の視線を向けられた。

頭に来て、文句を言おうと口を開きかけようとして跡部様ファンクラブの会員の皆様の射殺されそうな、それこそ呪いの篭った視線を向けられ。流石の私も命は惜しいので沈黙を守ることにする。

おちょくるのは簡単だが、いらない反感を今ここで買うのは得策ではないとそう思ったからだ。









「俺だ、開けろ」


両手の塞がった跡部様は私を降ろそうとせずに。部室の中の誰かへと命令しくさりやがった。


「んだよー。跡部、ドアくらい自分で開けろよ」


ブツブツ言いながらも、ドアを開けたのは氷帝の中でも私のお気に入りの一人の向日岳人だった。


うわ、本当にあの髪型なんだ。でも、実物の方がかわいー。


跡部に抱え上げられたまま見詰めあうこと2秒。


「いくら、跡部でも犯罪だろ?それは…。つーか誰拉致って来たんだよ?」


と、存外にまもとな発言をして下さった。
いいなー。ますます欲しいなー。がっくん持って帰りたいなー。なんかポケットに入りそうなイメージなのですが…。
あーでも、今私のほうがちっこいかも…。


「うるせぇ」


そんな私と、がっくんのファーストコンタクトも全く意に介さずの俺様発言。
何処に降ろされるのかと思っていたら、何かを蹴る音とドサリと何かが落ちた音の後に、高そうな革張りのソファーに降ろされた。


「んー」


ソファーの下からうめき声がするので、見てみると金色の羊ことジローが居た。


「芥川大丈夫?」


と話しかけると、ソファーから落とされても眠ったままだった瞼がパッチリ開き。


「あ、ちゃん。何々どうしたの?もしかして俺に会いに来てくれた訳?嬉Cー」


と一気に覚醒して下さった。目が覚めていきなりのハイテンションですな。


「…何だ?お前ら、知り合いか?」

「そんなことより、大丈夫?何だか跡部委員長様に蹴り落とされてたみたいだけど、何処か痛いところない?」

ちゃんやさCー。跡部ったら乱暴ものだCー。ねぇ、膝枕してー」


跡部からの問いかけには、二人とも無視して話をしてみる。

お昼休みには、覚醒していたジローもやっぱり癒し系らしく可愛く甘えられると、こっちも悪い気もしないので。
ポンポンと膝を叩いて。


「いいよー」


と言うと。ジローの頭が膝に乗る前に、跡部の怒鳴り声が炸裂した。


「俺を無視するな!!」


おぼっちゃまは、無視に弱いのですか?
そんな微妙な空気の中、カチャリとドアが開き。


「なんや、にぎやかやなー。部活始まる前からの跡部の怒鳴り声なんぞ、珍しい…」


そこまで喋った忍足は、私と目が合うとニヤリと人の悪い笑みを浮かべ。


「昨日の、書類のお姫さんやないか?なんや興味ないって言てたくせに、しっかり連れて来てるやん。跡部も隅におけんなー」


ほほう、昨日の時点では私に興味は無かったと。ならなんで、今ここに居るんだろう?

反抗的な態度に問題があるとは思ってもいなかったので、そうだったなら興味が無いままで居てくれた方がよかったのになーと的外れな事を考えていた。


「というか、跡部コイツのこと拉致って来たんだけど」


控えめな突っ込みをがっくんが入れて下さる。
部室の中には、跡部、忍足、向日、芥川が居る。

やっぱり、ホスト軍団は無駄に美形よねーと。客観的に鑑賞していて、ふとある事に気が付いた。
メル友ってもしかしたら、この中に居るかもしれないのよね…。


「つーかそれ、犯罪やろ?」

「だろ?そう言ったのに、跡部俺の事。無視するんだぜー」


さっきまでのやり取りで、がっくんのことを微妙にスルーしていたのでその鬱屈をダブルスパートナーに発散している。

そんな中、あくまでマイペースに跡部は。


「こいつは、俺様の女だ」


と言いやがった。


「えー。何々、何でそうなってる訳ー。ちゃん彼氏作らないっていってたじゃん」


俺様の女発言にジローが騒ぎ出した。


「綺麗に、きっぱりさっぱりお断わりしたらここまで拉致されたのですが…。
 というか、あの俺様をしっかりテニス部で管理してくれないと安らかな学園生活が送れそうに無いので………。

