守ってあげたい 5話




















結局昼休みは、芥川ことジローとまったり過ごしてしまって思ったより「MY DIARY」を読み進めることが出来なかった。

まぁ、お昼からのクラスメイトの質問には。


「学校は立海から、転校は親の仕事の都合」と答えることが出来ただけでも収穫だろう。

自分の事が答えられないなんて、怪しいにも程があると思ったからだ。




まぁ、跡部様は誰のこと発言のせいでちょっとクラスの女子が引き気味なのは仕方ないとして。

初日としてはこんなものかと思う。


ホスト軍団のメル友の件は今は、正直考えても仕方ないので家に帰って携帯を見るしかないので後の授業は空腹を抱えたままボーっと過ごした。


そんな私の横顔を、跡部が凝視しているなんて空腹の私は気が付かなかった。


そんな感じで、1日が終わりとっとと家に帰ろうとすると。


、待てよ。」


と隣の席から、話しかける声が聞こえる。不遜なほどに、傲慢なその声。


いきなり名前呼びですか?


聞こえなかった事にして、さっさと帰ろうとすると後から手首を掴まれた。

しょうがなく振り向いて。


「跡部委員長様が、私に何の用?」


早く帰りたいオーラを出しながら、適当に返事を返す。
委員長様発言に、跡部の額にくっきりと青筋が浮いたように見えるがそれも気付かないフリで通すことにする。

というか、掴まれた手首が痛いのですが。


「お前、俺の女になれ」


どこぞのドリームで、腐るほど聞いたそのセリフをまさか自分が聞くことになるとは思わなかった。
いきなりの跡部の発言に、お昼間のお嬢様軍団を初めクラスメイトの面々が固まっている。

TPOをわきまえるという事も知らんのか…このアホ坊は!本日何度目かクラクラと目眩を感じながら。


「手」

「は?」

「だから、手離して…痛いのよ」


ビシリとキメ台詞を決めたつもりの跡部が、少々的外れの返事にとまどった様子を見せながら手を離してくれた。


「わりぃ」


意外にも素直に謝ってくれたので、ちょっと吃驚。


「で、返事は?当然OKだろうな」


と断定口調に、どうしてやろうかコイツと内心かなり呆れながらでもそれを顔に出さないように努めながら。どう料理してやろうかと少し考えた後に。


「跡部様の女になったら何かメリットがあるの?」


と切り替えした。


「………」


さすがのインサイトが売りの跡部もこの切り替えしは予想したいなかったのか、沈黙してしまっている。


「私顔のいい人がキライって言ったの聞いてなかった?それに、どうやら跡部様って熱狂的なファンが沢山いるみたいだから。

”女”になったら確実に意地悪されそうだし、跡部様にとってはたかが女同士の諍いなのかもしれないけど。

今日転入してきたばかりの転入生としては、いじめ問題については死活問題なので、そんなあからさまに条件の悪そうなお誘いはお断わりします」

「…………」


正論と言えば正論を、ぶちかますと見事に回りは固まるを通り越して唖然としていた。
そんな回りの視線も平然と受け止め悠然と構える。

これが大人の余裕よ…って何か違うような気もするけど。間違ったことは言ったつもりも無いしね。


「あ、あるぜメリットが」

「何?」

「俺様の女になれるのが、最大のメリットだ」

「………」


つーか、人の話聞いているのかコイツは……。そら、あんたに恋して焦がれている女なら狂喜乱舞するだろうさ。

だが、あんたに恋していない普通の女ならそんな誘いは地獄への招待状と一緒だぞ。


「あんたのインサイト、馬鹿になっちゃった?”俺様の女”っていうのに何の魅力も感じない私がそれを、メリットとでも感じると思っているの?」


だとしたら、かなりお目出度いと思うんだけど。
それとも、世界中の女はすべて自分に気があるとでも思っているのかな?
まさか其処まで思っていたら、単なる危ない人だと思うけど…。それは無いと思うんだけど、ナルシーな跡部だから分かんないわよね。


「フっ、照れなくてもいいんだぜ?素直になれよ」


とナルシーパワー炸裂で微笑みかけられる。やっぱ勘違いしてるっぽいんですが…。


ふと回りの視線に気がついて、そちらに目を向けると跡部様スマイルにやられているお嬢様方が居て、でもそれ以外の視線も感じるのでよく見てみると。一部の女子とクラスの男共は気の毒そうにこちらを見ていた。

このクラスには2種類の人間が居る訳ね。
跡部様大好き人間の、ファンクラブのお嬢様方とそれとは相反する非跡部派ともういうのだろうか?


はーん。そうか、あなた方も常々この勘違い男に迷惑している訳ですね。


「はぁ?照れるも何も、さっきから本音トークの最中なのですが…」

「ともかく、お前は俺の女に決定だ」


コイツに日本語は通じないのか?
唖然としていると、ぐるりと視界が反転した。


「ぎゃ」


と思わず色気の無い悲鳴を上げてしまったのだが。
帰ろうとして持っていた荷物ごと、跡部に抱え上げられていた。両手に鞄を持っている私は、ロクな抵抗も出来ずにそのまま荷物の如く、跡部の根城のテニス部レギュラーの部室に連れて行かれてしまった。


後から、荷物を捨てても戦えばよかったと思うことに見舞われるのだけどそんな事は現状の私は知る由も無かった。










 




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