守ってあげたい 間章 リョーマ遭遇編












テニプリの世界に来て、果たして居ない事が一つだけある。

それは、メインキャラ達に会う事である。

ストーリーに干渉する気はさらさら無いんだけど、こう観客Aとして見るくらいはしたいかなぁっと思ってたりはする。
だけど、流石に『青春学園』に潜入する勇気の無い私が主要キャラ達に会うとなれば、その方法は試合観戦くらいしか思いつかなかった。

普通に氷帝を応援がてら行けばいいかとも思けど、流石に例の1件があってまだ傷口が癒えたとは言いがたい時期に二人揃った状態で彼らに会うのも避けたいし、何より千石に会う危険性もあるので、諦めようかなとも思ったのだけど気になりだしたらどうしようもない性格なのでしばらく考え込んだ後に、私はある作戦を決行することにした。

と、言っても大げさなものじゃなくて変装して試合観戦をするという単純なものなんだけどね。

服装は何処にでもありそうな、ブルージーンズに控えめな白のプリントTプラスコンバースのシューズという出で立ちで何処かで見たような服装にしてみた。
肝心の顔の方は、伊達ネガネでもしていこうかと思ったけど某人物を思い出しかけて苦い思いをしたので、髪を低い位置で一つ結びにして黒のキャップを目深に被って誤魔化すことにした。

鏡の前に立ってみると、まぁ俯き加減で居る限りは大丈夫かな?って感じだった。
氷帝は前半の都大会の準決勝で不動峰に負けたので、コンソレーションに出る予定の彼らに会うのも気まずいので、氷帝の試合は覗くのはやめておこうと思った。
どうせ勝つのは分かっているしね。

なので、今回の目的は青学の試合観戦のみに絞る事にして会場入りしてみたけど……。

んー今日って何処とだったけ?と思い出そうとしても、うろ覚えの私は会場のトーナメント表を見るまで対戦相手に気付かなかった。


あらぁ……。都大会の決勝って、山吹とでしたか……。
んーどうするかなぁ……。千石に会う危険性は高いけど、亜久津とリョーマの対戦は見たいかなぁ……。


しばらく悩んだ後に、まぁ遠くからの観戦ならバレないだろうからいいかなと思う事にした。

跡部や忍足にバレたらまずいかなぁっていたから、隠し切るつもりだったけど。
二人ともあんな形になっちゃったし……。
やっぱり、思い出すとまだちょっと辛い……。自業自得だから、仕方ないけどね。


「青学×銀華」は銀華の棄権でノーゲームだから試合自体が無いから…。
「山吹×不動峰」っていうのにもそそられるけど、千石との接触は出来るだけ抑えたいから決勝の「青学×山吹」まで時間でも潰しますか。

ということで、そこらへんをブラついて時間を潰すことにした。
でも、あまりウロウロしすぎても氷帝に会ってもマズイので適当にジュースでも買って木陰で休むことにした。
自販を探して、お金を入れてジュースを買おうとしたけど、かなり迷っていると横から手が出て来て誰かにボタンを押されてしまった。


「あっ……」


反射的に振り返り、押した人物を見て固まってしまった。
そこには会いたいと思っていた。


「越前リョーマ」


その人が居たのだ。


「……。何で俺の名前アンタが知ってる訳?」


しまった。また、声に出てしまったようだ。
小生意気属性の、テニスの王子様主人公に会えてちょっとだけ感動。


「……。あっ、いやぁ……。というか、それよりジュース」

「迷いすぎ。金なら払うし」


ファンタならぬポンタのオレンジを取り出しながら、私を見る視線の強さに一瞬だけたじろぎそうになった。
流石主人公というべきかな?

差し出された、コインを受け取って自分もポンタのオレンジを購入してみる。
先ほど買ったジュースを飲みながらこちらを不遜に見たまま、リョーマは一向に其処から立ち去る気配が無い。


「何?」

「だから、名前。俺の名前知ってる理由聞いてない」

「ああ……。」

どう答えたものかと思案しつつ、近くの木陰まで移動するとリョーマもそのままついてきた。
腰掛けると当然というように横に座ってくる。


「なまえ………名前知ってるのは期待のルーキーということで、有名だから」


まさか漫画読んでましたって答える訳にもいかないので無難にそう言ってみた。


「ふぅん。テニス関係者な訳?」


そう問われて、反射的に。


「立海大でテニス部のマネージャーしてたの」


そう答えていた。まぁ、嘘じゃないしね。


「……立海大。今日はじゃあ偵察って訳?」

「違うわ。今は転校して違う中学に居るから今日は普通に観戦に来たの」


目の前の貴方目当てに来ましたとは流石に言えないけど、今日の観戦はかなり楽しみにしているつもり。
腹黒いとうわさの不二を見たり、ゴールデンペアを見るのも楽しみだし。