 誰に苦情言うのが一番いいのかしら?やっぱり榊監督に言うのが一番早い?」


そう近場にいる忍足に問いかけると、何故か爆笑された。


「……く…く…あははは…たまらん、女に振られよって。それが許せんから拉致って来たんか…。跡部らしいというか何というか…プ…たまらん」


いえいえ、あんたには笑い事かもしれませんが。私の今後の明るい学園生活がかかっているのですが。

忍足に爆笑されバツが悪いのかコホンと咳をした後に。


「ともかく、コイツをレギュラー専用マネジャーにする」


そう跡部が言った。

あまりの俺様発言に何処から突っ込んだらいいのやらと。頭を抱えクラクラするー。とそう思ったら、本当に目眩を感じてきて。

そういや、私朝から何も食べてないんだっけ。
ふらーっと体が傾いで、とっさにジローが支えてくれたから床に突っ込まずにすんだけど。

急に倒れかけた私に回りも流石にびっくりしているようで。


「だ、大丈夫か?」

「跡部が、無茶苦茶するからやがなー」

ちゃんダイジョブ?」


と口々に心配してくれるけど。


「は」

「は?」

「腹減った」


そう言うとタイミングよく、ぐーっとお腹まで鳴って赤面モノだったのだが。

その後、部室中爆笑に包まれ、跡部にまで笑われた。屈辱に打ち震えたけど。

お詫びにご飯を奢ってくれることになり、ファミレスでたらふくご飯を頂いた。
そこでは、それ以上突っ込まれることも無く。快適だったのだが、結局メル友は分からずじまいだった。




















家に戻って、携帯はあっさりと見つかったのだが。
それらしいメールは見つからなかった。

んー。日記が私の妄想って訳ないと思うけど…。あ、PCかもしれない。
自分の部屋にあったPCを思い出して、早速メールチェックをしてみると…。

あったあった、やりとりは半年前から続いているらしくしかも全部残っていたので。
メールをやりとりする経緯やら、相手の事やら大体分かった。何しろ一日一往復や二往復の日もあるらしく、量が半端じゃないので全部目を通すのは不可能だった。

読み進めていると、相手はどうやら2年生で氷帝テニス部レギュラーで、口調もですます調なのでそこまでで大体の憶測がついた。


今日部室には居なかった、鳳長太郎その人しか居ないとそう結論づけた。
というか送信者のヘッダーがチョタっていうのはどうなのよって、そう思うけど。


と、オンライン中にしているとメールが受信した。

サブタイトルが、「ずっと待っていたんですが…。」で相手はどうやら長太郎らしかった。

開いて読んでみると。


送信者 チョタ 宛先 さん
件名「ずっと待っていたんですが…。」
本文

こんばんは、さん。
今日約束どおり、交流棟のサロンで19時までずっと待っていたんですが。
何処かお加減でも悪くなったのかと、心配して居る所です。

一人で待つのが落ち着かなくて、先輩と一緒に居たのが悪かったのかなと
後から、宍戸さんに言われて気付いたのですが…。
いきなり1対1で会う約束してて、男二人じゃ怖いですよね。
気が利かなくてスイマセン

体調が良くなり、また都合が良ければ仕切りなおしというか…。
また、会う約束をしてくださると嬉しいのですが…。

携帯のアドレスを書いておきます。良ければそちらでもまた連絡ください。

address chota*****0214@docomo.ne.jp 

お返事待っています。
それでは、またメールします。




あらー今日部室に彼等が居なかったのは、私が原因だったのですか…。
19時まで待ちぼうけって、3時間は待っててくれた訳でその頃私は、跡部様にたらふくご馳走になってたりして…。あーバレると後が怖いかも?

昨日のメールを見てみると、案の定「交流棟のサロンで16時にお待ちしております。分かりやすいように入り口近くで、テニスボールを持っていますので…」等と続けられていた。
でも、不可抗力だよなー。昨日の私と今日の私では、中味が違うもの…。昨日の私は何処へ行ったとそう思うけど。
考えても仕方の無いことなので、途中で考えるのを辞めた。


ベットの中で眠りに落ちる前に、色々ありすぎてこのテニプリの世界に飛ばされた原因を考えてて唐突にBARのマスターがくれた鍵の事を思い出して。

ムクリと起き上がってベットやら周辺を探したが、色ガラスに彩られた鍵なんで何処にも無かった。

深夜に家捜しして、虚しくなってそれ以上鍵を探すのは今日はやめにした。



何だか今日1日で、色々ありすぎで疲れてしまってその日は早々に眠りに付こうと思う。


明日からの事を考えると、頭が痛くなるが明日の事は明日考える事にした。



なにはともあれ、おやすみなさい。





眠りについたの体を、昨日の光の破片がまだキラキラと纏わりついていたことをは知らない。








 




2005.10.04UP

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