「テニス好きなんだ」


嬉しそうな顔をしていたのか、そう言われてしまった。
そう言われて、するのはともかく見るのは好きなので。


「うん、テニス好きよ」


そう答えていた。そうすると、目の前のリョーマの顔がほんのり赤くなってきたような…。


あれ?おかしなこと言ったっけ?
首を傾げていると。


私の視線を避けるように、グイっと帽子のつばを握り深く被りなおしてしまった。
赤く見えたのは錯覚かな?


「ねぇ、名前」

「へっ?いやだから名前知っていた理由は、さっき言ったわよ」

「じゃなくて、アンタの名前。教えてよ、アンタだけ俺の名前知ってるのはズルイよ」

「はぁ……。」


どうしようかちょっと迷ったけど、青学関係に名前知られて困ることはなさそうだから。
素直に答えてみることにした。


、氷帝の3年よ」

「……年上?」

「そうよ。だから敬いなさい」

「俺よりチビじゃん」


そう言われてムっとする。


「今何センチ?」

「151だけど」


悔しいけど、1.5センチ負けてるっ。
悔しさが顔に滲み出ているのか、フフンと笑われてしまった。


「そんな事より、ケー番とメアド教えてよ」

「嫌よ」

「ケチ」

「そんな事言う子には余計に教えません」


そう言いながら、リョーマのコメカミをぐーでグリグリしてみた。
微妙にヤツあたりっぽいけど、まぁいいでしょ。何かリョーマ見ていると、ちょっかい掛けたくなる。


「イテテテテっ………。強暴すぎ」

って呼び捨てにして、先輩って呼びなさい」

「そう呼んだら、教えてくれる?」


痛みで目じりを潤ませ、そう聞いてくるその光景に激しく萌えながらも何とか理性で踏みとどまった。


「…しっ、試合に勝ったら教えてあげる」


よくよく考えて見れば、対亜久津戦はリョーマの勝利で終わるのが分かっているのでここで素直に教えても一緒かなと思ったけれど、条件をつけてみた。


「そんなの簡単。勝つから見といてよ」


挑戦的にそう言って笑うその顔に主人公オーラが滲み出ていて、ああこう言うところが主人公たる所以だろうなぁと思わず感心してしまった。
ふっと人が歩いてくる気配がして、壇君らしき人影を発見してあわてて立ち上がった。


「ちょ、何処行くの?」

「ちょっと、トイレ。後から応援行くね」


確かこの後、壇君とリョーマの絡みがあったような気がしたので、あわててその場から逃げ出してみた。
出来るだけ話の筋を変えないように配慮した結果だった。














リョーマside

銀華中との対戦が無くなって、手持ち無沙汰な俺は自動販売機探しがてら歩いていた。
遠目からもトーナメントボードの目の前で、立ちすくんでいる人影が目の入り少し興味を引かれた。

もう試合としては後1戦を残すのみなので、わざわざボードを見に来るような人間なんか居ないはずだったからだ。
白いTシャツにジーンズに黒いキャップありふれた格好をした自分と同じくらいの背格好の少女。

何に惹かれたのか自分でも分からないけど。
凛とした立ち姿と、すっきり伸ばされた背中のラインが綺麗で無意識に目で追っていた。
何気なくその姿を見ていると、今度は自動販売機の前で止まりジュースを買うらしい。

話すきっかけが欲しくって、無理やりボタンを押してそのきっかけを作った。
驚いた少女の口から出た言葉が。


「越前リョーマ」


という自分の名前で、綺麗なアルトの声で自分の名前を聞いてちょっとドキっとした。


「……。何で俺の名前アンタが知ってる訳?」

「……。あっ、いやぁ……。というか、それよりジュース」

「迷いすぎ。金なら払うし」


ポケットからコインを差し出して、手と手が触れ合う。
たったそれだけのわずかな接触にガラもなく上がっている自分が居る。

目深にかぶった帽子のツバのせいでちゃんと顔は見えないけど、ピンク色の小さな唇が印象的でそれに目を奪われそうになる。


オカシイ。こんな自分は自分じゃない。何処かで警鐘が鳴る。


「何?」

「だから、名前。俺の名前知ってる理由聞いてない」

「ああ……。」


生返事をしたまま、俺を無視して木陰に移動するので後を追ってついていくことにした。
木に凭れ掛かるようにして腰掛けた隣に座る。


「なまえ………名前知ってるのは期待のルーキーということで、有名だから」

「ふぅん。テニス関係者な訳?」


本当に知りたいのはそんな事じゃないから、適当に返事をしていた。


「立海大でテニス部のマネージャーしてたの」

「……立海大。今日はじゃあ偵察って訳?」

「違うわ。今は転校して違う中学に居るから今日は普通に観戦に来たの」


何処かを応援しに来たとかじゃなくて観戦と聞いてちょっと安心してしまった。
試合を見るという彼女の顔が楽しみでたまらないそう見えて、思わず。


「テニス好きなんだ」


そう言っていた。俺がそう言うと、彼女は嬉しそうにふわりと微笑んで。


「うん、テニス好きよ」


そう言った。自分の事を好きって言った訳じゃないのは分かっていた。
だけど、好きってあの唇がそう形どったのを見て自分の顔が赤くなるのが分かった。
隠すように帽子を目深にかぶり、誤魔化すように。


「ねぇ、名前」


そう言っていた。


「へっ?いやだから名前知っていた理由は、さっき言ったわよ」

「じゃなくて、アンタの名前。教えてよ、アンタだけ俺の名前知ってるのはズルイよ」

「はぁ……。」

、氷帝の3年よ」

「……年上?」

「そうよ。だから敬いなさい」

「俺よりチビじゃん」


微妙なラインだけど、少しだけ目線が下にあるから俺の方がきっと高いはず。


「今何センチ?」

「151だけど」


そう言うと悔しそうな顔をしたので、多分俺の方が背が高かったらしい。
意外に、分かりやすいのかくるくると表情が変わる。
それが好ましく思えて、思わず笑いが出てもっとこの人と居たいそう思って思わず。


「そんな事より、ケー番とメアド教えてよ」


そう言っていた。だけど返された答えは、NOでその後さっさと居なくなってしまった。
試合中、何処かで見てくれているのは分かっていた。
だから、俺は全力で戦った。

『試合に勝ったら教えてあげる』

その言葉を信じていたから、教えてもらうついでにあのピンク色の唇もうばってやると勝手にそう決めていた。
宣言どおり、勝ってその後会場中を探したけどは居なかった。


「……ニャロウ」


騙された、そう分かっていてもへの思いが薄れることは無かった。
この思いが恋なのか何なのか分からないけど、また会いたい強く強くそう思った。

そして、その願いは時を置かずにして叶えられる事になる。















おまけ

side

リョーマ対亜久津戦が終わって、高揚した気分のままでボーっとしていて周囲に注意をはらうのを忘れていた。


「ねえ。キミ一人?良かったら俺とお茶しない?」


真後ろから話しかけられて、瞬間体が固まる。

この声に聞き覚えがありすぎて、後ろを振り向きたくても振り向けない。


もしかしなくても、千石がナンパしてきていた。


後ろからサイドに回りこまれて、顔を覗き込まれそうになったので背けて誤魔化してみる。
左右に顔を振って視線を避けて見ても、スポーツマンの瞬発力を振り切れなくて。


「あれ?ねぇ、キミお姉さん居ない?」


そう言われてしまった。
そうですとも、違いますとも言えずに俯いたままダッシュで逃げるしかなかった。

あの後、表彰式があったせいかそれ以上千石は追いかけてくる事も無くてホっとしたけど、リョーマとの約束を破る形になったので少々苦い思いがしたけど、事情が事情だったので仕方ないかなと思う事にした。

それが、あんな形で再会する羽目になるとは思いもしなかった。








 
後書き
こちらは五萬打リクエスト企画、Tama様のリクエストで『守ってあげたい』主人公でリョーマか手塚ということで
本編に組み込めそうなエピソードなので間章ということでリョーマ遭遇編としてUPしてみました。
む、無駄に長くて内容があるようで無いような…。きゃーすいません。



2006.03.05UP

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